欲望の民主主義 世界の景色が変わる時をみて 第7・最終章

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時 第1・2章 第3・4章 第5章 第6章
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第7章 今 民主主義とは?恐怖を越えて

マルクス・ガブリエル:哲学者
「私たちは再考し始めねばなりません。なぜ民主主義と呼ばれる形態を選んだのか?

そもそも民主主義は情報の特定の形なのです。」

民主主義は情報処理?

ガブリエル
「民主主義とは人間の行為を組織化する方法です。”真実を得る方法”、”うそつきの政府を暴く方法”そう思う人々が混乱を招いています。

真実を中立的に判断することです。今私たちが直面しているさまざまな問題が感情的な判断から引き起こされています」

”感情的でない”民主主義?

ガブリエル
「民主主義の機関はあらゆる形態の政府と同じ巨大な情報処理システムです。

7000万人の人口を有し、さらに増える可能性もある…フランスほど大きい社会システムはそれ自体どう動いているのか?誰一人として理解していないのです。

では政府は何をするのでしょう?その仕組みを理解している者がどこかにいるという錯覚を生み出し維持するのです」

全てを理解している者がいるというのは”錯覚”?

ガブリエル
「私が思うにテロリズムとは自分たちや国民に”恐怖”を造り出すことで統治するものです。それが”テロリズム”の意味です。

かつてない恐怖心が増している…極端な恐怖と不安には当然ながら大抵根拠はありません。恐怖を感じるべき者を探してしまう…根拠のないその視線が恐怖を作り出すのです」

「根拠のない視線」が恐怖を作り出す

つくりだされる恐怖、その強大なる力に動かされていた一人があの「万人の万人に対する闘争」を唱えたホッブズだ。

著書『リヴァイアサン』は今から350年以上前、宗教戦争や度重なる内戦のさなかで書かれたものだ。

いつ終わるとも分からない戦乱。暗く、陰惨な時代。迫りくる生死を分ける恐怖を背景に生まれた人間観がそこにある。


シンシア・フルーリー:精神分析学者
「ホッブズの”社会契約”の考え方はよくご存じでしょう?
”決して恐怖無しで済まない”、”恐怖は社会契約の基礎だ”と言っています。」

恐怖は”社会契約”の基礎

フルーリー
「≪人間は人間にとって狼である≫のですから、この恐怖を”水平”でなく”垂直”のラインに利用することをホッブズは提案したのです。

”互い”をでなく”リヴァイアサン”を恐れることで平等だというのです」

万人の、万人に対する闘争の世界をホッブズはこう綴る
持続的な恐怖と暴力による死の危険…人間の生活は、孤独で貧しく、つらく残忍で短い

抑圧への恐怖は、先手を打つか、助けを求めるかにいつも人を駆り立てる。
なぜなら人間が生命と自由を確保する道は他にないのだ… 『リヴァイアサン』ホッブズ著

恐怖の上に成り立つ国家、民主主義とは生き延びる欲望の集合に過ぎないのか?だが

ガブリエル
「『リヴァイアサン』は政治理論ではなく大虐殺を正当化するものです。」

リヴァイアサン=大量虐殺の正当化?

ガブリエル
「ホッブズはアメリカ先住民も西洋文明のルールの中にあると思いたかったのです。”文明はもろいものだ 彼らを見よ”それがホッブズの主張です。

相手を”彼ら”、”未開人”と思った瞬間、人は”彼ら”を全滅させる一歩手前の衝動にある。自分たちの文明に同化させるか、抵抗されたら殺すか…このどちらかだと言っているのです」

選択肢は二つ 同化させるか 殺すか

ガブリエル
「しかしその後 人々は本を読むようになり残虐な人間性を自覚し…それは政府に管理されるべきだという考えが当たり前になりました。

ですが それも間違いです。政府は人間の残虐性を管理すると同時にそれらを増しているのです。政府は≪自然状態≫を克服などしてはいません。

元々そんなものはないのです…私たちは≪自然状態≫では善人でも悪人でもないのです。」

自然状態とは、正義も、悪もない、世の中とは。

≪自然状態≫では善人も悪人もいない


ガブリエル
「多くの人々が現在シリアをあたかも自然状態に戻ったように思っています。生きるためにもがいているとメディアで報道されるからです。

ですがあれは明らかなる”戦争”です。戦争とは自然状態ではありません」

戦争≠自然状態

戦争は自然に起きるものではない。起こされるものなのだ。

奇しくも、人々を革命へと導くこととなったあのルソーも戦争についてこんな言葉を残している

戦争は人と人との関係ではなく、国家と国家の関係なのであり、そこで個人は人間としてでなく、市民としてでさえなく、ただ兵士として偶然にも敵となるのだ 『社会契約論』ルソー著

