常に最大の効用生産性を発揮するのが幸福なのか -ザック・リンチ/ニューロ・ウォーズを読んで

ザック・リンチ著『ニューロ・ウォーズ』を読みました。
c0002171_11502516.jpgfMRIによって進行中の脳の分析ができるようになって進んだ"ニューロ技術"を紹介する本書。

神経法学、マーケティング、金融、社交、美学、宗教、戦争、感情の整形、から論じる。6年前の本だが衝撃的でした。例えばこれから犯罪を犯すかどうかの意図を顔の筋肉から読み取る技術であったり、最前線で最大のパフォーマンスを行うことが求められるトレーダーや軍人は、ニューロ器具や精神に作用する薬を使って、人工的に"ゾーン"に入るようになるという話。藝術による脳内反応を分析して、より効果的な快楽を創りだせるようにしたり、神経内部の現象として神を捉えたり。

特に著者が力を書いていた法律面でのニューロ技術の導入の話は、分析の正誤の確率をしっかり話してくれたので、鈴木松美 編著 『日本人の声』よりも信頼できるかもとも想ったのですが、もう一つ深く書かれたいた軍事技術への転用の話は、"記憶を消す兵器"だったり"嘘をつけなくする薬剤"だったり、"すぐに筋肉が回復する装置"と俄かには受け入れずらい話でした。科学誌に論文が載ってる確かな話らしいですが。

受け入れずらいと言うのは、著者はこれからの20年は好むと好まざるにかかわらずニューロ技術を持つものが、競争に勝つ。トップ層の戦いに参加するためには、或いは敵に負けないためにはニューロ技術を推進しなければならない。とのことでした。

話を読んでいると、"悪の枢軸を打ち負かすため"との話が良く出てくるのですが、読んでるこちらとしてはアメリカこそが邪悪な技術を追い求める国家のようにみえてしまうのは否めません。

また、神経美容といって、記憶力を高める薬だったり、リタリンみたいなハイに慣れる薬が米国の学生の間では広く使われている。精神的な能力を補い増幅するために薬が使われるという話は、異様にも感じました。

しかし、それはアナクロな価値観かもしれません。"ニューロ技術は否応なく広がる"という著者の話は正しいと思うし、過去にはLSDも合法だった時代があったり、現代でもタバコとアルコールは摂取しているのは許されているし。実際日本でも神経美容薬と言うか、最近、あがり症に聴く薬、なんかのCMやってますよね。

或いは自分は"薬を使わない"ということを一つの誇りとして、薬を使わずに快くなるように音楽や芸術を使っているのですが、それはある意味、より良いオーガニック・ドラッグを探し求めているということかもしれません。結局目的は脳内麻薬を出すことなのだから、薬でも同じかもしれないし、それは素晴らし体験なのかもしれない。食わず嫌いなのかもしれません。

依存症にならない脳内麻薬発生装置ができたら、それはいいことかもしれません。『ウルトラヘヴン』のような世界が来るのかもしれません。

ただ、自分は、世俗的な生活ならば、精神の安定から最大の効用生産が行われると想うのですが、こと芸術に関しては、苦しみとか痛みとか哀しみとか、負の感情から名作が生まれること、あると想うのです。いつでもいつまでもハッピーで、常に最大出力で、最大の生産性を産むのが生きる目的なのか、そこには自分は一つの翳を観てしまう気もします。本書の中でも"悲しみが脳に深い感動を与える"とも書かれていましたが。

魔導技術のようなニューロ・テクノロジー、これらが世の中に広まり、森羅万象の全てが脳内の信号としてある程度把握されていく、操作されていく未来がやってくるのだな、と想いました。だからこそ、"生身の魔法"の価値が上がっていくのではないだろうかと想うと共に、ニューロ技術をその生身に掛け合わせるために使っていくのが、この先の世の中をヒトが生きていく方針なのかな、などと想いました。

人間の脳は1万年前からあまり変わってないし、特に感情をつかさどる部位は、哺乳類とか爬虫類脳とも言われています。技術をものにするために、身体がストレスを耐えられない負荷を感じていることからの軋轢は、ニューロ技術だけでなく、ある意味古代的な様式も重要になるのかもしれないと、この本を読んで逆に想った自分はやはりアナクロ爺の素養があるかもしれませんねw

Kenji Kawai - Cinema Symphony - Ghost In The Shell OST

by wavesll | 2016-03-05 12:37 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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