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『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて

第1章~第3章
第4章~第5章
第6章~第8章
第9章~最終章

前編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)
後編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)

BS1スペシャル「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」をみました。

安田洋祐(大阪大学准教授)をナビゲーターにジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞 アメリカ大統領経済諮問委員会委員長 世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任)、トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)、ルチル・シャルマ(モルガンスタンレーインベストメントマネジメント投資ストラテジスト 25年にわたり各国を調査 情報を分析『The Rise and Fall of Nations(国家の盛衰)』はアメリカでベストセラー)、エマニュエル・トッド(歴史人口学者 フランス国立人口統計学研究所 所属 旧ソ連崩壊 金融危機 イギリスEU離脱などの予言を的中)等の識者に低成長時代をいかに舵取りをしていくかが語られていました。

スティグリッツ教授は「富の一極集中の解消が成長の鍵だ」といい、セドラチェク氏はもっとドラスティックに「資本主義が必ず成長するというのはナイーブな思い込みで"成長資本主義"から変わらなければならない」と言います。

しかしアルヴィン・ロス(スタンフォード大学教授 2012年ノーベル経済学賞受賞 市場の制度を設計する「マーケットデザイン」研究の先駆者)は「資本主義の死を宣言するのは早計だ。資本はリターンを得続けているよ。シリコンバレーに住んでいるんだが多くのビジネスが集まっている」と語ります。

更にUberへの投資で著名な投資集団のスコット・スタンフォード(シェルパ・キャピタルCEO 元ゴールドマン・サックス社員 2013年ベンチャー投資企業を設立)は「私たちはより効率化する方法を常に探しているんだ。経済学でいうところの生産性だね。労働力が変わらないのに成果物は増える。そして利潤 成長 波及 創造的破壊を追究する。いかにして効率的な進化がなされない古い産業を駆逐するか。市場をとれ。需要と供給が働きあって加速して規模の効果が働いて新旧交代が起こる。それがイノベーションだ。そして消費者をハッピーにするんだ」と。

そしてシャルマ氏は「2008年リーマンショック以後、危機以前の時代より速いペースで成長できている国はまったくない。西欧だけじゃない。インド、中国、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル…どこでも。世界経済はスローダウンしている。」としながら「1950年~2008年は世界経済の成長率は毎年4%と異様に高い」とし、その原因を人口爆発と国家債務の増大にあるとし、「歴史的に見れば世界は今でも急速な成長をしていると言える。1950年~2008年はさておきね」と語ります。

世界経済は、"富の前借り"の破綻によってそのペースを変えて、従来の成長率を前提とした社会基盤が成り立たない事態になっていると。

この番組は前編(1~5章)は2016年に放送され、後編(6~最終章)は新作なのですが、Uber等のシェアリングエコノミー技術が社会全体にとってバラ色の未来と言えないといえども、ベンチャーが伸びたり人口が減少していない欧米は2%以上の経済成長を続けているのに対し、日本はマイナス成長。

今の欧米の経済識者が「低成長の時代にどう対応した社会・個人のありようを求めるか」と語っているのに対して安永竜夫(三井物産代表取締役社長 発展途上国のインフラ開発への投資など新事業を開拓)や原丈人(デフタパートナーズグループ会長 アライアンス・フォーラム財団代表/内閣府参与 ベンチャー企業育成のための政策提言や新技術をもちいた支援など国内外で活動)が「日本は進んだ経済観念を持っていて、これからガンガン成長することも可能だ」と息まいているコントラストが…

老人が若者より活力があるとも言えますが、"往年の夢よもう一度"で五輪や万博を開こうとするような頭じゃ現在に対応した"悟り世代"がみしみしと労働負荷をかけられる、ミスマッチが起きそうで。パラダイムが変わるには今の経営層が消えないといけないのではと想うと共に、2%すら経済成長が起きないのはやはり気脈がおかしい気がするところです。

番組では経済学の巨人アダム・スミスとケインズの思想に触れています。

アダム・スミスは"各個人が自己利益の追求をすることで『見えざる手』が働き社会が調整される"と自由貿易を唱え、ケインズは「社会の安定のため最も恐れるべきは失業者の増大 危機を回避するには国は借金をしてでも仕事をつくる そしてお金という血液を市場にめぐらせる」と唱えましたが、番組ではそれらに対して妄信することに警鐘を鳴らしています。

「見えざる手」は存在せず、市場のルールによって調整機能は担保されている。また「もう危機から7~8年経って経済は回復しているのに財政赤字を続けていいとはケインズは言わなかったはずだ」と。エマニュエル・トッド氏に至っては「自由貿易を辞めれば経済成長する」と。今までのルールが通用しない時代になったということでしょうし、アダム・スミスの時代とは異なりほとんどの人間が商業に携わる今、労働者は消費者でもあることを慮らなければならないということでしょう。

また数学的な部分を含め、経済学に触れると一見未来予測が可能であるかのように錯覚しがちですが、気鋭の経済学者であるセドラチェク氏から「"リスク"と"不確実性"は異なり、未来はわからない」と語られたのは大きなことで。

ケインズも「わたしたちの未来についての知識は実に曖昧で不確実なものだ」と言っていますが、悲完全情報状態に加え、人間という不確実な因子が絡む長期にわたる未来予測は難しいと、現代のトランプ時代に起きるシリアや北朝鮮情勢をみるとまざまざと得心します。

このように、経済学の不完全さが結果として語られた番組ですが、一つの大きな軸で語られたのが『何をもって成長とするのかの新しい尺度・観方が求められる』ということ。

GDPは適切な指標でなく、シャルマ氏によると「2007年のアメリカの住宅バブルのピークにはアメリカは1ドルの成長を得るため3ドル負債を増やしていた。今中国は1ドルの成長を得るために4ドルも負債を増やして成長率を維持している」とのこと。

スティグリッツ氏は「経済成長について話すときは"成長"の意味をはっきりさせないといけない。GDPは経済力を測るにはいい指標とは言えない。環境汚染、資源乱用を考慮にいれてないし、富の分配も社会の持続性も考慮されていない。問題だらけだ。経済における成長の本質をこの先変えていくべきだと強く思っている」といいます。

或いは原氏が「会社は株主の物だっていう考え方から会社っていうのは株主も重要な要素だけれども会社を成り立たせている社員、仕入れ先、地域社会、顧客、地球も含めた、この社中全体のおかげで会社が反映しているわけだから、上げた利益は社中に対して還元していく。こういう資本主義の事を『公益資本主義』という風にいいます」と言うように"成長の指標"をより実際的なものに刷新する必要があると想いました。

「欲望は満たされることを望まない 増殖することを望む」との言葉がありました。欲望をコントロールするには禅的に抑制するのもありですが、さらなる魅惑、さらなる欲望を提示・誘導することで"モアベターな欲望 モアベターな社会"を達成するというスキームこそ現実的に効力があるのではないか、そういった意味でも"新しい指標"が望まれます。

自然科学である物理学と社会科学である経済学は異なるけれども、"成長、あるいは幸福をより適切に測る統一理論"、それは即ち世界への認知をパラダイムシフトさせる真理を解き明かす行為が希求されているのだ、そう番組を見て想いました。

cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
『日本教の社会学』読書ノート
by wavesll | 2017-04-06 19:02 | 小噺 | Comments(0)

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第9章~最終章 書き起こし

第1章~第3章
第4章~第5章
第6章~第8章

後編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)

第9章 数 リスク 不確実性

ルチル・シャルマ(モルガンスタンレーインベストメントマネジメント投資ストラテジスト 25年にわたり各国を調査 情報を分析『The Rise and Fall of Nations(国家の盛衰)』はアメリカでベストセラー)
「ケインズ主義は金融危機の後喧伝されたよね。でも私が見る限り状況はやや『ねじれて』いるね。ケインズが過去に言ったことが誇張されているように感じるよ。たとえばもう危機から7~8年経って経済は回復しているのに財政赤字を続けていいとはケインズは言わなかったはずだ。」

トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)
「ニセのケインズ主義だね。ケインズの半分だけを見てもう半分を忘れている」

シャルマ
「たしかに予算を黒字にするのはいつだって難しいものだが、ケインズを引き合いに出して赤字を正当化している。もう危機から7~8年も経った。たしかに近年では弱い経済回復だが長い歴史の中で考えれば今は決して弱い経済ではない。

君の言うように人々はケインズを都合よく解釈しているよね。どの国も成長するためにケインズの理論を『悪用』している。いくつかの国はケインズを悪用して経済を崖から突き落とそうとしている。ケインズの名前を出せば負債額はOKだと都合よく解釈してね」

セドラチェク
「もし『危機はいつ終わるか?』と聞かれたら『負債を返し切った時だ』と答えるよ。車の事故を起こしたとして死ななければ最初の危機は終わるが壊れた車のローンを払うまではたらしい車を買えないよね。それとGDPの成長率を測ることにどんな意味があるんだ?ほとんどナンセンスだ…」

シャルマ
「中国で起こっていることにみんな気付いていない。中国は6%かそこらの成長率をいまだに続けていると皆思っている。でもその成長率を維持するためにどれだけのお金を注入しているか…本当に君の言う通りだよ。

2007年のアメリカの住宅バブルのピークにはアメリカは1ドルの成長を得るため3ドル負債を増やしていた。今中国は1ドルの成長を得るために4ドルも負債を増やしている」

セドラチェク
「クレイジーだね」

シャルマ
「まったくだ。『中国は6%も成長している!すごいじゃないか』って?『他の国は2%くらいなのに6%はすごい』と。だが中国が莫大な借金をしていると知ったら大問題に突入しようとしているのが分かるよね。だから私の最大の関心ごとはアメリカじゃない、中国だ」

上海の市民1
「資本主義はいいと思います。経済市場が活発になるから」

上海市民2
「月収は10年前から3500元のままで上がっていません。でも不動産価格は4~5倍に跳ね上がりましたよ」

上海市民3
「中国は国の政策が行きづまるといつのまにか方針が変わるので先が読めなくて不安があります」

この星は欲望で繋がっている 市場の網の目に覆われた 私たちの住む資本主義の世界

シャルマ
「ウォールストリート的思考はあまりに短期すぎる。四半期ごとにホットな流行を追いかけ人々は熱狂している。まるで他に大事なことはないみたいにね。今だったら皆が皆トランプに取りつかれている。トランプはどんな政治をするか?それはどんな影響があるか?とね」

恐れるな リスクを取ってお金を増やせ 数字が踊る 人々が踊る “未来というものは絶対に予測できない。神でさえ未来を知らない”

第10章 不確実な世界へ

資本主義社会のリスクを見事にコントロールしたはずのあの男 だが意外なことにこんなことも言っていた

わたしたちの未来についての知識は実に曖昧で不確実なものだ -ケインズ

セドラチェク
「世界は本質的に不確実なのに『来年は2.4%成長するだろう』と皆が信じて投資したりするのは未来は不可知なものだという自然な感覚を失っている。

たとえばサイコロをふる時『1』が出るのはおよそ6回に1回だと知っているよね。起こることの確率を分かっているのがリスクだ。でもサイコロの面の大きさがバラバラでその割合も知らなかったらどうだい?

