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アルチンボルド展@国立西洋美術館 "寄せ絵"のアイディアだけでない、極上の画の技量

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アルチンボルド展に行ってきました!素晴らしかった◎

ジュゼッペ・アルチンボルド。ミラノ出身で神聖ローマ皇帝のハプスブルグ家3代に仕えた宮廷画家である彼の"寄せ絵"のヴィジュアルはあまりにも有名で、私はアイディアの人かと思っていたのですが、直にみる絵からびんびんとアウラを感じて。デッサン力、そして質感の描写の卓越さに驚きました。

先ず展示室に入るとすぐにある≪四季≫が素晴らしくて。木のこげ茶の土台に、赤い林檎、黄緑のマスカット、緑の葉、黄色い麦…鮮やかな色彩がインテグレートされ、美しいフォルムとなっていて。魅了されました。

≪自画像≫の端正な壮年の表情、そして≪紙の自画像(紙の男)≫というユーモラスな表現も楽しくて。ベルナルディーノ・ルイーニ ≪ビアージョ・アルチンボルド≫の親父さんとジュゼッペは似てました。

アルチンボルドはレオナルド・ダ・ヴィンチとほぼ同時代、入れ替わりくらいの時代の人で。アルチンボルドもかなり人体の構造やデッサンの技術を鍛えたそうです。展覧会ではダ・ヴィンチの≪植物の習作(表:ミクリ 裏:ホソバヒメガマ)≫や≪鼻のつぶれた禿頭の太った男の横顔≫なんかも展示してありました。

アルチンボルドが仕えたマクシミリアン2世などのハプスブルグ家の人々の肖像画の後にはオッターヴィオ・ミゼローニ、ディオニシオ・ミゼローニ ≪玉髄製の蓋付きの鉢≫やオッターヴィオ・ミゼローニ、HCのマイスター ≪大きな貝形の鉢≫・≪ネプトゥヌスをともなう巻貝形の鉢≫・≪碧玉製の貝形の鉢≫、そして作り手不肖の≪水晶製の平皿≫が展示されていて宮廷の栄華を想わせました。ちょっとインペリアル・エッグを想ったり。

また宮廷でのアルチンボルドのアート・ディレクションも展示してありました。ルドルフ2世に献じられた馬上試合の装飾デザイン集は、まるでRPGの設定本を眺めるような面白味がありました。

さて、そして次の空間がこの展覧会のクライマックス、≪春≫≪夏≫≪秋≫≪冬≫≪大気≫≪火≫≪大地≫≪水≫の部屋。この絵画達のクオリティが凄まじく群を抜いていて!

アイディア、デザインが優れているのは勿論、質感描写が本当に卓越していて!≪水≫の水生生物のぬめるような質感、≪春≫の花弁の質感、≪大地≫の動物の毛並みの質感、≪冬≫の木の幹の質感、≪夏≫の野菜の溌溂さ…マグニフィコ!!!!!

また面白いのが制作年が春夏秋冬の通りでなく、≪春≫と≪冬≫が1563年、≪夏≫と≪秋≫が1572年に描かれたこと。そして≪大地≫と≪水≫は1566年の作品で、その制作の流れも興味深かったです。

この展示室の後に大きく拡大複写された8枚が並んで展示されていたのですが、もう全然質感が違って。この絵画たちは生でみた価値を大変に感じました。この技量に裏打ちされて寄せ絵という発想が飛翔したのだなと。

他の画家の寄せ絵のコーナーもあったのですが、それをみることで如何にアルチンボルドの筆が見事か、質感描写・デッサン力が凄いかが照らし出されていました。

この時期は博物学的な画が流行りだったそうです。作者不詳 ≪アンコウ≫の化け物感やヤーコボ・リゴッツィ ≪タイ科の魚≫の色味、作者不詳 ≪椰子の実形のゴブレット≫、参考作品のヴェンセスラウス・ホラー ≪蝶々とさまざまな昆虫≫の連作なんかいいなと想いました。

さて、博物学的美意識と、人権を考えさせられたのが多毛症で見世物にされた一族が描かれた絵画のコーナー。アゴスティーノ・カラッチ ≪多毛のアッリーゴ、狂ったピエトロと小さなアモン≫南ドイツの画家 ≪エンリコ・ゴンザレス、多毛のペドロ・ゴンザレスの息子≫には胸の痛みも感じた一方で、サヴァイヴしたことに強さも感じました。

またこの時期は職業絵とカリカチュアの誕生があり、単に端正な人物画でなく、その人間の本質を描き出すムーヴメントが起きました。人物の本質を寧ろ寄せ絵の比喩で顕わしたという点でジュゼッペ・アルチンボルドの≪ソムリエ(ウェイター)≫≪司書≫≪法律家≫は興味深かった。

またアルチンボルドの寄せ絵は人物画と静物画のフュージョンとも捉えられます。上下さかさまに見ると捉えられる意味が変わる≪庭師/野菜≫≪コック/肉≫は展示の最後に彩を与えていました。

そしてこの展覧会のお楽しみが展示室に入る前にあるフォトコーナー。顔認識で、ヴィジョンの前に立った人を野菜の寄せ絵で顔をつくってくれるというシステムw私もやってみましたw
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さて、私的にお薦めの観方は一周観た後に半券で再入場し、野菜顔フォトをとって、最後に展示の初っ端の≪四季≫をみること。実は≪四季≫は1590頃という最晩年の作品。アルチンボルドが辿り着いた瑞々しさに心打たれて、展覧会を後にしました。
by wavesll | 2017-09-11 06:51 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

