外山滋比古『思考の整理学』読書ノート

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外山滋比古『思考の整理学』を読みました。心に残った處を列記していければなと。

1. グライダー人間と飛行機人間

本や教師に引っ張ってもらって飛ぶグライダー人間は自分で考えてテーマを創れない。不格好でも自力で飛翔する飛行機人間となれないと、コンピューターに仕事を奪われる。

伝統芸能では師匠が教えてくれない秘術を盗み取ろうともがく内に門人はいつのまにか自分で新しい知識を習得する力を持つ。惜しげなく教えるのが決して賢明ではない。


これは耳の痛い話で。私自身も職場で「君は自分で課題をみつけられない」と言われる人間で。大学の頃ESSで「考えさせるスタンス」の人材教育に反感を持ったりもして。借り物でないオリジナルな知見を拓いていく術を知りたくてこの本を手に取ったところもありました。

2. 朝飯前

朝起きた時が一番頭が働く。また朝は夜より楽天的になれる。朝飯を抜いてブランチにすれば"朝飯前"を長くとれるし、昼寝して起きれば夕食までにもう一度"朝飯前"をつくれる。

これわかるなー。頭がはっきり働くだけでなく音楽を聴くにも一日で一番よく音を愉しめるのは朝一番に聴いたときに感じます。それにしても朝飯前を長時間X2でつくるとは中々にハードコアだw

3. 見つめる鍋は煮えない

自分でテーマを掴むにはインプットしたものを寝かせて発酵させる必要がある。そして寝かせて時間をかける時に"今か今か"と意識しすぎてはいけない。寧ろ意識を他の問題に飛ばしたりして、無意識に持っていくのが吉。中国の欧陽脩は良い考えの生まれやすい状況を馬上、枕上、厠上といっている。

これも良く分かる。自分も読書が一番進むのは電車内だったり、旅の帰りの新幹線の夜間の車内で一番想念が湧く気がするし、アイディアに詰まったとき逍遥すると解が湧いてくることが結構あります。

4. 情報のメタ化=整理・抽象化が重要

一次情報を昇華させることで普遍的な真実へ。これは仕事でも非常に大切な事ですね。俯瞰の必要性というか。

5. 書き留めると忘れられる

ノートをとって、寝かせることで、時の中でふるいにかけられ整理される。また、人間もそうだが情報も周囲との関係性で活きたり腐ったりするから、ベストな場所で醗酵させるといい。

そもそも昔は博覧強記が優秀な知とされたが、PCが発達した今、創造的人間として活躍するためには頭の中を整理し自由な思考スペースをつくるのが重要。その為には書き留めることが忘却を活かしてくれる。


これもBlogやってると凄く肚に落ちることで。書くことで脳から外部ストレージに情報を移せるというか。その上でも忘れないことは時の試練に耐えたものだと分かるという話もその通りだなと想いました。

6. とにかく書いてみる

論文、報告書、レポート等を書く際に「もっと想を練らなくては」としていたらいつまでたっても書けない。寧ろ書くことで筋道が整備されることがある。書きだしたら一字一句を遂行するより一気呵成に一旦終わりまで書き上げるといい。

書くと纏まるのはその通りで。頭の中では大長編の大作でも、案外書き出してみるとサクッと短かったり。これは「不安を感じる時は書き出すと案外大したことない量だ」という話とも繋がる気がします。

7. タイトルは短く、テーマはワンセンテンスで

これはWebのSEOとは相反するかもしれないけれど、膨らむ余地のある題名は味があっていいですね。

8. アイディアは褒められて伸びる

アイディアの想念はすぐ潰えてしまうから、ネガティヴなことを指摘する相手には(たとえ知的能力が高い相手でも)アイディアを話さない方がいい。逆に自分から相手に水を差すこともせず、ピグマリオン効果を狙うのが吉。みえすいたお世辞でも価値がある。


相手は話題に出しても価値を理解できる場合は稀。批判的意見を出すのが相手の為と想う人間も多いし、そういった相手に意気を折られるなら関わらない方がいいし、逆に相手が求めてない情報を押し付けることは相手の為でなく自分の為という意識も持つといいと思います。

9. しゃべることでアイディアが発展する場合

知的会話がアイディアを発達させることがある。なるべく縁の薄いことをしている人が集まって談笑するとセレンディピティの触媒作用が起きる。声に出すとアイディアが発展する。近親交配だと弱体化するから、異なる分野の混血が新領域を切り拓く。逆にとっておきの思考はしゃべることで内圧を下げない方がいい。