現実世界ではサイコロの形さえ分からないような状況がよくある。しかも過去にふられたことがなかったりね。初めてで一回限りの出来事だとしたら…これこそがケインズのメッセージだった」

ケインズは警告していた 不確実性はリスクとは根本的に違う、と たとえばルーレットの確率や人の寿命 明日の天気予報はさして不確実とはいえない

不確実なものとはヨーロッパで戦争が起きるかどうか 20年後の銅価格や利子率 ある発明がいつ陳腐化するかなど

こうした事柄を予測するための科学的根拠はない 私たちは単に知りようがないのだ


セドラチェク
「過去に起こったことがない状況をどう考えるか?たとえばトランプ大統領のようにね。これはリスクではなくまさしく不確実性だ。物理学にたとえるならケインズが現れる前は経済は『機械』のように考えられていた。ケインズは”No”と言った。『経済は機械ではない』『不確実性がある』『限られた世界しか見ていない』とね。

現実は機械のようじゃないと。ズレやゆらぎがあって時計の様にはいかないんだ。つまりリスクは計算が可能だ。だが不確実性は計算することはできない。リスクと不確実性を混同したら危険な世界が待っている」

シャルマ
「悪銭(イージーマネー)が問題だ。金融危機の後 収入や資産の格差が増大した。それは悪銭(イージーマネー)と関係があると思う。いま世界に悪銭(イージーマネー)が漂っていてそういうものが不確実性とリスクの区別をわからなくさせてしまう」

カネがカネを生む それはあの時始まったのか 時がカネを生む魔術 利子 欲望の資本主義の果て

シャルマ
「私はあまり信心深くないんだが、いま私が強く惹かれているのは禅の思想だ。どういう意味かというと…投資においても人生においてもいい精神状態でいることがとても大事だ。

私は新著の第一章の題名を『儚さ』とした。永遠のものなど何もない。すべては過ぎ去っていく。私がいつも心に留めているルールだよ」

セドラチェク
「確かにそういうものが経済で求められているのかもね。私たちが作り上げてきた世界では経済でも政治でも既存の理論や支配層が崩壊しつつある。私たちは待ち望んでいるのかもしれない。天動説から地動説へのパラダイムシフトのようなものをね。あるいは物理学を変えたアインシュタインみたいに…

禅的思想はもしかするとこの世界を統合できるかもしれない。資本主義が根ざしている他の宗教ほど攻撃的じゃないからね。そのような未来もありえるかもしれない」

最終章 未来へ

安永竜夫(三井物産代表取締役社長 2015年「32人抜きの社長就任」として話題に 発展途上国のインフラ開発への投資など新事業を開拓)
「資本主義を日本が受け止めてる過程というよりは僕は寧ろ欲望の資本主義の先を行ってる資本主義じゃないかと思うんですね。それは要するに持続性があり人に優しい資本主義って何かっていうことを我々は考えている」

原丈人(デフタパートナーズグループ会長 アライアンス・フォーラム財団代表/内閣府参与 ベンチャー企業育成のための政策提言や新技術をもちいた支援など国内外で活動)
「21世紀、2000年以降はあるべき資本主義、本当に人類社会がこれからも反映していくための資本主義は会社は株主の物だっていう考え方から会社っていうのは株主も重要な要素だけれども会社を成り立たせている社員、仕入れ先、地域社会、顧客、地球も含めた、こういうのを社中というのですね。

この社中全体のおかげで会社が反映しているわけだから、上げた利益は社中に対して還元していく。こういう資本主義の事を『公益資本主義』という風にいいます」

安永
「私は『お前らはジャングルガイドだ』って言ってますけども。新しいマーケットを切り開いてマーケットチャンネルをつくりあげてくってのいうのは商社ならではの仕事の醍醐味でありますし、これから経済成長に向かっていく国っていうところにどういう風に我々が貢献していくのか仕事をつくっていけるのか。これはもう、まだまだ世界中にそういう国はあります。

日本の中に閉じこもっていても日本的な資本主義は決して進化していかないと思うんですよ。」


「お金で何とかしようと、お金を回して経済を復活させようというのは雰囲気は変わることが出来てもこりゃ絶対無理なんですよ。だから日本の場合には科学技術を使ってイノベーションを起こして。人類社会に対して一番必要なものをつくりあげていくと。そしてこれは大変な富を生むと私は考えています。

全世界の人を幸せにしながら、尚且つ日本自身も社中への分配と中長期の投資で中産階級層が豊かになっていく国づくりが私の頭の中では出来るという風に考えています。」

安田洋祐(大阪大学准教授)
「それだけの底力があると」


「十分ありますね。もう日本のまだまだ個人金融資産も1700兆円以上あるんだし」

蓄えた富 使えば新たな富を生むことが出来る でも事はそう簡単ではない ケインズは人々の底に潜む欲望を見抜いていた

セドラチェク
「ケインズ以前はマネーは単に交換のための『道具』とみなされていた。だがケインズはマネーの交換以上の機能に気が付いた。つまりそれ自体が欲望の対象物なんだ。マネー自体が価値を持ち貯めること自体が価値を持つということだ。

人々はお金を貯めたがる。何かが起こった時のため、用心のためにね。そのうちに貯金することが目的かしていく。お金はあらゆるものと交換可能だからこそ人はお金を貯める。それゆえにお金が効率的に回らず経済に大問題が生じることがあるのだ。

アインシュタインはそれまでの物理学をひっくり返し世界の見え方を変えた。経済学ではまさにそのようなことが求められていると思う。新たなケインズがね。」

安田
「ケインズの話と後はケインズ以前の経済学者が言っていたことを非常に数学的に精緻な形でまとめた一般理論というか市場の理論ってのがあるんですよね。それの次のステップというのが来るかどうかも分からないですし、少なくとも今、見つかってはいないという状況だと思うんですよね。

色んな方と対談させていただいて、自分は経済学の専門家なわけですけれども、結構普段自分がやっている研究の話っていうのが実はそういった経済学の外にいる人も含めて新しく経済をある意味見通している人たちと、フィットするような部分があるなって感触がありましたね。

なんかまだ少し『グランドセオリー』じゃないですけれどもね。大きい理論をみつけることができるんじゃないかなって期待が若干芽生えたりもしましたね」

小林喜光(三菱ケミカルホールディングス取締役会長)
「かつてリーマンショックもあったようにまた同じようなことを繰り返す危険がある。長期的にサステナビリティ(持続性)が極めて危険な状況にある。やっぱり最後の頼りはイノベーションとか社会システム全体の変革するとか。今までの延長線上の人類の歴史と全く違う生き方、全く違うことを思い描く経済学がいるんじゃないか」

セドラチェク
「たしかに未来には労働や雇用において大きな問題が起こり多くの人が影響を受けるでしょう。懸念しているのは経済というものが非常に抽象化しつつあること。人間の欲望も物質世界から中小世界へ移っていく。インターネット時代、新しいフロンティアをどう考えるかというのは大きな課題だと思います」

小林
「2045年シンギュラリティ(AIが人の知能を超える時)が来るかもしれない。そうなればもうほとんどAIであり頭脳もロボットであり人間っていったい何なんだっていう、ほとんど人間以上の人間が出来ちゃうっていう。何をもって人間というのか何をもって幸せというのか?」

スコット・スタンフォード(シェルパ・キャピタルCEO 元ゴールドマン・サックス社員 2013年ベンチャー投資企業を設立)
「情熱の源はお金ではない。それはテクノロジーへの愛だ。」

ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞 アメリカ大統領経済諮問委員会委員長 世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任)
「究極の皮肉は資本主義はお金の追求によって支えられているのにそれだけでは前進しないということだ」

セドラチェク
「我々は『神』を生み出した。自己調節機能があり富を分配してくれ市場をコントロールしてくれる『神の見えざる手』。だが言いたい。『神は死んだ』。

私たちが生きているのは今まで信じていたものがもはや信じられなくなった世界だ。だが社会の『舵』は私たちの手の中にある」

神なき時代 ルールは変わり続ける これからも 欲望の資本主義

欲望は満たされることを望まない 欲望は無限だ



『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて

cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
by wavesll | 2017-04-05 21:52 | 小ネタ | Comments(0)

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第6章~第8章 書き起こし

第1章~第3章
第4章~第5章

後編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」(Dailymotion)

NYウォールストリートの金の牛のオブジェの前で

トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)
「これは有名な資本主義のシンボルだ。こんな街中に荒々しい牛なんて奇妙だろう。この牛が本物だとしたら危ないと思わないか?あばれ牛を『飼いならす』ことはとても難しい」

ヒト、情報、お金 あらゆるものが時空を超えて行き交うこの世界 いつか一つになる そんな気がしていた だが
“ケインズの原則を全く無視している” “反グローバル化は確かな流れだ” 逆流がはじまった? “インデペンデンスデイ “フランス共和国万歳” 引き裂かれる世界 深まる混沌 “今まで信じていたものが信じられない時代だ” 今、何が起きているのか