「人々を守るための大いなる力も、誤った社会契約においては、争いの渦へと導いてしまう」ルソーはそう警告していたのか。この時代の激流の中、今、再び問う 民主主義とは


最終章 世界の景色が変わる時

ガブリエル
「民主主義は 手続きや制度の中で普遍的価値観を実現する試みです。その意味は私たちがまだ民主主義を実現していないということです。

民主主義は未だに 常にこれから実現されるものなのです。今の民主主義を正しい規範と思ってはいけません。」

マルセル・ゴーシェ:政治哲学者 / 編集者
「自由…この言葉の本来の意味は自らの運命を決定する力です」

自由とは「自らの運命を決定する力」

ゴーシェ
「我々はそれぞれに結びついています。真の自由はそこにあるのです。個人それぞれの領域で提供できる以上により高度な目的を決定するため互いの自由を結集することができるのです。

私にとって民主主義とは…これは知識人として発言しているんですが、それは理想の世界であり…同意できないことについて議論することこそ面白いのです」

民主主義は「議論」

ゴーシェ
「民主主義は人類による文明の最高の形態です。人類とはいろいろな種の人々から成り立っています。民主主義とはそれを克服する手段なのです。

違い 対立 矛盾 根本的な多様性から創造的なものが生まれるのです。それが人生の魅力です。その結果 文明は発展し、私たちを集結させてくれるのです」

フルーリー
「度を超えた個人主義は最終的に民主主義を危険な状況に陥れます。課題はむしろ≪個性化≫を確立することです。≪個人主義≫に非常に似ているようで少々意味が異なります」

「個人主義」ではなく「個性化」

フルーリー
「自己を確立するのを断言するのではなく、私は他の人とは違うけれども公共的なことにも参加するということです。

自分自身の特異性や才能を明確にしつつ他人と共に”集団的物語”を築くということです」

他者と築く「集団的物語」

吉田徹:北海道大学教授
「我々は恐怖心に駆られて いつも何かを失うかもしれない、もしかしたら隣の人は狼になっちゃうかもしれない。常にマイナスの感情に動かされる。あまりこれは望ましくないこと。

それをどういう風にプラスの情念に変えて安定とか平和を確立するかを問われなければならない」

”感情の民主主義”を越えて

吉田
「一つは相手を尊重するということ。何を言うか、何を言ってるかで正しい間違っているを判断するのではなくて、その人がその人であることを尊重することから議論を組み立てていく。

人間は理不尽な思いをするのが一番つらい。他人を傷つけたい、誰より自分を傷つけたいと思う時はこの世の中や自分の人生は理不尽だと思うことに端を発するのだと思う。

その理不尽さを和らげるような、或いは理不尽さがなくなるような社会をつくってくということが人々が幸せに暮らしうる最大の条件の一つだと思う」

理不尽を和らげるための議論

ガブリエル
「民主主義とは”反対派の共同体”です。異なる意見を意見として認められればあなたは民主主義者です。

民主主義が機能するのは普遍的価値を受け入れた時だけだと認識すべきです。他人や他の種の動物の苦しみを理解する人間の度量にかかっているのです」

民主主義は「人間の度量」

ガブリエル
「自分があの人だったかもしれないと認識すること。地中海で溺れている女性や飢えている子どもは自分だったかもしれない…それが全ての倫理観の原点です。

決して忘れないでください。科学 技術 信教の自由の時代に私たちは生きています。もし民主主義の価値観が世界で崩壊したら、かつてない規模の戦争を目撃することになります。

民主主義を守る価値は確実にあるのです。今のところ 人間がみんなで生き残るための唯一の選択肢なのですから…」

外からも内からも忍び寄る恐怖 しかしその正体は紛れもない私たち自身なのだ。

ジャン=ピエール・ルゴフ:社会学者 / 作家
「私は預言者ではありません…私たちが置かれている状況を明確に理解する事が何よりも大事だと考えます。

政治家も知識人もありのままの世界について考える責任…そして≪可能な選択肢≫を提示する責任があります。≪可能な選択肢≫を明確にし≪無理のある選択肢≫を拒否することです」

ヤシャ・モンク:政治学者
「解決策は民主主義からの撤退ではなく、グローバリゼーションの撤退でもありません。自由民主主義を再活性化しグローバリゼーションによる衝撃を緩和する…そうした新しい政策を採択する事です。

グローバリゼーションが国内にもたらす影響に対応するのです。それが今やるべきことなのです」

広がり続けた 欲望の資本主義の前に 立ちふさがろうとする、国という壁。
だが、壁の中でも欲望は渦巻く。見えない敵に怯えて


ガブリエル
「民主主義は欲望の経済と明らかに関係しています。私たちはこの恐怖の経済を乗り越えなければなりません。どうすれば乗り越えられるのか…≪民主主義の最大の価値≫を思い起こせば乗り越えられるはずです」

そして今、フランスは選択の時を迎えている。世界の景色は変わるのか。民主主義が今、試される。欲望の民主主義。

欲望の民主主義 世界の景色が変わる時をみて

cf.
欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき 第1章~第3章
 第4章~第5章 第6章~第8章 第9章~最終章

『欲望の資本主義2017 ルールが変わるとき』をみて
by wavesll | 2017-05-31 22:41 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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