現代アート5展 マグリット/山口小夜子/ここは誰の場所?・ニーマイヤー/蔡國強/ディン・Q・レ

6月はみたい展覧会が多かった月で、美術館でのものだけでも既に大英博物館展@東京都美術館江戸の悪展@太田美術館シンプルなかたち展@森美術館とレポを書いたのですが、実はそれ以外にもこれまで書き漏れていた展覧会があって、このエントリでは"現代美術"5本の展覧会について書こうと思います。

一つが国立新美術館で開かれていたマグリット展。現在は京都に巡回しているみたいですね。

『光の帝国II』とか、『空の鳥』等、マグリットの代表作が展示されたこの展覧会で、私はこの19世紀生まれの20世紀の巨匠の絵画を初めて総合的に見たのですが、そこで感じたのは、とてもコンセプチュアルな絵画、つまり"概念"そのものがテーマになっている点で、現代美術っぽいなぁということでした。

現代美術が好きな子がマグリット大好きだと言っていたのも納得というか、芸術によって思想更新の歴史の最前線がまさに描かれていたのだなぁと想ったというか、20世紀の途中まではアートの王様は絵画で、最もセンセーショナルな概念の革命が絵画で起きていたのではないかと夢想させられるような展示でした。ただマグリット自体はそういった「概念が凄い」論には辟易していたのか、キャプションに『哲学ではなくイメージを書いている』と書かれていてうむぅと唸らされました。

ちなみに、美術館内カフェで飲んだスペシャルラテがマグリットというよりtwitterぽいなと楽しまされましたw
あと、これは7月末に撮れた写メですが、光の帝国は、カメラの露光の関係で実際に撮れるのかもななんてちょっと思いましたね。
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次に紹介するのはこの5本の中で一番内容的に充実していた展覧会、山口小夜子  未来を着る人展@東京都現代美術館。最終日近くに行きましたが、話題の展覧会だったからか、かなり混雑してました。
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この展覧会があるまで彼女の事をまるで知らなかった私が楽しめるか疑問もありましたが、可憐で巨大な美に圧倒されました。資生堂香水 琴の白秋想の火照った頬の魅力は、事前のイメージ展開では知らなかったので嬉しい驚きだった 。石原さとみも裸足で逃げ出すようなかわいらしさでした。

展示は写真と映像だったのですが、写真も妖艶だったりコケティッシュだったり、“天界の綺羅から地獄の魍魎まで”とは的確だ。おどろおどろしいのに華麗な、アンビバレンツな魅力がある女性だなと想いました。

映像はさらに彼女の魅力を伝えていて、ランウェイの姿の天才的なパフォーマンスや、資生堂のCMの天真爛漫さ、また観るものに深い精神性を投影するような映像劇など、希代の日本人モデルの姿に胸がときめき、80年代の日本のレベルの高さをまざまざと感じる展示でした。もはや惚れるというより恐れ多い感じすらしたかな、凄味がありました。

そして先月下旬にみたのが蔡國強展:帰去来


東横線でみた広告にガッと心を掴まれ、これはみたいなと想ったのです。
それがこれ。
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この作品はベルリンでの展覧会の為に作られたもの。99体の狼が透明な壁に飛び掛かり、跳ね飛ばされ、また飛び掛かりに戻っていく環状のインスタレーション。透明な壁はベルリンの壁、それも実際の壁が取り払われた跡も残る"見えない壁"を表したものだそうです。これは凄かった。展示室ぶち抜きで展開されていて、何が面白いかというと狼の間を観客が自由に歩けるのです。下から見上げることもできました。

この展覧会、大掛かりな作品が多いのもあって作品数自体は少ないなと感じたのですが、迫力があってかなり満足度は高かったです。狼の展示だけでなく、かなり感銘を受けたのが蔡さんの故郷、福建省泉州市の伝統工芸職人とのコラボレーションで制作された白磁の作品《春夏秋冬》。白磁で創られた花々のその精巧さ、薄さにもびっくりしましたが、蔡さんのトレードマークである火薬爆発跡が施されることで、水墨画の様な風や水の流れが焼き付けられ、これは見に来てよかったなと想わされる展示でした。

昨日ぶらぶら美術館で蔡國強展が取り上げられていて、あれで1h番組を創れるのかなと思ったら、終戦記念日前とのこともあり、同時開催のコレクション展の戦争画展も取り上げていましたね。蔡さんが火薬を使うのも、武器として使われる火薬を平和利用できないかという発想があったらしいです。私が行った7月はコレクション展はほかのものをやっていたのですが、横浜美術館内に普通においてあった彫像がダリの手によるものだったり、見どころ多いなぁと横浜市民として嬉しく思わされました。

そして先月行ったもう一つの展示(正確には同時に2つ見たのですが)が都現美でのオスカー・ニーマイヤー展とここは誰の場所?展でした。

直接の赴いた理由は例の会田さんの騒動だったのですが、世界遺産ブラジリアを設計した建築家、オスカー・ニーマイヤーの存在はCASA BRUTUSとかで見聞きしていてこれはいいぞと観に行ったのです。

こんな感じのスペイシーな建築を創ったニーマイヤー、展示では大型の模型も多く、建築の展示をわかりやすくやってたなぁと思います。

中でも航空写真をプリントした絨毯の上に模型を設置して、その中を巨人宜しく歩ける展示はとても面白い試みだなぁと思いました。ちなみにほとんどの展示物は写真OK。この写真はもう一つの展示の順路で上から撮りました。

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ただ、一番感銘を受けたブラジリアの教会の天井にある女神像の写真は撮影NGだったので、会場に足を運ぶの、ありだと思います。

