欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第6章~第8章 書き起こし

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第1章~第3章 第4章~第5章

後編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)

NYウォールストリートの金の牛のオブジェの前で

トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)
「これは有名な資本主義のシンボルだ。こんな街中に荒々しい牛なんて奇妙だろう。この牛が本物だとしたら危ないと思わないか?あばれ牛を『飼いならす』ことはとても難しい」

ヒト、情報、お金 あらゆるものが時空を超えて行き交うこの世界 いつか一つになる そんな気がしていた だが
“ケインズの原則を全く無視している” “反グローバル化は確かな流れだ” 逆流がはじまった? “インデペンデンスデイ “フランス共和国万歳” 引き裂かれる世界 深まる混沌 “今まで信じていたものが信じられない時代だ” 今、何が起きているのか

第6章 サイレントフォース

安永竜夫(三井物産代表取締役社長 2015年「32人抜きの社長就任」として話題に 発展途上国のインフラ開発への投資など新事業を開拓)
「まず我々が認識しておかなければいけないのはグローバル化の流れをつくり牽引しその恩恵を最大限受け取ってきたのは一番にアメリカだっていうことですよね。で、ヨーロッパも日本も同様にグローバル化の流れの中で我々は自由貿易を享受しその中で利益を上げ国の富を増してきた。アメリカにとってはそれは一部の富裕層に偏ったと。

グローバル化の流れの中で当然その製造拠点というものが自由に移動するようになり、そこでは産業構造・産業の成長過程の違うステージにあるアメリカの一般的な働き手とメキシコや或いはアジアの働き手がステージが違う地理的に離れているのに時空を超えて闘わなきゃいけなくなった訳ですね。

で結果的にどちらが得かっていうことだけで判断するとメキシコに工場を移転した方がいい、アジアに工場を移転した方がいい、っていうことがどんどん起こった結果として雇用の空洞化が先進国の中で起こってしまった。この空洞化の不平等を感じた人たちがまさにトランプさんに投票したということだという風に認識しています」

トランプ
「貿易協定を見直し雇用と産業をアメリカに取り戻す」

ニューヨーク モスガンスタンレーインベストマネジメントにて

セドラチェク
「ポストトランプの時代だね」

ルチル・シャルマ(モルガンスタンレーインベストメントマネジメント投資ストラテジスト 25年にわたり各国を調査 情報を分析『The Rise and Fall of Nations(国家の盛衰)』はアメリカでベストセラー)
「いま世界で『アンチ・エスタブリッシュメント(現代の支配層)』」の大波が起こっている。

興味深いデータがあるよ。10年前には現職議3人中2人が選挙で当選できていた。だがここ1年半ほどは現職の3人に1人しか当選できなくなった。ブレグジットにせよアメリカ大統領選にせよ『アンチ現職議員』『アンチ現在』の波が世界経済を襲っていると言える」

セドラチェク
「1年ほど前にある記事を書いたんだが…『スターウォーズ』は観たかな?『フォースの覚醒』だね。ある力(フォース)』が目覚めつつあると感じる。それはなにやら暗くて…閉塞感というか帝国主義的で尊大な『フォース』だ。ヨーロッパでもアメリカでも強烈にそれを感じる。

興味深いのはそのフォースは言葉や記事にもならず、主張すらしない。知性的な表現はまったくとらない。矛盾した言い方だがあたかも存在しないかのような…とても静かな力 サイレントフォースだ。

たとえばデモは知性に基づき声を上げ欲するものが明らかな表現だ。だがこのまだ名もなき新しい現象…『アンチエスタブリッシュメント』でもいいが…規制の権威の否定だけでなく『アンチ知性・学問』のようにも感じる」

シャルマ
「ロシアにこういうことわざがある。『歴史を無視すると片目を失う 歴史ばかり見ると両目を失う』とね。歴史に囚われたくはないが歴史における遠近法は大事だ。

二つのことを言いたい。世界経済においてはグローバル化と反グローバル化は繰り返す波のようだ。一度起きた変化は長く続くことに気が付いた。歴史を振り返るならば100年前にグローバル化の大波があってその後に反グローバル化の波が続いた。その反グローバル化はおよそ30年間も続いた。

つまり波はなかなか立ち去らないのだ。現在の反グローバル化がすぐ終わるとは考えにくい。いま起きている反グローバル化の波は強まる一方だと思う。反グローバル化の流れはトランプ現象やブレグジット以前から始まっていたからだ。

反グローバル化には3つの兆しがある。貿易・資本の移動・移民だ。すべてあの金融危機の直後から減少し始めた。以降逆流はずっと続いていて自然に変わるものではないはずだ」

