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この世界の片隅にatユーロスペース

渋谷ユーロスペースで『この世界の片隅に』を観てきました。
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EDでしみじみと、ぼろぼろと涙が止まらなかった。ユーロスペースには原作漫画の生原稿とかもありました。
感想を書きたいのですが、ネタバレなしで見て欲しいので、もうね、絶賛レポは出回りまくってるんだから何も言わずに映画を見て、それから感想読んで欲しいっすwみてから読んでくださいw

感想は予告編の後に。

映画『この世界の片隅に』予告編


広島の夢見がちな少女だったすずは、見も知らぬ青年に見初められ呉へ嫁ぐ。
戦時下の日常が淡々と、すずのキャラクターも相まって時にほんわかと描かれます。

戦時下、どんどん配給が厳しくなっていく様子、彼女たちは工夫して少しでも楽しみをみせようとしながら暮らすけれど、社会の切迫さは色濃くて。社会主義的な国、例えば北朝鮮やヴェネズエラ、キューバなんかでも今もそうなのかもしれないと想いながらみていました。

私は去年アピチャッポン・ウィーラセタクン 『光りの墓』をみて、軍というものが日常化している国の案外に危機が張りつめていない空気を想いました。一方で年始に見た七尾旅人/兵士Aでは戦争の最前線で死ぬ兵士の感情、総力戦のおぞましさを感じました。

そして『この世界の片隅に』。"戦時下の日常"で、あんなにもほんわか笑っていたすずさんの笑顔と人間性が崩れていく様が、今の平成の日常と地続きだった"呉の日常"の怖ろしさを味わされました。

そして戦争が終わって、孤児を拾うという人間性の回復が起きたのをみて、笑顔が戻ったのをみて。"あぁ、こんなにも愛らしい人でも戦争の中では人間性を失ってしまう…!"と頭が殴られた気がして。のんさんの声演の素晴らしさも相まり、本当の戦争の恐怖を覚えました。

またすずさんが幼馴染と一夜を過ごすとき、「好きだった」と告白しながら、夫を選んだシーンも響いて。

私も今まで生きてきて、淡い気持ちを持った女の子はいたけれども、今の彼女を選ぶだろうと。
DQ5やったときはビアンカしか考えられなかったけれど、今はフローラを選ぶ気持ちが理解できる。人生を重ねる事の、その重みを感じました。

この映画は『火垂るの墓』というより、『風立ちぬ』との位相づけられると自分では想います。

方や市井、方やエリートとして"あの戦争の銃後"にいた彼ら。
それでも、自分の能力を最大限に活用して"自分の美意識で戦争へ能動的に関わった二郎"に対し、"ただただ成すがままに戦争へ付き合って、そして裏切られるすず"。

『この世界の片隅に』には「この戦争は間違っている」というようなキャラは出てきません。みんな"好い人"で"自分なりの闘い方"をしてる。寧ろエリート層の方があの戦争の無謀さを高い知見から知っている。

市井の人にとっては戦争に巻き込まれたことは『仕方ないこと』だし『したいと想った犠牲』だった。
けれど、『自分がやりたくてやっていたはずの犠牲』でも自分への負荷・反動・傷は深く、"裏切られた"と想った瞬間にすずの怒りは爆発しました。

『したくてした犠牲』も火薬の澱は溜まり、すべてが終わった後で焔が燃え盛る。しかしその時にはすべては終わっていて、後の祭り。行ってみれば犬死の様な激昂。

だから、本当に大切なことは『己を大切にして、空気に流されて犠牲を差し出さない、誇りを持つこと』なのかもしれない、そんなことを、想いました。と同時に、日々の生活の丁寧で実直な"仕事"の細やかな描写がまた愛おしく想えた映画でした。

In This Corner of the World Trailer

物語を思い出してもうこの予告編見るだけで泣ける…(この海外版トレイラー、日本上映版にないシーンもあるのでお薦めなのですがネタバレ要素もあるので映画館で観た後でみるのがおすすめ)。何も言わずにこの映画をみてくれ!!!
by wavesll | 2017-01-18 22:06 | 映画 | Trackback | Comments(0)

Lake Street Dive live@渋谷タワレコ→GROOVISIONS 5X27→エマーソン北村 live@渋谷タワレコ

渋谷タワーレコードにてLake Street Diveをみてきました。
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Lake Street Dive Plays "I Want You Back" On a Boston Sidewalk