藝祭2017Photographs

藝祭2017へ行ってきました。超ヴォリュームの展示から抜き出した写真たちをお楽しみください◎

髙橋瑞稀 ≪夢の残滓≫
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只野彩佳 ≪グレープシャーベット盆地の夏≫
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齋藤巧美 ≪神話の救済≫
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山内望起子 ≪Life And Death≫
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井元紗奈恵 ≪感情移入≫
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大小田万侑子 ≪天香具山紋様≫
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大小田万侑子 ≪天鈿女と春の宴会文様≫
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倉科尚明 ≪止まる男≫
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香取輝 ≪狙う≫
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溝口さつき ≪床をたつ≫
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白井雪音 ≪空喜び≫
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金森七海 ≪星に願う(布)≫ 青木夏海 ≪星と祈りの服≫
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木村和史 ≪旋≫
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李菲菲 ≪瓦の記憶≫
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那須佐和子 ≪僕の歌を罵声に変えたい≫
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真島柊 ≪アボカド1/2(新鮮即ち死死んで間もない)≫
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宮腰衛 ≪黄色い樹木≫ ≪升鬼≫
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大橋いくみ ≪MAKE #6≫
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矢野佑貴 ≪潮騒≫
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齋藤詩織 ≪暴走族感謝祭≫
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武藤紗緒里 ≪かげ≫
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岡路貴理 ≪雪解け≫
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北野沙羅 ≪窓辺≫
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冨永明義 ≪歩き疲れた≫
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山崎優姫 ≪無題≫
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澤田燈 ≪遠く慮る≫
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砂長正宗 ≪灯台と小さな光≫
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水島篤 ≪盲亀の気まぐれ≫
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恵羅由紀 ≪木≫
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君塚みふゆ ≪広がる≫
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中條亜耶 ≪Lurk≫
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木南玲 ≪しぼうのかたまり≫
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柴谷真理絵 ≪dear≫
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齋藤愛未 ≪色なき風≫
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細渕すみれ ≪沈む≫
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佐久間仁 ≪あのひ≫
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村田茜 ≪窓辺の像≫
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古川倫太郎 ≪榎に花≫
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山崎結以 ≪プランテーション≫
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曽根美咲 ≪ゲレザ≫
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星野明日香 ≪untitled≫
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横山由起 ≪♀♀♀≫
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大澤志乃 ≪アカイハナ-cactus-≫
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中村光美 ≪come beside≫
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堀江瑠奈 ≪石の花≫
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原口久典
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山縣瑠衣 ≪Symbol≫
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吉田樹保 ≪盗み聴き ~春 コンソレーション第3番 フランツ・リスト≫
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山田和樹 ≪「罪」≫
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奥山鼓太郎 ≪めもりー1≫
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大友秀眞 ≪顔力≫
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野澤梓
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大澤晴美 ≪神様のいうとおりー天使が見てるー≫ ≪神様のいうとおりーカップルー≫
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原田楓居 ≪sculpture works≫
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岩崎拓也 ≪寅、二匹≫
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島田萌 ≪AFTER HOURS≫
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石井陽菜 ≪Scene I≫
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石井陽菜 ≪Scene II≫
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石井陽菜 ≪Scene III≫
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吉澤有香 ≪天蓋のドローイングI・II・III≫
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羽藤ゆうゆ ≪mantis≫
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Kei Idetsuki ≪sparking≫
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内村覚 ≪犬≫
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髙木彩佳 ≪保身≫
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竹山美紀 ≪そのとき、≫
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中風森滋 ≪光合成の事≫
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本多桃佳 ≪宙≫
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都築拓摩 ≪手作りの運動会~組体操と積乱雲~≫
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多田恋一朗 ≪赤い夜のBEAT≫
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川田龍 ≪真折鬘≫
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坂本周 ≪まるまる≫
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森泉春乃 ≪となりの人≫
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ジョニー ≪マナガーム≫
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阪田里都子 ≪もっと一緒に≫
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阪田里都子 ≪ひとつずつ≫
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阪田里都子 ≪よくみて≫
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ユウキユキ ≪三貴子ーユキテラス大御神ー≫
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新井毬子 ≪あら、立派になったのね≫
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野田怜眞 ≪円≫
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仲鉢聖波 ≪hot dog≫
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岡田守弘 ≪鳳凰≫
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上野泰武 ≪無題≫
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小林茉莉 ≪シルバーカップ≫
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宇都宮龍
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岡崎龍之祐 ≪Favor Fiber Dress≫
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木下裕司 ≪わがままPET≫
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門脇康平
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Yuma Matsumoto
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井東ひかり ≪花器≫
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隆アリア ≪GeoCharm≫
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高田潤 ≪eagle≫
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石川真悠 ≪旅≫
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佐藤果林 ≪Blue shade≫
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實滿瑛梨伽 ≪アンカー≫
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金原由美 ≪布の固定A・B≫
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河野鉱幸 ≪色欲≫
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島方晧平 ≪かれはとてもめだつ≫
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呉聆雪 ≪銀河≫
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スクリプカリウ落合安奈 ≪One≫
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岡ともみさんには公衆電話と電話ボックスの制作話やZEN-NOKANのWebサイトの話を聴かせていただけました。光の反射の話が興味深かった◎
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最後にもう一度、イチケン展でも素晴らしかった髙橋さんの≪夢の残滓≫がみたくて絵画棟の4F405へ再度行きました。

そうすると高橋さんが在廊されていて。作品について色々と会話出来ました。
この絵画、墨の黒と精霊のような青が印象的ですが、当初は墨の下にある台湾の寺が薄紫に描かれていたそうです。

そこから紆余曲折と極限までの追い込みを経て、一旦完成した絵に墨とエポキシ樹脂を乗せてブレイクスルーを果たして。

中央のカバラの生命の樹のような青いアウラは、台湾の寺のデザインをフォトショップで加工して絵画に描いたとのこと。その他に右下の墨の下から香港の夜景が滲んだりとか見どころを教えていただいて。

闇の奥に虹色が透けて輝くのが何とも魅力的で、とても好きな画でした。藝祭は来るたびに刺激を与えて呉れ、さらに大好きなトポスとなりました。

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by wavesll | 2017-09-10 00:49 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

