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ミケランジェロと理想の身体展@国立西洋美術館

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ミケランジェロと理想の身体展を西美でみてきました。

ミケランジェロの2体でやはり素晴らしかったけれど、古代ギリシアからのルネサンスの美意識という切り口では少し水増感も。

けれどヴィンチェンツォ《ラオコーン》の“この3次元の複雑味をよくぞ彫った!”感は凄かった。古代に創られた彫刻が掘り返されて再構築されて。異次元感が。

個人的ベストはミケランジェロの《若き洗礼者ヨハネ》でした。

会場に入ると1世紀前半の≪プットーのレリーフ≫が。有翼の童子であるプットーのぷっくり感が可愛らしくて。これはなかなかいい出だし。プットーでは≪プットーとガチョウ≫も可愛らしく、ルネサンスに描かれたアンドレア・デル・カスターニョ≪花網を伴う小プットー≫も。

ルネッサンスに大きな影響を与えた古代ローマでは幼児の彫刻が数多く作られ、≪蛇を絞め殺す幼児ヘラクレス≫も黒々とちっちゃくても力は金剛というファンタジックなブロンズ像で。

そしてニッコロ・ロッタリアータの工房で創られた≪6人の奏楽天使の群像≫も縦笛、ハープ、フルート、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ヴァイオリンを弾く天使たちの表情が生意気で好くて。天使だと≪弓を引くクピド≫も天に向けて空手で矢を放とうとする仕草をみせる天使が小鳥のような美しさがありました。

ルネサンスの時代に流行った立ち姿(コントラポスト)は≪アキレウスとケイロン≫にも現れていて。これと≪子どもたちを解放するテセウス≫と≪ヘラクレスとテレフォス≫はポンペイの壁画展に続きナポリ国立考古学博物館から来ていて。

また≪ガニュメデスの誘拐≫は宮川香山アンコール遺跡かというくらいに立体として浮き彫りされたレリーフで素晴らしかったです。

古来西洋では人物彫像に関して”顔の個人性”は重視されていなくて、寧ろそのタイプのイデアを追い求める形が多くて。そこから肖像画への機運が芽生えていって。その後の西洋美術の流れはビュールレコレクション展に詳しかったですね。

当時理想化された人物の頭部作品の中でイノベーションを起こしていたのがロッビアの人々で。アンドレア・デッラ・ロッビア≪理想的な若者の肖像(聖アンサヌス)≫や女性的に造られたジョバンニ・デッラ・ロッビア周辺≪バッカス≫等は施釉テラコッタという手法でツヤツヤした立体作品を行い、当時のカロス・カイ・アガトス(外見の美しさは内面の美を顕わす)という思想を体現していました。

また古代ローマとそれに影響を受けたルネッサンス期はアスリートや戦士の像も作られていて。そんな男性彫刻の中でアンドレア・デル・ヴェロッキオの追随者≪紋章を支える従者≫はキャプションで「ドアストップに使われていた」なんて書かれていて”マジかw”と。

ベーザロ窯、ジャコモ・ランフレンコ・ダッレ・ガビッチェ、父ジローラモの工房において≪ローマ史の一挿話が描かれた皿≫というマヨリカ陶器の皿も”当時こんな色彩世界だったのか”と面白かったです。

古代ローマ、そしてルネサンス期はギリシャ神話の神々・英雄たちをモチーフにした作品が多く作られました。

そんな中でもジョバンニ・アンジェロ・モントルソーリ≪ネプトゥヌス≫は顔がミケランジェロになっているという逸品。1世紀の≪ヒュプノス≫のこめかみから羽が生えるフォルムも楽しかったです。

またヘラクレイトスは人気のヒーローで。こん棒を持った壮年時代の≪座るヘラクレス≫もワル危なくていいし、ヘラクレスの十二の功業が描かれたオルトス≪アッティカ赤像式キュリクス、ヘラクレスとヒュドラ≫やクレオフラデスの画家≪アッティカ赤像式カルピス、ヘラクレスとネメアのライオン≫という色絵焼き物も好かった。

そして小さな彫像≪狩をするアレクサンドロス大王≫のかっこよさ!風にはためくマントも、青年の顔もなんたる格好良さ!失われてしまったブケファロスという馬も是非見てみたかったなぁ。

上のジョバンニ・デッラ・ロッビア周辺≪バッカス≫でも男性神が女性のように描かれましたが≪竪琴を弾くアポロン≫もたおやかに女性的で、中世的な優男に魅力を感じる美意識はこんな昔にもあったんだなぁと。

また次の流れにはロンバルディアの芸術家(?)≪ダヴィデとゴリアテ≫・≪ゴリアテの首を持つダヴィデ≫が。巨人ゴリアテを倒したヒーローであるダヴィデ。西洋美術は神話の物語線を知っているとより理解できるなぁ。

そしてこのアポロンとダヴィデの前振りからの今回の目玉、ミケランジェロ作品の登場!