Lake Street Dive: NPR Music Tiny Desk

ソウルのある歌声、小気味いいタンバリン、ギターの人はトランペットも。そしてウッドベースが魅力的で。演奏する指に魅いられました。あっという間の楽しい時間でした。

その後青山スパイラルへ歩いてGROOVOSIONS 5X27展へ。
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Chappieってこの人たちの作品なのかと初めて知って。自分の知ってるプロダクトのデザインも数多く手がけているのを知り感嘆しました。

中でも映像作品が良くて。透明な道路の下からみた映像図なんかは大和絵の逆で面白い。図形化された鉄道の映像作品はジュリアン・オピー展@外苑前MAHO KUBOTA GALLERYにも通じるずっとみれる感。この明るさと記号性は時代を創っているなとかこんな映像が自動生成されるアプリが出来たらヤバイなと想ったり。いいものみれました。

そして再び渋谷タワレコに戻ってエマーソン北村さんのインストアライヴを聴きました。
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帰り道の本 / エマーソン北村

エマーソン北村「ロックンロールのはじまりは」第3弾動画「スピニング・ホイール」

emerson kitamura live @ pyung2 biyori takutaku kyoto, 20120204 short.mov

初めてみる"エマソロ"。Diggin' the Carts的な感性での再発見と言うか、"こんなBGMのスーファミソフトなら名作ゲー間違いなし"というような温かみのある音がとってもよくて。

『スピニング・ホイール』のカヴァーも素晴らしかったし、アンコールまで!キーボードの打音や「へっ!」という掛け声が聞こえるくらい間近で演奏を観られる貴重な機会。すっごく好い時間を過ごせました。
by wavesll | 2017-01-16 06:58 | Sound Gem | Trackback | Comments(0)

毛玉の毛玉7 「しあわせの魔法」リリースパーティー@渋谷7th Floor

昨年度の楽曲Best3なインパクトだった『ビバ!』を創った毛玉のレコ発ライヴへ行ってきました!
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(写真はkitajimanさんのご厚意で使わせていただいております。)

毛玉 - ビバ!


オープニングアクトはhikaru yamada and the librarians .

山田光さんがラップトップと機材からエナジーのある極彩の音を奏で、Voの穴迫楓さんが北欧エレクトロニカ的な美唱を重ねる形。電話の着信音が使われたり"おっ"と想わせる音遣いなのですが"やっぱりライヴだとCDJとかより楽器演奏の方が絵になる感はあるなぁ"と想っていたら山田さんがサックスも吹いて!これがカッコよかった!

さらにMCで楽曲のサウンドは既存のアーティスト(例えば東京女子流)の音源から作ったものとのこと。おぉ!アヴァランチーズ的音づくりじゃないか!?と知るほどにどんどん好きになっていったユニットでした◎soundclud音源も素晴らしい。めっけものだったなぁ^^

そして愈々、毛玉の登場!
『船』から。最高の幕開け。フォーキーで穏やかな歌から一気に轟音が炸裂する構成が本当に好き。上野さんのギターのうなりはライヴ全編通して最高でした!露木さんのドラムもベースの石黒さんもいい仕事してたなぁ。

そして『ビバ!』

この曲は本当に私の好きなモノどんぴしゃで。
元々毛玉は1stが出たときに横浜タワレコ試聴機で聴いて「フィールドレコーディングを取り入れたチェンバーポップでいい新人バンド出てきたな」と想ったのですが、この『ビバ!』、私的2014年ベスト楽曲、森は生きている - 煙夜の夢 a,香水壜と少女 b,空虚な肖像画 c,煙夜の夢(夜が固まる前)にこれまた大好きな南米音楽の感覚が掛け合わされたかのような質感の超名曲(勿論オリジナリティにあふれてるのがまた大名曲な所以で!)。個人的には2017年の幕開けをエルメート・パスコアールと毛玉で迎えられたのがとても嬉しかったのです。

今夜はゲストに引き続きの出演となる山田光(A.Sax)さん、岸真由子(Chor.) さん、 池田若菜(Fl.) さん、 福岡宏紀(T.Sax)さんを招きフル編成!この音楽はこんな軆を持っていたのかとただただ感動しました。祝祭が此処に鳴らされていました。金管の玄妙でマッシヴな音、いい。

