nego - Ants
金曜の晩、ふと思い立ち、地元の漫画喫茶で深夜6時間パックで『テラフォーマーズ』を一気読みしました。火星に繁殖したヒト大のゴキブリと、昆虫の力を身に付けた人間たちの戦い。いやー、これが痛快無比に面白かった。 この面白さってあれに似ているなと想ったのは、初めて小説『バトルロワイヤル』を読んだ時。次から次へと新能力を持ったキャラが出てきて、生き死にのスリリングが描かれる。戦闘そのものの面白さ、火星へ送られる人たちはもはやそれ以外に逃げ場のない人間が多く、後がない状況で純粋に、任務遂行の為に命を懸けるところが痛快でした。 地球での世界各国首脳による政治戦は『沈黙の艦隊』を思わせ、昆虫の力を使う能力バトルは『ハンターハンター』のキメラアントを思わせる。集団バトルは『GANTZ』っぽくもあるかな。何より、一気読みしたのも作用したのか、このクライマックスの波状はドラマ24みたいだと思いました。そういった数々の作品のいい処の合成獣として、面白さがブチ上がった作品だなぁと思いました。 この年になると"良い作品"をみても過去作を想起してしまうことが多くあります。例えばチラ見した『妖怪ウォッチ』は、ポケモンというよりはドラえもん的な面白さを感じたし、『テラフォーマーズ』も上記したような様々な作品を想起させます。でも、それっていうのは何も悪いことではなくて、人間、10年前も、100年前も、1000年前も人間で、"面白いと感じる要素"は変わってないわけです。 先人が生み出したメソッドを土台に改善・創新していくことで、今の時代に合わせた作品が作られていくのでしょう。F先生だって、高見先生だってきっと素材となった元ネタは(漫画でなかったにしろ)あって、そこから膨らませていったのでしょう。 そして、昨日、朝方家帰って寝て、昼起きたらブックオフへ何かないかと立ち読みしに行ってしまいましたwひっさびさにマンガ読んだせいで一気に漫画づいてしまったんですw 貞本エヴァの読んでなかった部分を読み切り、あぁ、これで俺の中でエヴァは完結しきったなぁ、2015年に終われて良かったよかったなんて想った後、手を付けたのは宮崎駿『風の谷のナウシカ』。これが圧倒的な作品でした。 ここで『テラフォーマーズ』の話に少し戻りますが、これだけ話題になってたのに手を付けていなかったのはどうも絵柄が苦手な部類というのと、実際読んで思ったのですが、キャラの書き分けがイマイチ良く分からなかった部分があるかもしれません。そして実は『ナウシカ』もその細密な描写と書き分けが良く分からないキャラ描写がどうも苦手で、何度か漫喫で読もうとしては止めていたのです。今回ようやく読めるようになったのは、逆に最近漫画を余りよんでなかった分、漫画の面白さが新鮮で拘りなく読めたのと、歳を重ねて楽しめる範囲が広がったのかもしれません。 『ナウシカ』で描かれる戦争は、古典に描かれるような正調の戦争描写でした。自分が読んだ作品の中だと、『坂の上の雲』にも通じるような、矍鑠として誇りある尊敬できる年上の人物が出てくる戦争ものといった具合でしょうか。環境の腐敗、家族間での軋轢、そして脅かされる市井の人々、、、戦火の恐ろしさと、人間の清濁、そして社会が描かれていたのも印象的でした。 印象的なセリフに「苦悩の深さが、精神の深さだ」というようなものがありました。なるほどなぁと想うと共に、確かに『バトルロワイヤル』や『テラフォーマーズ』には"そうせざるを得ない戦"は描かれていても、そこに迷いはなく、最後は戦闘に純化していく姿が描かれていたなぁと思いました。単純と言っては憚りがありますが、戦争の現場で単純化される人間性を娯楽として見せすぎというか、ここに何らかの哲学を持った魅力ある敵キャラや、"正義"の方に"迷い"を描ければ、更なる名作になるかもなぁと思いました。”人間社会の玄妙さが失われるドラスティックな改革”に対して迷いを今自分が持っているという事もあるかもしれませんが現実に対立する敵が怪物である限り、自らも怪物へトランスフォームさせなければ闘えないと知りながらも、圧政者によって自由を失ってしまう。。難しい所です。 そう、"自由意志こそが本当に守るべきもので,生ぬるく意思のない平和ならば、対立や戦火があっても生きる意志のある方がましだ”という宮崎駿の強烈な思想を『ナウシカ』からは感じました。一種の楽園を拒絶する姿勢は、戦闘的ですらあります。この思想はシンジが人類補完計画を拒絶するという形で次代へ受け継がれましたね。 映画版『ナウシカ』は原作全7巻の1,2巻しか描けてないというのは本当で、その後の描写も描いてほしいなぁ友思っていたのですが、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』を思わせるシーンがそこかしこに合って、あぁ、こうして自分の原点を繋いで行ったのだなぁと思いました。そして『ナウシカ』自体も『オデュッセウス』の登場人物から着想を得たと。連綿と続く物語の日々を享受するために、改めて最新作と古典双方をDigっていく必要があるなぁなんても思いましたが、最後に今回こんなに漫画を愉しめたのは、勿論作品が面白かったのもありますが、久々にマンガ自体に触れた新鮮味もあると思います。 実際『テラフォーマーズ』は今は掲示板なんかでは「終わりつつある漫画」とされているようです。同じ刺激には飽きてしまいますからね。本当は演者だって、娯楽に餓えてる客に提供する方が意義深く感じるんじゃないかって想います。エンターテイメントで脳内麻薬出すこと、単なる消費に意味を見出そうとすると、シシュポスのような虚無に囚われそうになる。ましてやその刺激に飽きてしまっているのにまだ噛み締めようとする文句タラタラの客の為に書くことには、そして読んでいる方も幸せではないでしょう。 しかしそんな行為に意味があるとすれば、"本当に欲してる人に届けるために"産業を成り立たせる糧になっているということでしょうか。客として、あるエンタメに飽きたら無理しないで別のエンタメに行ったり、或いはエンタメ刺激を絶って、飢餓を得ることを望むと共に、今の文化生産者の夢のない経済状況を聴く限りでは、文化を支える人もまた文化人なのだなと想ったりもしました。
by wavesll
| 2015-06-14 16:47
| 漫画
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