先日の新・映像の世紀第五集、若者たちの反乱をみました。
今でもビートルズやチェ・ゲバラは若いムーヴメントの象徴にみえました。しかし彼らが親世代、老人世代になって、若者に自由を与えたか、とも思います。“今の若者に力がない”のか、それとも単にあの頃のベビーブーマー人口の多さがパワーになったのか。 或いは、分かりやすいフロンティアが開発しつくされ、彼らが支配層に立ったときにいた若者が若者として理想を戦うのが“ダサく”なったのか。その意味でネットは一時期フロンティアでしたが、余りにフローでウェブサイトは“作品”としてでなく“プラットホーム”としてしか残らなそう。それはつまり巨大なスターが、いなくなりつつある、ということでもあるかもしれません。 驚いたのは、プラハの春の際、劇作家の声明がチェコ・スロヴァキアの国民に力を与えたということ。本当か、と想いました。今のネット社会では坂本教授や村上春樹が声明を出しても、“現実を知らないお花畑が”と叩かれる声が顕在化される。まぁ、レノンも“君は僕を夢想家というかもしれない”と歌っていましたし、いつだって中年以上は「最近の若者は…」と言うのは不変の現象ですね。ただ凄いのは劇作家ヴァーツラフ・ハヴェルは1989年から92年までチェコスロバキア大統領、そして93年から03年までチェコ大統領を務めたという点。彼はルー・リードが好きだったそう。オバマはケンドリック・ラマーが好きだそうですが、音楽に関心のある指導者と言うのはいいですね。 私は日本の若者が革命を求めISISに行かないというのは、いいことでもあると思います。破壊と暴力、これがダサくなった現代日本は、洗練されたとも言えます。ここ1,2年は若者の政治運動なんかもでてきて、非暴力・非服従の精神でデモをするのは、格好いいと思います。文化の面で、最近は過去の焼き直しだ、みたいなことを言われるのは若者のせいではなく、返す返すも少子化を進めた今の中年、そして中年に子育てをさせる余裕をなくさせた老人たちが楽しくやっちゃって焼畑農業で美味しい所を持って行ったから、とは思いますが。 WebのCGMプラットフォームで、小さな盛り上がりやコミュニケーションに回収される九十九島のようなムーヴメントの現代、その反動か、大きな物語や強靭且つ極端な政治家を求める機運が起きつつある十年代。どこか時代が逆行していくような揺り戻しを感じます。 飛び抜けた人物が、その飛び抜けた才能を使って、理想の世界を作り上げる。その結果、独裁になる。初期は美しい理想体だったのに、段々、息苦しく、人々を苦しめていく。暗黒の帝国。米国も糞のような国だが、それでも赤よりましだ。これが宮崎駿が漫画版『風の谷のナウシカ』に描いたことでした。 本来は個々人が自由を、独立を勝ち得ていく、もしかしたらその結果、巨大な人間はいなくなるかもしれないけれど、恐竜の時代の後は小型哺乳類の時代が来るかな、とも思っていましたが、やはりそれでは奮い立たないのか、世界は飛び抜けた人物の啓示を受けたがっている、そう思いました。 その時、新・映像の世紀で流された、デヴィッド・ボウイの西ドイツ、ベルリンでのライヴには、格別の印象が残りました。 スピーカーの1/4を壁の反対側に向け、東独の若者を熱狂させたボウイ。私は最新作『★』の新世代ジャズ人材抜擢でようやく興味を持った俄かなのですが、この時歌われた楽曲が入っているベルリン3部作、特に『Heroes』は、大変気に入ったというか、音が格好よくて、今聴いてもハイクオリティというか現在進行形に聴けるサウンドが最高だなと想っていたのでした。 ロックンロールから、R&B、そして勿論グラム・ロック、更には新世代ジャズのロックと、変幻自在なボウイの生涯、音楽だけでなく、ファッションセンスや演劇でも本領を発揮したボウイの軽やかな巨大さを、伊勢佐木町のシネマリンでみた『David Bowie Is』で認識できました。演出家・プロデューサーとしての力。