池田学 ≪誕生≫ at ミズマアートギャラリー

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ミズマアートギャラリーに池田学の展示を観に行きました。

屋久杉のように逞しく成長する花樹。根元には波濤が押し寄せ、街の残骸がその木肌に絡まっています。破壊された街の欠片には48という看板や、アンコール・トムのような大仏頭なども。

登山のように巨木を歩む人々の姿も確認でき、咲き誇る華花に鳥たちは飛翔し、枝にかかるオーロラ?には魚が泳いで。しかし動物は全て白で描かれ、無機物と植物のみ色を持つ。

その可憐であると共に巨魁なうつくしさは、幽体が大樹の世界で遊ぶように見えて。解説を読むと、やはり311がきっかけとなって画かれた絵画だそうです。

カタストロフィの後でも地球はあり続ける。そして、それはあまりに美しい。そんな光の景色が顕れていました。

市ヶ谷・ミズマアートギャラリーでの展示は9日まで。そして9/27~10/9まで日本橋高島屋での展示は佐賀や金沢と同じく100点超の展覧会となるそうです。

cf.
池田学が明かす、桁外れな緻密さと圧倒的スケールで描く制作の裏側(CINRA.NET)

by wavesll | 2017-09-07 20:11 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

生誕140年 吉田博展@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 前期に続き後期も行ってきた!

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吉田博展@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 日本人にしか描けない洋画、その探究からほぼ一ヶ月、最終日前日に行って参りました後期展示。入場列が出来てましたが会場内はそこまで混雑してなくて幸いでした◎

≪画材と鉢≫の確かな質感描写、≪東大谷の横道≫の色褪せた旧い写真のような質感、≪鶏のいる風景≫には写真をアプリで線画したようなデッサン力、≪中神≫の鉛筆での濃淡表現に舌を巻きました。

≪武州飯能町、入間川辺≫の水車の木の描写、≪御岳、奥の院≫には仙境へ入る心持を感じました。また≪招魂社附近≫の儚さ、≪養沢、西の橋≫の風景に人が溶け込んでいる様も見事で。そして≪日光≫はこの後期展示のハイライトにもなるような、人物配置の構図の美事さに感銘を受けました。

人物像でいうと和装の人物画が良くて。≪少女≫≪鳩と少女≫の、ぷっくりとしてリアルな日本少女の姿や≪汐干狩り≫の銚子の浜の人々がまた味わい深くて。

≪雨の中の子守≫の雨になずむ姿、鯉のぼりがアクセントとして効いた≪富士山麓の村≫、≪吉野≫の夕薄桃、幻想的な≪土手の桜≫、≪日暮里≫なんかには”100年前はこんな光景なのか”と。

≪雨上がりの少年のいる風景≫と≪昨夜の雨≫には侘しさ、寂しさのなかの立ち姿の美をみました。

≪雪かき≫の雪・つららの質感表現、≪朝≫のBon Iverのような聖なる綺麗さ。

一方で80sのような明るさの≪フロリダの熱帯植物園≫や≪ロイヤル・ポインシアナ・ホテル≫の端正なホテルというような引き出しの多様さ。≪ステンドグラスの窓≫はルオーのような筆致だし、流石すぎる。

≪檜原下川のつなさんの馬≫の古い写真を彩色したような描写、≪血の池(別府)≫のようなモチーフの作品も。

≪富士登山図≫の神域へ昇る感じや、版画の素となる水墨画としての≪帆船≫、≪登山口(宿場の馬)≫の掛け軸3幅も良かった。

さて、後期展示では66点が入れ替わっていて、新たな息吹が吹き込まれていたのですが、前期と共通する作品たちも新たな魅力を感じて。特に朝・夕・夜など光の移り変わりによって同じ版木で刷られた作品群の、特に”夜”の鈍靑色の魅力に気付いた二度目の鑑賞となりました。

≪帆船 朝日 渡邊版≫≪帆船 日中 渡邊版≫≪帆船 夕日 渡邊版≫という三景は後に≪帆船 朝 瀬戸内海集≫≪帆船 午前 瀬戸内海集≫≪帆船 午後 瀬戸内海集≫≪帆船 霧 瀬戸内海集≫≪帆船 夕 瀬戸内海集≫≪帆船 夜 瀬戸内海集≫と拡充されました。

また≪マタホルン山 欧州シリーズ≫≪マタホルン山 夜 欧州シリーズ≫≪アゼンスの古跡 欧州シリーズ≫≪アゼンスの古跡 夜 欧州シリーズ≫そして≪スフィンクス 欧州シリーズ≫≪スフィンクス 夜 欧州シリーズ≫の昼夜の光闇の対比が綺麗でした。

また≪ヨセミテ公園≫≪モレーン湖≫そして≪ルガノ町 欧州シリーズ≫もやっぱり素晴らしかった。

囲炉裏の描写がいい≪猟師の話 渡邊版≫や≪露営 北岳間の岳 日本南アルプス≫のようなアートスタイルも良かったです。

そして後期新規の個人的目玉だった≪ナイアガラ瀑布 米国シリーズ≫も清流の瀑布と言った感じで良かったし、≪ユングフラウ山 欧州シリーズ≫の豪壮さ、≪ウェテホルン 欧州シリーズ≫の勇壮で剛健な山姿に惚れ惚れしました。

≪大天井岳より 日本アルプス十二題≫の美しく凸っとした山並み。≪五色原 日本アルプス十二題≫の浮世絵を通ったような日本人ならではのファンタジックな光景画。≪立山別山 日本アルプス十二題≫の具象と抽象の上手さ。≪鎗ヶ岳 日本アルプス十二題≫は正に魔の山だし、≪雷鳥とこま草 日本アルプス十二題≫は大変可愛らしかった◎

