人間ってナンだ?第11回のテーマは「老いる」。高齢者に寄り添い、癒し、健康の維持を手伝い、高齢者を支えるAIの関わり。そもそも人間にとって「老いる」の本質とは?ゲストは五木寛之。
人はなぜ老いるのか?例えば単細胞生物は老いない。これは老いた方が良いということだろうか? 青春、朱夏、白秋、玄冬。人生50年の時代の老いると人生100年の時代の老いるは異なって来る。超高齢化社会の中でAIは高齢者の不自由を支える技術として、そして「老いるとは何か?」を分析するためのツールとして働く。 例えば相手の嗜好・情報を覚えて会話するAIパルロ。実際に介護施設で体操の指揮や相手と話したり愚痴を聞いたりする。基本的に最初は高齢者は抵抗があって、その抵抗を外すことから始めているそう。 動いているものをトラッキングするAI。顔認識AI。話しかけてきそうか判断するAI。唇に注目するAI。音声認識するAI。これらを連動させるAI。これから先AIがないと介護は回らなくなるだろう。 五木「まだAIは揺籃期。まだ実用段階には達していないように感じる。それに人間は老いていくに従って孤独に従う、それで何がおかしい?宗教的な問題を孤独の中でする人にロボットが関わるにはアーティストとインテリジェンスがないと難しい。」 体力と認知機能の測定するAIもある。測定したデータからタイプにあったトレーニングを提示する。「こういう生活した人がこういう健康データとなる」という部分をディープラーニングしていく。そうすると健康状態の未来予測ができるようになる。 五木「人間一人一人の個性を平均化標準化していく方向へ行くことに不安がある。」 松尾「データが多くなると細分化したパターンに対応できるようになる。また生活の中でどういうデータを取るかが重要。何を食べたか、どういう人と話したか。それらを複合的に判断すると健康や体力に関して詳細な分析ができる」 AIは人間の健康寿命を延ばせる?! AIと人間の老い、二つを繋ぐ技術は他にもあります。それが茨城県つくば市CYBERDYNEのロボットスーツHAL。つくったのはロボット研究者・工学博士・筑波大学教授の山海嘉之さん。 山海さんのロボットの特長は人が装着して初めてその力を発揮する点。人が体を動かそうとするときまず脳から「動け」という指令が出て、その指令が電気信号となって筋肉に伝わる。山海さんはその電気信号を捕まえる高性能のセンサーを開発。さらにその信号をコンピューターで解析し人間の複雑な動きを再現できる世界初のシステムをつくりだした。 山海「例えば脳からはこういう情報が出ているはずだけれども信号自体は欠落があったりする。それはAI処理で補完し、スムーズな動きに変える」 このスーツは重い荷物を持ち上げる時に腰にかかる負荷を最大40%も減らしてくれる。介護施設での力仕事でも活躍が期待されると共に医療の現場でもドイツや日本では実用化が始まっている。 山海「人とHALの間で神経系の機能を回復・改善させていくループが回り始める。HALを使えば使うほど神経と神経の間のシナプス結合、神経と筋肉の間のシナプス結合が強化・調整され、残存機能が向上していく」 人間と機械の間で増幅のループを作る 山海「これまで脳神経系からの情報は人間の内側のものだった。それを一旦ロボットの中に取り出す。これは人間の脳神経系の世界の中にHALというサイバニックシステムを介入させて、医者が脳神経系の世界に入り込みながら治療する技術に進化している」 五木「あぁいうのがあれば非常にありがたい。人間は動物から人類、道具を使う。手で切るより鋏で切る方が楽だ。メンタルな部分で話し相手になってくれるよりモノを運んでくれる方がずっとありがたい。」 ロボットスーツのような技術がAIによって進んだ先にはいったいどんな世界が待っているのか? 例えばスポーツ選手の世界ではハイテク化が進み、義足の選手がオリンピック選手を超える日も近いと言われている。 サイボーグ的なムーヴメントが起きた時にどう捉えればいいのか?道徳的な問題もあるのではないか? 五木「日本の進むべき道として絶対にある。日本の義手義足は世界的にみて水準が高い。地雷などで身体を失った人などに日本が貢献できる分野だ。」 松尾「義手・義足はいいが、臓器、脳、そして身体が100%機械になったら人間なのか?」 五木「ロボトミー(脳の神経回路の一部を他の部分から切り離す外科手術)なんて言葉も連想される」 徳井「本当に切実に義手義足などを求めている人がいる一方、好奇心半分で便利にするためにサイボーグ化する人たちはやっぱり違う」 五木「けれど自転車なんかと同じではないか?」 