アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 第一編 読書メモ

c0002171_14451933.jpgアダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』
此の本を手に取ったのは、大学で経済学部だったくせにまるで経済を勉強せず、文学部の授業が一番楽しかった人間だった私が、社会の中で揉まれたり、打ちのめされたり、浮かんだりする中で、本当の意味で経済を学びたいと想った時に、翻訳家の山岡さんのこの文を読んだからでした。

経済学の始まり、古典中の古典のこの本を、この人の訳なら読めそうな気がする、そう想って取った本書。感想を述べると、困難、だけど読みやすいといったところでしょうか。実際、ようやく第一編を読み終えたところで、残り3/4が残っている状態なので、一編ずつ読書メモを纏めようかと想ったのでした。

「困難、だけど読みやすい」というのは、古典の格調高い難解な訳文でなく、平易な文章で訳されているので非常に読みやすいのです。しかし、まるで数学の定理を積み重ねていくような論理の山嶺に登る感覚と言うか、一文たりとも読み飛ばさない本でして、じりじり山頂を目指しているところです。

社会に出て経済と言うものを考えた時に、経済学は"価値の学問"だと思っていました。脳科学や社会学、法学、そして数学など多岐に渡る学際的な"人は何によって動くのか"を考える学問だと。そしてアダム・スミスはまさにこの第一編で"商品の真の価格と名目価格、労働価格と金銭価格"について論じています。

人間は分業を行う事で、各作業工程の熟練化とイノベーションを起こし、社会を発展させてきた。人はそれぞれ"プロフェッショナルな専門家"になることで、特に都市に於いては顧客が多いため、ニッチな職業でもやっていけるようになった。当初は物々交換だったが、貨幣を発明し、更に交換を便利にし、分業を助け、社会を発展させてきた。

その結果、人は自分の生活に必用なものの極一部しか自らでは作らなくなった。そうしたとき、人が豊かかどうかは、他人の労働を如何に支配あるいは購入できるかで測ることが出来るようになった。

アダム・スミスは"ものの真の価格、つまり、ものを入手したいときに本当に必要になるのは、それの生産に要する手間であり、苦労である(中略)労働こそが当初の代価、本来の通貨であり(中略)富の価値は、それで購入できるか支配できる労働の量にまったく等しい"と述べています。

商品の価値の真の尺度は労働ですが、違う種類の労働を比べるには、時間だけでなく、どこまで厳しい仕事かとか、創意工夫が必要な仕事かも考慮しなければならず、便宜上市場での駆け引きや交渉で労働の価値は決まります。そして貨幣経済の元では労働の価値はそれで交換できる商品の量で考えられ、商品の交換価値は貨幣で考えられる。とスミスは述べます。

そして面白いのは、金兌換性の当時は、金銀の価値と言う絶対的な保証のもとで貨幣経済がなりたつのかと思いきや、ポトシ銀山の発見など、金銀の使用可能量の増加によって銀の価値が上下したりするという話です。ここら辺の話はアベノミクスの量的緩和に通じる話で、昔からそういうメカニズムはあったのだなぁと。価値の尺度となる貨幣自身も価値が上下する変数となるというのは、面白くも面倒臭いですね。

労働の真の価格は労働に対して支払われる生活の必需品と利便品の量であり、名目価格は労働に対して払われる金銭の量。労働の報酬が高いか低いかは真の価格によって決まります。

同じ時期、同じ場所であれば真の価格と名目価格の比率はどの商品でも同じですが、時期が違ったり場所が違うと価格差(=裁定)が発生し、それもビジネスチャンスになると。確かにもう表参道ではだいぶ空いてるエッグスシングスも船橋では行列ですものね。

極未開な社会では労働の生産物は全て働いた人のものになるが、資本を蓄積する人が登場すると、労働者が原材料に付け加えた価値は、資本を事業に投じてリスクを取った事業主の利益と労働者の賃金の2つにあてられます。更にその土地が私有財産の場合、地代が価格の第三要素になります。

そうして作られる商品の"自然価格"とは商品の値打ち通りの価格、つまりその商品を市場に供給した人にとって実際に要した額に等しい価格です。この実際に要した額は原価や元値と違って、資本の利益(売り手の生活費)としてその地域での通常の利益率も加算されたモノです。

そして実際に売買される一般的な価格を市場価格と呼びます。アダムスミスは市場価格は需要と供給のバランスにより自然価格に収斂していくと述べます。それは儲からなくなった事業をやる人間がどんどん減っていき、もうかる事業に人が向かうからというロジック。確かにマット・リドレー著『繁栄』にはアメリカでは毎年19%の事業が入れ替わっていると書いてあったきもします。ちなみにこれは経済学トリビアなのですが、アダムスミス自身は「神の見えざる手」という表現は使わなかったようです。

