神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展@Bumkamura ミクロコスモスとしての中世欧州皇帝の花鳥風月

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ひょんなことから券を手に入れ、渋谷Bumkamuraで開かれていたルドルフ2世展の最終日に行ったのでした。

会場に入るとまず最初に出逢うのがアドリアン・ド・フリースがつくったブロンズの≪ルドルフ2世の胸像≫の1964年の複製(オリジナルは1607年)。ふくよかな顔にちょっとオタク気質というか、政治や格式よりも藝術を愛した皇帝の風貌を感じました。

ヤーコブ・ド・カルヌ / ニコラウス・ファン・オルレイの≪タペストリー「アレクサンドロス大王に恩寵を感謝する女性たち」≫の中世が画いた古代な風合いに目を瞠って。ヒリス・ファン・ファンケンボルフ≪アレクサンドロス大王との戦いの後、逃げるペルシア王ダレイオスのいる風景≫もそうですが、ヨーロッパ文明としてかの古代の王権からの流れを強く意識していたのでしょう。

ルーラント・サーフェリー≪村の略奪≫はブリューゲル風。去年から今年にかけてバベル展ベルギー奇想の系譜展等との繋がり。バベルの塔の画やボス風の油彩のペーテル・ステーフェンス2世≪聖アントニウスの誘惑≫といった品も。

ルドルフ2世は美術だけでなく科学・博物学にも強い関心を示していて。ペトルス・アピアヌス『天文学教科書』は天動説の時代の宇宙図、ルドルフ2世が招集したヨハネス・ケプラー『宇宙の和声』(複製)の他、会場にはガリレオ・ガリレイ『天文対話』なども置かれていました。

ルドルフ2世が持っていた科学・博物学と美術への興味の結点とし、ミクロコスモスとしての絵画として、様々な動植物が集められた作品がサーフェリーによって描かれていました。≪大洪水の後≫はノアの箱舟といううってつけのテーマ。≪鳥のいる風景≫や≪動物に音楽を奏でるオルフェウス≫なんかちょっと釈迦涅槃図にも似た絵画だなと。

ルーラント・サーフェリー[原画]クリスペイン・ド・パス、ロベルト・ファン・フルスト[彫版]による≪2匹の鹿と1匹のダマジカの後ろ姿≫、≪鹿とトナカイ≫、≪3頭のラクダ≫、≪3匹のヤギ≫、≪3頭の象≫、≪2匹のイノシシ≫、≪3頭のロバ≫という一連のエングレーヴィング作品はまさに皇帝のZOOでした。

エングレーヴィングだとハンス・フォン・アーヘン[原画]エヒディウス・サーデレル[彫版]≪東方三博士の礼拝≫と≪天使のいる聖家族≫も良かった。

『外来物10書:遠方の国々における動物、植物、芳香、その他の自然物の歴史と利用』を画いたカロルス・クルシウスはチューリップバブルを生んだ人としても知られる人物。

そしてヨーリス・フーフナーヘル≪人物の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)≫は何と毛虫なんかも描かれていてこの時代の西洋のモチーフとしては珍しい逸品。儚い命を想う、虫愛でる皇帝の姿が浮かびます。

そしてメイン・ヴィジュアルにも使われていた本展覧会の目玉、ジュゼッペ・アルチンボルド≪ウェルトゥムスとしての皇帝ルドルフ2世像≫は多種多様な植物で構成されたいかにもアルチンボルドな逸品。約63種の植物の中には南米原産のトウモロコシなどもあり皇帝の権益が及ぶ範囲を感じさせられました。

アルチンボルド風の作品も結構他の画家にも描かれていてそういう作品も展示されていました。また横に向くと顔が浮かび上がる仕掛けのマテイス・コック≪擬人化された風景≫なんて作品も。

ルドルフ2世とは直接の関係はないそうですが、同時代に描かれたアタナシウス・キルヒャー『光と影の大いなる術』や『ノアの方舟』という大判の書籍も展示されていて、デザイン化された学術書として存在感がありました。

