今、twitter上でちょっとした盛り上がりをみせている#ゼロ年代邦楽ベスト10枚、重い腰を上げてやってみることにしました。
"重い腰"と書いたのには理由があります。私は1984年生まれで今30なのですが、10代20代30代の区切りがあったからか、[XX年代] という言葉から想い起される、それぞれの年代のそれぞれの年代らしい潮流って、XX年代の半ばから生まれる気がするのです。 この思いを抱いたのは90年代を体験したからかもしれません。95年に阪神大震災、オウム、エヴァと波状的にドラスティックな事象が起きたことが強烈に心に残ったことはこの感慨の大きな要因でしょう。これに呼応するように、メインストリームで小室ファミリーが強烈に享楽的な音を鳴らし、そして98年あたりで出てきた椎名林檎が2000年に200万枚売った時代。音楽バブルと呼ばれた、あのメインストリームとカウンターカルチャーが明確に機能しながら、両輪がぐるんぐるんと大回転していた時代、どこか叫び声の様な張りつめた歌が世の中を彩っていた時代でした。 一方でゼロ年代のゼロ年代らしい事象は、自分にとってはmixiに代表されるSNSの台頭でした。今調べるとmixiのサービス開始は2004年だそうです。2000年前後でブランキー、イエモン、ミッシェル、ジュディマリ等の90年代からのバンドが次々と解散し、一方でロックインジャパンが始まり、バンプ、アジカンなどが台頭した時代。音楽業界はファイル共有サービスに対抗してCCCDを出すも、iPodという大潮流には勝てず、そして2005年に始まったYoutubeによってどんどんとCDの売り上げは落ちていきます。そんな時代のメインストリーム/或いは"音楽好き"が聴く界隈の音楽に共通して感じたのは「穏やか、或いは明るい音楽」が聴かれる時代になったなぁという事。メインストリームだとコブクロやいきものがかりがよくかかっていた覚えがあります。 先日ソ連・東欧グルーヴィナイトと言われるイベントへ行った際、ソ連で一般大衆が政府に隠れて聴いていたジャズやファンク、ポップスなどを聴けたのですが、それらの音楽は"ソ連"というイメージからは真逆の、明るくて楽しい、トロピカルな感すらある音楽が多かったのです。これはきっと、当時のソ連が明るくて楽しかったからこういう音楽が流行ったのではなく、寒くて辛くて暗い世を忘れる為、こうした希望を音楽に託していたのではないかと、イベントに来ていた方と話しました。 これはゼロ年代の音楽状況にも同じことが言えるのではないかと思います。最も顕著なのはフィッシュマンズ・リヴァイヴァルでしょう。あの狂乱の90年代の音楽界で鳴らされた音は、穏やかで、優しくて、そしてはっきり言えば"諦念"が鳴らされていました。鬱の曲、と言えるでしょう。何しろ自分、ゼロ年代に2度鬱をやってますから、そんな私が言うのだから間違いありません(苦笑 さらに言えばゼロ年代のフィッシュマンズリユニオンでは様々なゲストヴォーカルが参加し、非常にピースフルなジャムが展開され、佐藤さんの鬱すら取り除かれたような、"仲間たちと繋がり、平和に明るくやろう"という音が鳴らされていたように思います。好きなんですけどね、リユニオンフィッシュマンズ。映画も東京verと大阪verで映画館で二度見ましたし。 さて、ここまでつらつらと書いてきたのは、今、2015年にゼロ年代邦楽が語られるのは、ようやく10年代らしい潮流が勢いを増してきて、ゼロ年代を総括する時期になったからなのではないかなと想ったからでした。もっと直截的に言えば、シティ・ポップ、都市インディー等の呼称で呼ばれる若手の一群が、ここ一二年でぐんぐんと存在感と数を増しているからではないでしょうか。 ミュージックマガジンがceroと新しいシティ・ポップ特集でくくったミュージシャンたちは、あまりに様々なジャンルが多すぎて、「おいおいこれじゃ今の若い奴らで面白そうなのを全部ぶち込んだみたいじゃないか」と想ったのですが、その感想はおそらく正しくて、ゼロ年代に成長され形成されていった"ロキノン系"という潮流とは別の匂いがするバンド、ミュージシャン、そうした新パラダイムに"シティ・ポップ"と名付けたのでしょう。ただ私はMikikiが使っている"都市インディー"という言葉の方が好きなので、エントリのタイトルにはこちらを使いました。 さて、冒頭に"重い腰を上げて"と書いた理由を述べますと、実は私はそんなにゼロ年代のバンドを聴いてないんですよね。その頃私が聴いていたのは、ROVO等のインストモノからボアダムスへ行ったり、フィッシュマンズを聴いたり、オザケンを聴いたり。或いは90年代に活躍したバンドのメンバーがexとなって始めたバンドを聴いたり。そしてジャズやワールド方面へ行っていたのです。 