ヨーロッパが一つになる それは儚い夢だったのか 押し寄せる市場の波に壁をつくる動きが広がっている

パリ政治学院にて

学生1
「イギリスのEU離脱、イタリアの動向、トランプ大統領誕生…いま僕らは『国民主権の回帰』を目の当たりにしている。フランスでも他の国でも国民は現状にうんざりしているのだろう。フランス、イギリス、イタリア、アメリカで今のままでは何も変えられないことに国民が気付いた。

失業者は大幅に増加し国によって違いはあるが移民問題が生じている。経済や政治の問題を変えるため国民は権力を取り戻そうとしている」

学生2
「今の経済システムのままでは資源が枯渇するだけではなく社会も枯れていくと思う。資本主義はプロテスタントの禁欲の精神が人々に富の蓄積を許したことで広まった。だが富の蓄積には際限がない。今や元の禁欲の精神は失われた。資本主義の欲望によって破壊されたんだ」

学生3
「富を蓄積するためたくさん働くか 慎ましい生活を送るか。それは人の自由だと思う。だが1億円ものボーナスを出している企業には規制が必要だと思う。それは社会の風潮がおかしくなっている原因のひとつに感じる。

『社会の信頼』を守るには人の欲望に限度をもうけるべきだ」

飽くなき欲望がお金を増殖させる それは大きなリスクを孕んでいた 潮目は既に2008年のリーマンショック・世界金融危機の時に変わっていたのか


第7章 危機後の世界

セドラチェク
「世界経済はどうなっていくのかな?あなたは世界に対してたしかな感覚を持っているよね。あなたの本などを読むとまるで各国に触れる『地球の指』を持っているかのようだ。」

シャルマ
「今起きていることで何より重要なのは成長できている地域は一つもないということだ。あの金融危機が起きる前のようなペースではね。

僕の本では世界を『BC』と『AC』で分けてるよね。危機以前(Before Crisis)と危機以後(After Crisis)だ。危機以前の時代より速いペースで成長できている国はまったくない。西欧だけじゃない。インド、中国、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル…どこでも。世界経済はスローダウンしている。

なぜなのか…理解は十分ではないが私はこれからかなり長い期間続くと見ている

ここで歴史を振り返ってみたい、現在だけを見るのではなくてね。いま人々が不安に思うのは2008年以前の時代とばかり比べるからだ。たしかに1950年~2008年は世界経済の成長率は毎年4%と高いものだった。重要なのは経済発展の全歴史を見渡した時こんなに急速に世界経済が成長した時代は他に例がないということだ」

世界の成長率 今だけを見るか 過去まで遡るか スケールの変化は景色を変える

シャルマ
「生産性が大きく上がった1870年~1914年のグローバル化時代さえ世界の成長率は2~2.5%に過ぎなかった。3%を超える成長をできたことなど過去に例がない。

2008年までと比べてなぜこんなに成長スピードが落ちたかもたしかに重要だ。だが歴史的に見れば世界は今でも急速な成長をしていると言える。1950年~2008年はさておきね」

原丈人(デフタパートナーズグループ会長 アライアンス・フォーラム財団代表/内閣府参与 ベンチャー企業育成のための政策提言や新技術をもちいた支援など国内外で活動)
「私は日本の事はそんなには知らない。っていうかまぁ日本の大学を出てからはアメリカ・イギリス・イスラエルを拠点に動いていますんで。外国にいる日本人という立場で日本を客観的に見て言いますね

70年代、80年代ぐらいまでは日本ってのはですね。米国とかヨーロッパでつくられるサイエンスやテクノロジーを小さく軽く安く薄くという方向が決まっていたんですよ。だからトップはそんなに判断しなくてもミドルだとか下の人たちがボトムアップでしっかりやっていけば会社ってのは発展したんですね」

安田洋祐(大阪大学准教授)
「じゃあマネジメントがある意味いい加減でも企業として発展することが出来た」


「私も79年からスタンフォードにいましたけど『The Art of the Japanese Management』というリチャード・パスカルとかね。日本的経営を非常に称える、アメリカもそうなるべきだって本をビジネスクラブで教えてましたよね。

でもそのお手本の日本も90年代になってきてそして2000年になっていくと、先端を走ると。こうなると方向性を決める役が必要となるじゃない。ここの訓練が十分にできていたのかというとこれはちょっと疑問があります。」

シャルマ
「いくつかの要因が1950年~2008年の世界経済の急激な成長を後押ししたと考えている。それらのファクターは危機後の世界には二度と戻ってこない。もっとも重要なのは人口統計データだ。1950年~2008年 世界人口の急増によって空前の労働力の増大が起こった。