チームメンバーの力を活かして最新系の表現を真っ当にやり続けたその姿勢には、あぁ、あのベルリンの壁を崩す一因になるような、歴史に残るスターもこうした努力の塊だったのだな、自身の衝動を藝術に昇華する、そのアルチザンな姿勢に魅せられました。まぁ、それ以上に天賦のルックスの良さが、その努力と相乗したのだなとは思いましたが。 最新感性の人材を巻き込む自己プロデュース力と、自身の卓越した魅力を両立したという意味、ヴィジュアルが人気の大きな要因だった点で、ボウイには、ガガやマドンナより、ビヨークに近いものを感じました。 ボウイ、そして実はビヨークも私は聴かず嫌いと言う点があったのですが、それは私自身の選好がもっとはしゃいだり、荒々しかったりする音楽にあったというのとは別に、音楽だけで勝負してない感じが好みでなかったというのもあります。ヴィジュアルで聴かせるのでしょ?という部分と言うか。 これはこの間書いた採音に於けるコンセプトとサウンド―Terje IsungsetとMatmosでも書いたのですが、音楽を音のみで楽しむのが本格派だ、というフェーズに今自分がいるから/いたからだと想います。 ただ、例えばこんな文句 剥がれた看板空を衝く 景色と意識が溶け合ってゆく 世界に一つの色が 編み込まれていく気色 があった時、言葉は、i.意味 ii.音 iii.文字としての見た目 という三態を持って存在しています。 それと同じように、音楽もサウンドだけでなく、歌詞やコンセプトといった概念、そして演奏の視覚的要素があって実際は存在している、と思います。これは超ひも理論の大衆向け解説書、『エレガントな宇宙』に書いてあった文句ですが、"1mの棒は、長さだけでなく、現実には重さもある。太さもある"と同じようなものかもしれません。 その中から音波だけを抽出して楽しむのも、勿論素晴らしいことですが、ボウイのフィルムをみて、歌詞や衣装、映像や演出にも拘っている人を聴かず嫌いするのはよしたいな、と想いました。ボウイの歌唱の魅力、凄いし。何より私が中学でガン嵌りした椎名林檎、彼女があんなにエロくなく、そしてあんな歌詞でなかったら、好きになっていたかな…とは時々思いますしね。 歌詞は、歌われた時に、その言葉のイデアとして表出する、とも思うのです。ならば、音のイデアとして視覚的な顕れがあっても、おかしくないと思います。前述の記事でも書きましたが、主眼は響きにあっても、そのメタデータと想われるものにも、本質的な魂が宿っているかもしれない。ボウイを想うとそう感じます。これからの音楽表現を考えた時ですと、フロンティアは嗅覚や触覚、味覚、なんかにも広がるかもしれない、なんて想いました。このブログでやっているLa Musique Mariageのような共感覚表現が、新たなフロンティアになったら、面白いかもしれません。 そして、デヴィッド・ボウイはマルチに才能を開花させるように、最新技術への興味関心を示し活動に活かした点も非常に興味深いです。イーノと組んで電子楽器を取り入れる、等から始まり、自作のプログラミングで言葉の乱数を出して、詩に活かしたり、『★』で採用したジャズ・ミュージシャンたちは、機械のビートに学び、それを乗り越える人たちでもありました。 ボウイという飛び抜けた人物は、或いはシンギュラリティへ時代への身の振り方を、最期にあらわしてくれたのかもしれません。やっぱり美味しい所、この世代は持っていったなぁとは思いながらも、我々はボウイ無き世界を生きていきます。その時に彼が啓示した航路が、新フロンティアへの足がかりになるかもしれない、そう思いました。 David Bowie - Hunky Dory (Full Album)
by wavesll
| 2016-02-23 19:41
| 私信
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