『船』から『プラネテス』までの円盤通りの流れから1st楽曲を交えたライヴを聴きながら『音楽の拠り代』を考えました。黒澤さんの、起伏が穏やかな歌があの好奇心をくすぐられるサウンドを召喚させるような感覚というか。『シャーマンキング』に出てくる“オーバーソウル”とでもいうか、楽器を媒介にとてつもないものを呼び起こすというか。楽器演奏の肉体性と音楽の魔法性に心動かされました。

本編ラストは観客も巻き込んでの『ダンス・ダンス・ダンス』の"らららら"コーラス。そしてアンコールは新曲も。幸せな時間でした。

そして今、帰宅し、予約特典CDで『キジバト』の弾き語りを聴くと、あのとびきり素晴らしいサウンド無しでも、歌そのもの、メロディそのものに温かい素晴らしさがあるのだなと沁みました。『ビバ!』には南米的な音を感じたけど、黒澤さんの唄にも南米の空気を感じる気がしてきた…!

師走にヘンミモリさんの個展でみたエレファントノイズカシマシといい、本当にわくわくさせられる若手のバンドが続々出てきているのが嬉しい限り。今年も色んなバンドをみていきたいです◎
by wavesll | 2017-01-15 00:25 | Sound Gem | Trackback | Comments(0)

Helmeto Pascoal E Grupo Live at WWW X

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渋谷WWW Xで楽聖エルメート・パスコアールのライヴみてきました!超々良かった!

サンパウロを中心に活動するドイツ・ケルン出身のトラックメイカー/DJ, Thomashの客入れ時のDJからしてハイレベルで気持ちを上げてくれて。祭(パスコアール)の準備の楽しさというか、この時間が永遠に続けばいいのにというような常春具合!そしてパスコアール・グルーポがこれまた凄腕!
最高のクラブ音楽というか、ブラジリアン・ジャズの一番気持ちいい艶がでていて。ポリリズムの奔流が明るく爽快な溌溂さで開放されていて。

エルメートのキーボード(ヤマハDX7)もぐわっと惹き付けられました!電子プログレの頃のジスモンチみたいでもあり。生涯で一番好きなBaião Malandroのあのティルティルした音の正体がトリアングロ(トライアングル)の連打な事を知ったのは最大の収穫かも。
パーカスの人超絶にヤバいなと思ったらパスコアールとコールされて。息子のファビオさんだとか。サックスの人もベースの人もドラムスの人も、ピアノの人も技が凄い!Academia De Dançasってこんな感じなのかなぁと想いを馳せました。

またエルメートが飛び道具的にヤカンや豚笛といった特殊楽器ソロするの、マッドサイエンティストの博士が自分が開発した秘密兵器を出してくるっぽくてすげーツボでw
特にヤカンはディジュリドゥぽく歌い吹いたりめっさアヴァンギャルド!水入れて吹いた時はペルーの古代楽器にも似た始原の感覚を感じました。最後の捌けはバンドのみなが豚のブーブー言う人形で音楽を鳴らして。にっかにかしてしまいました◎
このシズル感はライヴならでは!ハイレベルのその先の実験性も鳴らされて、伯剌西爾の楽団に求める最上の音でした。

ケペルさん達を交えての合奏を挟んだり、アンコールではエルメートが"この場で得たエナジーを表現"とピアノソロからバンド演奏へ行ったり充実の2時間のAO VIVO!!
これ最高のクラブミュージックだなと想ってたら、終演後もThomashが鳴らしてくれて。そしたら皆そう思ってたのか踊る踊る!最高に楽しいエピローグでした。音が止まったのは22時半頃。

WWW Xは初めてだったのですが、階段は面倒かったけど音とても良かった!新春からいい機運を味わえました^^

エルメート・パスコアール(キーボード、ヤカン、豚笛、角笛)
イチベレー・ヅァルギ(ベース、パーカッション)
アンドレー・マルケス(ピアノ、フルート、パーカッション)
ジョタ・ペ(サックス、フルート)
ファビオ・パスコアル(パーカッション)
アジュリナン・ヅァルギ(ドラム、パーカッション)