また≪隅田川 東京拾二題≫・≪隅田川 夕 東京拾二題≫・≪隅田川 霧 東京拾二題≫も光の遷移がきれいで。

≪堀切の志ようぶ 東京拾二題≫のデザイン性や≪中里之雪 東京拾二題≫の水墨画を版画化したような彫り。≪神樂坂通 雨後の夜 東京拾二題≫の夜景浮世絵も良かった。

そして≪駒ヶ岳山頂より 日本南アルプス集≫の龍神のように美しい雲、≪雨後の八ヶ岳(駒ヶ岳石室より)日本南アルプス集≫の取材に基づいたであろうリアルな雲、≪雲表 日本南アルプス集≫の淡い雲の美しさ。そして≪間の岳農鳥岳 日本南アルプス≫の赤紫の山麗。

≪アジヤンタ 印度と東南アジア≫≪マデュラの神殿 印度と東南アジア≫をみると、吉田氏がペトラ遺跡を描いたらどんなに素晴らしかっただろうとか思ってしまいました。

≪川越之櫻 櫻八題≫≪鐘樓 櫻八題≫≪花盛り 櫻八題≫には日本の綺麗を、≪昌慶宮 北朝鮮・韓国・旧満州シリーズ≫には朝鮮の美を、≪奉天大南門 北朝鮮・韓国・旧満州シリーズ≫には中国の美を感じました。

日本人にしか描けない洋画を追い求めた吉田博。100年前の日本の洋画、黒田清輝は歴史の風格というか、ちょっと古色も感じるのに対し、吉田博の瑞々しさは凄い。新領域を拓き、独立したオリジナリティと普遍性を持った表現はいつまでもGreenで時代を越えます。吉田博の新版画は100年以上はフロントラインにいる地力があったという感覚がありました。

彼の優れた絵画は今なお先進性を持っていると改めて感じました。と、同時に初見と比べると衝撃が落ちるのは観客の我儘の為す處。しかしそれでも≪渓流≫のその迫力と流麗さには何度見ても心奪われて。この美術館には本展ではじめて来たのですが、素晴らしい展覧会を企画してくれたことに感謝。
by wavesll | 2017-08-26 22:00 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

川端龍子展 at 山種美術館

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Twitterで本日迄だと知り、前から行きたかった【特別展】没後50年記念 川端龍子 ―超ド級の日本画― - 山種美術館へ赴きました。

まずいの一番に目に飛び込んでくる「鶴鼎図」がいい。川端龍子は洋画の技法も習熟している日本画家で、ちょっと普通の日本画とは異なるテクスチャーとフォルムな感覚が面白かったです。

そして小千谷で開催されている祭りを描いた「角突之巻(越後二十村行事)」も迫力ある筆致。龍子は20代で新聞や雑誌の挿絵画家だったこともあり、絵画のモチーフにジャーナリスティックさというか取材力を感じます。

また「華曲」に描かれた灰緑の鬣の獅子の可愛らしいこと。『少女の友』第10巻1号付録の「花鳥双六」も大変Kawaii出来で好きでした。

さて、展示はここからダイナミックな作品へ。
当時、繊細巧緻な画風が主流であった院展において、大胆な発想と筆致で構成された大画面の龍子の作品は「会場芸術」と批判されたことや院展内の軋轢もあり、脱退にいたります。そして、1929(昭和4)年、自ら主宰する「青龍社」を創立、戦時中も展覧会を開催するなど精力的な活動のなか、一貫して大衆のための作品を発表し続けた龍子、上に載せた「鳴門」等の海の迫力が描かれた作品が見事で。特にトビウオが描かれた「黒潮」が好きでした。

また平安時代の装飾経、紺紙金泥経に着想を得た「草の実」や飛行する胴体が透明な戦闘機が描かれた「香炉峰」も独自の作風で。戦争関連だと庭に落ちた爆風で吹き飛ばされてる野菜を描いた「爆弾散華」なんていう作品も。

象がやってきたことに喜ぶ子供たちが可愛い「百子図」や南洋・ヤップ島の娘を描いた「羽衣」なんてCuteな作品もあったり、桜の下で黄桜宜しくカッパが酒を呑む「花下独酌」や鯉に月が重なる「月鱗」なんて作品もあったり。

そう想えば棺に眠るミイラとそこから飛び立つ蛾達が描かれた「夢」なんて作品もあったり、黄金の草叢が描かれた「土」も美しかったし、PCで画かれたデジタル描線のような「月光」なんて作品もあったり色々な引き出しがありました。

大きな作品だとちょっと大味さも感じられる龍子ですが、小品は密度がぎゅっとしていて良くて。カッコいい「千里虎」や干支が描かれた「年賀状(十二支)」、また数々の俳句が描かれた短冊達もみごとでした。最後の部屋にあった「松竹梅のうち「竹(物語)」」も良かった。ダイナミックなラージ絵画も凝縮サイズだと更に魅力を増す気がしましたが、巨大作品の持つ抜け感は逆に2017年モードな日本画な気もしました。
by wavesll | 2017-08-20 22:03 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

山村浩二 『右目と左目でみる夢』@渋谷ユーロスペース

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山村浩二 右目と左目でみる夢 “怪物学抄” 予告編


山村浩二 右目と左目でみる夢 “サティの「パラード」"予告編


数々の映画賞を総なめにした『頭山』で著名な山村浩二さんのアートアニメ短編集、『右目と左目でみる夢』を渋谷ユーロスペースでみてきました。

終映後真っ先な感想は”あー楽しかった!”

