梅棹忠夫『文明の生態史観』 國はその土地に住む人の欲するように成り立つ哉

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梅棹忠夫『文明の生態史観』を読みました。

梅棹さんは元々理系畑の人で。『ホモサピエンス全史』や『銃・病原菌・鉄』のように、科学的視座からスパッと一刀両断する論理が心地よかったです。

この本は非西欧の立場から世界の文明史を捉えた論文で、物な論点の一つは「日本は西洋とは平行して高度資本主義社会へ進化した」「ユーラシア大陸の両端は封建制からブルジョア革命を経て自立発展した高度文明社会である第一地域で、ユーラシア大陸の中央は帝国による専制が起こる第二地域」と"遷移"というモデルを使って解くというもの。

ユーラシアの真ん中には砂漠地帯があり、その傍らにあるオアシス・ステップ地帯で四大文明は生まれるが、ユーラシアの真ん中では暴力の嵐が吹き荒れ、文明の進歩がその時々破壊される。

それに対しユーラシアの両端は森林地帯で、開墾の必要性から最初期は文明はなかったが、第二地域の帝国をモデルとしたイミテーション国家が生まれ、その後地政学的に温室のように文明を発展させることが出来た。

というのが論旨。この本では東アジアで日本のみが第一地域であると語っていました。

しかしそこから60年の月日がたった今ではシンガポールや韓国を始めとしてAsiaが発展し、ちょっと梅棹さんの論は色褪せた部分はあるなと読みながら想いました。

しかし読み進めると東南アジアに関する論も語られ、ユーラシア世界を日本、西欧、アラブ・地中海、ロシア、インド、中国、そして東南アジアと東欧にわけてモデル化していて。

南北アメリカ、オーストラリア、アフリカが捨象されているのは残念ですが、西洋の視点に対抗する東洋からの視座だというのは意義深かった。

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今「東洋」と書きましたが、この本のもう一つの論点は「Asia・東洋とひとくくりにできない多様性がこれらの地域にはある」というもの。

そもそもこの本は梅棹さんのインド・パキスタン・アフガニスタン"探検"から生まれたものですが、インド地域までくると人種も違うし文化・文明も東アジアからは大きく変わるという気づきが根底にあったようです。それは西欧ともまた違った文明で。

そこでインド、アラブ・地中海地域を「中洋」と梅棹さんは名付けます。この視点は確かに大きなことで。無論西欧人から言わせれば、ヨーロッパもひとくくりにできないでしょうが、Asiaの多様性はその比ではない。

その上で「Asia」という共通意識を利用することは良くても、フラットな視点では事実を著わすべきだと梅棹さんは書いています。

彼の地政学的な論旨は、ともすると優生学にもつながる危険性があると僅かに感じたのですが、その土地の自然条件や文化地理的な位置から、そこに暮らす人たちが成していく社会には一定の法則がある、という観点は面白い。

その土地の人達が欲するように国は成していく、というのは、中国の共産党や、アラブの部族社会の中では専制的な政治体制でないと回らない、といったことは21世紀に於いても実行力のある論だと想いました。

本書では傍論ではありますが、文化的インテリについて語った章も面白かった。

なんでも日本の文化インテリは、政治家でもないのに政治家的な意識を持っている、政治家になれなかった人種が多い。

これは江戸時代の武士という文化的且つ政治的な実務家の流れが、近代に高等教育が普及し、文化インテリが増えて政治からあぶれたことに由来する。

今は政治と関わるのは文化インテリというより、実業インテリや技術インテリの比率が大きくて、寧ろ文化インテリは後進的、保守的な位置づけになっているが、科学技術や社会の暴走を抑えるブレーキとして機能はしている。

そもそもこういった政治志向を持った文化インテリは第一地域に広く存在し、例えばフランスなんかにもよく散見する。

といった具合が『文明の生態史観』の反応に対する講演で語られていて。さらっと云っちゃう辺りが理系学者っぽくて好きでした。

また"この時代は海外を旅するだけでも大きな価値があった頃なんだなぁ"という憧憬もありました。今はインターネット社会で、海外旅行も限られた人のみが出来るわけではないから、昔の方が"旅人"に価値があったのだな、と。

大航海時代というか、世界が既知で埋め尽くされ小さくなる前の、Asia旅記としても非常に面白く読めた本書。日本が如何に「平行進化」したかが語られる「近代日本文明の形成と発展」も収録。同じく梅棹さんの『知的生産の技術』と合わせてお薦めです。
by wavesll | 2017-07-27 20:34 | 書評 | Trackback | Comments(0)
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