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by wavesll | 2017-01-09 11:01 | Sound Gem | Trackback | Comments(0)

七尾旅人/兵士A at 渋谷UPLINK 国家総力戦の苛烈とシンプルな私人の想い

渋谷UPLINKにて七尾旅人『兵士A』を観ました。
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3時間にも及ぶALL新曲による、先の大戦から百年後までの物語で、"現代の戦争で戦後初の戦死する自衛官"を描いた渋谷WWWで2015年11月に行われたライヴのフィルム。映像作品としてリリースされたものをUPLINKが上映したのです。

壮絶なライヴでした。開始のノイズとフィールドレコーディングに乗せたギターの語りから掴まれました。物語は先の大戦で駆り出された"親爺"が炭鉱で働き、原発で働き、"僕らの光を輝かせる"時代から、311、そして"戦前・戦中"へ。ただ中盤迄は“ギターのみの弾き語りだとつまらなく、辛気臭かったり説教臭いのは厭だな”と想っていました。それでも『戦争が始まる前にショッピングモールで買い物』というフレーズは刺さって。

しかしサックスは常に良かったし、梅津和時さんが登場してからは感情が振りきれました。戦争、それも総力戦の惨禍を伝達する激情。そしてシンプルな人と人の想いあい。ギターだけでも強く心打たれて。最後の『誰も知らない』

『あの子は馬鹿だから わからないのという
どれほど望んでも 叶わないよという
ここは火事だから 残らないよという
爆弾が降り注ぎ 止まらないのという
かなしい世界は 終わらないのという
もしも願っても 変わらないよという
だけど 誰も知らない ほんとは知らない』


には心鷲掴みにされました。

政治的・社会的テーマにアーティストがエモーショナルに迫ると『現実を知らない』と唾されるけれど、立ち昇る心情こそが核で。『兵士A』は七尾旅人の『JAM』ではないかと。

“あの偉い発明家も凶悪な犯罪者もみんな昔子どもだってね” “君に逢いたくて、君に逢いたくて、また明日を待ってる”

そしてオリンピックを批判的に歌うパートにF/T 岡田利規 『God Bless Baseball』との共時性を感じたのですが、音楽はテロの速度に追いつかないといけない:七尾旅人が『兵士A』で日本に刻みたかったこと(WIRED)にてBlu-Rayの特設サイトに岡田利規のコメントがあることを知り驚くと共に納得して。

ナショナリズムと競争の一元化された栄光への嫌悪が"国際的なスポーツのコンペティション"にあるのかもしれません。

私自身も半年前リオ五輪を観ながら
スポーツの世界は階級別だし、細かくレギュレーションが決まっていてなるだけその分野では公平にしようとしているけれど、“人生”は無差別級だし、法律はあれどかなり自由度が高い。さらに言えば“競技”ですらないかもしれぬ。人生は一つの観点だけでは評価できない。そこに豊穣さを感じる。
のようなことを想いました。“私”を尊重する“公”が編めればまた違うのかもしれません。

個人的には、例えば現在のシリアの状況に対して手をこまねいて虐殺を許していいのか、緩慢な言論での対処で失われた命は戻らない、と想いながらも、それは米国の手先としてではなく、独立国となるウルトラCとして行うのが理想だと想うし、"独立"の為には経済的、或いは社会福祉という意味で痛みを受け容れる覚悟がないと出来ないと想います。

そうした意味で政治的に日本を救うためには経済成長が欠かせず、一人当たりのGDPを上げるための不効率な悪癖の打破と人間らしい生活の保障による出生率増加が欠かせないと想います。

日本政府には軍事であったり"国際的名声"を追い求めようとする前に経済成長を、その為には"私"的人生の安全網を創ることでイノヴェーティヴな起業への支援すると共に内向きでなく外へ打って出る人間作りという面で制度・空気作りに精を出してほしいと想います。

戦闘の雷撃の後に歌われた『赤とんぼ』は311の後に向井秀徳が歌った『ふるさと』を想起しました。
また『サーカスナイト』"今夜だけ生き延びたいピエロ"という詞は明確に311を経た詩だと想います。

今が戦前だとすれば、"平成"という時代が終わるとともに仮初の平和も終わるのかもしれないと感じたり、平成という不協和音が多かった時代にそれでも戦争なく生きたと愛おしさを覚えたりします。しかしそれもセンチメンタル過剰な話で。