アートスタイルが埋没的でないから多様なヴァリエーションでも一貫性があって、それでいてきっちり“楽しい”のがいい。高尚だけど退屈なのとは違ってエンタメとしての分かり易さの匙加減がハオでした。

予告編が公開されている『怪物学抄』や『サティの「パラード」』もそうですが、音楽にも感性を感じるのが好い。ジブリなんかもそうですが、名作には名曲がありますから。

そして勿論映像が素晴らしい。アニメって実写と違って描いたものしか写らなくて。だから抽象表現でも面白味の意図が出やすくて、そこで如何に偶然的なファンタジーを達成するかが腕の見せ所なのでしょう。

石川九楊氏が『書は筆遣いの軌跡、書する姿が立ち上がる』と映像的な楽しみを話してくださっていたけれど、山村さんのアニメはまさに筆のアニマというか、描書の姿が立ち昇る感覚で。

線と線の"間"が絶妙。短編には古事記や俵屋宗達などを題材としたものも。温故知新というか、本当にユニバーサルな価値は時の流れに淘汰され残ったものに在るのかもしれません。

盆の時期、私には認知症の祖母がいるのですが、祖母の妹であるおばさんが昨年亡くなってしまって。眠る祖母を訪ねると、目を開けて「今妹と話しているから」。心霊といいますが、霊魂というのは心の現象として実在しているのではないかと想ったり。私も昔の知己が夢見に出ることがあります。

imaginationが, REMの事象としてでなく、目が覚めている状態でめくるめく映像体験。真っ暗な劇場は現と夢の間にある空間なのかもしれません。

すっくと立ったARTとしてのフィルムを大変愉しく拝見しました。
by wavesll | 2017-08-14 17:33 | 映画 | Trackback | Comments(0)

夏輝津軽 参・奥入瀬渓流、三内丸山遺跡、青森県立美術館

夏輝津軽 壱・岩木山、鶴の舞橋
夏輝津軽 弐・五所川原立佞武多
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青森旅行記、2日目の朝は奥入瀬渓流、阿修羅の流れへ。
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3年前に訪ねた時のような美麗な木洩れ日はそこからクルマで離れた時に木立で現れたのですが、湧水が美しく、清廉な空気がありました。

市内へ戻り、三内丸山遺跡へ。ボランティアガイドさんに1hほど遺跡内を案内してもらって。三内丸山遺跡、この規模の施設で入場無料なのも凄い。

そして、此の地で古のものが出土するのは江戸時代からわかっていたそうですが、本格的な調査は平成に野球スタジアム建設計画の際からだと知って吃驚。広大な敷地をこんな形で維持管理する行政、イケてるなー。

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三内丸山遺跡といえばこの木造建築。再現された櫓の傍にはオリジナルの六穴が保存されていました。この櫓、どんな用途だったのかは未だに解明されてはいないそうですが、東西になる向きに立てられているそうで、太陽の運行と関係あるのかもしれないとみられているとのことでした。
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高床式住居や竪穴式住居も中まで覗けました。縄文人は栗の木を維持管理して使っていたようで、虫よけに火が通った栗の木の住居の内部はスモーキーな薫りがしました。
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缶珈琲で小休憩。この北東北限定のジョージア、豆の風味がして美味しかった。
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ミュージアムへ。巨大木造建築の六つ穴の中にあった巨木の柱の残存した部分などが展示してありました。
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出土品の中には勾玉からヘアピンなんかも。縄文人、洒落てる。
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縄文版ムンクの『叫び』みたいな土偶も。
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クリスタルの矢尻なんて、FFな世界だ。
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出土した骨から、縄文人は多くの魚や動物を食べたりしていたことがうかがわれます。
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A lot of 土偶
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土器ドキDOKI
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三内丸山遺跡からは日本各地の産物が出土していて。縄文の太古から物流ネットワークがあって交易していたのですね。
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レストランで食べた"ソフト栗夢"。モンブラン風。
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三内丸山遺跡のすぐそばに青森県立美術館もあって。

ウルトラマンをデザインした成田亨の作品が目当てだったのですが、まさかあんなに棟方志功があるとは!サモトラケのニケに着想を得た『賜顔の柵』の凄さ!そして入り口のシャガールはミュシャの『スラブ叙事詩』も驚愕のラージサイズ!成田さんの角っとしたバルタン星人や水彩画のメトロン星人、トゲトゲしたピグモン、ユーモラスなダダ、スクエアなゴルゴスやヤマトン、ガマクジラ、ザラブ星人も良かった◎
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『あおもり犬』は裏からも撮りました◎うっすら青い顎鬚が描かれてました。
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奈良美智さんのもう一つの屋外展示、『森の子』。アンコール・トムの仏顔のよう。
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ARTを観終え、行きと同じく帰りも秋田空港へ。空港のレストランで飲んだ雪の茅舎 大吟醸という地酒が非常に美味しかった。なぜか釣りキチ三平のレリーフが。十和田湖とゆかりがあるのかな?
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2014年のMichinoku Michiyuki、そして2015年の津軽の色彩に次ぐ3度目の青森。来るたびに大いなる自然に包まれる気持ちになります。広大な空間に満ちる夏の輝きを堪能した1泊2日でした。今度訪れるとしたら櫻の季節に弘前かな。また再訪するのが楽しみです◎
by wavesll | 2017-08-09 00:01 | | Trackback | Comments(0)

田名網敬一 「貘の札」@NANZUKA

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田名網敬一 「貘の札」を渋谷NANZUKAにてみてきました。
田名網さんはSUPERCAR『ANSWER』のジャケを描いた方。若冲meetsアメコミなサイケデリックな曼荼羅画。表面に一部光るプラ素材?の欠片を撒いていてキラキラ輝くのが絵に動画性を帯びさせていると感じたところ、映像作品もあって。普段映像作品って全部みないのだけれど、これは一周魅入られてしまいました。今週土曜迄。是非生でみて欲しい。御薦めです。

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by wavesll | 2017-08-01 20:49 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

書だ!石川九楊展@上野の森美術館

書だ!石川九楊展@上野の森美術館に行ってきました。
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≪歎異抄(全文)No.18≫
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藝大へ行った帰りにみかけたこの展覧会。がっつり書の展覧会へ来たのは初めてだったのですが、こーれは大変に格好良い展覧会でした。

初っ端≪エロイ・エロイ・ラマサバクタニ≫から薄墨に太く書かれた文字群!あふるる心情がみてとれます。≪言葉は雨のように降り注いだー私訳イエス伝≫の強烈な文字の詰め方、書き込みに、自分自身が中高時代に執拗なまでに英単語を連打でぎちぎちに描き込んだノートを想いだして。