第6章 サイレントフォース

安永竜夫(三井物産代表取締役社長 2015年「32人抜きの社長就任」として話題に 発展途上国のインフラ開発への投資など新事業を開拓)
「まず我々が認識しておかなければいけないのはグローバル化の流れをつくり牽引しその恩恵を最大限受け取ってきたのは一番にアメリカだっていうことですよね。で、ヨーロッパも日本も同様にグローバル化の流れの中で我々は自由貿易を享受しその中で利益を上げ国の富を増してきた。アメリカにとってはそれは一部の富裕層に偏ったと。

グローバル化の流れの中で当然その製造拠点というものが自由に移動するようになり、そこでは産業構造・産業の成長過程の違うステージにあるアメリカの一般的な働き手とメキシコや或いはアジアの働き手がステージが違う地理的に離れているのに時空を超えて闘わなきゃいけなくなった訳ですね。

で結果的にどちらが得かっていうことだけで判断するとメキシコに工場を移転した方がいい、アジアに工場を移転した方がいい、っていうことがどんどん起こった結果として雇用の空洞化が先進国の中で起こってしまった。この空洞化の不平等を感じた人たちがまさにトランプさんに投票したということだという風に認識しています」

トランプ
「貿易協定を見直し雇用と産業をアメリカに取り戻す」

ニューヨーク モスガンスタンレーインベストマネジメントにて

セドラチェク
「ポストトランプの時代だね」

ルチル・シャルマ(モルガンスタンレーインベストメントマネジメント投資ストラテジスト 25年にわたり各国を調査 情報を分析『The Rise and Fall of Nations(国家の盛衰)』はアメリカでベストセラー)
「いま世界で『アンチ・エスタブリッシュメント(現代の支配層)』」の大波が起こっている。

興味深いデータがあるよ。10年前には現職議3人中2人が選挙で当選できていた。だがここ1年半ほどは現職の3人に1人しか当選できなくなった。ブレグジットにせよアメリカ大統領選にせよ『アンチ現職議員』『アンチ現在』の波が世界経済を襲っていると言える」

セドラチェク
「1年ほど前にある記事を書いたんだが…『スターウォーズ』は観たかな?『フォースの覚醒』だね。ある力(フォース)』が目覚めつつあると感じる。それはなにやら暗くて…閉塞感というか帝国主義的で尊大な『フォース』だ。ヨーロッパでもアメリカでも強烈にそれを感じる。

興味深いのはそのフォースは言葉や記事にもならず、主張すらしない。知性的な表現はまったくとらない。矛盾した言い方だがあたかも存在しないかのような…とても静かな力 サイレントフォースだ。

たとえばデモは知性に基づき声を上げ欲するものが明らかな表現だ。だがこのまだ名もなき新しい現象…『アンチエスタブリッシュメント』でもいいが…規制の権威の否定だけでなく『アンチ知性・学問』のようにも感じる」

シャルマ
「ロシアにこういうことわざがある。『歴史を無視すると片目を失う 歴史ばかり見ると両目を失う』とね。歴史に囚われたくはないが歴史における遠近法は大事だ。

二つのことを言いたい。世界経済においてはグローバル化と反グローバル化は繰り返す波のようだ。一度起きた変化は長く続くことに気が付いた。歴史を振り返るならば100年前にグローバル化の大波があってその後に反グローバル化の波が続いた。その反グローバル化はおよそ30年間も続いた。

つまり波はなかなか立ち去らないのだ。現在の反グローバル化がすぐ終わるとは考えにくい。いま起きている反グローバル化の波は強まる一方だと思う。反グローバル化の流れはトランプ現象やブレグジット以前から始まっていたからだ。

反グローバル化には3つの兆しがある。貿易・資本の移動・移民だ。すべてあの金融危機の直後から減少し始めた。以降逆流はずっと続いていて自然に変わるものではないはずだ」

ヨーロッパが一つになる それは儚い夢だったのか 押し寄せる市場の波に壁をつくる動きが広がっている

パリ政治学院にて

学生1
「イギリスのEU離脱、イタリアの動向、トランプ大統領誕生…いま僕らは『国民主権の回帰』を目の当たりにしている。フランスでも他の国でも国民は現状にうんざりしているのだろう。フランス、イギリス、イタリア、アメリカで今のままでは何も変えられないことに国民が気付いた。

失業者は大幅に増加し国によって違いはあるが移民問題が生じている。経済や政治の問題を変えるため国民は権力を取り戻そうとしている」

学生2
「今の経済システムのままでは資源が枯渇するだけではなく社会も枯れていくと思う。資本主義はプロテスタントの禁欲の精神が人々に富の蓄積を許したことで広まった。だが富の蓄積には際限がない。今や元の禁欲の精神は失われた。資本主義の欲望によって破壊されたんだ」

学生3
「富を蓄積するためたくさん働くか 慎ましい生活を送るか。それは人の自由だと思う。だが1億円ものボーナスを出している企業には規制が必要だと思う。それは社会の風潮がおかしくなっている原因のひとつに感じる。

『社会の信頼』を守るには人の欲望に限度をもうけるべきだ」

飽くなき欲望がお金を増殖させる それは大きなリスクを孕んでいた 潮目は既に2008年のリーマンショック・世界金融危機の時に変わっていたのか


第7章 危機後の世界

セドラチェク
「世界経済はどうなっていくのかな?あなたは世界に対してたしかな感覚を持っているよね。あなたの本などを読むとまるで各国に触れる『地球の指』を持っているかのようだ。」

シャルマ
「今起きていることで何より重要なのは成長できている地域は一つもないということだ。あの金融危機が起きる前のようなペースではね。

僕の本では世界を『BC』と『AC』で分けてるよね。危機以前(Before Crisis)と危機以後(After Crisis)だ。危機以前の時代より速いペースで成長できている国はまったくない。西欧だけじゃない。インド、中国、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル…どこでも。世界経済はスローダウンしている。

なぜなのか…理解は十分ではないが私はこれからかなり長い期間続くと見ている

ここで歴史を振り返ってみたい、現在だけを見るのではなくてね。いま人々が不安に思うのは2008年以前の時代とばかり比べるからだ。たしかに1950年~2008年は世界経済の成長率は毎年4%と高いものだった。重要なのは経済発展の全歴史を見渡した時こんなに急速に世界経済が成長した時代は他に例がないということだ」

世界の成長率 今だけを見るか 過去まで遡るか スケールの変化は景色を変える

シャルマ
「生産性が大きく上がった1870年~1914年のグローバル化時代さえ世界の成長率は2~2.5%に過ぎなかった。3%を超える成長をできたことなど過去に例がない。

2008年までと比べてなぜこんなに成長スピードが落ちたかもたしかに重要だ。だが歴史的に見れば世界は今でも急速な成長をしていると言える。1950年~2008年はさておきね」

原丈人(デフタパートナーズグループ会長 アライアンス・フォーラム財団代表/内閣府参与 ベンチャー企業育成のための政策提言や新技術をもちいた支援など国内外で活動)
「私は日本の事はそんなには知らない。っていうかまぁ日本の大学を出てからはアメリカ・イギリス・イスラエルを拠点に動いていますんで。外国にいる日本人という立場で日本を客観的に見て言いますね

70年代、80年代ぐらいまでは日本ってのはですね。米国とかヨーロッパでつくられるサイエンスやテクノロジーを小さく軽く安く薄くという方向が決まっていたんですよ。だからトップはそんなに判断しなくてもミドルだとか下の人たちがボトムアップでしっかりやっていけば会社ってのは発展したんですね」

安田洋祐(大阪大学准教授)
「じゃあマネジメントがある意味いい加減でも企業として発展することが出来た」


「私も79年からスタンフォードにいましたけど『The Art of the Japanese Management』というリチャード・パスカルとかね。日本的経営を非常に称える、アメリカもそうなるべきだって本をビジネスクラブで教えてましたよね。

でもそのお手本の日本も90年代になってきてそして2000年になっていくと、先端を走ると。こうなると方向性を決める役が必要となるじゃない。ここの訓練が十分にできていたのかというとこれはちょっと疑問があります。」

シャルマ
「いくつかの要因が1950年~2008年の世界経済の急激な成長を後押ししたと考えている。それらのファクターは危機後の世界には二度と戻ってこない。もっとも重要なのは人口統計データだ。1950年~2008年 世界人口の急増によって空前の労働力の増大が起こった。

だがいま世界人口の増加率には急ブレーキがかかり労働人口つまり労働力も同様だ。いわば『人口減少の爆弾』だ。以前は急速に人口増加していた国もそのペースは急激に落ちている。インド、中国など多くの国でね。

もう一つ重要なのが負債がピークに達したことだ。経済成長の原動力の一つは実際は国の借金だったわけで…」

セドラチェク
「GDPをGross”Debt(負債)”Productだね」

シャルマ
「世界の負債は1980年~2008年に増大した。それ以前はそんなことなかったが金融機関の規制緩和 低金利 低インフレ…1980年~2008年 それらが原因で負債は急増していきいよいよ巨大な負債のサイクルがピークを迎えたようだ」

セドラチェク
「直面する問題をあつかうための新たな経済モデルが必要だとは思わないか?従来の伝統的なモデルでは現在のデフレーション一つとってもほとんど触れられていない。理論的可能性としてあっただけでね。だから途方に暮れてしまう。教科書で学んだことが通用しないまったく倒錯した世界になってしまった。マイナス金利 巨額の負債…」

理論が追い付かない 現実の混沌

第8章 グローバルか ナショナルか

資本主義の世界を独自のアングルで捉える男の目には 何が映っているのか

安田
「あなたは経済にとどまらず幅広い見識から世界を分析していますね。どうやら経済学はお嫌いのようですが…」

エマニュエル・トッド(歴史人口学者 フランス国立人口統計学研究所 所属 旧ソ連崩壊 金融危機 イギリスEU離脱などの予言を的中)
「いや まあ そうだね。基本的には経済学は嫌いだ。支配的な学問としてふるまう限りはね。経済学のシンプルな原理ですべてを説明できるという考えには大反対だ。人の歴史はもっと複雑だ。家族制度 世界史 教育 宗教 集合心理…だが経済学はごく限られた範囲しか見ていないようだ」

安田
「経済学をお嫌いな理由のもう一つは多くの経済学者がグローバル化や自由貿易を推進する考えだからですか?あなたの本を読むとグローバル化に疑念を持っているように感じます。最近では『グローバルファティーグ(疲労)』という言葉を使っていますね」