例えばアピチャッポン・ウィーラセタクン『光りの墓』での戦争や兵士の日常性を想ったり。タイはカンボジアと領土紛争があるしアジア唯一占領されたことのない独立国。日本は零or百、いや零or兆に、不安を高めすぎている嫌いがある、というか激昂しやすく半端を許せない悪しき完璧主義で何事にも当たってしまうように想いました。

呪いの螺旋に墜ちずに、ふるさとへの自然な想いを。それを達成する一番の功労者は日々傍を楽にしていく市井の人々。その末席にいる私も自慰に陥ることなく、働きを積んでいくしかないし、オルタネイティヴな視点をそれぞれが持つことの重要性を旅人から襷を受け取った想いになりました。何より七尾旅人のエコーをかけた叫び、すげー好きだなと改めて想いました。音楽としても心打つ名演でした。

向井秀徳 - ふるさと

by wavesll | 2017-01-05 00:27 | Sound Gem | Trackback | Comments(0)

アピチャッポン・ウィーラセタクン 『光りの墓』―現実と霊性の間を描くまこと見事な手腕

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『光りの墓』予告編


季節外れのぬるい風を感じながら、渋谷イメージフォーラムで行われているアンコール! アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ 2016にて上映された『光りの墓』をみました。
『ブンミおじさんの森』でカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたタイの天才、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督新作。

タイ東北部。かつて学校だった仮設病院で原因不明の“眠り病”にかかった男たちが眠っている。
幾層にも重なる土地の記憶と愛の記憶。
素晴らしい映画体験でした。

まず序盤からフィールドレコーディングとして素晴らしくて。
年始に行った香港旅行でバードガーデンを訪ねたとき、「この鳥の声とチャイ語の柔らかな交ざり方が素晴らしい」と想ったのですが、タイの田舎の鳥や虫の声と、タイ語の真に柔らかな音感のマリアージュがまっこと好くて。セルゲイ・パラジャーノフの『アシク・ケリブ』を観たときの様に"BGMとしてこれを流したい"と強く想いました。

そしてこの映画にはタイという国の霊性が深く記されていて。
私は今までタイというとバンコクとかプーケットとかサムイ島のような、エネルギッシュな都市かリゾートの快楽や猥雑性を良くみていたもので。この映画に描かれていたタイの貌は初めてみたものでした。

実際にタイに住んでいた子の話を聴くと実際のタイはこんなにもスピリチュアルが平在する場でもないそう。

それを聴いてますます"この映画の様にタイを霊性的にタイの監督が描いたのが凄いな"と。更に凄いのがその描写がエキゾチックというのはあまりにもさりげない、ほとんど作為を感じないような演出の妙で顕在している点でした。

冒頭に書いた"フィールドレコーディング的"という演出は、音楽をほとんど流さずその場の音で映画を作っている点。さらにカメラワークが固定されていて、普通なら写すであろう人物の顔が映らない場面も数度あったり、途中で"これはドキュメンタリーをみている気分になる"と想いました。

時々挿入されるシーンでは舞台的な動きの演出があったのも面白い。アピチャッポン監督の舞台挨拶をみた子から聴くと、挿入シーンは「これは映画なんだよ」と伝えるために入れたそうです。

そういった静かな演出から、途中私は眠りに入りかけてしまいましたwアピチャッポン監督の映画は眠くなると言われているそうですが、この映画の「眠り病」はそれをメタ的に遊んでいるのかとも思いました。
その静的な映画の中で、しかし巧いなと思ったのは排泄や勃起というようなちょっとタブーに触れるような描写が、しかし品を壊さずにさりげなく入れてくること。これで映画の中で刺激を入れると共に異なる価値観へ這入るのに心を解いてゆく効果があると想いました。

この映画はかなり霊性的、というか見ようによってはかなりスピリチュアルな描写があるのですが、その霊性/スピリチュアルの扱いが本当に上手くてとても感心しました。
ともすれば"なんだこのスピ映画はwww"と言われそうな物語を成り立たせているのは現実と幻想のかなり技術的に高次元な捌き方にあったと想うのです。