≪生きぬくんや≫もマンガの吹き出しのような勢いが炸裂、≪エロイエロイラマサバクタニ又は死篇≫は82mに及ぶ超大作で、作品の途中で轟風が吹くかのように巨大な文字が出てくるのが印象的。この時期は≪世界の月経はとまった≫のように灰色の地に書かれた作品が多いですが、そこから白の世界へ戻って≪はぐれ鳥とべ≫が書かれて。白に言葉が配置されると、文字がビートになる感覚がありました。

それは李賀詩シリーズにも顕著で。黒で塗りつぶされて奥にうっすら文字が書いてある≪李賀詩 將進酒 No.2≫をみると、昔"自分がMステに出るなら各国語が入り混じったわけわかめなライムをして、その言葉とは無関係に歌詞として日本国憲法がスクロールさせたい"と考えたのを想いだしたというかw

言葉のフォルムと意味が展開、転化しそれ自体がオリジナルな輝きになるというか。個人的には水カンをみたときに”やられたー”とか思ったものでした。あっちの方が実装能力が高すぎておみそれなんだけどw

さらに≪李賀詩 感諷五首(五連作)≫は何というか将来のHIPHOPを感じたというか、言葉をビートにした先に、ラップをPCで加工して引き延ばして拡大延長したテクノミュージックのような、巨魁な作品でした。

そして次の部屋に入ると更に石川氏の書は飛躍して。≪徒然草 No.22≫はもう電子的な草叢のような書画だし、≪徒然草 No.16≫はもはやポストロックな山海。

そして≪歎異抄(全文)No.18≫は図形楽譜化のような、音楽の理性と身体としての文字フォルムが止揚していました。

一方で≪無間地獄・一生造悪≫のような極太のフォントや≪逆説・十字架・陰影≫のような神代文字化した様な漢字フォントの作品もあって。そして本当に方形の、地図のようにもみえる≪方丈記 No.5≫も素晴らしかった。

2Fへ上がるとそこには何と源氏物語の各帖をモチーフにした書が。もう、どれも良くて。桐壺、帚木、夕顔、若紫、葵、花散里、明石、蓬生、松風、少女、玉鬘、常夏、篝火、野分、真木柱、梅枝、若菜 上、若菜 下、柏木、匂宮、竹河、橋姫、椎本、総角、早蕨、宿木、東屋、浮舟、蜻蛉、手習、夢浮橋…好いの上げようとしたら上げすぎてしまったw

これを視ながら感じていたのは、ともすればこういう"現代的なセンス"は”西洋的”と捉えられがちだけれども、こういった感性は日本人、日本文化の中の内在していたのだなと。梅棹忠夫『文明の生態史観』を読んだのもそうだし、数年前京都旅行でみた角屋のモダン・デザイン性にもその想いの萌芽がありました。

そこから中2階へ降りると、≪カラマーゾフの兄弟 III≫などの作品が。文学を題材にするときに、言語での味わいと訳文の解釈の問題をどうするかとかの意見が出ました。興味深い。

≪生涯は夢の中径≫も良かったし吉本隆明に捧げた≪もしもおれが死んだら世界は和解してくれと書いた詩人が逝ったー追悼吉本隆明≫も素晴らしかった。

そこから、社会的な問題意識を持った作品群が続いて。≪二OOO一年九月十一日晴ー垂直線と水平線の物語I (上)≫や≪9/11事件以後II≫、≪戦争という古代遺制≫、≪領土問題≫、≪敗戦古希 其一≫、≪敗戦古希 其二≫。敗戦期に誕生した石川氏ならではの筆致でした。

そして、器に四文字熟語をかいて沢山つくった≪盃千字文≫も愉しいし、最後に展示してあった≪五十年を語るー妻へ I≫、≪五十年を語るー妻へ II≫も理知的な中に温かい愛情を感じる素敵な作品でした。

この日は石川氏による≪歎異抄≫解説がありました。
石川氏は計20作の歎異抄を書いたのですが、No.18でようやく全文ヴァージョンまで完成して。
隷書を横に延ばしていく中で、縦の画を横の画が突っ切るスタイルが生まれたことがブレイクスルーだったとのこと。

質疑応答コーナーでは、"無心で書いているのか?"との質問に”徹底的に有心”と答えていて。評論家もやっていたから、相当に綿密な計算のもとでかかれていると想ったのですが、やはり。

手癖で書かないようにどんどんスタイルを変えて行ったり、時に左手で書いてみたり。歎異抄では文字の滲みすら起きないようにインクと紙を選んだとのこと。

また”読めない文字も書なのか”との質問には”書を視る上でいけないのは『上手い・下手』とか『読めるかどうか』を考えること。書は『書くこと』であり、書く姿があればそれは書。絵画との違いは一点一画を書いていくリズム、自分はあくまでも文章を書いている”とのことでした。

梅棹さんもそうだし、吉田博展@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 日本人にしか描けない洋画、その探究でも"凄腕の旅人だ"と想ったものですが、文学の海へダイヴし自らとケミストリーを興して作品として発火する石川さんも、本当に素晴らしい旅人だと想いました。

本当の未知は、有心の先の、完璧なコントロールの先にある偶然天地に。刺激的な展覧会でした。なんと今日まで。是非是非お薦めです。

cf.
石川九楊の「書」だ。(ほぼ日刊イトイ新聞)

by wavesll | 2017-07-30 09:47 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

吉田博展@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 日本人にしか描けない洋画、その探究

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて生誕140年 吉田博展をみてきました。

《日本アルプス十二題 劔山の朝》
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《穂高山》
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《瀬戸内海集 帆船 朝》
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いかがでしょうか?1枚目と3枚目、実は版画なのです。こんなに透明感のある光の描写が版画で出来るとは…!

