三井記念美術館に
没後200年 大名茶人 松平不昧ーお殿様の審美眼ー展をみてきました。
松江藩松平家第七代藩主でありながら茶人としても名高い松平不昧、彼のコレクションを存分に楽しめる展示が開かれているのです。
井戸茶碗とは16世紀頃に朝鮮半島から渡来した高麗茶碗と呼ばれる茶碗の一種で、彼の地では日曜雑器だったものが日本の茶人が見初め、中でもこの茶碗は「天下第一の名碗」 と呼ばれる逸品。
朝鮮から渡ってきたこの茶碗はぐわっとした存在感に、まるで大物の遺跡をみるような迫力と神性が内から湧いていました。土のスケール感、高台の梅花皮がまさに井戸のように石が積まれた凝縮感。素晴らしい。何でもないとされてきた器に美しさの究みを見出だした数百年前の此の国の人々の目利き、美の哲学の結晶とも感じました。
広間へ出るとそこには掛け軸と茶器が。
光悦の孫の本阿弥光甫作≪信楽芋頭水指≫も良かったし、
≪丹波耳付茶入 銘 生野≫のアブストラクトな魅力。雪舟筆≪一円相≫のシンプルで宇宙的な真円。また不昧は筆も好くて、松平不昧の絶筆≪遺偈≫の喫茶喫飯というコトバに骨頂をみて。松平不昧筆≪一行書「明歴々露堂々」≫と≪一行書「独座大雄峯」≫の力強い筆致も良かった。
そして不昧筆≪書「喝」≫一字の迫力。それと共に茶室に展示されていた
≪伊羅保茶碗 千種伊羅保≫が浜と波が一碗に込められたような作品で素晴らしかった。
松平不昧筆≪茶の湯の本意≫に書いてあった「時代に合わせてブラッシュアップすべし」「下手でもOK」には唸らされて。千利休の教えが書かれた松平不昧筆≪三百ヶ条≫や、不昧の大いなる業績である、各地の名物の品録≪古今名物類聚≫と彼の蒐集物が記された≪雲州蔵帳 貴重品目録≫も。
松平不昧の力強い筆運びに狩野伊川院栄信の亀の画が格好いい≪福禄寿亀図≫や豆腐で世の中を例えた松平不昧筆≪豆腐自画賛≫、そして花柄のデザインがとっても嬉しい松平不昧≪書「春月」≫も良かった。
最後の展示室も素晴らしく、表から裏へ菊の柄が入った長岡空斎≪楽山焼 色絵菊図茶碗≫、金に螺鈿の
原羊遊斎≪片輪車蒔絵棗≫や黒に金が輝く原羊遊斎≪蝶蒔絵大棗≫、黒に菊が透明に浮かび上がる初代小島漆壺斎≪やみ菊棗≫、シンプルでエレガントなデザインの
初代小島漆壺斎≪桐蒔絵茶桶≫、「福」の字の意匠がまたいい初代小島漆壺斎≪福寿棗≫、蓋の凹みがまた現代的な初代小島漆壺斎
≪竹中次≫も良かった。
そしてそんな不昧が創った≪薩摩竹水指 銘 山川≫も内側が黒に塗られ紅葉が映える独創的なデザインが好いし、最後に見た松平不昧≪竹筒花入 銘 心の花≫は”花は要らず、打水だけで好い”という領域へ。不昧は茶を通じて空へ到達したのかと心が震わされました。
みごとな茶の道、素晴らしい趣味をみせて貰えて、しみじみとした機微のある展覧会でした。