欲望の民主主義 世界の景色が変わる時 第5章

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時 第1・2章 第3・4章
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フランスが抱える、民主主義の苦悩とは?

吉田徹:北海道大学教授
「例えばフランス人というのは4人に1人が遡れば移民系の国だとされています。そういった多様な国を1つフランスという大きなパッケージに纏め、色んな人がパリという非常に小さい街の中で肩を押し合いへし合い生きていく。

その中に色んな摩擦が生まれ、その摩擦をどういう風に解消していくのか。その象徴的な空間が地下鉄でもあるかもしれません」

どこまで多様性を受け容れられるのか?今、あのフランスが揺れている

ルペン
「移民の受け入れは市民を危険にさらす。テロリストが隠れているのだから…」

度重なるテロへの恐怖 アフリカや中東からやって来る難民たち 歴史的な混迷の時代を迎えたフランスに、今押し寄せる新たな波とは…

ルゴフ
「我々の歴史の中にはどの文明にもあるように闇のページと栄光のページがある…」

ギリュイ
「欧米の民主主義の大きな問題は人々と真剣に向き合わなかったことにあるのです…」

生きるため、切実な欲望を抱えやってくる人々に、フランス建国の理念はどこまで耐えることが出来るのか…?揺れるフランスで、世界の知性たちと考え、民主主義の今をみる。

第5章 内なる敵 外なる敵

吉田
「かつては向こうの左岸とこちらの右岸、革新と保守ですね。或いは労働者とブルジョアっていうのが対立でその間をセーヌ川が隔てた。ところが今、時代が推移してパリの郊外とパリの内部で新しい分断性に移り変わってきている」

パリ市街を分かつように流れるセーヌ川。北側が右岸、南側が左岸だ。一本の川を挟んでそれぞれの文化を育んできた。ブランドショップが立ち並び、買い物客で賑わう右岸。学生たちが集い、カフェで語らう左岸。

右岸はお金を使い、左岸は頭を使う、という言葉もあったほど。異なる思想がせめぎ合うことでバランスが生まれていた。古き良きフランスは、いづこへ。


マルセル・ゴーシェ:政治哲学者 / 編集者

瀕死の民主主義?国境なき経済圏の病とは…

ゴーシェ
「グローバリゼーションは貿易だけでなく”人間の行き来”にも関係するのです」

人間の行き来

ゴーシェ
「英EU離脱の余波は大きく、移民問題は極めて慎重な問題となり抗議の声が高まっています。欧州連合のおかげで人々は国家権力は大したことはできないと感じています。しかし同時に欧州連合も何もできないとも思っているのです」

吉田
「なぜ機能しなくなったのでしょう?」

ゴーシェ
「それが今ヨーロッパの一人一人に問われる最大の問題だと思います。とても難しい問題です」

欧州最大の問題

クリストフ・ギリュイ:都市地理学者

国民の分裂?グローバル都市と地域の二極化

ギリュイ
「今日のフランスでは移民問題はとてもデリケートな問題です。私たちフランスは多文化共存モデルを穏やかに築けるだろう、世界で一番賢いのだから…

アメリカやイギリスとは異なるタイプの多文化共存モデルの確立を想像していました。しかし現実は違いました」

多文化共存のワナ?

ギリュイ
「残念ながら≪共和国同化主義モデル≫と呼ばれるモデルは消え去ったのです。なぜか?多文化共存社会では他人と交わろうとしないからです。つまり同化しないのです。

他人は敵のままである…とまで言いませんが、距離を置くのです。これはフランスの至る所で見られます。これがフランスや欧州で見られる現実…アイデンティティの緊張関係の根本です」

フランスの苦悩は、都市の周縁部から噴き出している

吉田
「パリの郊外よりバンリューと呼ばれているところなのですけれども、基本的にパリで働いている人たちでもパリ市内に住むだけの余裕とか所得がない人が住んでいる場所になる。

いわゆる移民系と呼ばれている人たちが多い。ここが市役所なんですけれども自由・平等・博愛って言葉が掲げられているけれども空虚になんとなく文字が見えるのが哀しいですね」

