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マット・リドレー 『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史』 交易と創新による10万年の商業史

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マット・リドレー著 『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史』を読了しました。

人類が文明を発展させた要因は"交換"とそれによって起きた"分業による専門化"、更に"アイディアの生殖によって起こされるイノヴェーション"にあると論じた本書。

10万年前の手斧石器から、古代・中世、そして産業革命以後から現代(2010年初版発行)に至るまでの人類史を"世の中はどんどん良くなっていて、これからも良く成り続ける"という楽観論を夥しいまでのエビデンスの印象によって説得を聴く読書体験でした。

比較優位による自由貿易が繁栄を約束し、今身の回りにあるモノは、数千人、数万人の協業によって創られていること。或いは、交流を行わなくなったタスマニアの民の中で技術が退化して行ったこと等が論じられます。

“自給自足は貧困を産む”と。TPPとも関係づけられる話でもありました。

果たしていま日本で出来る比較優位な産業とは何なのか?あるいはマット氏が論じる貿易の自由によって、逆にルサンチマンは堪らないのか。或いは"ウォルマート"のようなスーパーは昔ながらの個人専門店の"分業"を壊しはしないか。

本書が出た後起きたシリア内戦で欧州に人が流入しているが、富を貪っていた欧州が自由を与えないのは不義理でないか。さらに言えばマット氏の地元、イギリスなどEUとしても福祉を認めない、このナショナリズムにおけるバックラッシュを考えたとき、単なる楽観はいただけないかもなと想いながら読んでいました。

特に"人類全体としてみればどんどん繁栄している、現代人はルイ14世と同じ暮らしをしている"といわれても実際に経済的幸福は相対的な順位で決まるだろうし、或いは悲劇に終われた人からすれば"全体が良くなったって自分には関係ないよ"と想うかもしれず、進歩のスピードが落ちても公がすべき仕事はあるように思えます。

一番面白く読めたのは"再生エネルギーは環境に悪い、化石燃料がいかに人類と環境にとっていいのか"と言う部分。再生可能エネルギーは土地を使うし、自然の景観を壊すのみならず、原生林に使える土地も減らしてしまうとのこと。

更に著者は遺伝子組み換え作物にも肯定的で、従来の小麦だって放射能を浴びせ突然変異させたものを口にしているのに、環境活動家によって遺伝子組み換え作物が、飢餓に苦しむアフリカですら忌み嫌われている、90億人になるとみられる人口を養うにはこの道しかないのに。しかも有機栽培も多くのエネルギーを消費するじゃないか、と論じます。

ここで想いだしたのは、学生の頃参加した"懐かしき未来"という講演会でスピーカーが「古来からの精神的に豊かな暮らしに立ち返ろう」と言う話をしていた時に自分が質問した「では地球の人口はいくつが最適だと思いますか」というのにはぐらかされたこと。昔ながらの生活は土地を使うし、ある意味とても贅沢で、現状の70億人もそれでは養えない。人類にとっての幸福の最大化とは何か、というのを考えざるを得ませんでした。

マット氏は、都市化が進むことで原野が蘇るかもしれない、とか、出生率は20世紀後半から先進国で落ち始めているし、もっと最近では少し持ち直し、人口増を抑えながら維持するようになっている、とデータを示して論じます。

ただ、彼の論は最初に反対する悲観論者の話を挙げ、それへの反論、と言う形で進むのですが、これ、逆にしても通じるのではと想うところもありました。

また博覧強記振りも示してはいますが、江戸時代を貧困の時代と言いイギリスの産業革命を持てはやすのは100万都市江戸の町人文化を知っている身としても異論があり、ツッコんでみれば誤りがありそうな気がしました。それでも、自由な商売環境が実際的に人類を豊かにしてきたというのは、この星全体では正しい噺だと思います。

未来に対する楽観論を、まさに数々の先行研究のサンプリングで明らかにしようとする姿勢は"アイディアの交配によりイノヴェーションは向上する"というのを身をもって示していて、なるほどなぁと想わせることもあり、生物学者の眼で見た人類10万年の商業史として面白く読むことが出来ました。

とかく批判論がのさばる未来予測に新風を巻き起こしただけでなく、悲劇を求めるメディア・エンタメ、そして政府・学者に対して"でも実際生活って向上してるよね"と楽観で水を差した本書。ともすれば"アーミッシュもいいなぁ"と想ってしまう自分に"創造的破壊"の世の中を渡る心構えを与えてくれました。

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by wavesll | 2016-03-08 02:06 | 書評 | Comments(0)
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