そして赤が本当に鮮烈で魅力を放っていたのがヤン・ブリューゲル(子)/ ヘンドリック・ファン・バーレン≪大地と水の寓意≫。女性が美しい共通点を持った絵としてはハンス・フォン・アーヘン≪ルクレティアの自殺≫もそうで、画家の次女が描かれた≪少女の肖像(マリア・マクシミリアーナ・フォン・アーヘン)≫ も良かった。

女神達に攻め来るトルコ人を描いたバルトロメウス・スプランガー≪オリュンポスへと芸術を導く名声≫(コピー)や幸福な表情を湛える女神たちを描いたディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン≪ルドルフ2世の治世の寓意≫には彼の時代の空気が込められているように感じて。

そして実はここからが本展覧会の本領発揮で。この時代の様々な事物を集合させ、クンストカンマー(驚異の部屋)を顕わしてしまおうという◎

ダニエル・フレシュル『偉大なるローマ皇帝のクンストカンマーで見ることができる物品の1607年の目録』はルドルフ2世と深いつながりのあったリヒテンシュタイン侯爵家のコレクションから。

金細工の≪舟形杯≫、リュトンのような≪人魚の付いた貝の杯≫や蜥蜴と騎士が飾り立てられた≪貝の杯≫は脚まで生物型のこだわり。≪取っ手付きボウル≫はアメジスト、銀、エナメル、≪蓋付き杯≫はメノウの美しさ。海洋生物が創られた≪錠≫や≪リーガル(小さな持ち運び式オルガン)の機能を備えたチェスとバックギャモンの盤≫なんて一品も。

オッタヴィオ・ミゼローニ / プラハ帝国工房(マウント)≪脚付の深い貝殻状の皿、箱付≫は碧玉の盃。≪脚付の横長の小さな皿、箱付≫は日本の焼き物のような罅割れの美で。赤珊瑚があしらわれた≪匙≫もありました。

エラスムス・ビーアンブルンナー≪象の形をしたからくり時計≫は象の目とトルコの騎士団が動くからくりがあったそう。時間・分・太陽・月・四季・黄道、天球儀などの周転があらわされる≪時計≫や低い円柱のペーテル・ゲルンデル≪卓上天文時計≫も。

ボタニカルなデザイン性を持った≪星座早見盤アストロラーベ≫や数学的な意匠の≪ハベルメルの幾何学方形盤≫といった科学の品々や、ナトゥラリア(自然物)としてはイッカクの牙なんかも。そしてエリズース・リバールツ / エティエンヌ・ドローヌ≪パレード用盾≫は生命力を感じるくらい美しいスチールの逸品でした。

そして最後のパートにはグリエルモ・グラタロリ『化学と呼ばれる錬金術の技術』やウェンドヴァーのリチャード『リカルドゥス・アングリクスによる錬金術の修正』(パラケルスス、テオフラスト・ボンバスト・フォン・ホーエンハイム、『パラケルスス化学コレクション:金属の変性について』、『至高なる自然の神秘について:注釈第3巻』との合本)、ユストゥス・バルビアン『賢者の石についての7つの議論』(ガストン・ドゥクロ、『トマス・エラストスに対する銀および金の生成に関する弁明』との合本)とうアルケミーの書物が示され、展示は終了。

今回、最大の目当てはジュゼッペ・アルチンボルド≪ウェルトゥムスとしての皇帝ルドルフ2世像≫だったのですが、初見の感想としては西美でのアルチンボルド展でみた四季や四元素の絵画と比べて生々しい迫力に欠け、ちょっと薄味の感があって四季花鳥図のようなマイクロコスモスであったり最後の驚異の部屋に惹かれました。

しかし会場を2周、3周としていると、この絵画の発する幸福な空気感。そして趣味人として奇想として自画像が描かれた最高の悦びに満ちた本展の「主(ヌシ)」としての会場でのこの絵の存在感が感ぜられて。”いいなぁ、ルドルフ2世”とwいい気持で展覧会を後にしました。

by wavesll | 2018-03-12 22:21 | 展覧会 | Comments(0)
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