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ベルギー奇想の系譜 @Bunkamura 15世紀から21世紀まで連綿と続くコラージュの幻視

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ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまでをBunkamura ザ・ミュージアムで観てきました。

"ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝ーボスを超えてー@都美をみているからあまり衝撃はないかな"と想っていたのですが、ボス、ブリューゲルだけでなく21世紀までのベルギーの美術が展開する、新領域を深堀する展覧会でした。

まず最初に展示されるヤン・ファーブル≪フランダースの戦士(絶望の戦士)≫からして1996年の作品。玉虫厨子の在りし日の姿のように昆虫の虹色に覆われた作品のフレッシュさにインパクトを食らいました。

そこからヒエロニムス・ボスに影響を受けた作品たちへ。白い怪物がぞわっとくるヒエロニムス・ボス派の≪聖クリストフォロス≫、同じ題材のヤン・マンデイン≪聖クリストフォロス≫は近代的コンクリート感のある作品。またヤン・マンデイン≪パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑≫はペストの仮面が、ヘリ・メット・ド・ブレス≪ソドムの火災、ロトとその娘たち≫はボス風の卵型の建物が印象的でした。

そして愈々本展覧会の目玉、ヒエロニムス・ボス工房≪トゥヌグダルスの幻視≫

ボスに影響を受けた画家の絵画は、確かに奇妙なもので溢れかえって複雑怪奇にみえるのだけれども、この≪トゥヌグダルスの幻視≫は"七つの大罪"の要素を配置しながら全体としてはすっきりとした構図がシンプルに明瞭で。その頭抜けたコラージュ・センスに感銘が起きました。

さて、そこからのパートはヒエロニムス・ボスの模倣者の作品やピーテル・ブリューゲル(父)による「七つの大罪」シリーズと「七つの徳目」シリーズが続き、バベルの塔展と被るところがありましたが、「七つの~」シリーズはバベル展より拡充した点目でした。

そして、15世紀16世紀で終わらないところがこの展覧会のもう一つの山で。

ペーテル・パウル・ルーベンス(原画)リュカス・フォルステルマン(父)(彫版・刷)≪悪魔たちから貶められ、妻から苛まれるヨブ≫の鬼面、同≪反逆天使と戦う大天使聖ミカエル≫の『BASTARD!!』感。

またペーテル・パウル・ルーベンス(原画)スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェールト(彫版)≪ライオン狩り≫レオナルド・ダ・ヴィンチ『アンギアーリの戦い』をも超える戦闘画!

ペーテル・パウル・ルーベンス(原画)ピーテル・クラースゾーン・サウトマン(彫版・発行)≪カバとワニ狩り≫のトロピカル・エキゾ感も素晴らしく、ルーベンスの絵画群はこの展覧会のハイライトの一つでした。

そしてフェリシアン・ロップス(原画)アルベール・ベルトラン(彫版)≪娼婦政治家≫もハイライトの一つ。欲望を顕わす娼婦と豚が学術・芸術を踏みつけるデザイン。ピンクでなくスカイブルーなのが凡作でない点だと感じました。フェリシアン・クロップスは着物の様な衣で踊る骸骨の≪舞踏会の死神≫も印象的でした。

19世紀の作品だと消え入るような美が描かれたフェルナン・クノップフ≪もう、けっして≫も素晴らしかったし、彩色写真作品であるフェルナン・クノップフ≪蒼い翼≫と≪アラム百合≫もコラージュな感性を感じて。

ジャン・デルヴィル≪レテ河の水を飲むダンテ≫に描かれる忘却の輝かしさと、同≪ステュムパーリデスの鳥≫の土埃と黒の対比も印象的でした。

ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク≪運河≫の、赤錆び窓が割れている工場?の前を流れる川と等間隔に立つ木々の侘しい風景が沁み、ヴァレリウス・ド・サードレール≪フランドルの雪≫ブリューゲル(父)≪雪中の狩人≫に比肩する上質で落ち着いた静謐な質感の絵画でした。