松尾「身体を拡張するのと何が違うのかという議論もある」 身体の拡張は「老い」も超克する? 松尾「例えばパワースーツや義手義足は今のところ人間が制御しないといけない。人間の医師をくみ取ってそれに力を与えるというもの。ところが手や足は無意識下で非常に細かい制御をしている。普通に歩いているように思っても足をどこに置くかは無意識下で脳が非常に細かい処理をしている。そういうところをAI・ディープラーニングが補うことが出来れば、ディープラーニングのような義手義足が出来た方がより使いやすくなり、転ぶなどを気にせずに歩けるようになるかもしれない」 五木「人間の学習能力、例えば段差や階段を気を付けようと思って歩く、その危険意識と関係なくなってしまうのは問題では?やはり少々の失敗もないと。」 松尾「気を抜いている時はちょっと失敗するシステムをつくるとか」 五木「そこまでプランニングされて『2%は失敗しよう」とかまでされると恐ろしいというか、そこまでお世話になりたくないという感じ」 AIはおせっかい過ぎない方がいい? 人はなぜ「老いる」か? 五木「人はなぜ老いるかは分からないけれども、老いるのは現実。『どう老いるか』が問題となっている。医学的な基準は未だに知見の進歩で揺れ動いている。基準が揺れ動くのにどうしてそこから学習しなければならないかという疑問は抑えきれない。」 松尾「色んな説があるが、細胞分裂の回数がMAXいくらかが決められている。分裂の回数を何回でもいいという設計を人間は取ることが出来たし、生物も取ることが出来たはず。分裂の回数を制限した方が良いという何らかの理由があってそうなっているんじゃないか。ちょっと人工知能と関連づけて話したい。 ニューラルネットワークがあったとしてそこに画像や音声やテキストが刺激として入り、その判定をさせる。これには『学習率』というものがあって、最初は大きく取ってだんだん低くしていくと早く学習できる。」 学習率とはAIが学習する際のコンディションを決めるパラメーター変数のこと。この値を大きく取るか小さく取るかで効率が大きく変わる。 松尾「山とか谷の構造があって、一番高い山を見つけたいという問題だとして、適当なところから始めて歩いて一番高い山を見つけ出していく。その時最初は大きく動いた方が良い。全然とんでもないところにいる可能性が有るので最初は大きく動いた方が良くて段々いいところに近づいてくると動き方をちょっとづつ緩めて行った方が良い。 学習の初期においては学習率は大きく取っておいて、学習が進んだ際には段々と学習率を弱めていった方が良いとされている。僕はAIと人間の学習率には関連があると考えていて、若い時は学習率が高い。だんだん学習がしにくくなって大人になる。 特に音の認識において顕著で、日本人はLとRの発音が分からない。これは幼少期に英語圏に居てLとRの発音に触れていると分かるのだけれども、日本にいるとLとRの区別をしてないので区別が出来なくなってる。これは学習は下の段から積み上げていくから、音の情報→音素→シラブル(音節)→単語→文となる構造上、音素の学習を固めないとその上の学習がしにくい。なのである一定の年齢までに音素は固め、次の学習へ行きましょうと下から積み上げて行っている。 ですから人間が成長する過程で概念が下から組み上がる。学習率が高い頃の方が若くて段々収束していく。こういうことが起こっているんじゃないかと思う。」 概念を汲み上げると学習率は下がっていく。若い頃は伸びしろで勝負、老いてからはそれまでの積み上げが効いてくる。 老いるにつれ人間は知識と経験を積み重ね、個人として学習を完成させていく。一方何世代にもわたって進化の過程で積み上がった能力も無視できない。学習と進化、この二つはどういう関係にあるのか? 松尾「例えば明るいところが嫌いな動物や生物がいる。明るいところを嫌いという性質は進化的に獲得する事も出来れば学習によって獲得することもできる。ではどういう場合に進化で獲得した方が良くてどういう場合に学習で獲得した方が良いか?」 五木「適者生存では」 松尾「そうです。進化の場合は適者生存といって環境に上手く適合したものが生き残る。でも一緒のことが学習でも起きる。では進化と学習は何が違うのか?」 徳井「環境が急激に変化した場合では」 松尾「そうです。進化の方が環境が変わらない場合にはロバスト(頑強に)性質が保たれるのだけれども、環境が変わる際は学習の方が良い。 