映画『インヒアレント・ヴァイス』予告編【HD】2015年4月18日公開
![]() 横浜ブルク13でポール・トーマス・アンダーソン監督、トマス・ピンチョン原作、ホアキン・フェニックス主演の『インヒアレント・ヴァイス』を観てきました。 舞台は1970年代LA.大麻ですぐラリっちゃうヒッピー探偵が、元カノから持ち込まれた大富豪の失踪事件を追ううちに入り組んだ謎へ踏み込んでいくミステリー映画でした。 観ている内に感じたのはこのコミカルな感じは『探偵物語』みたいだなとか、『ロング・グッドバイ』のようなエッセンスもかなりあるなとか。これを深夜にTVつけたらやってたら、かなりの大当たり物件でしたが、PTAの映画の中ではまぁホームランではないかな、中ヒットくらい、って感じの面白さでした。 これは欲を言えば原作を読みたいですね。恐らく小説の方が深い感動を味わえそうな気がします。邦訳が出ている『重力の虹』、買ってしまおうかなと思わせるくらいの魅力はありました。 題名のInherent Viceとは海運用語で"内在する危険性"の事。卵は割れる、船は沈む、そのものがそのものであるために内在してしまう危機可能性は、ベトナム戦争を実行中の米国のインヒアレント・ヴァイスを示唆しようというテーマもあったのだと思います。 みていて、70年代だなぁと想う描写は、素晴らしい70s Musicだけでなく、社会情報インフラの面でも多くありました。何しろインターネットもない、監視カメラもない、GPS付きスマートフォンもない。これだけ隙間だらけの時代だからこそ、私立探偵というヒーローが成り立つのかもしれないと想わされました。 逆にいうと現在の犯罪小説では、体制側に立つ(=前述の情報システムを活用できる)人間でないと探偵役に立てないと思います。自然警察もの、あるいはスーパーハッカーの手助けを借りる形が多くなりますよね。 2015年の犯罪を描く上で、犯人が残した痕跡を追うために、指紋や靴跡と並んでwebデータを漁ることは必須です。女子高生が殺されたらLINEのやり取りやSNSでのデータから人物相関を追う描写が無ければモグリかよと思いますし、SNSやらなそうな中年オヤジが殺されたとしてもケータイの位置データを活用しない捜査は考えられません。 webが出来たことで犯罪が起きやすくなったでしょうか?いや、間違いなく体制側に利する様になったと思います。webのログを捜査することで、欧米ではテロを未然に防いでいますし、犯人自らが犯行計画を書いてくれるのですから警察側にとってはこんなありがたいことはありません。これから日本もマイナンバー制度が出来てIDと銀行口座情報と医療情報が紐づけられ、ますます管理社会が進んでいく、、我々の政府と管理システムに重大なインヒアレントヴァイスがないといいのですけれどもねw 有無を言わさず勝手に情報の痕跡が収集されてしまう現在・未来を舞台にしては、『インヒアレント・ヴァイス』の様な物語を描くのはなかなか難しいのでしょうか。 そこで想起するのは『笑い男事件』です。 士郎正宗が1980年代末にネット時代を描いた攻殻機動隊のアニメオリジナルストーリー、スタンドアローンコンプレックスで描かれたこの事件。 ほぼ全ての市民が脳を電脳化し、ネットに繋がっている社会、そこで拳銃で企業幹部を脅した犯罪者が、多数の人々に姿をみられていたにも関わらず、誰の電脳にもデータが残らなかった。その場にいた人たちの電脳にリアルタイムハッキングをし自分の痕跡を笑い男というマークで塗りつぶした事件は今改めてエポックメイキングだなぁと思います。未来の世界でかつてあったような何者でもない自分として枠から出る自由を得るためには、何らかの方法でシステムをハックするしかないのだろうなと思います。 実は笑い男の顔を覚えていた人間がいます。それは金がなく自分の脳を電脳化できなかったホームレスたちです。社会から棄てられた人たちだけが、社会に歯向う犯罪者をみることが出来たのです。 社会から棄てられた人たち。例えば日本でも近年、戸籍がない人たちの問題がクローズアップされています。戸籍がないと学校にも行けませんし、保険証もないし、生活上の不便は計り知れません。 また先日TBSのクレージージャーニーでルーマニアのマンホールタウンが取り上げられていましたが彼らも政府から見捨てられた人達でした。 マンホールタウンのボス、ブルースリーなんか北斗の拳みたいな見た目で、今私たちが生きている現在にこんな世界が実在しているのかと驚かされました。未来の小説では、政府から存在を認められていない人々がシステムと戦う話になるのかもしれないなぁなどと思いました。 さて、この星の中でも、社会管理システムが発達する先進国に棲む我々の時代で、インヒアレント・ヴァイスの様な私立探偵、まるで自由の象徴のような私立探偵というヒーローの物語は成立するのでしょうか? 一つヒントになるのは『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』。士郎正宗が2001年に出したTHE GHOST IN THE SHELLの続編です。ここでは一巻で活躍した公安9課はほとんど登場せず、そこから離脱した草薙素子が単独で事件を追う展開となっています。 自分の存在とは、大きな"システム"が作り出す支配に、どう個人として"一蹴り"いれるか。自由に生きるとはどういうことか。それがネット社会の果ての人類の未来にとっての大きなテーマだと士郎正宗先生は考えたのではないかと想います。 私は個人的に不満なのは、攻殻シリーズの映像化はほとんど『GHOST IN THE SHELL』に基づいたもので、MANMACHINE INTERFACEのエッセンスがほとんど感じられないことです。確かに攻殻2は作品として読みづらいし、荒いし、攻殻1の方が面白いのですが、だからこそ翻案やオリジナル・エピソードで膨らまし甲斐があると思います。その映像作品と、そして士郎先生による攻殻3.0が私は本当に体験したいです。 最後に、飛び切りホットな話を。2015年の犯罪として記録を残すだろうドローンを使った首相官邸への放射能散布事件の犯人のブログとされるものが発見されているのですが、そこには参考書の一つとして、押井守による「機動警察パトレイバー2 the Movie」が記されていました。
by wavesll
| 2015-04-25 04:29
| 小噺
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