吉田博は水彩画、油彩画、そして新版画と、「日本人にしか描けない洋画」を探究した人。その人気は海外の方が高く、かのダイアナ妃やフロイトも吉田博の絵を持っていたそうです。

私自身、こんな版画ははじめて視て。海外の猿真似でない、しかし洋画の手法を内に取り込んだハイ・クオリティに、すっかり魅了されました。

展覧会の始まりは福岡・久留米生まれの吉田が不同会という絵の塾に入るところから始まります。
その頃の≪無題(習画帖)≫の上手いこと。水彩の≪驢馬≫も、単純に上手くてデッサン力を感じます。≪京極≫、≪上野、東照宮≫の鉛筆風景画も素晴らしいし、鉛筆画では≪小丹波≫という風景画も線の細さが魅力的。

その他≪石橋≫、≪花のある風景≫、≪浅間山≫といった陽光の光景に加え、≪冬木立≫の冬、≪中禅寺 日光≫の秋の風景も見事。この人の水彩画、ほんと好きだなぁ。構図が好いし、透明感が群を抜いている。この時期の油彩も≪雲叡深秋≫など心に残りました。この展覧会、ほぼほぼすべての絵が好い!またこの時期の写生帖もあって、飛騨や富士山が見事に描かれていました。

1900年頃の画壇は、フランス帰りの黒田清輝達白馬会によって牛耳られていました。そこで吉田博、僅かな金と書き溜めた絵画を背負って海外へ渡航。それもフランスでなくアメリカ。デトロイトやボストンで絵画展は大成功。そこから欧州など世界中を回ります。なんたる行動力!

≪街道風景≫は海外でも好まれた、なんてことない道路の風景画なのだけれどスナップショットのような美しさのある作品。≪村の橋≫はアピチャッポン監督のような空気感。≪菖蒲園≫の靄描写、≪宮島≫、≪湖の眺め≫の光の描写、≪晩秋風景≫の翳りの描写、≪朝≫の曇の描写、≪霧の夕陽≫、≪霧の農家≫のトワイライトの朱と緑。この人は朝焼け・夕暮れの赤光が最上。

≪田舎の夕暮れ≫の丸っこい家や≪冬の閑景≫の静かな風景、≪帆船≫の灰青い水色、西洋美人を描いた≪昼寝ーハンモック≫なんて作品も。ボストンを描いた≪グロスター≫、マサチューセッツを描いた≪チューリンガムの黄昏≫、フロリダを描いた≪ポンシデレオン旅館の中庭≫、イギリスの≪ウィンザー橋≫、『三四郎』でも言及された≪ヴェニスの運河≫、マドリードでの≪ヴェラスケス作≪メニッポス≫模写≫や≪レンブラント≪自画像≫模写≫なんてのも。

白馬会に太平洋画会で対抗していた吉田博、ついに文展の審査員になり、画壇の頂へ登ります。

この時期は優美な≪松≫、しとやかで可愛らしい≪月見草と浴衣の女≫、色彩が綺麗な≪つつじの咲く高原≫、肌寒さが伝わる≪越後の春≫、≪芥屋大門≫や≪琉球≫といった建築風景等水彩画も描かれましたが、主に油彩画が展示してありました。

≪池の鯉≫、≪堀切寺≫海外の人が日本の風景を描いたかのような筆致の≪瀧≫、≪高原の池≫の秋、山の尖りのフォルムが美しい≪穂高の春≫や≪穂高山≫の巨魁な山姿は高山を愛した吉田博ならでは。

≪富岳≫のMassiveさも素晴らしいし、≪槍ヶ岳と東鎌尾根≫はまるでヨーロッパの山の様。三枚の縦長の絵による≪野営≫はデジタルサイネージっぽかった。

日本的な≪烏帽子岳の旭≫にSF的な風景画の≪鷲羽岳の池≫と変幻自在。

≪バラ≫シリーズでは鉢植えや支え棒のあるありのままなバラの絵が描かれて。≪青銅器とバラ≫なんて面白いモチーフも。

≪ステンドグラスの窓≫はルオーみたいな筆致。

≪荷馬川岬≫は江戸の味わい、≪登山図≫、≪雪景≫の山景も素晴らしかった。

ここまででも見逃せない絵画ばかりだったのですが、ここから更に吉田博の藝術は跳躍します。渡邊庄三郎と組んで新版画を始めるのです。

≪牧場の午後 渡邊版≫や≪穂高山 渡邊版≫のようにまるで水彩画のような細やかなグラデーションとフォルム。≪帆船 朝日 渡邊版≫、≪帆船 日中 渡邊版≫、≪帆船 夕日 渡邊版≫の水の揺らぎ、グラフィカルな色彩、瀬戸内海に浮かぶ舟の輝き、素晴らしい。≪馬返し 渡邊版≫のような江戸を思わせる作品も。

この時期は油彩もあって。≪庄吉≫という武骨な人物画や色っぽい≪裸婦≫も良かった。

そして海外の風景画が素晴らしくて!≪グランドキャニオン≫、≪ヨセミテ公園≫、≪モレーン湖≫という北米の大自然の光景、≪モンブラン≫、≪アルプスの山小屋≫という欧州の山岳風景、ヴェネツィア≪サンマルコ広場≫はなんともお洒落な一枚でした。

そして、ついに吉田博は自らの手で新版画制作に乗り出します。

ユーモラスな≪ホノルル美術館 米国シリーズ≫、カッコ良くスルっと伸びた≪エル キャピタン 米国シリーズ≫、赤紫に輝く≪グランドキャニオン 米国シリーズ≫、こちらも勇壮な≪モレーン湖 米国シリーズ≫、質感が心地よい≪ブライトホルン山 欧州シリーズ≫、もう”うーわー!すげぇ…!”となってしまう≪マタホルン山 欧州シリーズ≫≪スフィンクス 欧州シリーズ≫も色彩豊かで◎

日本を題材にした新版画も。≪烏帽子岳の旭 日本アルプス十二題≫の赤光の射す青闇。≪劔山の朝 日本アルプス十二題≫のグラデーションの輝きと言ったら!≪白馬山頂より 日本アルプス十二題≫の桃色の山。≪穂高岳 日本アルプス十二題≫は木の描写が浮世絵っぽく感じました。物凄い好い絵。≪黒部川 日本アルプス十二題≫の活き活きした河川の描写。≪鷲羽岳の野営 日本アルプス十二題≫の薪の爆ぜり、≪針木雪渓 日本アルプス十二題≫も良かった。

