ETV特集 「曜変~陶工・魔性の輝きに挑む~」を観ました。
宋時代に造られ、製法が歴史の闇に消えた曜変。これまで現存する曜変は日本にある三碗のみでした。ところが近年、四碗目の曜変天目が中国で見つかり、科学分析で曜変を現代に蘇らせるプロジェクトに陶工が挑む!という内容。
宇宙の色のような美しく輝く曜変天目。鎌倉時代に日本に交易で来て以来、足利義政、織田信長、徳川家康…天下人達が曜変を手に入れようとした世上にないもの。
これが杭州の宮殿の迎賓館跡の地中から発見された第四の曜変天目。

中国へ向かう日本の研究者たち。日本にある曜変は全て国宝に指定されているため科学分析がこれまでできませんでした。ところが杭州の曜変は個人所有の為、交渉がしやすい。数年に及ぶ折衝の結果、科学分析させていただけることになったのです。
チームの一員にいる長江さんは瀬戸の陶工。父上の代から曜変天目に挑んでいます。
ところが、曜変は未だかつて再現できない技術、これまで曜変の再現に挑戦し、破産したもの、精神を壊したものも多数。
数学界でいえばリーマン予想のような存在。神域の御業ですね。
実際、長江さんが今到達している地点はこの辺り。左の国宝と比べると歴然としています。ぼやけてしまうというか。

この制作に、科学分析を行うことで研究を進めたいという願いがあったのです。
しかし、いざ杭州の所有者のところへ着くと、中国学会からの"日本人に科学分析データを渡すな"と圧力がかかり、残念ながら科学調査はお流れに。しかしそれでも、収穫がありました。発掘された曜変は割れていて、その断面から焼き上げの温度が1300度から1350度だということが推察されたのです。これまでの定説では1250度で焼かれているとされていたので、大きな発見でした。

それでも失意で帰国した長江さんに朗報が入ります。日本チームの一員で、国宝の曜変を擁する藤田美術館の館長が文化庁にかけあって、藤田美術館の国宝曜変を科学分析できる運びとなったのです。
この調査で判明させたいのは、曜変が持つ星紋とよばれる斑点の付け方。酸性ガスが釉薬を破裂させてできたという説と、重金属を塗って焼き上げたという説があり、長江さんは酸性ガス説を採って研究を進めていたのです。
蛍光X線検査で判明したのは、重金属を平均以上に表す数値は現れなかったということ。酸性ガス説が強まります。一方で、釉薬の成分としては長江さんと国宝ではケイ素とマンガンで違いがありました。



長江さんの父上がのめりこんだ曜変天目研究。長江さんは最初、一般の瀬戸物で商売がしたいと主張し、お父さんと軋轢を起こしていました。そして時がたち、そろそろ謝罪して仲直りし自分も曜変の研究をしようと考えていたところに父上が逝かれてしまう…そこから商売も放り出し、ひたすらに曜変研究に没頭する日々を過ごされてきました。
この黄色い曜変はお父さんの研究の成果。これはこれで素晴らしい出来です。

長江さんは、父の夢をかなえ、父を超えるために、科学分析を元に焼き上げます。
1st Tryでは酸化ガスの幽霊を最初は捉えられなかったのですが、椀の底には今までとは全く違うくっきりとした輝きが。そこに陶工の感を加えて微調整し、素晴らしい成果が!


しかし長江さんはまだ満足しません。曜変天目の完全再現を目指します。
自分は日本にある3碗の内、静嘉堂美術館のものと藤田美術館の碗は幸運にもみることができたのですが、京都龍光院の曜変と、杭州の曜変、ぜひ拝んでみたいなと思わされました。
そして何より、男の仕事への熱情、人生の渋みが滲む長江さんが曜変の技法を完成させた暁には是が非でも個展を拝見いたしたいと、強く想います。匠の究道精神に、兜を脱がされました。
藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗
静嘉文庫美術館の稲葉天目
cf.
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