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奇想の系譜展@東京都美術館 ”奇想は満腹”な人にも薦められるBest Compilation

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上野・東京都美術館で奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールドをみてきました。
実をいうと”あー外人が好きそうなやつでしょ?奇想系もお腹いっぱいだよなー”なんて思っていたのですがなかなかどうして!確かにこりゃベスト・コンピだけど魅せるものがある。初展示作品も数あったのに加え岩佐又兵衛展としてもみれるくらいまとまっていたのも嬉しかったです。

本展を裏づけしているのは辻惟雄氏が美術手帖に連載し1970年に著した『奇想の系譜』という書。近年ベルギー奇想の系譜展@Bunkamuraなどとみに多用されている”奇想”ですが、そもそもこのコンセプトからいうと本展覧会は真打といえます。

本展では『奇想の系譜』に取り上げられた若冲、蕭白、芦雪、又兵衛、山雪、国芳に其一と白隠を加え、それぞれの絵師を一人づつ展示していくスタイル。

最初に登場するのが伊藤若冲。2006年のトーハクから2016年の動植綵絵な東京都美展、そしてその後のアートシーンでまさに目玉の日本画家となった若冲。ここでも素敵な作品をみることが出来ました。

先ず現れるのが≪象と鯨図屏風≫。象の官能的ともいえる仏のような目が印象的。そしてモデルの撮影のカットアップ映像のような≪鶏図押絵貼屏風≫は近年見出されたもの。

そして目玉が≪旭日鳳凰図屏風≫。動植綵絵の数年前に描かれたこの色鮮やかな鳳凰図。白い頬に桃紅がさして。トリコロールのような青赤白の彩色。下方にある波のデザインも素晴らしく、時間を超越した美がありました。

その他も大阪から京都への船での光景を描いた≪乗興舟≫や紫陽花を二色の藍で画いたこれぞ若冲な≪紫陽花双鶏図≫、バッタやカマキリが画かれた≪糸瓜群虫図≫となかなかな出品でした。

第二の絵師は曽我蕭白。トーハクでのボストン美術館展の≪雲龍図≫も印象的でしたがここでも逸品が。

シャカが前世で帝釈天が化けた悪鬼に試される≪雪山童子図≫のユーモラスさ。青鬼がなんとも魅力的で。中国の名勝を描いた≪楼閣山水図屏風≫も良かったし、三鋭角の富士が興味をそそられる≪富士・三保松原図屏風≫も大パノラマで。

そしてイチオシは≪仙人図屏風≫。この狂った境地に達したジジイたちの顔w!最高じゃないかw爺のMADNESSでいうと画狂老人卍も想起しました。

また大迫力な≪唐獅子図≫も良かったしデフォルメされた山水描写がイラスト的現代性のある≪虎渓三笑図≫も良かったです。

次に登場するのは気になってた長澤芦雪。こうしてアラカルトで摘めるのが本展のいいところ。

何しろ芦雪は顔つきがいい。≪群猿図襖≫のサル達のいいツラ。アフタヌーンで連載しそうなタッチ。≪雲龍図≫も目がなんかきさくで。そして≪猛虎図≫のトラもマンガの主人公になりそうな魅力的な顔つき。

≪山姥図≫の赤子と婆のなんともごうつくな顔が良すぎwそして≪猿猴弄柿図≫の人間みたいな猿の親子の顔。素晴らしかった◎

また≪白象黒牛図屏風≫の白象についている鴉のバカ面と黒牛についている仔犬の超可愛らしさw他にも3平方cmに描かれた≪方寸五百羅漢図≫≪なめくじ図≫なんて面白いのも。≪牡丹孔雀図屏風≫には三井家の剪綵を想起しました。

その他童が透ける≪牧童図≫や白黄赤青が綺麗な≪花鳥図≫、≪方広寺大仏殿炎上図≫なんてモチーフの画や快く天を舞う≪龍図襖≫で〆られました。

そして個人的には一番の発見となったのが岩佐又兵衛のPart.

