2017年 08月 10日 ( 1 )

『Particle Fever』”神の粒子”の意味を伝える、ニュースの裏の真実を映したドキュメンタリー・フィルム

PARTICLE FEVER - Official Trailer (2014) HD


BSプレミアムで放送されたのをHDに録っておいてみなかったままだった映画『パーティクル・フィーバー』を漸く観ました。

ヒッグス粒子を確認したCERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)での実験を通した数年に渡るドキュメンタリー。

コメンタリーによると、この映画を企画したのはCERNの科学者で、だからこそ完全協力によってその内幕が赤裸々に映されていました。

ともすれば変人、あるいはお堅い白衣の人々と想われがちな科学者。この映画ではCERNの人達が人間臭く、そして遊び心を持ちながら、しかし真摯にこのプロジェクトにチャレンジする姿が描かれていました。

ヒッグス粒子が発見されて、ノーベル賞を獲得したというニュースはみていたけれども、こうしてそれに関わった人々の姿を知ると、ただのニュースが実際的な物語として伝わります。

そして、人間ドラマというだけでなく、ヒッグス粒子発見がいかに人間の歴史の中で位置づけられるかの「意味」が描かれていたのが大きくて。

この世界を成り立たせる素粒子。まだ未発見の素粒子の中で存在が予見されていたヒッグス粒子が実在することを証明できたことは勿論それだけで偉大な業績なのですが、実はヒッグス粒子の「重さ」が重要で。

と、いうのも物理学者の中で、この宇宙の成り立ちについて、2つの大きな視座が近年唱えられていて、どちらが正しいかがヒッグス粒子の質量によって示されるだろう、ということがあったのです。

一つは「この世界は超対称性によって美しくデザインされている」という視座。これは重力、電磁力、弱い力、強い力の統一理論にもつながる物理学者が追い求める、「世界は何故こうなっているかにはワケがある、それを解き明かしたい」という視座。

もう一つは「宇宙自体が無数にあって、こうしたマルチバースの中で、この宇宙はたまたま成り立ったものにすぎない」という視座。これは宇宙定数の不可解さからも予測されるところですが、完全な偶然、完全なカオスを認めなければならないことになる視座です。

ホモ・サピエンスという種が宗教という大きな物語を得たのは太古の昔ですが、ニーチェが「神は死んだ」といってから数百年、今心の底から信じられる大きな物語は"科学"であろうと私は思います。

人間の愚かさは数千年前から大して変わらなくても、科学は進んできた。そして宇宙を解明してきました。それは云わば神の御業を解き明かしてきた軌跡ではないか、私はそう想うのです。

神は自然を美しく創ったはずである、こうした予見は多くの物理学者に通ずるドグマだと思います。しかし、もしマルチバースだとしたら、この宇宙は偶然こうなったにすぎず、幾らでも他の宇宙は成り立ち、物理法則ですら”絶対的なもの”ではなくなる。そしてヒッグス粒子の実験は、この試みを左右する実験だったのです。

ヒッグス粒子が115GeV(GeV=ギガ電子ボルト)だったら超対称性理論で予測されていた数値、逆に140GeVだったらマルチバース理論が予測する数値。

HLCでの実験で得られたデータ分析から、当初「140GeVの結果が出ている」との報が洩れ聴こえてきました。しかし段々データが集まってくるとそれは有意な結論ではないと判明してきて。

そして、いよいよ実験報告の場。そこで明らかにされたヒッグス粒子の質量は約125GeVとのことでした。"自然"は超対称性とマルチバース、どちらの道も明確には示さなかった。科学の徒の径は、いまだ未知の荒野を進んで行く。

LHCでの実験で、一度大規模な破損が出たり、人生をこれにかけたポスドク、また自分の人生を丸ごと捧げた理論が正しいかどうかが審判が下される教授たち、これらのドラマ、さらに上に述べたような宇宙全体の真理、人類存在の意味すらがこの"神の粒子"の実験にかかっていたとは…!全然知らなかった!

報道メディアは賤業というか、無関係者への見世物として心のない"客観的なニュース情報"を日々届けます。それは毎日毎日新しい情報を矢継ぎ早に出さなくてはいけない”News(新聞)”が抱える構造的な問題でもあります。しかしその数分のニュースの内実にはこんなにも重要なドラマがある。

それをこうして半ばインサイダーから届けられるドキュメンタリーが補完するのは素晴らしいなと想いました。アーカイヴとして意識した”作品”であることも大きくて。

これを流したBSプレミアムでは、副音声として東京大学数物連携宇宙研究機構の機構長の村山斉先生と東大物理同期のNHKプロデューサー井手真也の解説があって。"放送"でありながら録画(アーカイヴ化)を前提としたつくりは、ネットでオンデマンド配信もしているNHKならでは。

この映画は、現在はNHKでは配信されていませんが、Netflixで「粒子への熱い想い」というタイトルで配信されるようになったそうです。私はNetflixは契約していないので確認はしていないのですが、もし良ければ。

また英語のリスニングが出来る方はYoutubeにフィルムがまるまる上がっているので、是非是非どうぞ◎

Particle Fever (Documentary Filmz 2013)

by wavesll | 2017-08-10 21:28 | 映画 | Trackback | Comments(0)