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芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師展@練馬区美術館 年月を重ねるごとに芳醇さを増していった画業の生

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月岡芳年展、≪英名二十八衆句≫がすべて展示されるという惹きにやられて行ったのですが、「血みどろ絵」だけでない芳年の画業の全貌をしれたのは収穫でした。美人画や月の浮世絵も。そして戦闘画のやはりの素晴らしさ。年を重ねるごとに絵の上手さが増して、最晩年に到達した“最後の浮世絵師”の画に感動しました。

まず15才でのデビュー作≪文治元年平家の一門亡海中落入る図≫からして三枚組でスゴイクオリティ。平家物語を描いた≪那智山之大滝にて荒行図≫の滝飛沫も凄い。剣道道場を描いた≪宇治常悦門弟稽古之図≫やまさに”猿”な≪通俗西遊記 金角大王≫の孫悟空にベロベロバーな≪和漢百物語 頓欲の婆々≫も楽しい◎

≪近世侠義伝 盛力民五郎≫の血のにじみや≪美勇水滸伝 高木午之助≫の気の強そうな顔、≪美勇水滸伝 黒雲皇子≫のマントもかっこいい。≪賎ヶ峰大合戦之図≫のギョロリと大きく光る眼、≪山本勘助猛猪を撃つ≫のドラゴンのような猪のポップさ。町の火消が大集合の≪江戸の花子供遊の図≫もいい。≪当勢勇の花≫は入れ墨がいい。

≪四代目尾上菊五郎 追善絵≫はさっと引いた線が綺麗。≪江戸のはな 美立花くらへ お祭り佐七 家橘≫はやはり刺青が好い。≪正札附俳優手遊≫のおもちゃ屋の風景もノスタルジーを感じるし、≪五代目坂東彦三郎のすけの局 二代目沢村訥升の源義経 五代目大谷友右衛門の新中納言平知盛≫の歌舞伎の良さ、将棋の駒がかわいい≪狂画将基尽し≫も好かった。

そしてここから「血みどろ絵」のコーナー。≪英名二十八衆句≫では≪英名二十八衆句 団七九郎兵衛≫≪英名二十八衆句 福岡貢≫≪英名二十八衆句 古手屋八郎兵衛≫≪英名二十八衆句・稲田九蔵新助≫≪英名二十八衆句 笠森於仙≫が好かった。またこのシリーズを共に描いた落合芳幾のものでは≪英名二十八衆句 十木伝七≫≪英名二十八衆句 遠城治左エ門≫≪英名二十八衆句 春藤治郎左エ門≫が好かった。この≪英名二十八衆句≫は舟形に決まった鮨のようにぴしっとしたデザイン性に優れていますね。

また血みどろになりながら桶から水を飲む様が描かれた≪東錦浮世稿談 幡随院長兵衛≫や水表現のブルーがいい≪東錦浮世稿談 若嶋権右ヱ門≫、白と墨の構成がいい≪美談武者八景 鶴岡の暮雪≫、ダイナミズムが凄い≪清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎≫にピンクフロイドのような≪誠忠義心伝 十二 矢多五郎右エ門藤原助武≫も愉しい。

≪魅題百撰相 会津黄門景勝≫は桃太郎の様。≪魅題百撰相 駒木根八兵衛≫は銃口を向ける構図がいい。ハラリと青白く天をつく≪魅題百撰相 冷泉判官隆豊≫もいいし、≪魅題百撰相 佐久間大学≫の血のにじみや≪魅題百撰相 鳥井彦右ヱ門元忠≫のジジイの血走る眼も凄味がありました。


次の章は 転生・降臨ー”大蘇”蘇りの時代。

畳みで防御する≪競勢酔虎伝 大矢内竜吾≫、最後の剣客を描いた≪競勢酔虎伝 大矢野作左衛門≫。≪徳川治蹟年間紀事 五代常憲院伝綱吉公≫の色の洪水。≪徳川治蹟年間紀事 十五代徳川慶喜公≫なんて作品も。≪名誉八行之内 悌 常盤御前≫のマロなマユも雅。


≪大日本史略図会 第一代神武天皇≫にみる明治の国家的な昂揚。≪大日本史略図会 第廿二代雄略天皇≫のイノシシ狩の帽子姿。≪大日本史略図会 第八十代安徳天皇≫は壇ノ浦に飛び込む姿。≪矢嶋大合戦之図≫は建礼門院の切り込みの図。≪義経記五條橋之図≫のモンスターのような弁慶の迫力に≪新容六怪撰 平相国清盛入道浄海≫のどよんとした黒。

≪郵便報知新聞 第五百卅二号≫では捨てられた女の妖しい報道記事の挿絵が。

そして西郷を描いた作品達。≪西郷隆盛切腹図≫に西郷が竜宮城へ攻め込むという≪隆盛龍城攻之図≫、冥界から建白書で物申す西郷を描いた≪西郷隆盛霊幽冥奉書≫なんて作品も。≪日本武名伝≫では当時の重要人物が勢ぞろいしていました。

