阿部和重の『グランド・フィナーレ』は表題作と『馬小屋の乙女』と『新宿ヨドバシカメラ』と『20世紀』という短編が収められていて、大変面白く読めました。
特に最初の『グランド・フィナーレ』の主人公・沢見のナルシスティックな疎外感と絶望感は、まるで去年の自分をずけずけと描写されたような気がして気味が悪くなりました。
なんとも唯物論的な小説だな、と思います。1本目ではカメラ、2本目はオナホール、3本目では特に出てこないが4本目にもビデオというモチーフが登場しますが、それらは全て「現実の再現物」であり、現実には勝らないという思想が貫かれている気がしました。いわば、全ての表現物は現実(記憶)の再生の鍵に過ぎないということと、メディア自体が自立的に動き回る範囲を、小説という表現物で示そうとしたのかな。と思いました。
なんとなくですが、ひきこもりの人が読んだらとても共感を覚えるのではないかと、自分で自分のことをひきこもりっぽいと思っている人間としては思った小説でした。