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ルドン展@三菱一号館美術館 微生物の生命ぞわめく幻想の花園

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三菱一号館美術館にルドンー秘密の花園 展を観に行きました。

オディロン・ルドンの≪グラン・ブーケ≫は三菱一号館美術館所蔵の顔的逸品なのですが、今回の展覧会は≪グラン・ブーケ≫を含むドムシー男爵の食堂装飾画16点が揃い踏みということで、是非みてみたかったのでした。

最初の部屋ではルドンが育った地を描いた≪ペイルルバードの小道≫や彼の師匠だったロドルフ・ブレスダンを描いた≪『夜』 I. 老年に≫、そしてロドルフ・ブレスダンが画いた≪善きサマリア人≫等が。この≪善きサマリア人≫が本当にいいリトグラフで。湧上る森と雲、そしてそれらに圧されながらも中央に居るラクダと2人の人物。美しい画でした。

ルドンは私はカラフルなイメージがあったのですが、黒い画も同等以上に書いていて。ルドン自身も自らの木炭画や版画を「黒」といっていたようです。≪荊の冠の頭部(キリストの頭部)≫もその一つ。窪んだ眼が印象的でした。同じく目が窪んだシェイクスピア『テンペスト』に登場する妖、≪キャリバン≫は優しい目をしていました。また巨大なサイコロを背負った≪『夢のなかで』 V. 賭博師≫も面白かった。

そしてやはり色絵が素晴らしい。≪二人の魔女≫は黄色い空に青い女性二人に赤い枝の作品。≪エジプトへの逃避≫の闇夜に輝く聖家族、≪アレゴリー(太陽によって赤く染められたのではない赤い木)≫はゴーガンのように鮮やかな色。逢魔ヶ時の浅黒い天使を描いた≪ヤコブと天使≫や蟲のように白い花が浮かぶ≪マドンナ≫も素晴らしかった。

ルドンは植物学者のアルマン・クラヴォーから手ほどきを受け、生物科学の知識だけでなく哲学的な知識を得て、サイエンス、そして疑似科学に興味を湧かせます。

そんな中で彼は植物に人の顔が入るクリーチャーを何枚も描きます。≪『ゴヤ頌』II. 沼の花、悲しげな人間の顔≫もそんな一枚。≪『起源』II. おそらく花の中に最初の視覚が試みられた≫≪『起源』III. 不格好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた≫も微細な生物がぞわぞわしているような世界が描かれていました。

またクラヴォーから師事を受けたインドの詩からの影響で画かれたのか≪若き日の仏陀≫は地球のような青い球体を光背に在る美しく聡明そうな人物の色絵も素晴らしかったです。

そして次が目玉のドムシー男爵の城館の食堂壁画たち。

≪ひな菊≫≪花のフリーズ(赤いひな菊)≫は具象と抽象の間のようなデザイン。≪人物≫そして特に≪人物(黄色い花)≫はSF的な構成。≪花とナナカマドの実≫は日本の植物画を思わせる構図、≪黄色い花咲く枝≫は朽ちていく美、≪花と実のフリーズ≫は鳳凰の様。≪黄色のフリーズ≫は戦闘のスクロール画のような勢いを感じ≪黄色い背景の樹≫2枚には黄色い密度のゾワメキを感じました。

ただ、保存のためにこれらの絵画は部屋が薄暗くて彩度が低く感じて。その点では一回下に在ったドムシー男爵第二部の方が印象的でした。

≪花の装飾パネル(明るい背景)≫2枚、≪灰色の小さなパネル≫2枚はグレーに滲んだ感じが黴のような微生物が繁殖する印象を受けました。微細な生命の声が聴こえてくるような存在感の筆致。

そして、愈々≪グラン・ブーケ(大きな花束)≫。暗闇の中で花瓶の花々が蛍光のように眩くて。こんな輝きは≪印象、日の出≫と比肩する水準。花々の描写に入る青が非常に良く効いていました。

またドムシー男爵保有の≪神秘的な対話≫も天上的な秘術の伝導が描かれて美しかったです。

≪祈り、顔、花≫は仏のように優しい顔の女性の画、≪小舟≫に乗る仄明るい人物二人。≪眼をとじて≫は物質としての油彩の存在感を感じました。≪オジーヴの中の横顔≫はエメラルドグリーンの美しい少女の画、≪ステンドグラス≫は幻獣のような姿、≪オルフェウスの死≫は首が石造のように転がる古代の情景。≪花の中の少女の横顔≫はもくもく湧いてくる花のはぐみ。緑の女性が描かれた≪神秘≫やこれも黴な風合いの≪幻影≫、紫の霧のような≪コンポジション:花≫も良かった。

ルドンは幾十もの花瓶の絵を描いていて、そんな中には鬼が描かれた≪日本風の花瓶≫なんてのも。マーブルな柄の花瓶の≪青い花瓶の花≫や青と黄の瓶が美しい≪首の長い花瓶にいけられた野の花≫も良かった。

そして最後のコーナーは装飾プロジェクト。ルドンは屏風やタピスリー、椅子や衝立のデザインも行っていたのでした。

画の裏に在る思想、科学的な知見を読み解くのも楽しい、裏の物語や意味の読み解きも面白く、そしてヴィジュアルとしても耀きのある展覧会でした。何よりやっぱり≪グラン・ブーケ≫が素晴らしかった。さっとみれ、いい展示でした。

by wavesll | 2018-04-20 00:44 | 展覧会 | Comments(0)
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