この映画で出てくる「アフガン戦争で米兵を癒した器具」も幻想的ながら"本当に意味はあるのかはわからない"し、「FBIにもスカウトされたという霊能力者」と眠り病にかかった人との交信の内容が合っているかどうかも兵士からは語られません。つまり"全部嘘かもしれない"。でも、霊性の世界が心の中に存在していることが、ありありと描かれているのです。それが上手い。

スピリチュアルが"Evidence"を持つことなく、しかし現前している。非常に巧みな、おそらく高度な計算に裏付けられた演出だと想います。こうして顕わされることで、科学的現実と霊性的幻想の間が現れていたと感じました。

映画の中で瞑想のシーンがあるのですが、私はその場面で薄目で字幕を読みながら指示通り瞑想をしてみると、確かに霊性的に精神が感応した気がしました。

ヨガなんかもそうですが、スピリチュアルで括られる事柄って"体感的な効果"があるものが多くて、理性というより身体で感ぜられるところもあると想います。だからこそカルト宗教が悪用すると阿呆なインテリがコロっといったりして恐ろしいのですが。しかし"体感"は"存在する"。そんな部分もこの映画にはありました。

現在は科学万能であったり、年を重ねてくると"想像"の部分より"リアル/実際/物理的なハイクオリティ"を求めるようになってくる気がします。それは舌が肥えたり、"実際はこういうものだ"と知ることもあるかもしれません。ただ同時に、想像力の豊饒さを失っているのかもしれない。それは残念だ。そんなことを昔書きました。

等と言っている私も、フィクションよりノンフィクションが好きになったり、"現実に存在しているものしかみなくなる"ようになっていました。或いは数字を拠り所にしたり、"口だけなら何とでも言える"とかwBloggerがそれ言ったらおしまいだろw

確かに言葉はヴァーチャルかもしれません。だからこそ自由が存在するとも言えます。そこに"物語"のレゾンデートルがある。しかし、現存する最大の物語は『聖書』だと想いますが、現在の科学の見地を知ったうえで聖書の記述を全肯定するのはかなり無理があると想います。聖書を信じるのは"自然でない"。

一方でレヴィ・ストロースの『野生の思考』ではないですが、人間の等身大な身体の感覚と、現在の科学的見地が合っていなくて、心的作用として無理が生じているところが現在進行形で起きている気がします。科学が進んで幸福になるはずだったのに、寧ろ機械に人間が圧迫されてしまっているような。

そんな時に『次代の物語』に、例えば現代理論物理学の宇宙論がなれるかも、などと考えたりもしましたが、この態度は"エセ科学"扱いされかねないし、難しいところだ…と想っていたのです。

そして視る『光りの墓』に、"この現実と霊性の取り扱い方の誠実さは俺が欲していたものかもしれないな"と想ったのでした。

目に見えない、しかし"あると感じられる大切な/大切だった世界"、その宇宙の淵に触れられる、閉じた扉が開けられた映画体験でした。

ラストシーンでおばさんが目を見開いていたのは"目覚めようとしていたから"だと想いますが、<どの夢から目覚めようとしているのか>は私はまだ理解しきれていません。氷解するまで時を重ねられる、長い付き合いになる名画に出会えた気がしました。

今年はThe Paradise Bangkok Molam International BandだったりMonaural mini-Plugであったり、タイ音楽に興味がそそられた年でもあって。そんな年の瀬に、素晴らしいタイの映画であり21世紀の飛びぬけた感性を味わえたのは嬉しいことでした。

映画の中で映画館で起立し何も写されない画面に敬礼したりとか、王家との政治的なゴタゴタから『光りの墓』はタイでは公開されていないそうです。アピチャッポン監督の次回作も海外で撮られるそう。飛びぬけた表現者が政治の力で母国にいられなくなるのは悲しいことです。芸術の豊饒さはその国の精神の自由を現前させるなと思いました。
by wavesll | 2016-12-23 16:48 | 映画 | Trackback | Comments(0)

SHIBUYA AWARDS 2016

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井上 智香子 / primitive babies
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森 今日子 / TENYAWANYA
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by wavesll | 2016-12-08 08:02 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

ピエール・アレシンスキー展 at Bunkamura ザ・ミュージアム

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Bunkamuraにピエール・アレシンスキー展へ行ってきました。