瀬戸内海の光景を描いた作品群も素晴らしい。ダイアナ妃も執務室に飾ったという≪光る海 瀬戸内海集≫はやっぱり素晴らしいし≪雨後の夕 瀬戸内海集≫も綺麗。≪鞘の浦 瀬戸内海集≫も良かった。

≪帆船 朝 瀬戸内海集≫≪帆船 午前 瀬戸内海集≫≪帆船 午後 瀬戸内海集≫、≪帆船 霧 瀬戸内海集≫、≪帆船 夕 瀬戸内海集≫、≪帆船 夜 瀬戸内海集≫は、同じ版木で色を変えて様々な光景を顕わしたもの。これが本当にどれも素晴らしい!この空気感、その場の映像を見ているような、本当にきれいな画でした。

≪朝日 富士拾景≫は富士山のくっきりした山肌が美しい。≪植物園の睡蓮 東京拾二題≫は現代的、≪亀戸 東京拾二題≫の藤の花と太鼓橋。≪金魚すくい 東京拾二題≫は女性がかわいらしい表情。≪不忍池 東京拾二題≫、≪旧本丸 東京拾二題≫は観光スナップのよう。

空刷りの線がプレスされているオウムが面白い≪於ほぼたん あうむ 動物園≫も良かったし、廣い宵の光景が展開される≪雲井櫻≫は弩級の作品だし、色っぽいリアルなヌードの≪鏡之前≫、聡明な域を感じる≪こども≫も良かった。≪上高地の春≫、≪白馬槍≫、≪糸魚川にて≫の油彩三枚も良かったし、≪駒ヶ岳山頂より 日本アルプス集≫の雲と光の描写は新海誠みたい。≪駒ヶ岳岩小屋 日本アルプス集≫はタイムレスな魅力のある木版。

≪雲海 鳳凰山≫の大きな眺望。そして≪渓流≫のグラフィカルな素晴らしい流水の描写はこの展覧会でも白眉でした。

吉田博は新たな画風を求めて、地球を回ります。インドの≪フワテプールの舞踊場≫の華厳さ、≪プワテプールシクリ(王宮)≫、≪ラクノーのモスク≫のイスラムの美には、”イスファハーンやサマルカンドにも行ってほしかったなー!”と。≪イト、マト、ウッドウラーの墓≫、≪ウダイプール≫もエキゾでした。

≪シンガポール 印度と東南アジア≫には在りし日のシンガポールをみて。≪ラングーンの金塔 印度と東南アジア≫の赤光。≪カンチェンジャガ 朝 印度と東南アジア≫と≪カンチェンジャガ 印度と東南アジア≫にはヒマラヤが。

≪ベナレスのガット 印度と東南アジア≫は"これぞ!"という構図。≪タジマハルの庭 印度と東南アジア≫の明るい白が美しくて。吉田博は光景版画で夜のヴァージョンも刷ることが多いのですが、≪タジマハルの庭 夜 印度と東南アジア≫素敵な雰囲気でした。

≪フワテプールシクリ 印度と東南アジア≫≪ウダイプールの城≫も素晴らしい。なんというか、超上級のわたせせいぞうみたいな味。≪エロラ カイラサテンプル 印度と東南アジア≫も素敵だったし、≪ウダイプールの島御殿 印度と東南アジア≫は意識と景色が融けていくような美がありました。

海外を意識してか、桜の名画も吉田博には多くて。≪弘前城 櫻八題≫はこれぞ日本の美といったショット、≪三渓園 櫻八題≫、≪春雨 櫻八題≫もいいし、知恩院を描いた≪樓門 櫻八題≫≪嵐山 櫻八題≫という京の桜も良かった。

吉田博の新版画の精緻さ、綿密さは本当に頭抜けていて。80度摺りを入れた≪東照宮≫、96度摺りを入れた≪陽明門≫の美事なこと。素晴らしかった。

≪上海市政府≫のエキゾな建物や、≪大同門 北朝鮮・韓国・旧満州シリーズ≫、≪北陵 北朝鮮・韓国・旧満州シリーズ≫の落ち着いた雰囲気も好きでした。

戦中、吉田博は従軍したり、軍事産業をスケッチしています。≪港之夜≫のハーバーの落ち着き、従軍先の中国で画いた≪星子≫。

面白いのは半ば想像だと想いますが戦闘機の光景を描いた作品。≪急降下爆撃≫は会田誠の≪紐育空爆之図≫を想起。≪空中戦闘≫は大地のうねりが面白かった。≪軍需工場≫では労務が、≪精錬≫、≪溶鉱炉≫では融けた鉄の輝きが描かれていました。

吉田博の旅。世界をめぐるそのバイタリティと自らの作品に化学反応させる手腕は、本当に理想の旅人だと感じました。ちょっと梅棹忠夫の探検にも通ずるものを感じたり。

しかしそんな彼が最後に残した木版画は≪農家≫という、何でもない日本の農家の土間というか台所というか、屋内風景でした。旅の先に、彼は遂にルーエンハイムへたどり着いたのかもしれません。

そして本展覧会の最後の、最晩年の作品は田園風景を描いた≪初秋≫。ここにもファウスト博士の感慨のような、優しい心を感じました。

常設のゴッホ≪ひまわり≫もみました。この展覧会、本当にオリジナルな、日本人しか描けない洋画とは何かが表れていたし、今でもエキサイティングで先進的に感じました。前期は30日までで、後期は66点入れ替えだそうです。前期チケットがあれば800円でみれるそうだし、これはまた行かねば!素晴らしい展覧会でした。

生誕140年 吉田博展@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 前期に続き後期も行ってきた!
by wavesll | 2017-07-29 07:30 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)