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『セッション!』、倒錯した現代の写し絵か。痛みと闘争心の果てに師弟関係を考えさせられる

映画『セッション』予告編


先日、外苑前で行われた『セッション!』の試写会へ行ってきました。
音楽大学の二年生が、超高名なバンドを指揮する教授にスカウトされ、狂熱のしごきを受ける果ての結末は…!という映画でした。現代の『Whiplash(鞭打ち)』の方がジャズの曲名にもかかっているしより精確だと思いましたが、『セッション!』の方が分かりやすいかな。

みて、非常に面白かった。そういや高校でドラムやり始めた奴の腕がどんどん太くなっていったなぁ、ドラムは格闘技の様なものか。と想ったり、でもこの主人公の子、この子もすげーけど当て馬のがたいの良い奴の打音の方がいい音なるなぁとか、鬼教授のバンドメンバーの音楽の魅力を当然だと信じぬいている姿にいいなぁと想ったり、でも世間的には音楽って今は大きな評価ができるところでもないのだなぁとか思ったり、作中に「無能はロックをやれ」というポスターがあるのですがこの二人はまじロックだぜと想ったり、このコンテストの演奏の緊張感は部活モノに通じる、一音一音間違えないか見入ってしまって音楽として楽しむというより競技だなと想ったり。

最終的にはフルメタルジャケットとスミス都へ行くがドラムの打音の闘争心で打ち抜かれる迫力の爆発が、すげーなー、血みどろの栄光に乾杯。

と想ったのでした。更にいうと、作品のクライマックスで、鬼教授にひとつふわっとした外しというか裏切りがあるのですが、それについては賛否両論あるかもしれません。自分は大学時代に、厳しく後輩を先輩が指導するサークルにいて、結局逃げ出すのですが、その後も繋がりがあって、自分の同期が後輩を教えるのをみたり、自分自身が教える立場に掠ったりした経験があったのです。

一年の時はあんなに緊張と恐怖があった軍隊の様な怒られる場も、裏では教える側も人間であって、怒ってる裏で悩んだり、仲間と笑ったり、偉大な指導者というより人間的な駄目さもあるなぁと感じた経験があったので、そういった意味でも非常にリアリティがあって、非常に納得感があったのと、単なるフルメタルジャケットのジャズ版にしなかったところが(自分には)いい裏切りで非常に楽しめました。と同時に重ねての話になりますが、今の自分に足りないのはこの闘争心ではなかろうか、等とも想ったのでした。

さて、試写会でも「twitterやblogで宣伝してください」と言われたはいいが、ネタバレしないように話すにはどうしたものか、映画の感想記事はやはり難しい。しかも公開前だし。。。と思っていたのですが、

町山智浩が映画「セッション(原題:Whiplash)」を解説


をみたらほとんど内容話しちゃってるじゃないですかw気が楽になりましたw
そして、町山さんも「ジャズの人はこの映画を全く評価していない」と言っていたのですが、菊地成孔の酷評、 「セッション!(正規完成稿)~<パンチドランク・ラヴ(レス)>に打ちのめされる、「危険ドラッグ」を貪る人々~」にははたと考えさせられました。

彼のジャズ的見地から何にもこの映画は評価に値する音楽を届けていないという感想には、"あぁその道の人から見るとそうなのだなぁ、確かに記事を読むと試写に来たのはRIZEのドラマーだし、やはりジャズというよりロックな映画なのかもしれない"と想ったり、"この程度のいびりはどこにでもある、問題はそれが成果に結実していないことだ。成果に結実しない単なるハラスメントには1ミリも価値はない"という部分に特に考え込まされました。

前半は、確かに自分自身、そういう緊張と恐怖感のある場面は味わってきましたし、今まさに就活生の皆さんなどは圧迫面接をうけているのかもしれません。こういったハラスメントは、この国には(そして恐らくはアメリカにも)無数に存在しているのでしょう。その意味で自分もこの映画をみて、この鬼教官に、凄まじく頭抜けて厳しい特殊な教官という印象はありませんでした。

問題は後半です。この『成果に結実しない単なるハラスメントには1ミリも価値はない』という部分。ここにがーんとやられました。

この国では、苦役を強いられることが美徳とされます。嫌な事をするのが偉い。好きな事をしている奴はどっかしょうもないとされる世間。自分自身、そんな風潮が嫌いで、大学時代にサークルからドロップアウトした身なのに、まさにこの映画の迫力に押されて、(というか日本社会に染まっていた面も多分にあるのでしょう)、この映画の緊張と破綻の刺激に感動してしまったのです。

自分はAKBが嫌いなのですが、それは彼女たちが明らかに自分が厭なことをさせられているからで、そしてAKBを評価する評論家どもが、「あの子たちはあんなに辛い思いをしてShow Must Go Onしているのが感動する」なんていっちゃってるのがこの上なく嫌なんですよ。そして何より、その結果出てくる楽曲が、どれもこれも糞ばかり。焼き直しの既視感の恋するフォーチューンクッキーも、自分は好きじゃないです。(ちなみに、ここまで正直に書いているので、AKBでいいと想う曲もあるとも、正直に書いておきます。『フライングゲット』と『真夏のSounds Good』はいいと思いました)。あんだけ頑張って、結局成し遂げてるのがそんな低レベルなのかよ、それで音楽チャートを席巻!?最悪だな、と想っているのです。

なのに、『セッション!』を評価してしまった。彼の苦行とShow must go onに心動かされてしまったのは、うーん、、どしよか。。。といった感じです。迫力は凄いけれど、彼のドラミング自体はプロレベルには感じなかったので。。まぁ『学生の部活モノ』というレベルで見ていたからかもしれませんが。今後もちょっと考えてみたいです。

更にいうと、鬼教官の指導が、その程度の結果しか生まないことにそこまで落胆しなかった自分は、今までの人生で、本当にハラスメント級の苦難を乗り越えて、つまり「上達するために自分が苦痛になるほどの不得手なことに挑み、成長した。その成長を実感できた」ことが、ないのかもしれない。とも想いました。だから鬼教官には期待をそこまでしていなかったし、結果として裏切られたと感じることもなかった。人生において師となる存在がいないというのは、自分にとっては不幸なことかもしれないと、思わされてしまいました。

自分から見た尊敬できる大人に学んで、より知ることで、メンター的存在に出会いたいな、そんな場を今後数年で探してみようか、と自らを振り返る意味で言っても、やはりこの映画観て良かったです。試写会に誘ってくれた人に感謝。苦行と快楽を同一に倒錯する現代の写し絵ともいえる作品ですし、まぁ町山さんもいってたけど、この迫力はボクシング並ですから、見て損はないと思いますよ!
by wavesll | 2015-04-09 22:17 | 映画 | Comments(0)
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