10年代に入ると歌詞が邪魔臭く感じるフェーズへ入り、いわゆる洋楽をようやく聴きはじめたりしていたもので、ゼロ年代のバンド、具体的に名前を出せばエルレガーデン、フジファブリック、椿屋四重奏、マキシマムザホルモン、ベースボールベアー、ビートクルセイダースetcといったいわゆるロキノンなのも聴いていなければ、林檎原理主義者だった為東京事変も聴かなかったのです。 そんなわけで、ゼロ年代のバンドにはそこまで食指が動かなかったのですが、子より孫は可愛く感じるのか、10年代の都市インディー組は凄く面白く聴けています。再び歌詞へ興味が向いてきたこともあるかもしれませんが、彼らのモード感は今の自分に非常にフィットするとともに、新しい刺激を提示してくれているなと想ったのです。 そんな自分があえて挑む"ゼロ年代邦楽ベスト10枚"、前置き(というか本文w?)が長くなりましたが、宜しければ御笑覧下さい。コメントも付けました。 1. Sherbets / Vietnam 1964 これは当時というより、最近聞き返してヤバいことに気付いた、自分にとっては現在進行形の名盤です。三輪バギー・カミソリソング・Black Jennyと、ブランキー解散後最もキャッチ―だったシングルを3枚出していたにもかかわらず、なんとそれらを入れないという強気振りに、当時は「いや、カッコいいけれど渋すぎる。正直シングルも入れてほしかった」などと想っていたのですが、冒頭の「岬のさる」のつんざくサウンドなんか、『セキララ』の隠しトラックを超える攻撃性だったなと聞き返したら、その強靭な音に度肝抜かれました。911が大きく影響を与えていたであろう詩の世界も、今の日本の社会情勢を考えると面白く聞けます。私の中では文句なしの一位。 2. ajico / Ajico Show 一位に次いでベンジー。てか二位以下はあまり順位は意味がないかな。このエントリでも書いたのですが、今、歳を重ねてから聴くとその味わい深さが分かる系。この盤はライヴ盤だが、動画を載せたスタジオレコーディングの『波動』はブランキー後のベンジーの作品で最も素晴らしいものではないかなと思います。『Ajico Show』ではアルバム『深緑』の楽曲が進化をしていて、痺れる格好良さ。 3. ROVO / live at liquidroom 2001.5.16 二位に次いでライヴ盤。この企画、ライヴ盤OKなのかわからないがまぁいいや。勝井氏をして「このライヴは良すぎた」と言わしめたリキッドでの伝説の一夜を記録した公式ブートレグ。一曲目のKHMARAの、静かな始まりから爆発していく流れが最高。PYRAMIDも好きだが、やはりこっちかな。 4. エレファントカシマシ / 風 これは鬱で何もする気力が出ず日がな一日寝込んでいた頃に友達がくれたアルバム。載せた『友達がいるのさ』には心打たれた。全体的に宮本さんの引きこもりへのエールと共感にあふれた一枚。ツァラトゥストラを読んでいると更に面白いかもしれない。俺も東京中の電気を消して夜空を見上げたいw 5. Buddha Brand / 病める無限のブッダの世界 ― BEST OF THE BEST (金字塔) これは高校生だった自分に直撃した"マジモンのヒップホップ"だった。当時ドラゴンアッシュかブギーバックくらいしかラップを知らなかった自分に落とされた核爆弾。今でも大好きで時々思い出していたら、D.L.さんにご不幸があり、本当に残念だなと想った次第。人間発電所を初め、日本語ヒップホップのクラシックとして(自分の中では)唯一無二。2枚組の超ヴォリュームベストとして、何故かURのベストと同じ脳内記憶フォルダに自分は入れてます。 6. NUMBERGIRL / OMOIDE IN MY HEAD 2~記録シリーズ1~ ナンバーガールはスタジオ版も好きだが、やはりライヴが真骨頂だろう。私もブート集めてました。記録シリーズはどれも良くて、2のこだまさんが入ったNUM-HEAVYMETALLICも素晴らしいのだけれど、やはり会場限定カセットテープの音源が入った1を。つかどれも最高。ちなみに今回座禅は入れなかったけれど、入れるなら1stのツアーのライヴ盤がいいです。KIMOCHIが各メンバーに歌われるのが入ってる奴。zazenの方がよりライヴ盤が好きなのだけれども、入手しにくいのが残念。 7. Sunaga t Experience / クローカ ゼロ年代を振り返るとあったなぁと想うのがクラブジャズムーヴメント。当時モアーズにあった横浜タワレコのレアグルーヴコーナーに入り浸ってました。そんな"クラブジャズ"とか"DJ必聴"に惹かれる世界へ入り込ませたのが須永さんの1stと2nd。その中でもこの曲は最高に聴こえた。この後だんだんジャズへ嵌っていくと、甘いのより渋い方が好きになっていくのだがそれはまた別のお話。 