トッド
「フランス語を英語に直訳しても意味が通っているでしょう。いま世界が需要不足に陥っているのは自由貿易が各国の経済を押しつぶし人々の収入の低下をもたらしたからだ。需要の不足 成長の低下は繰り返し経済危機を招くだろう。

私は保護主義の再来には問題を感じない。保護主義は各国の人々の給与を上げ経済成長を促すだろう。そうなればいずれ貿易が再び活発になるはずだ。今は貿易は停滞し成長は鈍っているが私には未来はポジティブに思える。

経済学者たちは世界をありのままに見ていないのではないか。世界は国家の集まりだ。安定や変化を導けるのはあくまで国という単位だけだ…」

安田
「しかしもしすべての国が自国の利益を追求したら、つまり各国が関税を上げて自国経済を保護したら世界経済に悪影響が起こりえますよね…」

トッド
「分からないじゃないか。経済学者たちは歴史をあまり知らないだろうが19世紀末のヨーロッパでは保護主義の時代があった。ドイツが始めて他国が追いかけたがその時は悲劇的なことは何も起こらなかった。各国の国内需要は増加し貿易は止まったりはしなかった。それどころか国々は豊かになり貿易は加速していったんだよ。

アメリカのエコノミストの頭の中は『世界の』需要のことばかりだ。自由貿易が需要を押しつぶしているという事を彼らは認めようとしない。それはケインズの原則を全く無視していることになる。

今朝買った『エコノミスト』を読むと世界の貿易収支を見てみると実に多くの国が貿易黒字を求めているのが分かる。例えば中国は黒字。日本も黒字に転じた。ヨーロッパは世界で元も貿易黒字額が高い。韓国も黒字 タイも黒字だ。

各国が貿易黒字ばかりを求めれば世界の需要の取り合いになり需要不足になって当然だ。今ケインズが生きていてこの『エコノミスト』を読んだら”世界はクレイジーになってしまった”と言うだろう」

やはりあの名前が 20世紀の巨人 ケインズ

ジョン・メイナード・ケインズ
「素晴らしいことにイギリスのビジネスマン 製造業者 失業者にとって明るい時代がやってくる。」

彼は考えた 社会の安定のため最も恐れるべきは失業者の増大 危機を回避するには国は借金をしてでも仕事をつくる そしてお金という血液を市場にめぐらせる 成長が止まったと嘆かれる今 彼の思想が再びもてはやされている だが

第9章~最終章
『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて


cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
by wavesll | 2017-04-05 21:27 | 小ネタ | Comments(0)

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第4章~第5章 書き起こし

第1章~第3章

前編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」20160103(Dailymotion)

第4章 幻想が、幻想を生む

東京証券取引所にて
トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)
「ここは"何処でもない国"のようだ。ある意味ここで日本経済の価値が決まっている。市場関係者の"アゴラ(広場)"はもう移動したんだ。"見えざる"デジタル空間にね。ここには何もないが全てが"ある"。お金はもはや物質ではなくこの市場の"役者"たちによる精神的同意事項にすぎない。そもそも僕らの欲望はバーチャルなものなのだ。

ピカソの絵が欲しいって?高額な理由はピカソの絵そのものにはない。信頼できる専門家がそれがピカソの絵だと認証するから高額なんだ。つまり人々の同意の問題なんだ。ある物の価値が宿るところは投じられた労働や物質ではない。価値は"欲望"と"満足感"が交わるところに宿る」

需要と供給の交わりで市場は動く そんな世界は幻想だったのか 人々の欲望が渦巻く中 増幅される 社会の捻じれ 20世紀 大衆の時代 大胆な経済理論を打ち出した男がいた 稀代の経済学者 ジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946)

彼は一風変わった美人コンテストを例に引き大衆心理の本質を言い当てた "最も美人だと思う人に投票してください。ただし賞金は最も票を集めた女性に投票した方々に差し上げます" この時何が起きるのだろう


セドラチェク
「自分は他の人の投票先を予想しているんだが他の誰かが予想していてまだ別の誰かが…これは一種の"無限ゲーム"で自分の好みを選んではいない。僕は他人の好みを予想しているのだ。

ここには多くの…本当に多くの意味が含まれている。一つ目はズバリ"株式市場"の本質を言い当てていること。私が"投票"する会社は自分が好きな会社ではなくたくさんの人が"好きであろう"会社だ

次はよくあることだね。"誰の好みでもない女の子が優勝する"。そして投票する人は"固定観念"を用いる。最も有利な戦略は女性ではなく審判たちを見ることだからね。固定観念は未来にわたってずっとこだましていく。誰の好みでもない女性が選ばれてももう誰にも止められない」

安田洋祐(大阪大学准教授)
「これはサブプライムローンのことも言い当てているかもしれませんね」

セドラチェク
「そうだね。悪質なローンを組み合わせて作った乗り物だったね。みんながシステムを信頼していたけど機能しなかった。ある意味どんなに神話的で観念的かが分かるだろう。一見数学的で分析的だと見える経済の分野がね。ナンセンスで無根拠な虚空のようだね」

自分の欲しいものではなく他人が欲しいものを予想し模倣しあう 欲望が行きついた錯綜する世界

安田
「経済学者はバブルなど市場危機を避けることに貢献できると思いますか?」

ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞 アメリカ大統領経済諮問委員会委員長 世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任)
「まず言いたいのは"悪事は働くな"、"害をばらまくな"ということだ。2008年リーマンショック以前 経済学者たちは莫大な損害をもたらした。多くの経済学者が…"他の"多くの経済学者がと言っておこうか。自由放任市場が万能だと売りまくっていた。"市場には自己調節機能があるからバブルなんて心配するな 市場を信じよ"ってね

"自己利益の追求"…経済学者が"インセンティブ"と呼ぶものは現代の市場経済では確かに中心にある考え方かもしれない。しかしアダム・スミスは間違っていたことがわかった。"自己利益の追求"…時に"強欲"が"見えざる手"によって社会全体の幸福を導くと言うが…"見えざる手"はいつも見えない。そんなものは存在しないからだ」

アルヴィン・ロス(スタンフォード大学教授 2012年ノーベル経済学賞受賞 市場の制度を設計する「マーケットデザイン」研究の先駆者)
「"見えざる手"は単なる概念だ。"市場の魔法"は魔法では起こらない。市場には必ずルールがある。そのルールは誰かが一人で決めたものではなく歴史の中で磨かれてきたものだ。"自由"市場はルールからの"自由"を意味しない。競争 協力 取引…"自由"に市場を使いたいならルールがそこにはあるはずだ。

経済学者たちもいかに市場を有効に使うかわかり始めたばかりなんだ。時に誤りを正しながらさらに良きルールを見つける手助けもできるだろう」

スティグリッツ
「21世紀の現在と18世紀では経済の様子は全く違う。あまりにも多くの経済学者が"経済学の父"アダム・スミスに頼りすぎている。自己利益の追求が"見えざる手"に導かれ社会全体の幸福をもたらすという理論…彼がそのことを書いていたのは資本主義が本格的に走り出す前の話だ。

確かに彼は素晴らしいアイデアをくれたが巨大企業などが生まれる以前の話だ。東インド会社などいくつかの大企業はあったがそれは貿易企業であって今あるような製造業は一つもなかった。

アダム・スミスが経済の行く末まで理解していたと思ってはいけない。彼に現代の資本主義の姿などわかったはずもないのだから。スミスが利益の追求という人間の欲望を見抜いた洞察はすごいが私たちが現代の資本主義を理解しようとするならば、たとえば研究開発やイノベーションが社会に果たす役割を考えないといけない」

アダム・スミスが知る由もなかった現代 技術がさらなる欲望を駆り立てる

第5章 欲望の果てに

安田
「今 技術のイノベーションがシェアエコノミーの基盤を変えようとしています。テクノロジーがなければUberなど新しい市場は生まれなかったはずですが…」

スティグリッツ
「新しい技術が多くの分野で社会に影響を与えてきたのは明らかだ。実際とても大きな利益も生まれているだろう。しかしそこで気を付けねばならないのは利益が大きく取引が拡大したからと言って社会にも価値があると考えるのは危険だ。

心配なのは働く人の扱いだ。そうした新しいプラットフォームが労働者の組織力を害してしまうこともある。仕事が減るだけでなく長い目で見ると賃金も下がり続けていくだろう。まさに市場を独占するからだ。今はそれほどでもないが労働市場にそのルールを適用しようという欲望は強大だ。」

スコット・スタンフォード(シェルパ・キャピタルCEO 元ゴールドマン・サックス社員 2013年ベンチャー投資企業を設立)
「型通りな言い方だが…今回は今までと違う。単に経済に衝撃を与えるにとどまらない。僕らクレイジーな奴らは本当に思っているよ。今僕らが目にしている変化は人類という種の進化の瞬間だと。

自動運転技術はここでもすごく話題だ。イーロン・マスク(シリコンバレーの起業家)が言ったこんなことも想像できるんじゃないかな。"自分で運転することが違法になる日が生きている間にやって来るだろう"って。」

安田
「運転することが違法?」

スタンフォード
「そうだ違法だ。安全じゃないから。人の脳は多くのことを考えすぎるからエラーが起きちゃうよね。イーロンが正しかったと仮定して話を進めていいかな。そんな未来の高速道路では"おい、人間が運転するならこの車線には入るな!"なんてね。路上駐車なんかなくなるよ。自動で走り回るからね。

Uber的な効率化よりもさらに進んだ自動化が導入されたら労働コストがなくなってサービスは正当な価格になるだろうね。」

スティグリッツ
「シリコンバレーでのイノベーションの価値を測るのは本当に難しい。彼らは社会の転換を促すものだと言うがマクロ経済学の統計を見ても生産性の上昇は認められないんだ。つまり…"我々の測定法が間違っている"か"誇大広告"かどちらかだろう」

安田
「資本主義の未来をどんな風に見てますか?新たなテクノロジーによって資本主義は変わっていくのでしょうか?」

スタンフォード
「面白い質問だね。今資本主義経済が大変化に直面しているのは疑いようがない。労働を基本としたシステムから高度に自動化されたシステムへの移行だ。

僕らは昔ながらの経済指標に足止めされるわけにはいかない。雇用率や生産性など成功の証しとされているものだ。いつの日か失業率は30~40%にもなるだろうがそんなに悲観することでもないかもいしれない。