ベルギーの現代の巨匠。日本の書にも影響を受けた黒、一方で鮮烈なカラフルさ。コミックから着想を得たコマ割は古代遺跡の趣。それらが結実した『至る所から』はアレシンスキーならではの偉大な絵でした。直に見るとその巨大さにも驚きました。

芸術集団コブラ時代の『職業』シリーズ、漁師、美容師、自動車整備士、樵、神父、兵士、消防士、ファッション・デザイナー、音楽家という具体的人物キャラクターをイマジネイティヴに描く。この具象と抽象のバランスがいい。『ネオン』『太陽』『稲妻』『錬金術』は篆刻な感性。日本での書の体験を咀嚼した『移動』はROVO『MON』の様、『夜』と合わせ絵画と書のフュージョン。

『根と脇根』のコマ割、『ときには逆もある』や『無制限の責任』のマティスな感覚。『新聞雑報』の頃はポロックのアクションペインティングにも影響を受けたとか。『仮面の下の三人の声』はミロを感じます。

『誕生する緑』の色彩!水色・緑が躍る。『魔法にかけられた火山』の鮮やかな緑。『手探りで』のカリグラフィーはタギングを先取りしているのはPatrick Hartlの先祖ともいえるかも。『見張り』の黄緑、『中庭への窓』の赤。『見本』のパステルと黒。『写真に対抗して』などの下部挿画(プレデラ)という発想はコミックからきたそう。『肝心な森』で彩りとコマ割りが止揚。

『氷の目』の色味の綺麗と試みの面白さ。『ブータン』・『真上から見たニューデリー』のマヤやトンパの古代絵文字感。『ボキャブラリーI-VIII』はオランダのデリフトを想。

『間接税の会計』や『言葉であり、網目であり』、『神聖ローマ帝国裁判官』・『あなたの従僕』等の基から何かの用紙に絵を描く作品群や『メトロポリタンの口』、『イースト川』、『ローマの網』といったマンホールを紙に押し付けて描く手法がフィールドレコーディング的なブリコラージュの面白さがありました。

『プリズム』の綺麗さ。丁度いい密度が素晴らしい。『ヴォワラン印刷機の大地』と『ヴォワラン印刷機の黄色』、『モンタテールのヴォワラン印刷機』の2003年の新たなるスタンダード。今世紀に入っても未だ瑞々しさを失わない、重くなりすぎない溌剌さに驚嘆しました。『直線的な廊下』福田平八郎『漣』に比するデザイン性。『ぼた山 VII』のシンプルさ。『最終撹拌』等の丸キャンバス作品も。『のぞき穴 II』 『のぞき穴 III』 『のぞき穴 IV』は2015年の作品、生けるレジェンドの姿、最上の平衡感覚と新鮮な感性に惚れ惚れしました。

コミックのコマ割りを絵画に落とし込むのは立体を絵画に落とし込んだキュビズムにも似た平面表現だと感じました。今、もしこれらと同じレベルの試みをしようと想ったらゲームやアプリを絵画に落とし込むとか…??インタラクティヴ性を出すという意味では展覧会自体がメディア・アートとは言えるかもしれませんね。

展示は明日まで。1400円。19時までやっていて粒揃いかつ軽やかな展覧会なので仕事帰りでも快く観れると想います。
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by wavesll | 2016-12-07 20:41 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

長崎 みかわち焼展 at 渋谷ヒカリエ

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渋谷ヒカリエ8/CUBEにて長崎 みかわち焼展 江戸の技、明治の細工、現代の匠へ行ってきました。透かし香炉、菊透かし彫香炉は観るのは初めてでした。
名知聡子「Good-bye and thank you for everything.」と一緒に楽しむのもアリかもしれません◎
by wavesll | 2016-12-02 00:24 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

名知聡子「Good-bye and thank you for everything.」at渋谷ヒカリエ

渋谷ヒカリエのTomio Koyama Galleryにて名知聡子「Good-bye and thank you for everything.」をみてきました。

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とても良かった。人物画でこういう点描のものは私は初めてで。様々な色が鏤められていて、非常に印象に残る画でした。点描の彩、カメラでは上手く写せなかったのでこれは是非生でみてほしい。8日・9日には名知さんが在廊されるそうです。この他にも綺麗な絵も展示されていて、入場無料。ヒカリエ8Fで19日迄。
by wavesll | 2016-12-01 20:15 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)