マルクス・ガブリエル(独:哲学者) 「『機械』を意味するドイツ語は『マシーネ』です。ギリシャ語では『メヒャネー』でそれは『策略(トリック)』という意味も持ちます」 機械=トリック? ガブリエル「機械やロボット、すなわち人が作り出した兵器や道具、人はそれらに対して恐れや愛着を感じたりしますよね。それはロボットが人間の感覚を具現化しているからです。我々人間のロボット信仰の根源がここにあります。 しかし実際は機械そのものには知能も命もありません。一定の時間内だけ機能する電気回路に過ぎないのです。スマホもPCも人間が使わなければ1年もしないうちに使えなくなってしまいます。つまり機械は全て人間に依存しており人間無しには存在しえないのです。」 ユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエル:歴史学者) 「世界はこれからの数十年間で劇的に変わるでしょう。これは避けられない事です。しかしどのような社会に変わるか、その可能性は私たち次第です。技術はあくまでも人間の使うものです。技術の奴隷になって技術に仕えてはなりません。」 技術の奴隷 ハラリ「スマホもそうです。果たして自分がスマホを使っているのか。それともスマホに使われているのか。スマホに暮らしを支配されていないか。遺伝子組み換え技術や自立型兵器システムなど政府は危険な開発を規制すべきだしそれは個人のレベルでも同じです。技術との付き合い方に注意深くなるべきです」 ガブリエル 「機械が作られる目的は経済の効率化や製造プロセスの合理化ですが、その時お金では買えないような価値や意味が見過ごされてしまいます。それはいわば私たちの実体験です。芸術作品を観たりワインを片手に家族や友人と楽しい時間を過ごしたり、そういった体験をする時こそ私たちは現実の世界にいます。ポストトゥルースではない真実の世界です。でもこうした体験には価格を付けることはできませんね。現実の体験の本質は『自由』と『偶然性』にこそあるからです。」 テクノロジーがみせる擬似世界? ガブリエル 「経済は予測や合理性が追求され数字がものを言う世界です。企業の存続と成長が保証されなければならない世界ですこうした世界は科学に基づくモデルに従わない限り機能しません。しかし地球上が全てこうしたシステムに覆われてしまったら自らの手で『自由』や『偶然性』をすべて破壊することになるのです。」 第12章 合理的思考のパラドックス より速くより多くより効率的に。市場の自由を謡い、経済合理性を掲げてきた世界。自由の擁護者、ハイエクはこんな言葉を残している。 社会や人間の行為はおよそ物理学の用語で定義することなどできない ハイエク『科学主義と社会の研究』 市場の自由を擁護し続け、新自由主義の教祖と祭り上げられた男。彼の心にあったものは…。 ジョージ・セルギン(米:金融経済学者) 「その名前は好きではありません。ハイエクは『新自由主義』ではない。」 ハイエク≠新自由主義 セルギン「自由主義(リベラリズム)を嫌う人たちが使いたがる蔑称でしょう。人々はなぜこの言葉にこだわるのか…誤解を招く言葉だと思います。面白いですよね。新自由主義を批判する人の多くがこう言います。『あなたたちは金銭的・物質的な生産高しか気にしないでしょう。他の数字も重要なのにGDPなどの数字しかみない』。 ところがハイエクは『違う』と。『我々は他の要素…特に自由が大事だと思っている。人間の自由の方が社会の生産性よりも大事だと思っている』。『ハイエクら新自由主義矢が全くの物質主義者だ』という風刺は完全にデタラメなのです。ハイエクは超合理主義を批判しています。『合理性の限界』を知るべきだとね。」 自由に最大の価値を置くハイエクは合理主義に突き進む社会を批判した。 人間の理性とは合理主義者が想定するように特定の個人に宿るものではない。理性とは人と人との関わり合いの過程から生まれるものである。他人の能力や行動を裁く資格など誰にもない。 ハイエク『真の個人主義と偽りの個人主義』 ハイエクは社会が一つのゴールに向かうことを何よりも嫌った。 