第5章 市場はすべて自由のために? チェコ・プラハ CSOBチェコ中央銀行 思春期に社会主義を経験した異端の経済学者は トーマス・セドラチェク(チェコ:経済学者):大統領の経済アドバイザーも務めた異端の奇才 著書『善と悪の経済学』 「自由はとても複雑な問題だ。我々チェコ人は不運にも自由について分かっていることがある。ここは実際に最高の共産主義国になろうとしていた国だからね。」 戦後の世界をある物語が二分していた。自由を謡う西の資本主義。平等を謡う東の社会主義。 資本主義を批判したマルクスは富の平等の分配を目指し計画経済を理論化した。 社会主義 「政府による計画経済」 それはハイエクが完全に否定した理念だった。全ての必要な物資を中央で集計し統制するなんて出来るわけがない。 セドラチェク「ハイエクが批判したような自由でないシステムが自由なシステムより生産性が高いことを想像してみよう。余計な競争や不要な広告をともなう経済より計画経済の方が優れていることだって考えられるはずだ。『1つの大きな工場で1種類の車だけを作ってなぜいけないのか!?』ってね。これが計画経済の考え方で実際に最初は優れているように見えた。」 マルクスの思想から生まれた夢。しかしその社会主義はやがて崩壊し、資本主義が勝利した。 1991年ソ連崩壊 歴史は動いた。自由市場の擁護者、ハイエクの言葉を追いかけるように。 リーダーの多くはまず社会主義者になりついにはファシストやナチスとなった ハイエク『隷従への道』 セドラチェク「1989年 鉄のカーテンと共産主義が終わった時、チェコとまわりの国で起きていたことの解釈をめぐっては29年後の今でも議論が続いているよ。『自由』の問題だったのか、『空腹』の問題だったのか。」 夢見ていたのは「自由」か、それとも「モノ」か。 だが、歴史は繰り返す。 ニューヨーク・ニュースクール私立大学 マルクス主義集会2018 資本主義を批判したマルクスの思想、今この国で再び熱を帯びている。 「気候変動や発展途上国での環境破壊も問題です。富める国と貧しい国の構造の核心にはグローバル帝国主義があります。」 「昨年富裕層の資産は25%も増加しました。大多数の人々の生活は苦しくなっているというのにです。トップのたった8人が世界人口の半分と同じ資産を得ています。経済成長は給料の増加や社会保障の充実や有色人種の保護にはつながりません。ごく一部の資産家やマンションオーナーを肥やすだけです。日々の暮らしを賄うため仕事を掛け持つ我々はどうなるのでしょう。」 「今という時代は『自由の罠』に陥っていると思う。」 自由の罠 「憲法でも社会の価値観としても私たちの自由はうたわれています。でも実際は毎朝早起きしてしたくない仕事をし給料も安くて生活をまかなえない。アメリカには字を読めない人、食べるものが無い人、住む場所が無い人もいる。とても自由とは言えないよね。僕らはいわば『必要』の奴隷だ。」 必要のための奴隷 「一部の人だけが社会の富を独占するのではなく、生きるのに必要なものを皆が平等に手に入れられる社会を社会主義的なアイディアによって実現できればアメリカだけでなく世界の人々が本当の意味で自由を謳歌できるようになる。」 ♪「The International」:20世紀 世界の労働者たちの間で広く歌われた 自由を求める声が複雑にこだまする。マルクスを殺した男とさえ称される自由市場の擁護者は今、何を思うのか…。 第6章 国家 VS 市場 自由か、計画か。20世紀を代表する経済学の巨人・ケインズ(1883-1946)の宿命のライバルと言われたのがハイエク(1899-1992)だった。二人は市場の自由と国家の介入をめぐって激しく対立した。きっかけは第二次大戦の前夜。大恐慌の時代に遡る。 1929年 世界恐慌 ケインズは国家が積極的にお金を使い、失業を減らす処方箋によって危機を救った。彼の書『雇用利子および貨幣の一般理論』(1936)はケインズ革命と呼ばれるほどのインパクトを世界に及ぼしたのだ。 しかしそんな中、ハイエクは別の角度から世界を見ていた。国家が介入を強め社会主義化するのを隷従への道と呼び、警鐘を鳴らした。 