旅先での旅人の間での会話がケミストリーを起こすのは此れ故か。異分野のフュージョンというとベビメタなんかもそうですよね。また喋ることでベントされてしまうのも実体験あります。

10. 本やメディアを通じた「第二次的現実」でなく生の「第一次的現実」の知恵を大切に

学生は本をベースにした知恵しかないが、社会で働く上ではメディアでなく実体験の第一次的現実から知恵を抽出させる術が大切となる。飛行機型人間は汗の匂いのする思考が大事。ことわざは第一次的現実の知恵ともいえる。

今夜、岩合さんのプロフェッショナル仕事の流儀をみて。最近、スローな番組や雑味のある気の抜けた写真に私は魅力を感じます。岩合さんの写真は鮮やかだけれど、自然みがあって。うま味を煮詰めた情報にだけ触れていると現実の淡々とした味を生き抜けない気がするのです。TVドキュメンタリーも味濃いのだろうけど。

時間をかけ、ともすれば平板な生の状態から凝縮しないと自らの手で「旨み」を創れない。一方で「旨み」を味わう側では誰かが既に煮詰めているものを食べた方が刺激的。メディアと第一次的現実双方を上手く連携することが必要で。読書やメディアで学ぶだけでなく、現実の実体験から抽象化により身体を持った知見を得る重要さはものの見事にハラオチしました。変な話だけど筋トレとかいいのかも。

それにしてもここら辺の話はマクルーハン『メディア論』にも通じる未来視だなぁ。

11. 3種類の知的活動

I. 既知のことを再認する(A)
II. 未知のことを理解する(B)
III. 全く新しい世界に挑戦する(C)

読書に於いてBの域に行くには解釈が必要で、Cの域へ行くには何度も体当たりする必要がある。A読みからBC読みへ行くには文芸作品を解釈しながら読むことが有意義。漢文の素読なんかもCにいい。


確かに既知を再認するだけのAの読書と違い、学術書なんか読むと脳がフル回転してぐったり疲れる感があります。逆に自己啓発本やビジネス本なんかは「そうそう、自分もそう」と想うのが好い、なんて話も聴いたことがあります。

12. コンピューター

最高のグライダーであるコンピューターの前では従来のヒトの仕事は奪われてしまう。
人間らしく生きていくことは人間にしかできないという点ですぐれて創造的、独創的。コンピューターが現れてこれからの人間の変化、"機械的"・"人間的"概念の再規定が求められる。


シンギュラリティが現実化している昨今、この先見はまさに今取り組むべきイシューだと頷きました。

前に「マンガはあまりにも演技がはっきりしすぎていてそれに浸かると現実のヒトの表情に鈍感になる」や「ロックンローラーの詩に触れていていると普段合う人の言葉が淡すぎるように感じる」等と書きましたが、"人為"でなく"自然"に目を向けることで寧ろ抽象的な旨みを生み出せる飛行機人間になると本書を読んで再認しました。

思考のフレームワークとして、時の淘汰を加速させるために忘却を促すというものは目から鱗で。こうして書いたからきっと次の本へすぐに進めると想いましたw

と、いうことで梅棹忠夫『知的生産の技術』を読みましたw!

梅棹先生のこの本は外山先生も参考になさったと想う位に似通う所がありました。

その上で『思考の整理学』のオリジナルな点も分かって。特に『「忘却」が「整理」である』という点を掘り下げたところが大きかったのだなぁと。

『身体的な思考』を取り上げたのも慧眼だったと思います。朝飯前が脳が働くことに加え、最後の辺りで出てくる「第二次的現実」が氾濫する現在に、寧ろ身体的・ことわざ的な知が思考に実体を与えるという話はインターネットとヴァーチャルリアリティーが日常化した今こそ読まれるべき指摘だなと想いました。

ちなみに余談ですが、漫画界の未来視・士郎正宗の『攻殻機動隊』を日本で実写化するとしたら『科捜研の女』のキャストでやって欲しいです。ってかハリウッドのビッグバジェットに勝つにはこれしかない。沢口靖子って素子っぽいし。

cf.
[書評] そろそろ、人工知能の真実を話そう(ジャン=ガブリエル・ガナシア)(極東ブログ)

by wavesll | 2017-05-30 00:02 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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