『ギルガメシュ叙事詩』 彼が成し遂げることは全て風に過ぎない

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古典を読もうと思い立ちB.C.2000年以前に紡がれたメソポタミア文明の名著『ギルガメシュ叙事詩』を読みました。

ウルクの王であるギルガメシュの活躍を描いたこの本、アッシリアのニネヴェやヒッタイトのボアズキョイで見つかった粘土板に楔形文字で描かれていた物語ということで途中で平気に「以下30行欠損」とか何度も出てくるツワモノでしたが、逆にメタ的にも読書を楽しめました。

予想してたとおり面白かった。まるで『JAM』『世界の終わり』を聴くような感触でした。

古代メソポタミアは西欧世界の原型の一つなのだなと強く感じました。後に旧約聖書で『ノアの箱舟』として継承される洪水伝説や、生と死をめぐる冒険、蛇によって盗まれる永遠の命など、メソポタミア文化圏の端っこにあったイスラエルへの影響が容易に想像できる要素が多々ありました。

余談ですが暴君であったギルガメシュはウルクで結婚した夫婦の初夜の前に奥さんの処女を必ず食っていたそうです。これがかの深夜番組のネーミングの元なのでしょう。

僕が最も心を引かれたのはこの物語が白と黒の2大主人公制を採用している点でした。
乙木さんが説明しているように、『HUNTER X HUNTER』や『デスノート』、『コードギアス』など白黒2大主人公を採用する物語はゼロ年代の潮流です。その元祖が『ギルガメシュ叙事詩』といえると思いました。

簡単なあらすじ。

知と権力の王ギルガメシュに対抗するために神に作られた野人エンキドゥは、ギルガメシュに送られた聖娼によって人間らしさを得る(ここらへんが文明ってのは邪なものなんだということを現していて良い)。

ウルクに来てギルガメシュと殴りあった後、彼らの間には友情が芽生え、共に西の森の怪物フンババ(フワワ)を退治しに行く(ここら辺は『もののけ姫』にもつながる神殺しの話)。

その結果見事凱旋し、ギルガメシュは女神から夫にならないかと誘惑されるが神になることを断り、怒った女神によって送り込まれた天牛をエンキドゥと共に殺害。しかしそれによってエンキドゥは神の怒りにふれ衰弱死させられてしまう。

最愛の友であったエンキドゥの死に衝撃を受けたギルガメシュは、死の恐怖から逃れるため大洪水を生き延びた賢人ウトナピシュティムに会うため東の冥界へ旅立つ。

ウトナピシュティムから死は誰にも逃れえぬことも予見することも出来ない神の暴力的なまでの絶対だと諭されるが、最後に若返りの草を受け取る。しかし持って帰る途中で草を蛇に食われてしまう(その結果蛇は脱皮する。)。


この物語を動かすエンジンがギルガメシュとエンキドゥの2人です。彼らの友情と冒険が、メソポタミア人にとっての「死を前にした人間の生の問題」をあぶり出します。

英雄的人生観、永生希求、現世的享楽主義、神への奉仕による人生観が示されるけれど、叙事詩はそのどれも絶対の正解とはしません。全ては相対化されます。彼(=人間)が成し遂げることは全て風に過ぎない。ギルガメシュは全てを探求しようとしたその軌跡だけが残るのだという、ボールをこちらに放りっ放しの終わり方をするあたりも『HUNTER X HUNTER』に似てるなと思いました。

興味をもたれたヒトは一回読んでみるといいと思います。日本語訳があるので楔形文字が読めなくとも問題ないっす(^^)
by wavesll | 2007-06-20 03:18 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from ヽ(鈴ω木)ノ<モッチモ.. at 2007-07-09 18:29
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