そしてもう一つが展示の改編要求で悪い意味で話題になってしまったここは誰の場所?展。
これは会田さん含め4人の芸術家が親子の為に創ったアートの展示。

会田さん以外にも最初に出てきた故ヨーガン・レールさんが石垣島の浜辺のごみでつくったアートや、子どもしか見れない美術館など、中々面白げなのが置いてありました。
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けれどやっぱり一番混んでいたのは会田さんの部屋。自分が観に行ったときは撤去されるかどうか判明していない時で、注目度が高かったのでしょう。

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会田さんの展示は、去年だったか一昨年だったかに森美術館で見た回顧展の方が全然良かったけれども、中二的なスピリットの再現はあいかわらずうまいなぁなんて思いながら見てました。

特に安倍首相に扮して国連らしきところで演説する動画は、スクリーンの下に、難読単語にルビまで振った台本の紙が貼られてあって芸が細かいなと思いました。演説の内容もトンデモにもトンデモなりの理論武装をしているさまがある種現実の反映を感じて、いい意味で悪質だなと思いました。

他にも楽器と机で創ったオブジェなんかも良かったですね。後会場に会田さん自身もいて、普通に作品の一部になってるのにそこまで騒ぎになってなかったのも面白かったwというか、あんな騒動の最中に現場にいるとは、会田さんも美術館側も懐広いなと思いましたね。

会田さんの展示が日本が戦争が出来る国へ向かおうとするのを諧謔するような展示だったのに対し、今週の木曜に森美術館で見たヴェトナムの現代アーティスト、ディン・Q・レの明日への記憶展はもっと禍々しく生々しいヴェトナム戦争の記憶を取り扱った展示で色々と感銘を受けるところがありました。

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最初に展示してあったのは、Ding Q Leで画像検索するとすぐ出てくるフォト・ウィービングという手法で作られた作品たち。これは二枚の写真を切り刻み、編んで一つの絵画として提示するというもので、ヴェトナムの竹編細工から着想を得たものだという事です。

例えばポル・ポトに殺された人たちの写真とアンコールワットの写真を編み合わせたり、レさんはアメリカに移住し学生時代を過ごしたこともあって、自らの混合する事情を表したのかパラマウント映画の写真とヴェトナムの写真を編み合わせたり。テーマ性もさることながら、単純に絵画としてみて美しいのが本当に素晴らしいなと想わされました。

他にも歴史的な写真を引き伸ばした画像を布で表現した作品も素晴らしかった。これも単純な美しさと社会性を両立している点が印象的でした。

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他にも、枯葉剤で生まれてしまった奇形の赤ちゃんをモティーフとした作品や、米国の大学でヴェトナム戦争の講義を取ったら退役軍人とか出てきて米国人の話しかしなかったことに広義の意味を込めて作ったポスター等、アートを通じてヴェトナムの近現代の社会を顕した作品が続きます。

最近の作品は映像作品も多く展示されていました。ヴェトナム戦争の爆撃の象徴だったヘリコプターを輸送や救助など平和利用するために自作した人や未だにヘリコプターを忌避する女性など、多世代のヴェトナムの人からヘリコプターについて語ってもらった映像や、親子2代にわたって戦争映画に出たアメリカの俳優の映像を並べ、父が見た戦争を自分も知りたいと思うアメリカ人の姿を現した映像、そして軍服コスプレで戦争を演じることで太平洋戦争を考えようとしている日本人など、世代ごと、国ごとの人たちが戦争にどのような距離感で接しているのかを描いた映像作品は見ごたえがあり、結局2h近く全部見るのにかかってしまいました。

日本人よりも戦争の記憶が生々しい国で創られたアートを、この季節に観たことはいろいろ考えさせられました。被害を受けた側の主張を被害を与えた側の国民はどう記憶していけばいいかとか。また昨晩金曜ロードショーでやっていた火垂るの墓をみて、歳を重ねてみた方がよりつらくなる映画だなとか、声高に米国を批判せず淡々と悲惨さを描くこのトーンは、戦争の悲しさを伝達する上でいい手法だななんて思わされました。子どもをこんなひどい目に合わせた大人や軍事指導者は断罪されるべきだと。一方で今BSプレミアムでやっている『日本のいちばん長い日』をみて、政策決定者たちもぎりぎりの状況で玉音放送へ辿り着けたのだと、俳優の目の狂気を持って感じました。ここまで人を狂わせた戦争。彼らに同情もすれども、日本人の民衆の手で当時の軍部指導者に対してやはり断罪をする時期に戦後70年という節目は来ていて、それをせずにあの戦争の総括はできないのではないか、その上でないとバーチャルな戦後思想が続いてしまうのではないか、フジタが駆り出されたようにアートがヴァーチャルを加速してしまうのではないかなどとも想いました。

さて、計5つ(6つ)の展覧会を見て、満足度で並べるとすると、(どれも良かったのですが)
一番良かったクラスが山口小夜子とディンQレで、次が蔡國強、その後にここは誰の場所?・ニーマイヤー・マグリットという感じでした。

私が現代美術を見始めたのはほぼ去年くらいからなのですが、それでも何となくどの展示にも知った顔が結構入るようになってしまうなぁと感じるようになっていました。どこか既視感があるというか。そんな感覚を特にディン・Q・レと蔡國強が吹き飛ばしてくれた新しさがあって良かったです。またキュレーションと企画の妙を山口小夜子展では味わえました。

今後もちょこちょこ同時代のアートを面白がってみていきたいなぁと想うくらいの好い展示が味わえて、いい刺激になりました。
by wavesll | 2015-08-15 15:04 | 展覧会 | Comments(0)
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