もし人口の半分が働かなくてよくなったら今とは別の社会システムが必要だ。なぜなら資本主義は学生と退職者以外は人の労働に基づくシステムだからね。でも二人に一人が働かなくなったら…?答えは分からない。社会主義ではないだろうけどね。

過去に様々な社会システムの実験があったけどそれらがハイブリッドされた新しいシステムが誕生するかもしれない」

安田
「資本主義が自動化された新しいシステムに変わっていく…」

スタンフォード
「歴史を振り返ってモデルAとモデルBどちらがいいか?なんていう議論はやめにしたい。モデルCだ。ものの見方を変えたら新しい景色が見えるんじゃないかな。

何に満足を感じるかは人それぞれだよね。お金はその一つだろうけど名声を得ることが生き甲斐の人も多い。人からの"いいね!"をたくさん欲しがるのは自然なこと。だからFacebookやInstagramが"好かれたい"欲望をお金に換え大成功している。社会へのインパクトを測るような新しい"通貨"が生まれたら面白いだろうね。

夢見がちでクレイジーに聞こえるかもしれないけどそんな風に人々の"声援"を集めた人が報われるような社会に…自己満足に終わるだけではなくね。人間ってそういうものなんじゃないかな。人々を動機づけるクリエイティブな方法が生まれればいいと思うよ」

人間がそんなに利己的だとしてもその本性の中には何か別の原理があるー『道徳感情論』1759年 アダム・スミス

経済学の父アダム・スミスは『国富論』の前にもう一冊重要な書を著わしている 彼は気付いていたのだ 利己的な競争の他に社会にはもう一つのルールがあることを


セドラチェク
「アダム・スミスの書には困惑させられる。『国富論』では"社会を接着するのに必要な『糊(のり)』は自己利益。それだけで十分だ"と言っている。しかし もう一冊では全く反対の事を言っている。『道徳感情論』の一行目でこう言う。"人は何も得なくても他人に対して善行を施す性質を持っている"。完全に分裂している。社会の『糊』は『共感』というわけだ。

確かに私たちは赤の他人に対しても苦しんで欲しいとは思わない。挨拶は"どうぞ良い1日を"だよね。人はお互いの幸せを望み合うっていうことの証だ。まさか"どうぞ悪い日を"とは言わないよね。

ここにこそアダム・スミスに対する誤解がある。アダム・スミスは『社会には2本の足がある』と言ってるんだ。一つは『利己主義』もう一つは『共感』だ。もしも片足だけで立とうとすれば何か大事なものを失うことになるだろう。

アダムとイブが禁断の果実を口にした後彼らは葉っぱで体を覆ったという。それは人類の最初の所有だった。それがなぜ必要だったか?寒かったからか?そうじゃない『恥ずかしかったから』だ。

消費・所有は心理学とつながっている。アダム・スミスは経済学は数学を用いる『物語』だと気づいていた。数字によって説得力は増すがあくまで『物語』なのだ」

トランプ旋風 世界が逆流を始めたのか 欲望をめぐる物語は次のステージへ

第6章~第8章
第9章~最終章
『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて

cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
by wavesll | 2017-04-03 22:50 | 小ネタ | Comments(0)

欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第1章~第3章 書き起こし

前編「欲望の資本主義2017 ルールが変わる時」20160103(Dailymotion)

"富や成功"への欲望 "資本"は自由自在に移動する "消費"が資本主義のエンジンだ わたしたちはいつからこんな世界を生きているのだろう?ヒトとモノの間をお金が行きかう、際限なく膨張してきた資本主義。

"経済的豊かさ それを求めるのは人の本能だ" "イブは『欲望』に呪われた"

より早くより遠くへより良いものを 飽くなき欲望が加速する世界 市場の論理にすべてが覆われ一瞬先も予測不能なこの世界 そして今

トランプ「メキシコとの間に壁をつくる!」

流れが変わったのか。"「闇の力」が目覚めたようだ" 消費・成長・富への欲望 私たちは何処へ向かうのか "アダム・スミスは間違っていた" 経済学の父はあやまちを犯したのか "もう一度ルールを書き換えろ" ルールを書き換えよ "ケインズは「悪用」されている" "ケインズだったら「クレイジーだ」と言うね" あの男を呼び覚ませ "日本が成長を追い求め過ぎれば資本主義の「死」を迎えるだろう 『KAROUSHI』という名のね" "資本主義の「死」を宣言するのはまだ早い"

資本主義は何処へ向かうのか 世界の経済のフロントランナー達が紡ぐ欲望と言う名の物語

「欲望」は満たされることを望まない 「欲望」は増殖することを望む

太古からヒトは所有と交換を繰り返してきた ある時お金が生まれ市場が生まれ欲望の交換はこの貨幣なるものに託された やめられない、止められない


第一章 資本主義の、現在

資本主義 それはお金、資本を際限なく投じ増殖を求めるシステム

安田洋祐(大阪大学准教授)
「今 多くの国が低成長に苦しんでいます。それでも世界経済は成長し続けられるのでしょうか?成長し続けていくべきなのでしょうか?」

ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞 アメリカ大統領経済諮問委員会委員長 世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任)
「いま問題なのは世界の総需要が不足していることだ。そのせいで世界経済が減速している。それにはいくつかの原因がある。
まず中国の減速。"量の成長"から"質の成長"へ変化し世界に大きな影響を与えている。もうひとつはユーロ圏だ。数々の問題を抱えている。ユーロでは通貨の統合が成長を妨げてきた。

ただ全体としては別の要因が潜んでいる。不平等の増大だ。貧困層から富裕層へと富は吸い上げられ富裕層は貧困層に比べお金を使わない。これが全体の需要を押し下げ成長にブレーキをかけているのだ」

トマス・セドラチェク(チェコ総合銀行チーフエコノミスト 経済学者 24歳のとき初代大統領の経済アドバイザーに抜擢 チェコでベストセラーとなった著書『善と悪の経済学』は世界15か国語に翻訳)
「今の世界は資本主義かそれとも"成長"資本主義か。僕は"成長"資本主義だと思っている。みんな成長のことばかり気にしている。成長できなかったら「もう終わりだ」ってね。おかしいだろう、どこに書いてある?聖書に?空に?数学モデルに?過去に証明されたのか?ノーだ。資本主義が必ず成長するというのはナイーブな思い込みだ。

成長に反対なわけじゃない。いい天気が嫌なはずがないだろ。問題は社会 年金 銀行…すべて成長が前提となっていることだ。まるで毎日快晴だと決めつけて船を造るようなものだね。そんな船はダメだ。凪でも嵐でも航海できるのがいい船だろう。そりゃ天気がいいに越したことはない。でもそれを前提にして船を造ってはいけない」

スティグリッツ
「低成長は避けられる。もしもアメリカ ヨーロッパ 各国で考え方を変えることができれば成長は可能だ」

安田
「資本主義はこれからも持続可能だと考えますか?」

スティグリッツ
「市場経済はずっと続いていくだろう。市場経済のあり方には政治が大きく影響する。30年ほど前にアメリカをはじめ各国で市場経済のルールの書き換えが始まった。ますます不平等を生むようなルールに書き換えられたのだ。それだけでなく市場経済の効率性が下がり生産性の下落を招いたのだ。目先のことだけに人々が夢中になってしまうようなルールの変更だ。

長期の投資ニーズがあり長期の貯金をしている人々がいる。だが金融市場は目先のことだけで機能不全に陥っている。私たちの市場経済が招いた決定的な変化の一つだ。だから今再びルールを書き換えないといけない。これからのルールは繁栄を分かち合い、より成長しより公平な分配をうながすものでないといけない。実現できると思うし実行可能な目標だと思う」

セドラチェク
「共産主義だった国から来た身としては共産主義を捨てて資本主義をインストールしていたころ民主主義国家での資本主義は何よりも自由のためのものと信じていた。成長は良いものかもしれないけれどたとえるなら車の"最高速度"だ。それは大事なことか?そうだ。一番大事なものか?いいえだ。

確かに資本主義は"成長"のための豊かな土壌だ。しかしこの20年間で二つの関係がひっくり返って私たちは成長を資本主義の"絶対必要条件"だと信じ込んでいる」

東京の百貨店で
セドラチェク
「消費の大聖堂だね。いつもリュックひとつで旅をするんだ 僧侶みたいだろ。手でもてる以上の物は僕はいらない。自由はかつて"物からの自由"を意味していた。今や自由といえば"消費する自由"だ。消費できるほど自由を感じる。消費できないと自由じゃないと思ってしまう。だから毎日働かないといけない…。映画『マトリックス』でもあっただろ。いらないものを買うためにしたくもない仕事をする。エデンの園の呪いだね」

禁じられた果実 もうヒトは後戻りできない 消費への欲望 それを満たすための労働 果てしない欲望の無限回路がはじまる

セドラチェク
「『CUBE』っていう映画を知ってるかい?『CUBE』はカフカの不条理劇にも通じるんだが気がつくと四角い空間に閉じ込められていて…物語の終盤、実は自分たちが『CUBE』を造っていたことに気がつくことになる。

専門化した社会では自分のしていることが分からなくなる。フランスの哲学者ラカンはこう言った"分かっているけど止められない"。私たちの問題は分かってさえもいないことだ。どんなに働いても欲望を満たすだけのものは作れない」

第2章 成長は、至上命題?