8. Losalios / The end of the beauty そんなジャズを齧った鴎君が当時好きだったロックがこれ。というか、今でもこれは物凄い好き。動画に載せたCHASERはヴァイオリンも入り、凄まじいテンションになっている。ロザリオスはライジングサンで何度か見て、リキッドルームでの活動休止ライヴにも行った。その時GOMAのディジュリドゥがロザリオスのガレージジャズロックに絡むとまるでダブステップを聴いているような気になり、これで一枚作って欲しいなんて思った。今やってるPsychedelic Foundationの音源にも期待したい。 9. 山本精一 / クラウン・オブ・ファジー・グルーヴ 当初はフィッシュマンズの『空中』か『宇宙』を載せようかと想ったのだが、『ゆらめきIN THE AIR』の先にあった音ってこれなんじゃないかと想ったのでこちらを。上の動画は発売当時は技術が足りず出来なかったライヴでの披露がスーパーデラックスで行われた際の映像。これ最高、なぜいかなかった、俺。このアルバム、最後はかなりはっきりしたメロディラインのある曲で〆られるのだけれど、この一曲目、二曲目あたりの微かな揺らぎの音楽が最高に好き。生涯ベスト級。 10. 銀杏BOYZ / DOOR さて、ゼロ年代邦楽ベスト10を締めくくるのは、やはりゼロ年代らしいバンドがいいだろう。余り聞いてなかったと書いたが、ゼロ年代らしいバンドでは銀杏BOYZと相対性理論は嵌った。タワレコメンで聴いた『シフォン主義』の新しい感じにもひかれたが、ここはゼロ年代に最も嵌った峯田の童貞男子マインドな絶唱を上げようw当時カラオケで17才とか人間とか、メス豚とか歌って男は笑わせ女は引かせ、はた迷惑な野郎でした、自分は(今も変わらないかな>< 銀杏はある意味踏絵というか、本当にあの時代にあの年齢じゃなかったらがん嵌りはしないある意味奇跡の様なバンドだったと想う。魂の熱量にやられた。ライヴへ行くと、観客が大声張り上げちまって峯田の声が聞こえなかったw将来自分に子どもが出来るかどうかはわかりませんが、そいつが厨房になった時にこんなん聴いてたらほほえましすぎてキュン死に(是自体死語だw今となっては)すると想うw 以上、90年代ノットデッド感の強いアラサー男のゼロ年代邦楽ベスト10枚でした。次点はソウルフラワーユニオンのスクリューボールコメディ、BOaTのROROかリスニングスーサイダル、或いはオザケンの刹那かエクレクになると想われます。 そして、Eclecticから通底するブラックの流れが、今ceroのObscure Rideに結実していますね。ライヴはいいのに、ceroの音源は今までのモノはイマイチしゃっきりしないと思っていたのですが、これはいい。去年の森は生きているの『煙夜の夢 a,香水壜と少女 b,空虚な肖像画 c,煙夜の夢(夜が固まる前)』もエポックメイキングな一曲だったと思いましたが、この2曲目のアルバムverの『Yellow Magus(Obscure)』はヒステリックですらあった90sの狂乱から体力を確実に削られ柔らかさを望んだゼロ年代を越え、311をも越え翳と光を宿した2015年の都市風景の空気を宿した名盤だと感じました。この肉体性とプロデュース性に同時代の感覚を感じます。と、思ったらceroのメンバーはタメ歳でした。俺も頑張らなきゃなぁ。というところで御開き。 追記: いま思いついたのですが、ゼロ年代が(失っていたとみられた)と感じていたのは2005から2014年までの私の定義でのゼロ年代で起きたアイドル・アニソン・ボカロの隆盛に自分が関心を持てなかったのもあるかもしれません。(AKBの開始は2005年だそう)。ようやく最近アイドルはちょろちょろ聴いたり聴かなかったりしてるのですが、現状では考察の素材不足、ここら辺は他の方に譲ります。 (追追記:Idol Musiqueを聴かない理由があるとすれば なんて記事を2016年に書きました)
2015年の出来事として日本でもサブスクリプションサービスが本格的に普及の兆しを見せてくる動きがありますね。そうなると、"10年代のベスト10枚"という企画が20年代に行われた時、もはや"ディスク"という意味は消え去って、"10年代のベストプレイリスト"になるかもしれませんね。音楽はその時々の時代の感情と経済だけでなく、技術環境が大きくかかわった産業なのだなぁと感慨をつきながら、まだみぬ名盤に思いを馳せてこのエントリを終わります。 cf. 平成27年 今年鳴った音楽
by wavesll
| 2015-06-17 22:53
| 小噺
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