だがいま世界人口の増加率には急ブレーキがかかり労働人口つまり労働力も同様だ。いわば『人口減少の爆弾』だ。以前は急速に人口増加していた国もそのペースは急激に落ちている。インド、中国など多くの国でね。

もう一つ重要なのが負債がピークに達したことだ。経済成長の原動力の一つは実際は国の借金だったわけで…」

セドラチェク
「GDPをGross”Debt(負債)”Productだね」

シャルマ
「世界の負債は1980年~2008年に増大した。それ以前はそんなことなかったが金融機関の規制緩和 低金利 低インフレ…1980年~2008年 それらが原因で負債は急増していきいよいよ巨大な負債のサイクルがピークを迎えたようだ」

セドラチェク
「直面する問題をあつかうための新たな経済モデルが必要だとは思わないか?従来の伝統的なモデルでは現在のデフレーション一つとってもほとんど触れられていない。理論的可能性としてあっただけでね。だから途方に暮れてしまう。教科書で学んだことが通用しないまったく倒錯した世界になってしまった。マイナス金利 巨額の負債…」

理論が追い付かない 現実の混沌

第8章 グローバルか ナショナルか

資本主義の世界を独自のアングルで捉える男の目には 何が映っているのか

安田
「あなたは経済にとどまらず幅広い見識から世界を分析していますね。どうやら経済学はお嫌いのようですが…」

エマニュエル・トッド(歴史人口学者 フランス国立人口統計学研究所 所属 旧ソ連崩壊 金融危機 イギリスEU離脱などの予言を的中)
「いや まあ そうだね。基本的には経済学は嫌いだ。支配的な学問としてふるまう限りはね。経済学のシンプルな原理ですべてを説明できるという考えには大反対だ。人の歴史はもっと複雑だ。家族制度 世界史 教育 宗教 集合心理…だが経済学はごく限られた範囲しか見ていないようだ」

安田
「経済学をお嫌いな理由のもう一つは多くの経済学者がグローバル化や自由貿易を推進する考えだからですか?あなたの本を読むとグローバル化に疑念を持っているように感じます。最近では『グローバルファティーグ(疲労)』という言葉を使っていますね」

トッド
「フランス語を英語に直訳しても意味が通っているでしょう。いま世界が需要不足に陥っているのは自由貿易が各国の経済を押しつぶし人々の収入の低下をもたらしたからだ。需要の不足 成長の低下は繰り返し経済危機を招くだろう。

私は保護主義の再来には問題を感じない。保護主義は各国の人々の給与を上げ経済成長を促すだろう。そうなればいずれ貿易が再び活発になるはずだ。今は貿易は停滞し成長は鈍っているが私には未来はポジティブに思える。

経済学者たちは世界をありのままに見ていないのではないか。世界は国家の集まりだ。安定や変化を導けるのはあくまで国という単位だけだ…」

安田
「しかしもしすべての国が自国の利益を追求したら、つまり各国が関税を上げて自国経済を保護したら世界経済に悪影響が起こりえますよね…」

トッド
「分からないじゃないか。経済学者たちは歴史をあまり知らないだろうが19世紀末のヨーロッパでは保護主義の時代があった。ドイツが始めて他国が追いかけたがその時は悲劇的なことは何も起こらなかった。各国の国内需要は増加し貿易は止まったりはしなかった。それどころか国々は豊かになり貿易は加速していったんだよ。

アメリカのエコノミストの頭の中は『世界の』需要のことばかりだ。自由貿易が需要を押しつぶしているという事を彼らは認めようとしない。それはケインズの原則を全く無視していることになる。

今朝買った『エコノミスト』を読むと世界の貿易収支を見てみると実に多くの国が貿易黒字を求めているのが分かる。例えば中国は黒字。日本も黒字に転じた。ヨーロッパは世界で元も貿易黒字額が高い。韓国も黒字 タイも黒字だ。

各国が貿易黒字ばかりを求めれば世界の需要の取り合いになり需要不足になって当然だ。今ケインズが生きていてこの『エコノミスト』を読んだら”世界はクレイジーになってしまった”と言うだろう」

やはりあの名前が 20世紀の巨人 ケインズ

ジョン・メイナード・ケインズ
「素晴らしいことにイギリスのビジネスマン 製造業者 失業者にとって明るい時代がやってくる。」

彼は考えた 社会の安定のため最も恐れるべきは失業者の増大 危機を回避するには国は借金をしてでも仕事をつくる そしてお金という血液を市場にめぐらせる 成長が止まったと嘆かれる今 彼の思想が再びもてはやされている だが

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第9章~最終章
『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて


cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時 第1・2章 第3・4章 第5章 第6章 第7・最終章
by wavesll | 2017-04-05 21:27 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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