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シネマ歌舞伎 『スーパー歌舞伎II ワンピース』をみた

シネマ歌舞伎 『スーパー歌舞伎II ワンピース』をみた_c0002171_1244197.jpgシネマ歌舞伎 『スーパー歌舞伎II ワンピース』をみました。面白かった!

原作は空島篇で脱落したのですが、エースを救うための頂上戦争篇はハンターを読むためかジャンプで読んでいて。そこを題材としていたらかなり面白いだろうと想ったら期待に応えてくれました。

まず驚いたのはヴィジュアルの違和感のなさ。特に男のキャラ達はかなりのドンピシャぶりで。ゾロ、サンジ、ボン・クレーなんかはよくぞここまで仕上げたものだと想いました。

ルフィ、エースはヴィジュアルは原作と印象は違いますがスピリットは良く現れていて、実際に人間が演じる歌舞伎版ならでは良さがありました。そういう意味では白ひげはその最たるもので、原作を超えたのではという位の魅力を放っていました。個人的な最高潮も白ひげの叫びの場面でした。

逆に女性陣は、まぁこれは歌舞伎だから男が演じるのは仕方のないのだけれども、どうにも老けて色気なく見えたのは残念でしたね。弾ける艶があったらもっと良かったのだけれども。

このシネマ歌舞伎、舞台版のダイジェストというか、アマゾンリリーとインペリアルダウン、海軍本部での戦いの一部がナレーションでさっとカットされていて。特にアマゾンリリーでの一幕がないとラストのアマゾンリリーでのシーンが効いてこないなぁと想いました。舞台は休憩挟み5時間もの長さだったようですが、せっかくならFullで流してほしかったなぁと想います。

カット処理がされたという以外でも、そのテンポの速さ、情報量の多さには目を見張りました。ファンタジー漫画の中でもその世界観が凄まじいワンピースだけあって設定の嵐に頭がヒートアップ。

ガツンガツンの展開にちょっとくらくらでしたが終盤になるにつれ骨太なドラマが展開されて。白ひげの叫びとエースの想いにはぐっと来ました。泣いている観客の人もいたなぁ。火拳とマグマのバウトの紅旗の演出も見事で。シャンクスの台詞で映画が終わっても良かったなぁと想う位の満足感がありました。

最もアンビバレンツな気持ちになったのは、この歌舞伎随一の名キャラ、ボン・クレーについて。インペリアル・ダウンではおかまキャラが大量に出てくるのですが、単純にTVのオネエ的な扱いというか。バカ騒ぎ要員としての扱いにLGBTの人の誇りを傷つけはしないかなぁと大きなお世話を想ったというか。Twitterのフォロワーさんでゲイの人がいて、あの人がこれ見たらムッとしそうだなぁとは想いました。

少年漫画を読むとき、少年はみな自分を主人公に重ねると想います。劇中でルフィは「お前は仲間を惹きつける魅力こそが最大の長所だ」と言われ、「俺は仲間に助けてもらえなければ何も出来ねぇ」と言う場面がありました。その『ダイの大冒険』以来の勇者の特長、この"仲間との絆"という点こそがワンピースとドラゴンボールの最大の異なる点に思えます。悟空もルフィも底の見えないシンプルさを抱えた人物ですが、ルフィは悟空よりも仲間の存在を求めている気がし、それが現代のヒーロー像、少年が求めるものなのではないか。そんな気がしました。

そのルフィの最大のダチであるボン・クレー。まさに漫画からそのまま抜き出でてきたような熱演、そして最大の良キャラながら、オネエ系と言う馬鹿にされるノリを背負わせることに暴力性を感じるというか、"主人公以外の人間は主人公の為だけに存在しているわけではないよなぁ"なんぞと世間を通ると大きなお世話を焼いてしまうのです。まぁポリコレばっか唱えたり総花的な演出を言ったりして作品の勢いを失わせてしまったら元も子もないのですけれども。と、いうよりこういう色眼鏡を気にする私自身が一番差別的である、と逆説的に言えるかもしれません。

ルフィ達の"海賊"という、犯罪集団でありながら己の正義と自由を究めようとする生き方、コミュニティは現実の存在では一昔前は『爆音列島』に描かれたような暴走族が破滅を孕みながら担っていたように思えます。Blankey Jet CityのPunky Bad Hipにある
『新しい国が出来た人口わずか15人 それも全員センスのない単車の乗りばかりが揃ってる 古い世代の奴らは金で何でも買い漁った だけど俺たちは自然の掟の中で生きるケダモノの世代さ』
な世界軸。「俺たちの国境は地平線さ」を超えて少数精鋭で世の中を引っ繰り返そうとする若者集団は現在でいえばFacebookのような学生起業のITベンチャーかもしれません。

その上で、どちらかと言えばシステムを維持する側の苦心ぶりが分かってしまう世代となってワンピース歌舞伎をみて心動かされるのは、白ひげやシャンクスといった仲間を愛し慕われそして世界のシステムの中で独立した場を創ろうとする男たちの姿でした。

私自身は集団の中で上手くサーヴィスと任務とプライヴェートの立ち振る舞いを鼎立させるのが苦手な人間でしたが、それぞれ家族が出来たり、友達と常に一緒という環境を離れてムカシミタイニハアソベナイ今だからこそすべらずに済むような気が今しているのかもしれません。それは共に独立しながら生き抜いていく仲間への敬意からで。

カイジの鉄骨渡りでいうように、我々の人生は個々に天空を渡る57億の孤独(あかり)なのだと想います。

だからこそ一緒に生きる人達は特別で。と同時に私自身も宙に地に、海に、道を歩んだり、創っていけたら。その途中で自由運動の途中で旅を共にする仲間との場を創れたら。そんな事を想った劇でした。

ルフィは劇中で大きな挫折を味わいます。それはただシンプルに冒険を邁進するだけだったルフィの人生自体に破壊的な衝撃を与えるくらいの不可逆的な喪失でした。その痛み、その苦みに人生の味を感じると共に、そこから立ち直る彼の未来を見届けたい気持ちになりました。

『スーパー歌舞伎II ワンピース』、なんと来年新橋で再演されるそうです。それもみてみたいけれど、『スーパー歌舞伎II ワンピースII』もぜひみてみたい。楽しい時間を過ごせました。

cf.
超歌舞伎 「今昔饗宴千本桜」@ニコニコ超会議2016を観る

by wavesll | 2016-11-11 21:42 | 舞台 | Comments(0)
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