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「あるもの」の話

「あるもの」の話_c0002171_0435355.jpgここ数日、『この一冊で「哲学」がわかる!』という本を読んでいました。
10数人の哲学者の考えのエッセンスを、それぞれ一人当たり10~20ページぐらいで説明するという入門書で、かなり読みやすかったのですが、どうも著者のキリスト教的思想が説明を偏らせている気がしないでもないなぁと思いました。

しかし、こうやってソクラテスからソシュールまでの流れを見ていると、西洋合理主義がどうやって「神」を必要としなくなっていったのかがおぼろげながら見えてくる気がしました。このエントリはそういった感じの読書感想文です。

神、いわゆるゴッドは、日本で言う「カミ」とはかなり意味合いが異なるので、最初にちょっと説明しておきます。
「あるもの」の話_c0002171_0371517.jpgこの図で2次元で描かれている球は、日本人の認識宇宙だと考えてください。そして、日本人がいう「カミ」は認識宇宙の外にある事象を指しています。人間の理解を超えている者、力、現象がカミとなるのです。そのため、妖狐や平将門などもカミとして祭られますし、菅原道真もカミとして祭られます。善悪という基準ではなく、理解できないものがカミとなっていったのです。

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それに対し、西洋のgodは全知全能の神です。この神を設定することで、神(≒キリスト教)がわからないことはなくなります。もちろん、人間の認識宇宙は小さな円にとどまりますが、信仰と啓示によってgodの域まで辿り着くというのがキリスト教徒の基本的な考えです。更に日本と違うところは、このgodは善悪を判断する力を持っているということです。だから信仰と啓示によって、信徒は神の御心に従うことで、善を実行するという思想があります。

「あるもの」の話_c0002171_0543121.jpgその上でこの図を見てください。青い円が、人間の認識宇宙、青い楕円がキリスト教のgodの宇宙です。では、赤い楕円は何かというと、別の宗教の宇宙です。
根本となる人間自身の認識宇宙は同じでも、信仰と啓示の方向が違えば、その宗教内での宇宙は異なってくるのは当たり前です。
更に言えば、この青い円を古代の人間の認識宇宙、赤い楕円を現代の人間の認識宇宙と読み替えることも可能です。
科学の進歩により、古代では考えられなかったことが合理的に説明できるようになりました。そのため今は人間は神が創造したものではなくて、猿から進化したものだということを多くの人は理解しています。認識宇宙が広がったため、キリスト教の宇宙との矛盾が見つかるようになったのです。

歴史が進み、キリスト教を科学が超える部分が出てくると、哲学の分野でも神を必要としない考えが出てきました。この世には善悪を判断する絶対的な存在は無く、世界の創造者も無い。「あるものはあり、ないものはない。そしてあるもの、すなわち存在は、生まれれることはない。」つまり、<「あるもの」が「あるもの」から生まれたとすると、生んだ「あるもの」も別の「あるもの」からうまれたと考えねばならない。逆に「ないもの」から生まれたとすることは、「ないもの」はないのだからありえない。>という紀元前6世紀の認識に再び立ち返ることが出来るようになったのです。この世に絶対的な善悪はないのです。

唯一存在する絶対的なものは、自然の法則です。物理法則には誰も逆らえないし、大局的に観れば人間という種も本能のシステムからは逃れ得ません。善悪は関係なく、逆らえないものは逆らえないようにあるということです。それをsomething greatと呼ぶか、神と呼ぶか、法則と呼ぶかは人によるのでしょうが、それと善悪の概念とは無関係であることははっきりしています。

「あるもの」の話_c0002171_1182695.jpgどうにも唐突ですが、最後にこの宇宙には始まりも終わりも無く、ただ「あるもの」として存在するのみかもしれないという物理学の考えを紹介したいと思います。
150億年前に起こった宇宙の大膨張、ビッグバンは有名ですが、実は遠い未来にビッグクランチという大収縮が起こるかもしれないということが現在示唆されています。
いわば伸びきったゴムのように膨張が収縮に転じるという予測です。更に、縮みきった宇宙は再び膨張するかもしれないという予測も出てきています。まるでDNAを眺めているかのように、膨張と収縮を繰り返す構造を持ちながら宇宙は存在し続けているという考えです。この枠組みの中にはやはり宇宙の創造者は出てきません。「あるものはあり、ないものはない。そしてあるもの、すなわち存在は、生まれることはない」のですね。
by wavesll | 2005-03-21 01:21 | 小噺 | Comments(0)
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