スティグリッツ
「経済成長について話すときは"成長"の意味をはっきりさせないといけない。GDPは経済力を測るにはいい指標とは言えない。環境汚染、資源乱用を考慮にいれてないし、富の分配も社会の持続性も考慮されていない。問題だらけだ。経済における成長の本質をこの先変えていくべきだと強く思っている。

すでに明らかなのは物質主義的経済ー天然資源をじゃぶじゃぶ使って二酸化炭素を大量に排出するようなことは持続不可能だという事だ。もうそのような成長はなしえない。だが他のかたちの成長がある。まだまだ反映できるし新たなイノベーションを生み出せるはずだ」

安田
「その変化を起こすには何が重要ですか?」

スティグリッツ
「政府の政策が必要だ。テクノロジーやインフラや教育にもっと投資をしないといけない。地球の気温を2度も上昇させてしまったことで多くの投資が必要になっている。経済を整え新エネルギーに移行し都市構造を変える。私たちには巨大なニーズがあるはずだ」

新たな需要を生む変化 その予兆はやはりこの地(サンフランシスコ)から生まれるのか

スコット・スタンフォード(シェルパ・キャピタルCEO 元ゴールドマン・サックス社員 2013年ベンチャー投資企業を設立)
「Uberへの投資がきっかけで今の会社の共同設立者と出会った。立ち上げのかなり早い段階で投資をした。ごく小さい会社だったがアイデアに魅力を感じた」

彼はアプリでクルマを呼べる新しいビジネスモデルに投資した それは従来のタクシードライバーの雇用を奪う事にもなる 創造と破壊は裏表

スタンフォード
「テクノロジーは経済を活性化するか雇用を奪うだけか。そういうことは考えてない。そういう心配をするのは僕たちの仕事じゃない。僕たちは5億ドルを運用している。そのお金は僕たちのお金ではなくて出資するパートナーたちのものだ。彼らは自らの資本を僕らの投資に委ねてくれている。僕らに収入があるのは投資がリターンを生んだ時だけだ。資本金をコントロールするボスがいるのさ」

安田
「以前はゴールドマン・サックス(投資銀行)に所属していたんですね。投資の戦略や考え方で何か違いがありますか?」

スタンフォード
「面白い質問だね。考えたこともなかったな。はっきり言えることはすべての仕事は資本主義システムの中にあるんだよ。そもそもゴールドマン・サックスでも今の会社シェルパ・キャピタルでも目的は同じだ。短期間でお金を稼ぐこと。ただ今は常に新たなビジネスのアイデアを考えている。誰かの起業を手助けするだけでなく時には自分たちで新しい会社を立ち上げる」

お金、投じれば増えて返ってくる そんな資本主義のセオリー だがいつでも通用するわけではない

安田
「利子率はますます低くなっています。もう投資も成長も見込めないと言う人たちもいますが…」

スティグリッツ
「ケインズを始め 多くの近代経済学者たちは利子率の役割 調整機能を強調しすぎた。利子率より重要なのは借り入れのための"信用"だ。低い利子率は不況を招いている政策の結果に過ぎない」

セドラチェク
「クルーグマン(経済学者)の主張で同意できないことがあるんだが、彼の主張は"低い利子率で借金すれば"、"経済が好転して"、”借金を返せるようになる”。真ん中の文を抜いたらどうなると思う?違う意味が見えてくるよ?"低い利子率で借金すれば"、"借金を返せるようになる"。これは銀行員だったら警報ものだよね。危険すぎる。火で火を消そうとするようなものだよ」

スティグリッツ
「テクノロジー、インフラ、温暖化対策に投資すれば利子率なんてすぐに上がるさ!」

セドラチェク
「ナイフや火のようなものだ。コントロールできる代物じゃないんだ。利子率っていうのはどう扱っていいものか本当にわからないものだ。どんなにいい投資でも、高速道路・大学・研究機関とかを作ったとしてもお金は必ず返さないといけない。教育レベルが高くて優秀な経済学者がたくさんいて大きな潜在力を持っている日本のような国でも借金を返せずに苦労している

文明社会は"安定"を売り払ってしまった。そして無限に"成長"を買っている。僕らはいつもではなくとも時々成長をもたらす経済を作り出したが今は崩れかかっている」

安田
「人々の成長への期待が膨らみ利子という概念が広まったことは成長資本主義のそもそもの起源なのかもしれないですね。人々の考えを変えたのかもしれません」

セドラチェク
「その通りだと思う。利子はアルコールのようなものだ。どちらもエネルギーをタイムトラベルさせることができるから。

金曜日の夜にお酒を飲んでいると突然歌いだしたり…ほら、この国は"カラオケ"好きの国だろう?お酒が入っていると歌いやすいよね。"このあふれるほどのエネルギーはお酒が与えてくれたものだ"って思うかもしれないが、ノーだ。それは間違いだ。お酒がエネルギーをくれるわけじゃない。お酒がしたのは土曜の朝のエネルギーを金曜日の夜に移動させただけだ。

二日酔いは間違いなく翌日に来るがお金は40年も50年も時を超えることができる。こんな風に危機につながったりするんだ。エネルギーが消えてしまうのだ本当に必要な時に…」

カネは時を越え時がカネを生む この錬金術を何故ヒトは欲望したのか

第3章 魔術の誕生

セドラチェク
「西洋の古い書物を読んでみると実に皮肉で興味深いんだが必ず利子について論じられている。聖書・ヴェーダ(ヒンドゥー教の経典)・コーラン・アリストテレス。否定的な感情とともにね。なぜかわからないが利子は禁じられていた。歴史を振り返ると利子は"禁断の果実"だったんだ。富をもたらす一方で問題を引き起こしてきた」

利子、それは未来の利潤のため休むことなくヒトを働かせる これも、禁断の果実

そこにはある男の欲望があった 14世紀イタリア メディチ家の始祖ジョバンニ・メディチは利子を禁ずる教会の目を避け、フィレンツェとロンドンの為替レートの違いを利用し莫大な利益を得た 

カネは時だけでなく空間の差を利用して無限に増殖していくことに


"貨幣は元々交換のための手段 しかし次第にそれをためること自体が目的化した" アリストテレス

昨日より今日、今日より明日 増え続ける 欲望 その欲望を正当化し免罪符を与えた男がいる 経済学の父 アダム・スミス(1723~1790) 『国富論』(1776年) "それぞれが自らの利益を求めれば見えざる手によって社会全体も富み栄える" その理論は人々に欲望を肯定したのだ

安田
「そもそも資本主義の推進力は何なのでしょうか?」

アルヴィン・ロス(スタンフォード大学教授 2012年ノーベル経済学賞受賞 市場の制度を設計する「マーケットデザイン」研究の先駆者)
「市場の最大の機能は誰が何を欲しがっていて誰が何を持っているかすべての情報を集めることだ。供給と需要が一致することで魔法のように価格が決まる。その難しさは 情報を得て計画することなど誰にもできないことにある。なぜなら情報は多くの人々に拡散するものだからだ。そしてまた情報が市場に集まることで最適な結果が生まれる」

安田
「世界の利子率は下がり続けてマイナス金利の国もあります。資本主義の終わりの兆しを語る人々もいますが?」

ロス
「資本主義の死を宣言するのは早計だ。資本はリターンを得続けているよ。シリコンバレーに住んでいるんだが多くのビジネスが集まっているのは今も新しい会社が利益を上げているからだ。もしもマイナス金利が続いたとしても新しい形の金融取引が発展し金融機関の資本はリターンを得られ続けるだろう」

スティグリッツ
「市場とはある日誕生したのではなく進化しつづけてきたものだ。何千年も前の市場経済はとてもシンプルなものだっただろう。私が思う大変化は産業革命だった。資本主義は科学と技術を両輪としている」

発明 イノベーション 大規模化 成功すれば競争相手に一歩先んじ生産効率を上げられる その加速は止まらない

スティグリッツ
「このダイナミズムによって人々が農作物を市場で買ったり女性が家で編み物をしていたような原始的な市場経済からより大規模な会社ほど有利で経済規模を拡大できることになった。そしてイノベーションが駆動する経済だ」

スタンフォード
「私たちはより効率化する方法を常に探しているんだ。経済学でいうところの生産性だね。労働力が変わらないのに成果物は増える。そして利潤 成長 波及 創造的破壊を追究する。いかにして効率的な進化がなされない古い産業を駆逐するか。市場をとれ。需要と供給が働きあって加速して規模の効果が働いて新旧交代が起こる。それがイノベーションだ。そして消費者をハッピーにするんだ」

思想 そして技術が 欲望を開放し 資本主義は成長がかかせないシステムへと変貌した

第4章~第5章
第6章~第8章
第9章~最終章
『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて

cf,
アダム・スミス 著, 山岡 洋一 訳 『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究』 読書メモ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む
by wavesll | 2017-04-03 22:15 | 小ネタ | Comments(0)

ラルンガル・ゴンパ 天空の“宗教都市”~チベット仏教・紅の信仰の世界~をみて

NHKBSプレミアムでセルタン・ラルン五明仏学院(ラルンガル・ゴンパ)への取材がされていました。
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世界最大の仏教僧院。斜面にひしめいているのは1万を超える修行僧の小屋。
仏の教えに生涯をささげる修業が行われているチベット仏教都市。

中心にある大経堂で僧に話を聴くと"チベット仏教の話はしたい、しかしそれ以外の話は何もしたくない"、と。
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止語(私語禁止)の、お堂の中で唱えられるお経は、JVCのワールドミュージックシリーズとは異なり、寧ろ南太平洋の島国の歌のような柔らかなハーモニーがありました。
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ケンポ・ジグメ・プンツォ師が何もなかった土地に粗末な小屋を建てて修業をはじめたラルンガル・ゴンパ。"他者を害することなく自己を律しろ"という遺言は固く守られているそう。
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お堂の前では"問答"の修業が行われていました。
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『例えば花瓶の存在を考える 花瓶が"生滅変化する形成物"でない「苦」であるならそれは"生滅変化する形成仏"ではないのか?』
『同意する』
『ではその同意の意味は何ぞや?』
『同意したでしょう』

チベット仏教ではあらゆるものが如何に存在するか厳密な論理があり、それを理解するために問答の修業が重視されているそうです。
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女性もジョモ(尼僧)という修行者がいて、結婚することなく仏の教えに生涯をささげています。

修行者も建物も統一されている紅の赤は、世俗を離れ仏門の世界に入った神聖な色。
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山の上のギトゥル・ラカン(幻化堂)にはチベット人だけでなく漢族も各地からやってきてマニ車を回していました。
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手足を投げ出し仏に祈る"五体投地"という礼拝もされていました。
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"善い来世のため"に北京から祈りに来る女性もいました。
"輪廻転生"から解脱し極楽浄土の世界へ行くための地。