≪明治小史年間記事 皇后宮西京行啓鉄道発車之図≫の鮮やかな紫の傘。≪見立三光之内 近江石山 秋の月≫の青。≪見立多以尽 いっぷくのみたい≫の女のいろっぽさ。≪美人七陽華 正五位柳原愛子≫の活発で溌溂な女性像。≪東京自慢十二ヶ月 一月 初卯妙義詣 柳ばし はま≫のグリーンの艶。≪新柳二十四時 午後十二時≫のヨルの風景。

≪全盛四季 春 荏原郡原村立春梅園≫の女の表情がまたいい。≪全盛四季 夏 根津花やしき大松楼≫の女風呂のコケティッシュさ。≪全盛四季 冬 根津花やしき大松楼≫の粋な女もまたいい。≪芳年存画≫は神様たちのかくれんぼ。

そして明治15年から明治25年(1882~92)の最後の十年の作品達。ここにおいて芳年の筆はさらに究めていきます。


≪藤原保昌月下弄笛図≫の黒雲。≪東名所墨田川梅若之古事≫のうつくしさ。≪偐紫田舎源氏≫のおどろおどろしい美。≪大阪軍紀之内 半田寺山敗将日本号鎗傷≫はちょっと南米的。≪曽我時致乗裸馬駆大磯≫は筆の勢いがいい。夢がフキダシになっている≪くら美良喜≫≪金太郎捕鯉魚≫も楽しい。

妊婦を殺す様が描かれたショッキングな≪奥州安達がはらひとつ家の図≫に、南総里見八犬伝からモチーフを得、ドラスティックな構図が素晴らしい≪芳流閣両雄動≫。扇を掲げる様がカラフルな≪一ノ谷合戦≫に破波に飛び込む≪俊寛僧都於鬼界嶋遇々康頼之赦免羨慕帰都之図≫、まるでGANTZな≪魯智深爛酔打壊五台山金剛神之図≫、美女が水に映ると鬼の姿な≪平維茂戸隠山鬼女退治之図≫、蛇仙人と鷹仙人が描かれた≪袴垂保輔鬼童丸術競図≫、VS鬼な≪羅城門渡辺綱鬼腕斬之図≫も凄かった。

一方で女のことばかり考えてしまう≪清玄堕落之図≫や浦島太郎を描いた≪芳年漫画 浦嶋之子帰国従龍宮之図≫や仙人が手ほどきする≪芳年漫画 舎那王於鞍馬山学武術之図≫という画も。

≪新撰東錦絵 佐野次朗左衛門の話≫の凶刃。≪新撰東錦絵 田宮坊太郎之話≫の綺麗な女、≪新撰東錦絵 生嶋新五郎之話≫の男女のScene. そして水辺で復讐を果たす≪新撰東錦絵 鬼神於松四郎三朗を害す図≫のとんでもない美しさはまるでクライマックス。

こうしたサスペンスフルな画の冴えも素晴らしい中で、晩年芳年は月百姿という月景のシリーズも手掛けています。

≪月百姿 朝野川晴雪月 孝女ちか子≫の 宙の表現。≪月百姿 雨後の山月 時致≫の立体的な顔と刀と躰の月形。≪月百姿 吉野山 夜半月 伊賀局≫の透明な天狗のパステルな描写。法力で月を海に沈めるような姿を描いた≪つきの百姿 大物海上月 弁慶≫や兜の月をモチーフとした≪月百姿 信仰の三日月 幸盛≫、大火事な≪月百姿 烟中月≫、透明感のある神秘的な≪月百姿 源氏夕顔巻≫

水面に映る白月の≪月百姿 はかなしや波の下にも入ぬへし つきの都の人や見るとて 有子≫、雅楽の蘭陵王のような≪月百姿 朧夜月 熊坂≫、リラックスした宴の≪つき百姿 盆の月≫、なんとも幸せそうな≪月百姿 月明林美人来≫、月へ還る≪つきの百姿 月宮迎 竹とり≫に花吹雪な≪月百姿 忍岡月 玉渕斎≫にまさにサルな≪月百姿 玉兎 孫悟空≫、ジョジョ立ちな≪つきの百姿 雪後の暁月 小林平八郎≫に花弁が麗しい≪月百姿 楚僧月夜受桂子≫と、たんに綺麗なだけでなく一ひねり効いた月の景色が素晴らしかったです。




そして舞台と歴史とハイ・イメージが止揚された作品達。≪一ツ家 五代目尾上菊五郎≫の老人の迫力。≪弁慶 九代目市川団十郎≫の目と眉の力。≪雪月花の内 雪 岩倉の宗玄 尾上梅幸≫のリーゼントに≪雪月花の内 月 毛剃九右衛門 市川三升≫の異国の扮装。≪雪月花の内 花 御所五郎蔵 市川左団次≫のなんとも粋な格好良さ。

またその後の別章では肉筆画や下絵図が展示されて。≪大蘇芳年像 金木年景画≫のきっちりしたおじさんといった趣。喝を入れてくれそうな≪猿田彦命≫、馬上の≪家康像≫なんてのもありました。

芳年翁の芸術はどんどん向上して行ったのが本当に感ぜられて。人間、研鑽は人生をかけての営みなのだなと感じ入りました。血みどろ画のエッジや、ワンダーをモノにしながら、さらに広い光景を描いていったその心の躍動、エナジーをもらえました。

by wavesll | 2018-10-13 07:17 | 展覧会 | Comments(0)
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