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ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝ーボスを超えてー@都美

東京都美術館のバベル展へ行ってきました。
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ネーデルラント絵画のヒエロニムス・ボスからピーテル・ブリューゲル1世への流れが明示されていてストーリーを味わえました。こんなに白黒の版画に興奮しながら見入った展覧会は初めて。この展覧会の裏の主役はボスですな。そして≪バベルの塔≫。“何万画素なんだ?”といいたくなるような、遠目だとブレてみえるような、人の目を越えた細密さ。これは人類の宝。

展覧会に入るとまず「16世紀ネーデルラントの彫刻」群が。
アルント・ファン・ズヴォレ? ≪四大ラテン教父:聖アウグスティヌス、聖アンブロシウス、聖ヒエロニムス、聖グレゴリウス≫等の木彫像。西洋の彫刻で木というのはちょっと不思議な感覚もあって、初めにいいサプライズでした。

そして宗教画のエリア。トリコロールの効果が効いているマナの拾集の画家≪ユダヤ人の供犠≫、構図と建物の曲線の妙が光る作者不詳≪庭園に座る聖母子≫も良かった。

枝葉の刺繍の画家≪聖カタリナ≫と≪聖バルバラ≫に描かれた剣を持った殉教の聖人、アレクサンドリアのカタリナは他にもヤーコブ・コルネリスゾーン・ファン・オーストザーネン≪聖カタリナ≫にもその勇姿が描かれています。ヤーコブは≪聖母子と奏楽天使たち≫でも鈴・ハーディガーディ・リコーダー・ハープ・ヴィオールを奏でる天使とそれに嬉喜とする幼子のキリストを描いていて、この絵、とても好きでした。

マールテン・ファン・ヘームスケルク≪オリュンポスの神々≫の、ローマの古代遺跡に着想を得た水浴の楽園画も素晴らしかったし、顔はリアルで神経質そうな人柄が伝わるのに体は不釣り合いに雑な王家の肖像の画家≪フォンセカ家の若い男の肖像≫ヤン・ファン・スコーレル≪学生の肖像≫の聡明な顔も良かった。

ヘリ・メット・デ・ブレス≪聖クリストフォロスのいる風景≫で描かれたキリストを背負う巨人クリストフォロスという題材は他にも展示されていて、水色が美しい逸名のドイツ人版画家≪聖クリストフォロス≫や、ヒエロニムス・ボス≪聖クリストフォロス≫は木の中の小人や奇想が弾ける本展覧会の目玉の一つでした。これと並ぶ≪放浪者≫も意味深な画でした。

ボスの魔界のようなファンタジックな画風はネーデルラントで大流行し、そのスタイルは敷衍しました。

ヒエロニムス・ボスに基づく≪聖アントニウスの誘惑≫はこの展覧会の白眉にもなるような悪魔や魔物、頭人間が出てくる奇想の風景画。画家J・コック≪聖アントニウスの誘惑≫には空飛ぶ獣が描かれていました。

ヒエロニムス・ボス≪樹木人間≫の卵のような木の殻も面白いしヒエロニムス・ボスの模倣の≪様々な幻想的な者たち≫はボス版北斎漫画な趣。

ヒエロニムス・ボスの模倣で彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪最後の審判≫は剣のサイドの地獄と百合のサイドの天国双方に怪物が闊歩しているのが面白く、ヒエロニムス・ボスの模倣で彫版:コルネリス・コルト≪最後の審判≫は壮麗な天国と貧困な地獄が描かれていました。

同じくヒエロニムス・ボスの模倣で彫版:ヨアネスおよびルカス・ファン・ドゥーテクム≪象の包囲≫は『イノセンス』のパレードを想起させられ、ヒエロニムス・ボスの模倣で同じく彫版:ヨアネスおよびルカス・ファン・ドゥーテクム≪聖クリストフォロスの誘惑≫は魚のモンスター戦車な山車が。

ヒエロニムス・ボスの模倣で彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪ムール貝≫は女性器を暗喩する貝に男たちが入る不思議な味の作品。同じくヒエロニムス・ボスの模倣で彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪陽気な仲間たち≫も愉しい作品でした。

そして愈々ブリューゲルのエリア。やはり版画で、ボスの奇想の影響を模しているのが分かります。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪聖アントニウスの誘惑≫の人形的な怖み。ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪大きな魚は小さな魚を食う≫は弱肉強食を顕わした脚付きのサカナの絵。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版ピーテル・ファン・デル・ヘイデンの連作『七つの大罪』では顔風車が不気味な≪大食≫、魔欲が描かれた≪邪淫≫も素晴らしい。なんだか富樫が描く禍々しい世界をもっとヨーロッパなリアルな画風にしたような感じ。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:フィリップ・ハレ≪希望≫は海原から陸地へ上がる姿がシリア難民を想わせました。希望、か。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪忍耐≫には木の卵殻が。同じく二人による≪最後の審判≫は魚が不気味。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:フランス・ハイス≪アントウェルペンのシント・ヨーリス門前のスケート滑り≫では"農民の画家"としてのブリューゲルの顔が見れます。スケートに興じる農民のおどけた表情が良かった。

