20世紀の終わりに俺は日本の2つのバンドが好きだった。
ひとつはドラゴンアッシュ。もうひとつはくるりだった。 降谷建志はあの頃英雄になろうとしていた。世代を背負って立って、日本の音楽シーンに革命を起こそうとしていた。それは『Viva la revolution』で実を結び、その後のTMC等コミュニティを先導し、電気グルーヴが日本のオーバーグラウンドにテクノを持ってきたようにヒップホップとミクスチャーを導入した。それは功罪あるが今でも確固たる影響があると思う。 しかし、彼には英雄であり続けるだけの蓄えがなかった。インプットが足りなかった。語彙がなかった。いつまでも『百合の花咲く場所で』といい続けるだけでは興味の枯渇が起きる。 更に彼は大きな過ちを犯した。本当は2・3年インプットのためのインターバルを置けばよかったのに、周りの期待を背負って立つ英雄は、他人の創作物からの安易なイメージの流用。具体的にはジブラやFan Factoryからのパクリをしてしまった。英雄は地に落ちた。彼は父親である古谷一行の名を捨て、降谷の名も捨て、kjとして生きることになった。 ドラゴンアッシュの最新アルバムはラテンアメリカ色が色濃く映し出される新境地で新たなアイデンティティーを見つけ、また良い音楽を生み出そうとしていると思う。 ドラゴンアッシュは仲間とつるみ声高に主張し消えていったが、くるりは人見知りかと思うほど孤独に自己の内面の歌を作り続けながら徐々に他のミュージシャンとコミュニケーションを取って、この夏京都で自らが主催のロックフェスを開こうとしている。 彼らは『東京』をひっさげ『さよならストレンジャー』でデビューした。その時のキャッチコピーは「すごいぞ、くるり」。 大学生が好きそうな、フォークにも通じるような叙情性とリアリティーを持った歌だった。 そしてセカンドアルバム『図鑑』では岸田が「ロックンロールをやろうと思った」と言う様に『青い空』を始めとして轟音ロックをがならせた。この頃俺はようやく聴くようになった。 サードアルバム『TEAM ROCK』の先行シングルである『ワンダーフォーゲル』には誰もが度肝を抜かれた。大々的な電子音の導入。そのせいかこのアルバムはまとまりをあまり感じられなかったが、『ばらの花』をはじめ個々の曲のクオリティは高かった。 そして『THE WORLD IS MINE』。トム・ヨークの真似でもしてんのかとでもいうようなポストロック。ここでギターの大村達身が加入するというバンドの変化が起きる。しかしこれでは終わらなかった。 立命館大学時代からの盟友だったドラムスの森の脱退。これは岸田が「俺らは肉食動物の音楽をやらなければならなかったから、草食系の森君には抜けてもらうことになった」と語っている。 ここにきてくるりは新次元に突入する。 FEEDのドラムスなどをサポートメンバーに入れてライヴをしばらく行っていたが、ついにクリストファー・マグワイアが正式メンバーとして加入し、アルバム作りが行われることになった。 ハードロック色の強い『アンテナ』の先行シングル、『ロックンロール』はおそらく森との別れを歌った歌だ。 進めビートはゆっくり刻む 足早にならずに確かめながら 涙を流すことだけ不安になるよ この気持ちが止まらないように それでも君は笑い続ける 何事もなかったような顔して 僕はただそれを受け止めていつか 止めた時間を元にもどすよ たったひとかけらの勇気があれば ほんとうのやさしさがあれば あなたを思う本当の心があれば 僕は全てを失えるんだ 岸田は、本当に辛かったと思う。ただ、岸田は友情より創作を選んだ。本当に厳しい孤独な道を歩もうとしたんだと思う。 ただ、俺自身は『アンテナ』あたりからそんな岸田の態度も含めたくるりの方向性に疑問を感じて聴かなくなっていった。 決定的だったのがクリスが脱退した後に作られた『NIKKI』。まずジャケ写からしてなんだこの女ウケしそうなおしゃれなのは。馬鹿じゃねぇのか。で、歌も『Baby I love you』だぁ?おまけに広告ソング『赤い電車』なんかなんだこりゃ。全然ロックじゃないと聴いていなかった。 しかし、ここに来て心境の変化もあり聴いてみたら、あぁこれはくるり流のポップなんだなと思えた。『Baby I love you』もいい歌だった。 更に激震が走る。大村達身の脱退。これは何故かは分からないのだが、それに前後して岸田はクラシックにはまり(これも『のだめ』の影響かwいや、普通にモーツァルトイヤーとかで去年はクラシックはかなり盛り上がっていたな)、新アルバムはウィーンで録音された。 そして出てきたのが『JUBILEE』である。 JUBILEE 喜びとは 誰かが去るかなしみを 胸に抱きながらあふれた 一粒の雫なんだろう なんで僕は戻らないんだろう 岸田がロックなのは自分の人生を歌うからだ。 仲間が去っていった悲しみ。 しかしこれは俺も少し共感できるのだが、ヒトは心理的なストレスがあったときにこそ大きく成長して、よりよいモノが作れたりするものだ。 この『喜び』は創造の喜び。『一粒の雫』とはこの曲自体のメタファーなのではないだろうか。 更に岸田は続けて『なんで僕は戻らないんだろう』といっている。 岸田は変わり続けてきた。進み続けてきた。ギターロックからロックンロール、電子音にポストロック、ハードロック、ポップス、そしてクラシック。彼は常にインプットとアウトプットを両方最大化して進化に適応し続けてきた。そしてそれを自分の業だと思っているところが素晴らしい。 やっぱりくるりはこれからも見過ごせないバンドだと思う。 『JUBILEE』は通常verもいいが、シングルの3曲目に入ってるヴァージョンもいいので是非聴いてもらいたい。 くるり - ロックンロール (Live@Factory) くるり - ワールズエンド・スーパーノヴァ (Live@Factory) くるり-惑星づくり(Live@朝霧JAM) RIP SLYME - One(Live)
by wavesll
| 2007-06-12 22:12
| 私信
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