2017年 04月 06日 ( 1 )

『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて

第1章~第3章
第4章~第5章
第6章~第8章
第9章~最終章

前編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)
後編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)

BS1スペシャル「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」をみました。

安田洋祐(大阪大学准教授)をナビゲーターにジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞 アメリカ大統領経済諮問委員会委員長 世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任)、トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)、ルチル・シャルマ(モルガンスタンレーインベストメントマネジメント投資ストラテジスト 25年にわたり各国を調査 情報を分析『The Rise and Fall of Nations(国家の盛衰)』はアメリカでベストセラー)、エマニュエル・トッド(歴史人口学者 フランス国立人口統計学研究所 所属 旧ソ連崩壊 金融危機 イギリスEU離脱などの予言を的中)等の識者に低成長時代をいかに舵取りをしていくかが語られていました。

スティグリッツ教授は「富の一極集中の解消が成長の鍵だ」といい、セドラチェク氏はもっとドラスティックに「資本主義が必ず成長するというのはナイーブな思い込みで"成長資本主義"から変わらなければならない」と言います。

しかしアルヴィン・ロス(スタンフォード大学教授 2012年ノーベル経済学賞受賞 市場の制度を設計する「マーケットデザイン」研究の先駆者)は「資本主義の死を宣言するのは早計だ。資本はリターンを得続けているよ。シリコンバレーに住んでいるんだが多くのビジネスが集まっている」と語ります。

更にUberへの投資で著名な投資集団のスコット・スタンフォード(シェルパ・キャピタルCEO 元ゴールドマン・サックス社員 2013年ベンチャー投資企業を設立)は「私たちはより効率化する方法を常に探しているんだ。経済学でいうところの生産性だね。労働力が変わらないのに成果物は増える。そして利潤 成長 波及 創造的破壊を追究する。いかにして効率的な進化がなされない古い産業を駆逐するか。市場をとれ。需要と供給が働きあって加速して規模の効果が働いて新旧交代が起こる。それがイノベーションだ。そして消費者をハッピーにするんだ」と。

そしてシャルマ氏は「2008年リーマンショック以後、危機以前の時代より速いペースで成長できている国はまったくない。西欧だけじゃない。インド、中国、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル…どこでも。世界経済はスローダウンしている。」としながら「1950年~2008年は世界経済の成長率は毎年4%と異様に高い」とし、その原因を人口爆発と国家債務の増大にあるとし、「歴史的に見れば世界は今でも急速な成長をしていると言える。1950年~2008年はさておきね」と語ります。

世界経済は、"富の前借り"の破綻によってそのペースを変えて、従来の成長率を前提とした社会基盤が成り立たない事態になっていると。

この番組は前編(1~5章)は2016年に放送され、後編(6~最終章)は新作なのですが、Uber等のシェアリングエコノミー技術が社会全体にとってバラ色の未来と言えないといえども、ベンチャーが伸びたり人口が減少していない欧米は2%以上の経済成長を続けているのに対し、日本はマイナス成長。

今の欧米の経済識者が「低成長の時代にどう対応した社会・個人のありようを求めるか」と語っているのに対して安永竜夫(三井物産代表取締役社長 発展途上国のインフラ開発への投資など新事業を開拓)や原丈人(デフタパートナーズグループ会長 アライアンス・フォーラム財団代表/内閣府参与 ベンチャー企業育成のための政策提言や新技術をもちいた支援など国内外で活動)が「日本は進んだ経済観念を持っていて、これからガンガン成長することも可能だ」と息まいているコントラストが…

老人が若者より活力があるとも言えますが、"往年の夢よもう一度"で五輪や万博を開こうとするような頭じゃ現在に対応した"悟り世代"がみしみしと労働負荷をかけられる、ミスマッチが起きそうで。パラダイムが変わるには今の経営層が消えないといけないのではと想うと共に、2%すら経済成長が起きないのはやはり気脈がおかしい気がするところです。

番組では経済学の巨人アダム・スミスとケインズの思想に触れています。

アダム・スミスは"各個人が自己利益の追求をすることで『見えざる手』が働き社会が調整される"と自由貿易を唱え、ケインズは「社会の安定のため最も恐れるべきは失業者の増大 危機を回避するには国は借金をしてでも仕事をつくる そしてお金という血液を市場にめぐらせる」と唱えましたが、番組ではそれらに対して妄信することに警鐘を鳴らしています。

「見えざる手」は存在せず、市場のルールによって調整機能は担保されている。また「もう危機から7~8年経って経済は回復しているのに財政赤字を続けていいとはケインズは言わなかったはずだ」と。エマニュエル・トッド氏に至っては「自由貿易を辞めれば経済成長する」と。今までのルールが通用しない時代になったということでしょうし、アダム・スミスの時代とは異なりほとんどの人間が商業に携わる今、労働者は消費者でもあることを慮らなければならないということでしょう。

また数学的な部分を含め、経済学に触れると一見未来予測が可能であるかのように錯覚しがちですが、気鋭の経済学者であるセドラチェク氏から「"リスク"と"不確実性"は異なり、未来はわからない」と語られたのは大きなことで。

ケインズも「わたしたちの未来についての知識は実に曖昧で不確実なものだ」と言っていますが、悲完全情報状態に加え、人間という不確実な因子が絡む長期にわたる未来予測は難しいと、現代のトランプ時代に起きるシリアや北朝鮮情勢をみるとまざまざと得心します。

このように、経済学の不完全さが結果として語られた番組ですが、一つの大きな軸で語られたのが『何をもって成長とするのかの新しい尺度・観方が求められる』ということ。

GDPは適切な指標でなく、シャルマ氏によると「2007年のアメリカの住宅バブルのピークにはアメリカは1ドルの成長を得るため3ドル負債を増やしていた。今中国は1ドルの成長を得るために4ドルも負債を増やして成長率を維持している」とのこと。

スティグリッツ氏は「経済成長について話すときは"成長"の意味をはっきりさせないといけない。GDPは経済力を測るにはいい指標とは言えない。環境汚染、資源乱用を考慮にいれてないし、富の分配も社会の持続性も考慮されていない。問題だらけだ。経済における成長の本質をこの先変えていくべきだと強く思っている」といいます。

或いは原氏が「会社は株主の物だっていう考え方から会社っていうのは株主も重要な要素だけれども会社を成り立たせている社員、仕入れ先、地域社会、顧客、地球も含めた、この社中全体のおかげで会社が反映しているわけだから、上げた利益は社中に対して還元していく。こういう資本主義の事を『公益資本主義』という風にいいます」と言うように"成長の指標"をより実際的なものに刷新する必要があると想いました。

「欲望は満たされることを望まない 増殖することを望む」との言葉がありました。欲望をコントロールするには禅的に抑制するのもありですが、さらなる魅惑、さらなる欲望を提示・誘導することで"モアベターな欲望 モアベターな社会"を達成するというスキームこそ現実的に効力があるのではないか、そういった意味でも"新しい指標"が望まれます。

自然科学である物理学と社会科学である経済学は異なるけれども、"成長、あるいは幸福をより適切に測る統一理論"、それは即ち世界への認知をパラダイムシフトさせる真理を解き明かす行為が希求されているのだ、そう番組を見て想いました。

cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
『日本教の社会学』読書ノート
by wavesll | 2017-04-06 19:02 | 小噺 | Comments(0)