番組ではツェテン・トゥンドゥプさんという31歳の僧侶に取材します。
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肉は一切食べず、毎朝真言を7000回唱える。

もう17年も世俗の社会から離れ、悟りの境地、解脱に達して将来この世のすべての命、衆生を救うために修業を重ねています。
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「世俗の行いに時間を費やすべきではありません」と語るツェテンさん。31才、私と同世代の彼の言葉に衝撃が沁みてきました。

彼らの生活は家族からの送金や一般信者からのお布施で賄われています。
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この地では宗教で悟りを目指すことが価値ある姿だと認められ、社会の中で尊ばれている。

先ほどの問答もそうですが、世俗にいる私の眼から見ると、言葉は言葉であり、身体的な行為の実装を伴わなければ実行力がないと。

アダム・スミスが『国富論』で語ったように、宗教の社会的な価値は余った財で貧困な人々を食わせる事だと考えていたのでした。

そこに『人生は幻』、命は今のこの世だけでなく輪廻転生する、この世で功徳を積み、来世へ繋ぐことを信じる彼らの人生観は、"人はパンのみにして生きるにあらず"を超えて、世俗的価値観、より富を高めていくこととは違う精神世界がこの星で成り立っているのだと。

先ほどの問答もそうですが、仏教を一つの学問を究める道だとすれば、"チベット仏教の話はしたい、しかしそれ以外の話は何もしたくない"、と言う言葉も分かります。

学問の道を究めることは一つ世俗とは離れる處がある、そう思います。

それでも、現金収入を得るために中国企業で働くチベット人が増加し、子供への教育も中国語で行われ、中国化がここチベットでも進んでいます。

利便性・物質的な豊かさの誘惑と、伝統的な文化の独立性・精神的な豊かさの対立が、ここでも起きているのか…と想っていると、ある僧侶の部屋にはリンカーンとオバマのポスターが張られていました。

曰く、「(平等な)社会を作るための貢献をし、彼らの言葉は仏教の言葉に似ている、社会の問題を解決したから貼っている」と。
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現代社会の矛盾を大きく孕む合衆国に、古来の伝統を大切に守るチベット僧が共感を得ているというのは本質的な自由さとは何かを考える上では面白いと想うと共に、それでも多く食える人が増えることは幸せなことだし、"何が価値なのか"をみていて逡巡しました。

競争や争いが人間の本能に組み込まれたものだとしたら。殺生を禁じる宗教は貴いけれども、現実の権力闘争は精神的な行いでは止められていない。

自分を守るための矛がなければ、他者を害することなく自己を律すことすら無理なのではないか?
欲望を利用し"理想"を試みるバーリトゥードな相手と対峙しなければならないのだから…。

そう感じながら番組をみていると、中国共産党がラルンガル・ゴンパに仕掛けてきました。
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山の中腹に掲げられた<プンツォ様 私たちをお守りください>というチベット文字の横に中国語で<共産党と心をひとつにし"中国の夢"を築こう>というスローガンが掲げられている。

ラルンガル・ゴンパから人が消え、皆が小屋の中でひっそりとしました。

"他者を害することなく自己を律しろ"という教えは、信仰は本来個人的に高みへ達する事であり、他者に強いるものではないことを示しています。

本来は思想や主義もそう、完全に自由な中で意思決定がなされるのが理想。

しかしこの世の中には"他者を意のままに巻き込みたい"とする勢力がいて。

そして様々な組織、個人が人の上に立とうと争い続けている中、"自分だけが世界とは関係なく解脱を目指す"ことが不可能に近くあると共に、自慰的な行為なのではないか?人を治める世俗的な指導者がいないと、理想は空転してしまうのではないか?そう想いながらみていました。

その上で、世俗的・物質的に"人々が生命活動を行うことができる"上で、"どう生きるべきか"という精神的な問いが必要になってくると想ったのです。

ラルンガル・ゴンパでは十年間の仏教理論の学習が求められます。
毎年”問い方”と"答え方"の試験が行われます。
難解な知識の理解が15分の問答試験で行われ、その後3時間の筆記試験が。
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この"問い方"を求められることがいいなと。

大学教育における卒業論文もそうであるように本来学びの道にいる者には"良い答える"だけでなく"良い問いを生み出すこと"が求められるし、それは聖俗関係なく必要な能力だと想ったからです。

"情報"の価値がインターネットによって完全に破壊されてしまった現代、単純に情報量があるだけでは、もう価値がない今、"情報の身体性"はつまるところ"良い問いを生み出すこと"と"良い解を出すこと"。

古来からの学問のシンプルなセオリーですが、何かをインプットするときは、"問いと解"を意識しなければならない。単なる情報の羅列では価値は生まれない、そして知識・知恵に溺れることなく、"善い人間であろうとする心"を持たないと、全ては虚ろなものになってしまう、そう改めて思いました。

番組終盤、チベット仏教で行われる"鳥葬"が取り上げられました。
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人が死を迎えたとき、魂はその肉体から分離し、この世で漂い始める。ジョモ(尼僧)の真言は魂を慈悲深く供養すると信じられている。その後49日をかけ魂から人間的な感覚が失われ、次の再生の世界へ向かう。

亡骸が鳥葬場に運ばれ、閻魔の衣装を纏った鳥葬師によって、ハゲタカに捧げられる。
ハゲタカは魂を天界に運ぶ女神、"空行母"と信じられていて、ハゲタカに食べられることで、ハゲタカは腹いっぱいになれば他の動物を襲わず、別の命が救われる。

善き生まれ変わりになるための最後の功徳が鳥葬。

鳥葬師に輪廻転生の話を聴かせてほしいと頼むと、彼は「そのような質問に答えたこともないし、答える言葉も持ち合わせていない」と断った。

その代わり、お経を唱え始めたのです。

"この世に我も他者も存在しない 神も悪魔も存在しない
全ては無であり 悪も善もない 苦も楽もない 世俗も解脱もない
私の躰は供物として 鳥である空行母い献じます"
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まるでジョン・レノンの『イマジン』にような歌詞じゃないか。
"ポワ(魂の移転)"のお経だそうです。ポワってオウム真理教によって穢されてしまったけれど、本来はこんなにもロックな、身も蓋もない真実を言い放つ詩だったのか。

ボブ・ディランがノーベル文学賞を獲ったのも記憶に新しいですが、ロックミュージックの真価は真実を歌うことで社会に風穴を開けることで、だからこそ宗教指導者のような凄味を持っていたのだなと、ラルンガルの光景からそんなことを想起しました。

最後にツェテンさんのチベット語の読み書きを教える学校での活動と、2017年1月にツェテンさんの妹のユシィちゃんを訪ねた映像が。

"自分の故郷をどう思う?"という問いに応えたユシィちゃんの笑顔が眩しかったです。
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cf.
コーカサスに想う敬虔な質実さと都会の華美さのあいだ

by wavesll | 2017-03-13 21:01 | 私信 | Comments(0)

新海誠監督のユビキタスな映画表現のアニマ性

映画『言の葉の庭』予告編映像


雲のむこう、約束の場所 予告編 (The Place Promised in Our Early Days)


この数日は日本アカデミー賞からフジテレビで放送された『アナと雪の女王』まで、映画な週末でした。

中でも金曜の深夜にテレ朝で放映された『言の葉の庭』と土曜の昼にAbemaTVで放送された『雲のむこう、約束の場所』は印象深くて。

新海誠監督のフィルモグラフィーの時系列では『雲のむこう~』の方が先の作品で。
初恋、宮沢賢治的詩情、軍事SF、そして光や雲の風景表現。新海作品のエッセンスがあって面白かったです。

そこから時を重ね、表現が洗練された『言の葉の庭』は『君の名は。』の前作。
冒頭の雨水のアニメーションから真に美しい映像美が素晴らしくて。そして憂いを秘めた物語がまた非常にマッチした作品でした。時間も50分くらいで纏まっていて、非常に好みでした。

フィルムの流れを見ると、最初はヲタ的な色が濃かったものから、文芸作品の詩情まで匂いを変え、そして『君の名は。』では憂いからポジティヴへとメタモルフォーゼし国民的大ヒットを創る。新海監督は地力と野心があるなぁと想います。

そして興味深いのは、飛行機でみた『君の名は』も面白かったし、AbemaTVをPCでみても素晴らしさが伝わる、新海作品は画面を選ばない点。

日本アカデミー賞で『シン・ゴジラ』の映像流れていましたが、TVでみても全然わくわくしない。映画館のサイズだからこそのあの血沸き肉踊る昂りと恐怖。『ゼロ・グラビティ』もそうですが、こういう映画は劇場でみてこそだととても想います。

一方で新海作品の魔法は主に映像の美しさからきている印象で、ストーリーは結構ベタというか、寧ろ現実的な理と色濃い感傷をヴィジュアルが魔術へ持っていくと感じるのですが、PCや飛行機の座席画面でみてもその魅力が損なわれない、ヴィジュアルの面白さが画面サイズを選ばないというのは凄い、物語と共に本当にアニマが発動していると感じます。

ヴィジュアルの凄さと音楽の素晴らしさというと『君の名は。』は『アナ雪』との関連で語られるところもあるかと想いますが、TV放映された『アナ雪』は"え?こんなものなのか?"という感じではありました。

確かに氷のCG表現の卓越さは魔法的な域へ達していて、『レリゴー』も改めていい歌だなぁとは想ったのですが、ターゲット層(女児)ではなかったというのと、やはりこの映画も劇場空間がなせる技が胆なのかもしれない、と。

勿論、そういう作品だからこそDVD待ちではなく映画館でみたくなると想いますし、実際最近は声出し上映や、MAD MAX 怒りのデス・ロード BLACK & CHROME at 川崎チネチッタ LIVE ZOUNDのような爆音上映など、劇場ならではのプロジェクトが実現されていて面白くなっています。私などはそういうのでないとあまり劇場では見ない人間だったり。

ただ、その上で新海作品の持つ"画面サイズを選ばない凄さ"は映画にさらなる革命を起こすのではないか、すぐに考え付くのはスマホメディアの国民的"映画"作品をこの人は創る最初の人なのではないか、なんて考えた週末でした。

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by wavesll | 2017-03-05 22:28 | 映画 | Comments(0)