人間というのはかなりの部分を学習に頼っていて、それは環境が変わることに対して非常に強い性質を持っている。これは人間が社会を創り上げてきたり環境自体を変えるという事をやって来たから。今でも教育の制度は凄く重要だけれども社会環境に合わせて教育の仕方自体を変えることによって全然違うタイプの人間を時代時代に合わせて生み出してきた。凄く環境の変化に対して柔軟な仕組み。 という風に人間は学習に重きを置いた生物ではないかと。」 五木「学習の効果はあるんですか?」 松尾「学習の方式は色々ありますけれども、『教師あり学習(正解・不正解のデータが大量にある場合に、正解を真似する学習)』は出来る。それと『強化学習(何かの行動をすると結果的に良かった、何かの行動をすると結果的に悪かったというデータがある時にどういう行動をすると良い、どういう行動をすると悪いということを学んでいく)というやりかたもある』」 ゆっくり変わる進化とあの手この手の学習で時代の変化を生き延びてきた人間、そんな人間の定義がAI時代に変わると山海さんは言う。 山海「ネアンデルタール、ホモサピエンスという大きな流れの中、脳の容量も道具を作る能力も色んなものが少しづつ良くなって、生き物としては遺伝的に次の段階へきて、今私たちはいる。しかしテクノロジーを身に着け環境を変える術を得たことによって、生物としての進化を捨てた種族だという風に言える。 脳の容量の足りない部分がIT系の技術によって拡張されはじめている。IT空間だけでなく物理空間にも作用するロボットの技術が登場し、人とロボットと情報系が融合・複合した新しい時代を迎えようとしている。人類の新しい形の進化が始まっているともいえる。 しかしこれは生物としての進化ではなくテクノロジーと共に生きる、そういう未来。つまり人とテクノロジーの共生社会における新しい一歩」 人間は進化を捨てた?それとも新たな進化を手に入れた? 五木「人間というのは学習しない存在と痛感するところがある。第一次世界大戦であれだけの悲劇を引き起こしながら何十年かしない内に第二次世界大戦を引き起こしてしまう。全然人類は学習しないじゃないか」 松尾「まさにそこでして、人間の寿命が80年ぐらいだからこそ、世代が変わると記憶が引き継がれなく、忘れてしまってまた同じことをやるということが起こってしまいがち。これは人間の寿命がそういう風に設定されている故の人類の弱さ。そういうところに高齢者の方は凄く重要な働きをするんじゃないかと考えている。 変わらないものに対して高齢者の方がデータをたくさん持っている。それを人類社会のために役立てることは若い人には出来ないこと」 五木「そういってもらえると嬉しい。超高齢期の意味を感じました」 松尾「一つ面白い話をするとシンギュラリティー(技術的特異点)で有名なレイ・カーツワイル氏が脱出速度というものを提唱していて、これは何かというと、今技術の進歩は年々早くなっている。加速している。仮に一年間で技術進歩によりもたらされる平均寿命の延びが一年を超えるとヒトは死ななくなること。カールワイルはその地点が10年から15年で来るんじゃないかと言っている。この世の中がどう変わるか高齢者の方に見てもらいたい」 この番組はAIに関する技術をレクチャーしてくれるという面と、人間存在とは何かを考察する面があって、今回は後者の面で大変に見ごたえがありました。 それは「老いる」というテーマに加えて、五木氏の存在が非常に大きくて、ただ松尾さんの解説に頷くだけでなく時に異議を唱え自説を主張するその姿勢が番組にテンションをもたらしてくれたと思います。 人間の寿命が仮に100才としてもう1/4をとうに過ぎた朱夏な自分にとっては学習率の話は恐ろしくもありましたが、死というもので閃光のように人の生は熱を持つ感覚はあります。また寿命があるからこそ、過去の学習が一旦リセットされていくからこそ社会が変革していくダイナミズムが起きるのだろうと思って。 そう考えるとAIによって人類が寿命から脱出したとしたら、確かにテクノロジーと共に成し遂げた生物としての進化ではあるけれども、社会的には変革が起きない、静的な未来があるのではないか、ある意味それはヒトという種が神が造った動物に戻るという未来なのかもしれない、そんな気もする噺でした。
by wavesll
| 2018-12-12 20:06
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