東横線に載っていると"和光市"とか"飯能"とか"森林公園"とか、なかなか神奈川からは遠く離れた地名を目にするようになりました。実は大学時代に志木とは縁があり、和光市は知っていたのですが、急に思い立って東横線の果てへ行ってみようじゃないかと鉄道の旅に出たのでした。
そして地下鉄を抜け地上に出たあたりで、遠く山並みが見えてきて、八王子の辺りへ来たような、都市を出た心持になりました。勿論、全世界で言っても、全日本で言っても街区ではあるとは想うのですが、海や山と言った巨大な規模の自然が眼前に見えてくる土地と言うのは、都心を抜けたなと言う気がします。 そして私は飯能から西武線へ乗って、終点、西武秩父を目指したのでした。 マット・リドレーは"都市への集中が更に進めばいい"といいましたが、西武線の車窓からみる光景は、ファウスト博士のような心持ちに私をさせました。まるでお伽噺の世界へ来たよう。大脳新皮質より深くにある古代脳が、"これこそ理想郷だ"と告げていました。これを維持するのは、都会のヒトにとっても価値のあることだろうと思います。 或る研究によると、建物の天井が25cm高いことが中で暮らす人の創造性を向上させるそうです。過密では、創造性の翼も折り畳まれてしまう。しかし先端的な産業は、規模の経済のもとでしか営むことは難しい。空間と思考、感性と経済、この問題はルネサンスの昔から産業革命を経て、現代の関東においてすら依然存在しています。空間移動と自然が色々な想起を巻き起こすことはこの旅行でも体験できたからこそ、都市と自然のどこに居を置くかに自然と考えが向きました。 そして、処変われば人変わるといいますが、趣味趣向、気質なんかもその地域の特性から少なからず影響を受けます。 例えば、何も悪口を言おうとしているわけではないですが、埼玉の郊外に来ると、私の格好が浮くというか、(特に身なりがファッショナブルなわけではないのですが)格好が周りと違う気がしました。ただ、それがその土地での評価に乗るかといえば、土地が変われば評価軸も変わる。所謂“普通の価値観”というのは局所的で、絶対的な基準ではありません。"玄人たち"が全世界規模で競う価値観のステージや、新たなスタンダード競争は別ですが、というかそれは"その世界の価値観"ともいえるのかもしれません。 そういった遷移を体験するのが、旅が持つ"枠外し"の機能だと思います。 20歳の時行った北京旅行で、精神的な成長(精神移動)に行き詰まりを感じた時は地理的な移動が気持ちに突破口を作ると書きました。社会の中での経済階級競争の観点から見ると、或いは学術的な成長という点から見ても、この10年は私は迷走していたかもしれません。ほとんど音楽と美術とtwitterにしか時間を使っていなかったかも。 幸いなことに、経済的にやってこれたこと、友人が出来たこと、恋人もできたこと、職場に関わることもできたことが、絶望から私を温めてくれました。そして職を辞し、今読学をし、小旅行へ行き想うのは"俺はこういう人間だ"ということかもしれません。ビッグダディのパクリじゃねーかw 地政学のように、人の性質は齢も30になればいい加減固まります。そして30になって想うのは、人間の能力にはそこまでの差はないという事。無論、適性はあります。少しの傾向の違いが大きな波としてあらわれます。それでも、一日に人が生産できる量、あるいは知的労働できる価値はそうはかわりません。その時違いをもたらすのは、勤勉さ。労働や技能向上に如何に勤勉であれるかが、仕事人としての価値を、大概は定めるのだと思います。 飯能へ戻り、またやってきた西武電鉄の車体をみると、『あの花』のイラストが描いていました。聖地巡礼という奴ですよね。物語のメタデータは土地と言う媒体には組み込みやすいと思います。仮想というか、雰囲気・物語・イメージというものが実利と結び付いていて、電気がそれを伝えているときに幽体が実体化する。知識産業に囲まれる幼年時代からそれを支える単純労働に以降するときのギャップ、それを巧く繋げなかったのが私のこの十年に及ぶ迷走の原因かもしれません。修行してれば悟りに近づけたかも(苦笑) 学習、というものが生産に結びつけるには、血肉化・身体化する必要があります。反復するルーティンとしての単純労働が仕事の基本風景だとも想います。そういった意味では、常に変わり続ける、そして面白いと思い続けられた"お勉強"ではなく、途中で挫折した部活などの"苦しい成長の壁"、或いは"集団の中の立ち振る舞い"も自分の中で必要だったのかもなぁ、と想うのです。 とはいえ、久しぶりに学術読書をして、こうして本を読むのも、一つの登山のような労力がかかることで、1頁1頁読み進めるのも、一つの身体的な向上かもしれないとも想いました。そして自分はそれが苦ではない人間なのだとも。 今読んでいる本、そして次に読もうと想っている本は高い山で、登る速度も遅いのですが(実際今日は70頁も進めなかった)、自分の今後の人生の指針になるのではないかと思います。 仕事を辞めて、気力が出来たからこそできる硬い読書、そしてこんな旅、日々の回転の流れから外れ、Qの様に飛び出ることで人生の転機を造る。自分は旅は(ありがたくも)しすぎかもしれませんが、"俺はこういう人間だ"の精神で、或いは"人間のルールは何も絶対的ではないのだ"の精神で、"旅したら美しいものに触れれるぜw"の精神で、自分という檻を外れ、澱を浄化し、また手の届く人々に、何か好い気持ちをさせられるように還ってこれるという小旅行を味わえました。 ”旅は枠外し"だと今なら言えるかな。何しろ、梅が咲き誇る一方で根雪もありましたから。秩父、凄い。6年前の山陰を想いだしました。そして今の自分はあの頃の自分より好きですね。あの時よりも少しばかり成長出来た気が、しています。フリーになり時が過ぎて、段々触応速度が上がってきている気がします。身体を意識し、精神の暴走を未然に防ぎ、足を地につけていかなければなりません。JKの脚に視線をつけていてはなりません。軽口出てるのは悪い兆候なんですが(苦笑
by wavesll
| 2016-03-09 00:20
| 旅
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