現代に蘇る『曽根崎心中』の"舞台裏" ー『杉本文楽』&『ちかえもん』

c0002171_2032898.jpg如月晦日、熱海へ紅白梅図屏風をみにいったのですが、展覧会が開かれたMOA美術館のリニューアルをディレクションし、自らの『海景』『月下紅白梅図』の作者でもある杉本博司さんが『曽根崎心中』を近松門左衛門のオリジナル版で上演したと聴いて。

是非みてみたいなぁと想っていたところ、DVDが出ているということで手に入れ鑑賞しました。
この『この世の名残 夜も名残 ~杉本博司が挑む「曾根崎心中」オリジナル~』、予想外にもメインはNHKの杉本の舞台製作を追ったドキュメント番組でした。ただ本編でも舞台本番映像があり、特典映像に30分強の舞台の様子が収録されておりました。

そもそも私が『曽根崎心中』に興味を持ったのは昨年にNHK木曜時代劇で放送された『ちかえもん』というドラマが契機で。

スランプに陥っていた近松門左衛門が大阪の街で起きた騒動に関わることで『曽根崎心中』を書き上げるまでをコメディタッチで描いたこの作品がとても面白かったのです。

実際に近松門左衛門が『曽根崎心中』のインスピレーションを得たという大坂堂島新地天満屋の女郎「はつ(本名妙、21歳)」と内本町醤油商平野屋の手代である「徳兵衛(25歳)」が西成郡曾根崎村の露天神の森で情死した事件を縦軸に様々な仕掛けがあるドラマで。

松尾スズキ演じる近松門左衛門が歌う昭和歌謡の替え歌がBGMで流れたり、アニメが挿入されるなど時代劇に馴染みがない人間でもとっつき易い演出と、松尾スズキや小池徹平等役者陣の好演、そして脚本の妙ががっちり嵌っていたのです。

"ちかえもん"のキャラクター造詣が、燻るアーティストで情けないオッサンというのが人間味にあふれていて。マンガ世代にも響くキャラクター性がありました。

私はスポーツを試合だけがっつり見続けるファンではないのですが、スポーツ漫画は大好きで。試合に至る人間模様には心打たれるタチでして。

『ちかえもん』は"創作の舞台裏"という点では『G戦場ヘヴンズドア』もかなり近いものがあるのですが、何よりもこの作品には『あしたのジョー』のような、"輝く表舞台の裏側のドラマ"が本当に見事に描かれていました。

さて、そんなこんなで『ちかえもん』を機に『曽根崎心中』に興味を持ったのですが、現在文楽で上演されているのは1950年代に復活したヴァージョンで、近松のオリジナル脚本ではないと。

そこにこの杉本曽根崎心中の話を聴いて。勇んでDVDをみたのですが、舞台製作のドキュメンタリーには大変興味深い"舞台の裏側のドラマ"が写されていました。

杉本さんにはちょっと複雑な気持ちも個人的にありまして。男の嫉妬は見苦しいですが、現代美術家全般に感じる"巧いことやりやがって感"とでもいうか、昨年の東京都写真美術館でのロスト・ヒューマン展でもコンセプトとそれを成し遂げる資本力は凄いけれども、実装はまだぬるいところがあるなぁと想ったり。

けれども流石写真の『仏の海』は本職仕事だったし、MOA美術館のディレクションも素晴らしくて。NYに拠点を置くことで"国際人としての日本文化理解"は転がる岩に苔は生えずとも、一種外側からの視点ともいうか、今回の『曽根崎心中』の原点に返る試みは古民家の黒ずんだ木材を彫刻刀で削ったような真新しい感触を古典に与えるとも感じて。

実際、現行の昭和verの『曽根崎心中』と比べ近松の原文verは字余り字足らずがあって節回しに難がありました。しかしこの"違和感"が"臨場感・リアリティ"に繋がると文楽の人間国宝たちに新鮮な風を吹き込んでいたのです。。

また杉本演出はただオリジナリティをなぞるだけではありませんでした。

通常文楽は人形遣いの腰から下が隠れる板の後ろで演じられ、縦の移動はないのですが、杉本は会場となったKAATの舞台を活かし、縦にも動く演技プランを提案。さらに文楽は通常明るい中での人形劇なのですが杉本は暗闇の中での劇を提示します。

現代の感覚で原点を演出する。ここは杉本さんの確固としたVISIONと、それを成すだけの実績があるからこそ実現できるなと。

そのコンセプトの企画を通すために、様々な舞台装飾の見識や、センスを裏付けするロジカルな部分、これは現代美術アーティストだからこその仕事だなと感嘆しました。

MOA美術館での展示でも映像作品に挑んでいましたが、杉本さんがあえてクオリティには目をつぶったように見えても新分野に挑むのは、いつまでもクロック数を若々しく火のような心を持ち続けるアティチュードなのかなと想いました。

そして『曽根崎心中』のプロジェクトには、杉本さんのアイディアを身体化する浄瑠璃の達人たちがいました。文楽の巨匠たちの手で無理難題の発想が実装され、夢のような舞台が創り上げられ、満員の観客を幽玄の熱界へ連れて行って。

歌舞伎もそうですが、浄瑠璃も"浮世絵の実写化"のように感じて。今の2.5次元舞台もそうですが、日本には二次元と三次元の狭間の感覚があるのかもしれぬと想いました。

最終的にはヨーロッパ公演まで舞台はロールし、まさに"国際的な日本感覚"が立ち上がっていたこの曽根崎心中。理想化された悲恋の物語、もし再演があるならば是非見てみたいです。"表の舞台"と"裏の舞台"、現実は物語とはまた異なるけれども、その"素の味"も含めて大変愉しめました。

cf.
俺たちの国芳 わたしの国貞展@Bunkamura ザ・ミュージアムに行ってきた

シネマ歌舞伎 『スーパー歌舞伎II ワンピース』をみた
by wavesll | 2017-03-01 21:32 | 私信 | Comments(0)

笑点だけじゃない、テツandトモ 顔芸動画

笑点




ルパン三世のテーマ(3:43~)


踊る大捜査線


あまちゃんのテーマ


あまちゃんなんかもやってたんですね。渡鬼とか古畑とか、どこかでやってないかなぁ。顔芸だけでDVD出してほしいw
by wavesll | 2017-02-15 19:12 | 小ネタ | Comments(0)

ジャーナリズムの公共意義 ―お笑い芸人VS原発事故 マコ&ケンの原発取材2000日をみて

お笑い芸人VS原発事故 マコ&ケンの原発取材2000日(dailymotion)
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NNNドキュメント「お笑い芸人VS原発事故 マコ&ケンの原発取材2000日」、大変興味深く観ました。

福島第一原発事故から6年弱、東京電力が行ってきた記者会見の最多出席者はなんと、お笑い芸人「おしどり」のマコ・ケン夫婦だ。芸人が場違いだ、とのバッシングを猛勉強で乗り切り、鋭くしつこく追求し、世に出て来なかった幾つもの事実に光を当てた。東電の会見者らが何度も沈黙したりタジタジになる事も。医学部中退のマコちゃんは子ども達や原発作業員の健康問題を掘り下げ、得意の突っ込みでにっこり笑って原発事故を斬る。

みて驚いたのは東電の隠蔽体質の凄まじさ。
原発が爆発したときの煙に放射性物質がどれだけ含まれているかも正されないと公表されなかったり、福島県北部では汚染が見られても宮城県南部で調査をしていなかったり。"そんな事もやってないのか"と驚愕しました。

そしてこの番組で最も驚いたのは国際シンポジウムへ行ったときにマコさんがオフレコで聴いた(しかしICで録っていた)言葉。

「今まで原発は"事故を起こさない"とセールスしてきたが今はそうは言えない。しかしこれからアジア・アフリカに50基つくる計画がある。だから"事故を起こしても大丈夫"と売り込む。原発事故が起きても住民が除染し住み続けるモデルケースをつくることが大切だ」

実際に事故が起きることを想定に入れればとてもじゃないけれど低コストなどとは言えない原発産業の権益で世界が回されてしまうのは恐ろしい話だなと想いました。

NNNドキュメント「お笑い芸人VS.原発事故 マコ&ケンの原発取材2000日」を支持できない理由というtogetterまとめもありました。福島に今も住んでおられる方々にとって、マコさんの存在は風評被害を招くような疎ましい存在なのかもしれません。また東電や役人としてはマコさんの指摘に答えることで全体の解決スピードが落ちてしまうという認識もあるかもしれません。

ただ、こういう人がきちんと勉強した上で訊くべきことを追及をすることで、例えば一消費者である私は"あぁ不正は許されていないのだな"と食品への"科学的知見"に対する一定の信頼を持つことが出来ます。

そういった意味では線量計を裸で地面に直置きするシーン等はマコさんや番組制作者側の知識への不安も覚えると共にマコさんを叩く菊池誠さんも誤りがあって、単純に1つのソースを妄信するだけでなく複数の視点をもって事実を検証するのが大事ですね。

東電の人も役人の人も限られたマンパワーで身を粉にして働いてくれていると思います。だからこそ、ジャーナリストを疎ましく想うのではなく、外部調査機関として意義があるのだと想いました。

公の役人、企業とジャーナリスト、そして私の様な一般人は、お互いに緊張感を持ちながらリスペクトをしあうことが大切なのでしょう。公や企業の人も人間で。しかし特権をもって振るったりする。それに対する批判的な視点はかかせない。

今マスコミはカスゴミとして厄介者の特権階級だと叩かれていますが、、必要な指摘を行うジャーナリズムが有用な場面はとても多いとこの番組を見て感じました。

本当の意味ではジャーナリストは問題提起だけでなく課題解決まで提案し実働できたらいいのかもしれません。市民運動はソーシャルエントレプレナーやクラウドファンディングと組み合わさることで実行力を持つのかも。


中々に見ごたえの合ったこの番組、2月12日(日)11:00からBS日テレで再放送されるそうです。一見の価値はあると想います。

cf. 「 福島産を全部避けるのが一番安全」は本当か!?(cakes 開沼博 / 俗流フクシマ論批判)
by wavesll | 2017-02-07 07:15 | 小噺 | Comments(0)