また面白い画家だったのがジェームズ・アンソール。彼の絵画は暗い情念が込められてるのにユーモラスで明るい色彩なのが面白い。燃えるような、でもどこか滑稽さのある≪愛の園≫。ユーモラスな醜さのある≪ソフィー・ヨテコと話すルソー夫妻≫。明るい色彩とテーマの意外さが印象的な≪キリストの誘惑≫。あふれ出る自意識が爆発している≪オルガンに向かうアンソール≫。そしてエッチングの≪天使と大天使を鞭打つ悪魔たち≫はユーモラスな百鬼夜行といった趣でした。

そして遂に奇想の系譜は20世紀へ。
ポール・デルヴォー≪スケッチブック「赤い帽子の裸婦」≫のきれいさ。デルヴォーの女性画では骸骨と同じポーズをする≪女性と骸骨≫もコンクリートな歪みのある近代絵画で印象的でした。

そしてルネ・マグリット。≪大家族≫の荒天に青空が鳥形に抜かれるこのマグリットの代表作は20世紀ならではのファンタジックな絵画に感じました。≪マグリットの孤児たち≫よりIX、≪マグリットの孤児たち≫よりXIのコラージュ感。≪9月16日≫≪オールメイヤーの阿房宮≫の幻想。

この奇想の系譜を一つ貫くのはコラージュの感覚だと思います。コラージュというのは異なるものが組み合わされる、違和感と調和のせめぎ合いのアートスタイル。”奇想”の怪物的でファンタジックな芸術を行うには、現実と非現実を融合するコラージュの感覚が顕れるのだと感じます。

そしてマルセル・マリエン≪神秘の国ベルギー≫はまさしくコラージュ作品。森の中に魚が浮かび、青林檎に突き刺さる。マルセル・マリエンの単眼のメガネ作品≪見つからないもの≫も面白かった。

そしてリュック・タイマンス≪磔刑図≫の白輝にはちょっと吉岡徳仁 / スペクトル at 資生堂ギャラリーを想起しました。

この展覧会もフィナーレ、21世紀のベルギーが辿り着いた奇想は立体物が多くありました。
レオ・コーベルス≪ティンパニー≫は筆を咥えた画家?の骸骨がティンパニーに落下して音を鳴らす作品。死後も作品があり続けることの隠喩かもしれません。

ウィム・デルヴォワ≪プレッツェル≫は磔刑になったキリストがよじられ繋げられメビウスの輪のようになっている作品。キリストが永続的に苦悩を負い続けてくれることのメタファーでしょうか。

パナ・マレンコ≪スコッチ・ギャンビット原型≫は謎の水空両用船。頭が強大化しすぎて首からぐがんと曲がったトマス・ルルイ≪生き残るには脳が足らない≫も面白いし、金にひずむ髑髏に黒犬のトマス・ルルイ≪無限≫も魅力的でした。

ミヒャエル・ボレマンス≪The Trees≫は何の演技もない表情の絵画。奇想の中にあると、寧ろその閑けさが引き立ちます。そしてよく見ると手に持つ本が本でなく白い板物体だという。

冒頭にも作品があったヤン・ファーブルの≪第14章≫と≪第16章≫の金ぴかのイケイケ親爺の像に消費社会の栄華と虚栄を感じて、展示室を抜けました。

この展覧会、ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝ーボスを超えてーをみていても価値あるし、さらに面白く感じれると想いました。また展覧会のヴォリュームが”もうちょいみたい”ってくらいの丁度良さで、仕事帰りなんかにサクっとみてもいいと思います。来週日曜9.24まで。


cf.
奇想天外なベルギー美術500年の旅へと誘う、『ベルギー奇想の系譜』展速報レポ!(Vogue)

by wavesll | 2017-09-15 21:25 | 展覧会 | Comments(0)
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