セルギン「ハイエクの要点はこうでしょう。自由な社会には価値がある。人々が職業を選べ、自らの才能を生かす場があり、お互いの筝や政府についても自由に意見しあえる。これらはGDPなどの数字では測れないが人間の幸福にとってとてつもなく重要なのだと。」 数字で測れない「世界」… セルギン「社会の真価を考える時、1人ん当たりの生産性などという物差しを持ち出すべきではありません」 トーマス・セドラチェク(チェコ:経済学者) 「ハイエクは資本主義の古典的な価値に立ち返っていた人だ。僕はそれに同意するよ。今の経済は資本主義でなくて『成長資本主義』だ。成長にとらわれて資本主義の本当の価値を捨てようとしている。 人間の自由より経済成長を優先するならばそれは本当の資本主義ではない。」 経済の成長 < 人間の自由 セドラチェク「経済成長をすれば素晴らしいが成長への偏愛はやめよう。このような経済学の根本にある哲学にハイエクが貢献したのは間違いない」 数字の物語に憑りつかれ、それを進歩と思い込んできた、私たち。それは、自由を求めていたはずなのに、経済合理性の名のもとに自由を自ら捨てる偽りの個人主義だったのか…? セドラチェク 「ハイエクの思想は偏った考えの人たちにある意味でハイジャックされたのだ。偉大な思想にはしばしば起こることだ。」 最終章 経済学の父が見ていた人間 セドラチェク 「すべての経済学者がアダム・スミスに立ち戻る。経済学の父だ。」 アダム・スミス(1723-1790) 人々が自らの利益を追求すれば社会に富が生まれる。見えざる手という言葉で市場の自由を説いたのだ。経済学の父の思想はハイエクによってこう語られている。 アダム・スミスが「合理的経済人」という化け物を生み出したと思われているがそれを事実誤認である ハイエク『真の個人主義と偽りの個人主義』 セドラチェク 「アダム・スミスは市場は完全でないことを認めていた。非合理な人間を統合させることの限界をわかっていた」 経済学の父は人間の本質をみつめていたのか。 スミスによれば人間とは元来、怠惰で無精で軽率、浪費家である。時に善人にもなり時に悪人にもなる。時には聡明だがそれ以上に愚かな存在なのだ。 ハイエク『真の個人主義と偽りの個人主義』 経済の巨人たちが求めていたのは全ての人々があるがままで生きられる社会。これが市場という言葉に込められた意味だった。 セドラチェク 「ハイエクは『見えざる手』にまつわる素晴らしい文章を書いた。そこでギリシャにさかのぼり思想家トマス・アクィナスの言を引いている。『全ての”悪”を消そうとすれば多くの”善”も消えてしまう』とね。 アダム・スミスもこれに同意するだろう。これが自由な社会の本当の価値だ。 物を買える『自由』や相手をののしる『自由』ではなくて、もっと深い『自由』だ。個人が国家の考えに支配されないそんな自由です」 自由、合理性、個人主義、私たちはみんな都合よく解釈してきたのかもしれない。 ガブリエル 「人間は『イメージ』の中に存在しています。本来の『自由』とは自らの『イメージ』を作り出せる可能性のことです。自由を享受し未来へ引き継ぐ方法をみつけなければいけません」 ハラリ 「資本主義は社会を正しく進ませる自然で永続的な方法だと言われますが、でもそれは間違っている。資本主義は過去何百年間に作られた1つの制度にすぎない。いきすぎた『自由市場』という概念に惑わされてはいけない」 資本主義の中心にある市場。そこに合理性と競争と夢を視るのも自由だ。だが人はみな愚かで弱い。愚かで弱いまま振る舞える場がそもそも市場ではなかったか。行き先を決めるのはこの欲望の星を生きる私たちだ。 文明が発展できたのは人間が市場の力に従ってきたからだ 『隷従への道』フリードリヒ・ハイエク 止められない、止まらない。欲望の資本主義。
by wavesll
| 2019-01-10 20:51
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