ジョージ・セルギン(米:金融学者) 「明らかに言えるのはハイエクは第二次世界大戦中の西欧諸国における国家権力の拡大を警戒していたということです。政府の権限がとてつもなく強まり、さまざまな規制が強化され、国家による戦争のための経済活動における『計画』が増加しました。それは軍事的な目的に合わせてモノの生産量をコントロールするためでした。 同時に彼は社会主義の台頭を目撃していました。社会主義は東欧の多くの国々で実際に公式な政策となっていましたし、当時の知識人の中には賛同する者も多かったのです。」 ロバート・スキデルスキー(英:経済学者/歴史学者) 「ハイエクの考え方は中央計画に反対するものでした。経済を計画するのではなく、市場に任せるものだと言いましたね。彼に言わせればケインズは中央計画と自由市場の妥協点だったのでしょう。政府の権限が強くなると『従う精神』に流れてしまうのだとね。彼はその流れを止めようとしたのでしょうね。」 国家による市場への介入に激しく反対した書にケインズは賛辞を贈る。 『これは見事な本だ。道徳的、哲学的には。私はほぼ全面的に賛成する。それも深く感動した上での賛成だ。』 しかし、この後全てをひっくり返す。 『だが今必要なのは計画をなくすことでなく寧ろ増やすことだ』 自由を望む精神にこそケインズは同意してみせたが、あくまでも国家の介入すべき役割を強く主張した。後にハイエクはこう反論する。 『計画が独裁を招くことはないと信じるのは馬鹿げている』 スキデルスキー「ケインズは『隷従への道』を読んでハイエクに言ったのです。『あなたの考えは経済を不安定にし人々は自由を放棄することになる。あなたが考える政策のもとでは耐えられないような暮らしになり、寧ろ独裁的なシステムに繋がるだろう』とね。」 市場の行き過ぎこそ独裁を招く by ケインズ スキデルスキー「ハイエクは単純に間違っています。彼はマクロ経済の現実を信じようとしませんでした。労働市場をとってもそこに競争がある限り『全ての失業は自発的なものだ』とまで信じていたようです。『望む賃金次第では仕事はいつでも見つかるだろう』とね。彼がバランスのとれた理論家とはとても思えません。」 セルギン「私はハイエクの支持者でケインズの『一般理論』は支持しません。あの本はどちらかというとダメな本で表面的な本だと想っています。それなのに多くの他の人々は金融経済学に多大な貢献をしたように扱っていますが私に言わせればこれまでに読んだ他のすべての金融経済学の本と比べて最も不満の残る本でしたね。」 国家と市場、その危うい緊張関係の中で時代は揺れてきた。 セルギン「『隷従への道』は人々に非常に大事な気付きを与えてくれる本です。当時増大していた国家介入の風潮を止めるのに一役買ったと思いますが、その後 最後の日と仕事をしたのはミルトン・フリードマンでしょうね。」 新自由主義 もう一人の指導者 ミルトン・フリードマン スキデルスキー「もう一人 新自由主義の指導者として大きな影響力を及ぼしたのがフリードマンでしょうね。フリードマンが『マネタリズム』を生み出しました。国家にお金の印刷を任せておけば常にインフレを起こせるという考えです。」 マネーの量を決めさえすればあとは市場が解決する。 スキデルスキー「フリードマンの考えから独立する中央銀行と財政規則という発想が生まれたのです。政府は手足を縛られるべきで国家から独立した中央銀行にお金の供給をコントロールさせようというすなわちどこまでも反国家的な動きだったと言えます。」 国家に背を向けた男たち? スキデルスキー「彼らはこう言った『すべて上手くいくことを保証する』。しかし2008年の想定外の危機には対応しきれませんでしたね。あれは新自由主義の基本理念を問いただした事件だったのです。」 資本主義、その怪物の勢いは止まらない。テクノロジーの進化の果て、国家と市場のせめぎあいは次のステージへ。
by wavesll
| 2019-01-09 08:11
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