ピーテル・ブリューゲル1世本人が彫った≪野ウサギ狩り≫は淡い味わいが素晴らしかったです。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪冥府に下るキリスト≫の黄泉の風景。同じく2人で制作した≪使徒大ヤコブと魔術師ヘルモゲネス≫の魔物や≪魔術師ヘルモゲネスの転落≫の魔界な雰囲気も良かった。

ピーテル・ブリューゲル1世 彫版師不肖≪野生人≫はサイケロッカーというかヒッピーでしたw他にもピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン≪金銭の戦い≫も金貨が入ったパンパンの鎧で闘うユーモラスな作品。またピーテル・ブリューゲル1世 彫版:ピーテル・ファン・ヘイデン≪石の切除≫は石が生えてくる奇病が描かれていました。

そしてついに「バベルの塔」エリアへ。

ブリューゲルの版元だったヒエロニムス・コックの≪コロッセウムの眺め≫。ブリューゲル自身もイタリア旅行し、コロッセオが『BABEL』のモデルとありました。

そして…ピーテル・ブリューゲル1世≪バベルの塔≫。
展覧会を観る前、"EUの崩壊やトランプ大統領の誕生など、世界は統合から亀裂へ向かっている中で≪バベルの塔≫をみる味わいはまた異なるかもしれない"とか"バブルの頃なら東京バベルタワーだけど今だったら軌道エレベータがバベルの塔だな、あれもテロの格好の標的になりそうだ"とバベルの塔の赤黒さに考えていたのですが、実際に本作品をみると、建設途中の塔の中でなんともか細く小さな人々が、暮らしを営みながら見果てぬ理想を打ち立てようと活動し、巨大な建築が伸びていく姿が鮮やかで。塔が届いた叢雲の描写も美事。

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時で「民主主義は決して完成しない理想だ」とどこかの教授が言っていましたが、たとえ神の逆鱗に触れたとしても、雷を落されても、それでも積み上げていく歴史の努めを、階層ごと建築様式が変わり建設にかかる年輪を感じさせるブリューゲルのバベルの塔に感じました。

展示会場の外では大友克洋さんが描いた≪INSIDE BABEL≫が。水路が中に入っているのが古代人の工夫がみられて"ほう"と想い、そしてやっぱりその細密振りに驚嘆。
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その足で藝大でやってる立体バベルの塔「Study of BABEL」展へ。ここまで巨大にしても人が豆粒のよう。なんでも人の身長を170cmとするとバベルの塔は510mにもなるとか。ムハの≪スラヴ叙事詩≫を凝縮したようなものかと空恐ろしくなりました。この展示、音楽科の方でやってるのでスルーご注意を。中の映像展示も光の営みの映写が面白かった。都美、藝大共に7/2迄。
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Bonus track2
上野駅で先月撮ったレゴバベル。塔を上から見れたのが面白かったです。
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cf.
ブリューゲルの魅力とブリューゲルの世界観・人間観(dezire_photo & art)

ジッグラト(Wikipedia)
by wavesll | 2017-06-27 19:22 | 展覧会 | Comments(2)
Commented by desire_san at 2017-07-02 17:56
こんにちは、
私もブリューゲル『バベルの塔』展を鑑賞してきましたので、画像と鑑賞レポートを読ませていただき、ブリューゲル『バベルの塔』展の名画を再体験することができました。藝大の立体バベルの塔「Study of BABEL」展も観てきましたが、バーチャルな他県はこの絵画が警告している事を実体験したようで、強い衝撃を受けました。
リューゲルの『バベルの塔』自体は、ブリューゲルの『バベルの塔』は、リアルな表現と、非常になめらかで自然な描写と絵具を何層にも塗り重ねて透明感を出しているところなど繊細な表現にも魅了されました。日本ではほとんど見られないヒエロニムス・ボスの油彩画2点も見られてよかったですね。

私はブリューゲル『バベルの塔』展の感想と、かつて来日した作品や現地に行って見たブリューゲルとボスの名画を紹介しながら、ブリューゲルとボスの絵画の魅力と違いもブリューゲルの世界観・人間観を考察してみました。一度眼を通して頂きたくお願いいたします。ご感想、ご意見などコメントいただけると感謝いたします。




Commented by wavesll at 2017-07-03 23:07
コメントありがとうございます!好い展覧会でしたね◎

ブリューゲルとボスの魅力と違い、気になります!是非ブログ拝読させていただきます◎!
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