パリの少年「ニーハオ!」

吉田「僕たちは日本人だよ」

パリの少年「あー日本のテレビだ フランス!」

吉田「君はフランスが好きなんだね?」

パリの少年「好きだよ」

吉田「フランスを誇りに思っているんだね。大人になったら何になりたい?」

パリの少年「営業マン」

吉田「なんで?」

パリの少年「大好きな職業だからだよ」

吉田「君は?」

パリの少年B「スポーツ関係で働きたい」
パリの少年C「僕はケバブ屋で働きたい…冗談だよ、ほんとはパン屋だよw」

経済や文化の違いから生み出される、移民たちをめぐる問題。溝を深めていく分断の現実の中、その流れにあらがう人の証言だ

ナディア・レマドナ:コミュニティー支援活動家
「私はパリ郊外で暮らしています。2005年 郊外で最初の暴動が起こってから私は個人的に救済をするようになりました。暴力はひどくなり 緊張が高まっています。

改善の兆候はまったく見られません。年を追って郊外にいる若者たちは誰のことも信用しなくなっています」

今から12年前の秋、パリ郊外で起きた移民たちによる暴動事件。北アフリカ出身の若者たちが警官に追われ、変電所に逃げ込み、死傷したことがきっかけだった。

人々は警察に反発。失業・差別・将来への不安など積もり積もった不満が爆発。暴動はフランス全土へと拡大していった。


レマドナ
「フランスはとても変わりました。実際、何が変わったかというとこの過激化です。若者たちはかつてのフランス…私や私の両親たちが愛していたフランスを知らないのです。

多くの移民労働者を受け入れたこと。多くの人々が外国から来ていること…それはフランス人自らが受け入れたことを忘れてはいけません」

私たちが愛したフランス

吉田
「我々は郊外に住んでいる貧しい移民系のフランス人だから、むしろ差別されているんだ、という風に彼らは感じてしまう可能性はあるわけです。

そうすると移民とか郊外は怖いんだという目線がつくられていくことになって結局分断がひどいものになっていく」

社会から受け入れられない、その怒りが争いを生み、居場所がない、その不安が悲しみを生む。愛されたい欲望が空回りし、生まれる、捩じれ。

ドミニク・レニエ:政治学者
パリ政治学院で教職、政治改革基金ゼネラル・ディレクター

忘れられた理念 自由を奪いあう 自己と他者

吉田
「「自由 平等 博愛」のスローガンがフランスの街のどこに行っても見えました。この精神はどう変わっていくのでしょう?まだ残る場所はあるのでしょうか?」

レニエ
「重要な問題ですね。「自由 平等 博愛」の精神は存続し続ける可能性はあるでしょう。フランス革命からとても大切にされてきたものですから。

しかし20年前からこの3つの理念への信念の衰退 精神の薄弱化が見られます。

今日 目にすることが多くなったのは国内のコミュニティーでの分断の感情、分裂…同じフランスの中でも外国人のように感じる分断さえあるのです。

実際、それを目の当たりにしたのがシャルリー・エブドで起きた悲劇です。フランスでフランス人がジャーナリストを殺害した…それも彼らの気にくわない内容を出版したから。

メディアが出版すべきだと信じたことを出版する自由を認めなかったのです。ある種の”基本的価値観”が分断されたことを感じました」

基本的価値観

シンシア・フルーリー:精神分析学者
社会の深層にある心理を分析 パリ・アメリカ大学でも教鞭をとる

社会の危機を回避する道は?他者を排除する人々…

フルーリー
「ルネ・ジラールの重要な研究論文においてはっきり説明していますが政治共同体とは通常”二つの動き”によって成立していると言います

一つ目の動きは”外部の敵”と呼ばれるものでもう一つは戦うべき”内部の要素”が必要となるのです」

「外なる敵」と「内なる敵」

フルーリー
「多くの場合、外部の敵としての恐怖の対象はテロリストに集中します。そして内部の敵としての対象は公然と非難されている人たち…失業者、難民、移民なのです。

社会はこのように成り立っているのです。惨憺たる状況です。」

他者への不信が、本来 敵になるはずのない敵を次々と生み出していく。フランス人が失いつつある、基本的価値観とは…?


欲望の民主主義 世界の景色が変わる時 第6章 第7・最終章

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時をみて

cf.
欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第1章~第3章
 第4章~第5章 第6章~第8章 第9章~最終章

『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて
by wavesll | 2017-05-31 21:15 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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