しかし、スミス自身、この神の見えざる手は現実では慈雨分に働いていないと述べます。それ徒弟制などの職業を少人数に限定する法律によって職業移動の自由がはばまれることなどを挙げています。

労働者にとって経営者からいい条件を引き出せるときは、労働者の需要が増え続けている局面。労働賃金の上昇をもたらすのは国富の大きさではなく、国富の増加が続くことだそうです。ここら辺の話は日本よりシンガポールが勢いがあるから一人あたりのGDPにも勢いがあるという話や、長期デフレを何とかしてインフレに持っていきたいという経済政策にも通じる話です。国富が大きくても長期にわたって停滞している国は労働の賃金は高いとは考えられないそうです。

また、貧しい人は結婚への意欲が弱まるが、結婚できなくなるわけではなく、貧しい方が子沢山になるという論も出てきます。スコットランド高地地方で栄養失調に近い女性は20人以上子を産むのも少なくないが、贅沢三昧の貴婦人は子供を一人も産めないことも多いし、大抵2人か3人で精一杯だそう。享楽への情熱が強くなるから、なんて話は現在の先進国の少子化にも通じる話ですね。
ちなみにスコットランドの20人の話には裏の理由があって、20人生まれても環境の厳しさから2人も生き残れなかったそうです。

また、スミスは人口の最大部分を占める下層労働者が幸せに暮らせるのは豊かさが頂点に達した時でなく、社会が前進している時だそう。停滞している時は元気が無く、衰退している時は憂欝。どこかの国のエセリベラルな保守主義者に聴かせたいwまた労働の報酬が高いと庶民は勤勉になり、未来の為にも働くそうです

労働の賃金は快くなく、厳しいほど高くなり、仕事を習得するのが難しいほど高くなります。またいつもある業務か、臨時の業務かでも異なり、臨時の方が高いです。これは日本は派遣業でしっかりこのルールでやらないとアンフェアですね。その他社会的信用の高さや、成功を収められる可能性が高いかどうかも高低に影響します。面白いのは弁護士のような成功を収められる職業は、鳴りたいと想っている人に比べて成れる人が少なく、その敗者の分も勝者が総取りしているから高くなると。若い内は自分の能力を高く見積もりがちですからね。しかしその自惚れが社会を動かす原動力にもなっているのですね。

実際にはその他、地域地域での特色があり、当時の欧州は住む場所の移転が不自由でしたから、スミスの理想はなかなか難しかったそうです。都市部でないと成功し拡大できない業務もありましたしね。

また文人は聖職者になる教育を受けたが聖職者に成れなかった人の成れの果てだったそうです。少なくとも印刷技術ができるまでは文人は教師になるくらいしかなかったそうです。教育の安価化によって文人がギリシアの昔から比べると天と地ほどきつくなってきているという話は、インターネットによって苦しんでいる活字産業にも通じる話ですが、スミスはこの不平等は社会にとっては総合的にはいいことだと論じています。

その他、面白かった論では、高価な商品の総額よりも、安価な商品の総額の方が大きいという話。甲本ヒロトが「一番売れてるラーメンが一番美味かったら、一番美味いラーメンはカップヌードルになるぜ」という話を逆から読んだみたいで面白かったです。更にいえば、豊かな国ほど高級品が高値で売買されるようになるという話も面白く読めました。社会が発達し、富が増えれば、モノは自然と高値になっていくという。トランスナショナル化と失われた20年が進む日本ではなかなか上手くいっていませんが、綿密にデータに当たって書かれている本書を読むと、経済学は学ぶ価値があるなと想わされました。労働者と地主は自分の利益を最大化すると社会の利益も最大化するが、雇い主が利益を最大化しようとすると社会の利益が損なわれることもあるというのはブラック企業や内部留保に通じる話で、現代にも通じます。

というか、経済学部に限らず全学部でこれが読まれたら、国の活力が変わるかもレベルの読書体験。
今後の2~5編も楽しみです。

アダム・スミス著/山岡 洋一訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』第二・三編読書メモ
アダム・スミス著/山岡 洋一訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』第四・五編読書メモ
アダム・スミス著 村井章子+北川知子訳『道徳感情論』"もしアダ"が書きたくなる稀代の"いいね論"
by wavesll | 2016-03-29 16:25 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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