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BBC 『戦争と平和』 戦火と恋、爛れなき誠の幸福へゆく人間賛歌

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BBCによる『戦争と平和』をみました。
トルストイによる大長編として知られる古典作品のドラマ化。放送はもう数年前なのですが、大分間を開けながらちょぼちょぼ見た結果、足掛け2年ほどかけてみることになりました(苦笑)

と、いうのも原作を未読だったのですが、特に序盤はドロドロ系のメロドラマで。主人公のピエールのぼんくらっぷりも相まり、みるのがかなりエナジーを使う感じで。後半になるにつれ戦争が繰り広げられ物語の速度強度が増していく構成。司馬遼太郎『坂の上の雲』なんかは青春篇の方が面白く日露戦争になると面白くなかったのですが、映像化されたこともあってか逆の読後感となりました。恋愛描写と戦火の両立は脚本家が『ブリジット・ジョーンズの日記』や『ハウス・オブ・カード』のアンドリュー・デイビスという複数ベクトルのバックボーンがある方だからかもしれませんね。

ヒロインのナターシャがなんか見た覚えがあると想ったら『ベイビー・ドライバー』や『シンデレラ』のリリー・ジェームズで。美麗なれどもその浅慮から悲劇も浴びる女性。そしてその恋の相手となるアンドレイ役のジェームズ・ノートンもいかにも英雄然とした立ち姿は秋山好古のようでもありました。

一大歴史絵巻であると共にポール・ダノ演ずるピエールのビルドゥングス・ロマン。空想的で地に足のついてないボンボンから、渡世の辛苦、決闘、そして戦争を越え、苦しみの中で逞しさを増していく姿には心を随分と感銘させられました。この役者さんの説得力は凄いですね。

そして、戦争の対比となる「平和」なのですが、平和がいつまでも過ぎると爛熟するというか、恋愛を越えた性愛や、貴族のマウンティングの戦が起きるのは人間社会の業ですね。その贅肉が戦争によって洗い流されて、純粋な仲間意識が育まれることもある。

けれども敵による非道な支配や破壊をみたり、また『この世界の片隅に』『火垂るの墓』をみた後の私たちは戦争における日常は同胞の間でも美しいだけではない、人の醜さや軋轢が出る極限状態だと知っています。そして大阪や北海道の災害を目の当たりにした今、安易に悲劇に美を見出すことの愚を知っています。

極寒でも極暑でもなく、恋愛の花が咲くくらいの刺激気候にあれれば良いかもしれません。しかしそれにはきっと自分を律する意思が要るのでしょう。また速度を出す快楽を否定するというか、あまりに規範を絶対視するのもHuman Rightsの否定になります。ピエールもただ安牌を選び続けたわけでもなく、虎穴にいることで成長を掴みます。

誠と賭けとの試行錯誤が人生なのかな、そして仮にどん底へ落とされても道を切り拓いていくのは己、そんな人生賛歌が描かれたドラマでもありました。

by wavesll | 2018-09-08 04:45 | 映画 | Comments(0)
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