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Arctic Monkeys『TBHAC』, Yves Tumor『SITHOL』, Sophie『OOEPUI』, 長谷川白紙『草木萌動』: Rockと先端音の来方行先

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複雑な音楽というのは噛みしめ甲斐があるもので、今年Spotifyで一番聞き込んだのはSophieの『Oil of Every Pearl's Un-Insides』とYves Tumor『Safe In The Hands Of Love』でした。

特にYves Tumorの方は去年のKing Krule『The Ooz』の先に鳴るAltanative Rockの尖端音というか。昔『アラビアの夜の種族』という小説があって、これはRPG的ファンタジー小説を書いていた著者が、「ナポレオンに侵攻されるカイロで至高の秘本を千夜一夜のように読み解くことで奇跡を起こす」という幾重にもわたる扉を設けることでいわば下世話になってしまうような外連味に読者を連れ出すことに成功しているのですが、Yves Tumorの本作は此れに近くて、今Rockの炸裂音をやるにはここまで助走を必要としないと気持ちがフェードインしないものか、なんて思いました。

その分Sophieの方が自然にExperimental Popをやってるというか、Rockも音の表現として取り込んでいる感じで聴き易くて。

そして年末にDropされTwitterや各種メディアを席巻しつつある長谷川白紙の『草木萌動』も複雑かつ新しい響きをくれて先端を魅せてくれた気がしました。

それでも何というかアナクロな人間で、ロックミュージックに思い入れがある人間として今年の内に書いておきたかった盤がArctic Monkeysの『Tranquility Base Hotel and Casino』で。

Arctic Monkeysは実は今まで聴き込んできたバンドではなくて、米国でもヒットした前作『AM』もどうもバイオリズムが合わず、かといって1stとかのガンガンの頃のアルバムも「なんか速いらしいんだろ」くらいしか知らず。ただ本作には猛烈に嵌った。R&B的な感性を飲み込んで、今鳴らすべきRockを真剣にくゆらせていると想って。そこからSpotifyの駆動力を活かして全アルバム聴いていたのでした。

アレックス・ターナーは「ただ僕はザ・ストロークスの一員になりたかっただけ、それが今ではこのザマだ」と歌いますが、 そもそもThe Strokesも自分は当時全然嵌らず、ガレージリバイバル当時聞いていたのはMando Diaoとかで何かストロークスはピンと来なかったというか。けれども時系列的な事を考えるとまさにシーンを創ったのは『Is This It』であったと想うし、何よりもジュリアン・カサブランカスが放った『Tyranny』は近年もっとも胸を高鳴らせたロックアルバムで。どうせならと今回ストロークスもSpotifyで全聴きしてみました。

そこから見えてきたのはThe Strokesがアルバムを重ねるごとに(私から見たら)創造性を増していって、おそらくジュリアンがいわゆるお定まりの『Is This It』の延長線上にあるサウンドが退屈に想ったのか(結局ソロプロジェクトまで放出しますが)どんどんその枠外へ飛び出てロックを更新していく流れがあったこと。

一方でアクモンは1stは聴いたときに「あれ?案外速くない。」と感じて。多分J-ROCKが速すぎるからかもしれません。けれど2ndで本格的に速くなって。と想ったら3rdからは結構BPMが緩やかな曲も増えて行って。図太い音、R&B的な感性を汲み入れながら、彼らも「今鳴らすべきROCK」を錬磨し続けてきたのだなぁと。

そして本日、改めて聴こうとSpotifyでArctic Monkeysを『Tranquility~』から『AM』、『Suck It and See』、『Humbag』、『Favourite Worst Nightmare』そして『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』と上から流したら、これら7枚で一大ロック組曲というか、まるでYves Tumor『Safe~』を超拡大したように、大人しく内省的な音から徐々にRock的なダイナミズムが爆ぜるように響いて。ある意味Yves Tumorはこのアクモンのキャリアを一枚の盤の中で劇的に凝縮したというか、そんな感慨すらあって。

何かをアップデートして行こうとした時に、過去のダイナミズムを一気にさらってその勢いで尖端を開拓する方法がありますが、Yves Tumorは相当Rock Legacyを聴き込んだ上で電子音楽として顕わしたのではと。そしてそのR&Dは例えばアクモン、例えばストロークスが身を捧げて紡いできた軌跡も大いに援けているのでは。完全に妄想ですが、そんなロックの来し方行く先を想ったリスニングとなりました。

by wavesll | 2018-12-30 02:21 | Sound Gem | Comments(0)
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