ミケランジェロ・ブオナローティ≪ダヴィデ=アポロ≫はミケランジェロが後期に造ろうとして未完に終わった作品で、ダヴィデともアポロともどちらか判別付かないミステリーのある像。

そしてミケランジェロ・ブオナローティ≪若き洗礼者ヨハネ≫はスペイン内戦で破壊されるも、破片を基に修復されて、今展示となっています。再現部分は磁石でつくられていて、新たなオリジナル部品が見つかったら取り換えられるとのこと。8才ほどの少年が思慮深さを湛えていて、なによりオリジナル部分の目が素晴らしかったです。

同じフロアにはミケランジェロの若き洗礼者ヨハネはこれでは?という説も流れたというベネデット・ダ・ロヴェッツァーノ(ベネデット・グラッツィーニ)≪若き洗礼者ヨハネ≫も。賢しい感じの目はちょっとミケランジェロとは違う感じ。ただ衣服のテクスチュアがまた好かったです。

またミケランジェロ周辺の芸術家(ザッカリーア・ダ・ヴォルテッラ?)≪磔にされた罪人≫もキリストの磔刑時左右に共に張り付けられた善い罪人と悪い罪人の内、右に視線を向けているため善い罪人であるとされていて。ガラス製の十字架にかけられていた展示も好かったです。

そして今回の目玉の一つ。ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ≪ラオコーン≫!
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元々は古代ローマ時代につくられた彫像がルネッサンスに発掘・出土して。その現場にはミケランジェロも来たそうです。そしてこの像はヴィンチェンツォがその像を再現と言うか再構築・創造したもの。この鬼のような三次元表現、凄すぎる!

NUDE展@浜美のロダンの≪接吻≫と同等の衝撃。というか、裸体表現・彫刻も含む時代の流れをあの展覧会では感じれたので、NUDE展は今回の展覧会と共鳴するところがあると想います。

最後の章はミケランジェロに関する事物のスペース。

ジョルジョ・バザーリ≪美術家列伝 『偉人ミケランジェロ・ブオナローティ伝:アレッツォの画家兼建築家ジョルジョ・ヴァザーリ殿著。またアカデミア・デル・ディゼーニョにより彼のためにフィレンツェで執り行われた壮麗な葬儀について』≫とそれに対するミケランジェロの批判的なアンサーであるアスカニオ・コンディーヴィ『フィレンツェの画家、彫刻家、建築家そして貴紳、ミケランジェロ・ブオナローティ伝』が最初に置かれて。

そしてピエトロ・トッリジャーノの拳により鼻が曲がった様が描写されている≪ミケランジェロの胸像≫やパッシニャーノ(ドメニコ・クレスティ)≪ミケランジェロの肖像≫、ジェラール・レオナール・エラールに基づく≪ミケランジェロのメダル≫なんかも。

ミケランジェロの彫刻へ向けて、コントラポスト、神話彫刻などで道筋をつけてBFでは一気に2体を魅せ、そしてミケランジェロゆかりの作品も展示するという構成でしたが、もっとディレクション強度を上げても佳かったかなとは想いました。

とはいえ中々いい時間を過ごせました。冒頭のプットーから惹きつけられる彫刻だったし、≪ダヴィデ・アポロ≫と≪洗礼者ヨハネ≫には聖性を感じたし、≪ラオコーン≫も好かった。

そして国立西洋美術館といえばコレクション展。これも好い塩梅で。ロダンのバルザックやクラーナハ(父)の絵、新蔵品ではドガの踊り子のいい奴、シャセリオーもあったし、撮影不可のクロード・モネ≪エプト河の釣人たち≫も素晴らしかった。

また企画展の『西洋版画をみる』ではアルブレヒト・デューラーの≪ネメシス(運命)≫や≪頭蓋骨のある紋章≫、ピーテル・ファン・デル・ヘイデンとピーテルブリューゲル(父)≪金銭の戦い≫、ジョルジョ・ギージ、ジョバンニ・バッティスタ・ベルターニ≪エゼキエルの幻視≫、ヘンドリク・ホルツィウス≪羊飼いの礼拝≫が好かったです。

それでは最後にフォトスナップ達を。

オーギュスト・ロダン≪バルザック(習作)≫
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ルカス・クラーナハ(父)≪ゲッセマネの祈り≫
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ヤコボ・デル・セッライオ ≪奉納祭壇画:聖三位一体、聖母マリア、聖ヨハネと寄進者≫
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リヒター l クールベ
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テオドール・シャセリオー ≪アクタイオンに驚くディアナ≫
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ジャン=フランソワ・ミレー ≪春(ダフニスとクロエ)≫
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ギュスターヴ・ドレ ≪ラ・シエスタ、スペインの想い出≫
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エドガー・ドガ ≪舞台袖の3人の踊り子≫
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エドゥアール・マネ ≪花の中の子供(ジャック・オシュデ)≫
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ピエール=オーギュスト・ルノワール ≪木かげ≫
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オーギュスト・ロダン ≪私は美しい≫
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エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン ≪母と子(フェドー夫人と子供たち)≫
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ポール・セリュジエ ≪森の中の4人のブルターニュの少女≫
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ポール・ランソン ≪ジギタリス≫
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ピエール・ボナール ≪坐る娘と兎≫
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ジョルジュ・デヴァリエール ≪聖母の訪問≫
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ピエール=オーギュスト・ルノワール ≪帽子の女≫
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シャイム・スーティン ≪心を病む女≫
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ジャクソン・ポロック ナンバー8, 1951 黒い流れ
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by wavesll | 2018-09-17 00:16 | 展覧会 | Comments(0)
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