何しろ凄いのが辻氏が修士論文に選んだ≪山中常盤物語絵巻≫。その第四巻は源義経の母親・常盤御前が賊に惨殺される場面が。凄惨な事件が展開する絵巻なのですが、目を引いたのは登場人物の着物の柄。どれも違う柄のデザインが非常に美しくて。続いて展示される≪堀江物語絵巻≫でも侍たちの鎧がなんとも金柄で彩られて美麗。岩佐又兵衛がこんなにも着物・鎧に拘っているとは嬉しいサプライズでした。

そしてトーハク国宝展ぶりにみた≪洛中洛外図屏風≫。火炎太鼓も登場する細やかに描かれた祭りの風景に”リロードするたびに違うこれの誰かがウォーリーになるウェブサイトつくったら面白そう”とか思いましたw2/24まで展示されていた≪豊国祭礼図屏風≫も気に成るな~。

その他やはり着物の柄がイケてる≪伊勢物語 梓弓図≫に工房作とも言われる伝岩佐又兵衛≪妖怪退治屏風≫も妖怪たちがいきいきとしていて。そして後期もがらりと展示が変わって重文が多数登場するので岩佐又兵衛展として楽しむ御仁はもう一回かも。

そして狩野山雪の展示に。

文殊と普賢の化身と想われたという≪寒山拾得図≫のマッドな魅力。≪梅花遊禽図襖≫はコの字になった梅の姿に鳥がまた美しい。≪蘭亭曲水図屏風≫は柳の緑の描写が良かった。そして≪韃靼人狩猟・打毬図屏風≫のエキゾにエキゾを重ねた日本画さ。トラがとても鮮やかに浮かび上がる≪龍虎図屏風≫≪武家相撲絵巻≫なんてものもありました。

2Fへあがると白隠慧鶴が。

80才を越えて画かれたド迫力な萬壽寺≪達磨図≫。達磨はほかにも描かれていて永明寺の≪達磨図≫は怖いくらいの表情。

他にも注連縄だけで裸で金をせびる≪すたすた坊主図≫やドットな濃淡が印象的な≪無≫、”両手は拍手、では片手では?”という≪隻腕≫、そしてヘタウマな≪蛤蜊観音図≫とほっこりさせられました。

いよいよ展覧会も終盤。そのクライマックスは鈴木其一。


そして本展覧会での最上の画との出会いに感じたのが若冲から影響を受けたともされる≪百鳥百獣図≫。これが美事!緑の山に獣と鳥が画かれた双幅の掛け軸なのですが、下部には犬や猪などの身近な獣があり、上に行くほどにファンタジックさが上がっていき最後は麒麟に。鳥の方は一番上には白い鳳凰がおりました。

また≪貝図≫は西洋の静物画のようで。誠に時空間を超える筆致が奇想にはあるなぁと。

最後は歌川国芳。俺たちの国芳・わたしの国貞展@Bunkamura以来のがっつり国芳。

”これぞ奇想”ながしゃどくろの≪相馬の古内裏≫。これがメインにならないのも凄い。”象もそうだけど巨大動物は仏な目なのか”という≪宮本武蔵の鯨退治≫。海の生き物だと透明な烏天狗も登場する≪讃岐院眷属をして為朝をすくふ図ー鰐鮫ー≫も良かった。

≪吉野山合戦≫は牛若丸と弁慶が登場しているようにみえるのですが、五重塔を超えるくらい跳躍している牛若は佐藤忠信による身代わりだと図録で知りました。

また可笑しい浮世絵も。≪みかけハこハゐがとんだいゝ人だ≫は人体の集合でつくられた顔の図。≪朝比奈小人嶋遊≫はエドモンド本田みたいな巨人が登場。≪猫の当字 ふぐ≫はトラフグとネコたちによる「ふぐ」の字。

最後は≪一ツ家≫≪火消千組の図≫という顔料で画かれた大画で〆。

ほんと良くまとまっている楽しい展覧会でした。奇想ってここ十年くらいずっとブームな感があるけれど、江戸の日本画がダイナミズム。それが明治以降は油絵との差別化のため淡泊になったのかなぁ。けれど再びの現代の奇想の日本画、その芽吹きは今もあるしこれでまた羽搏くと信頼しています。またメインビジュアルの一つにも使われている蕭白の≪群仙図屏風≫は後期(3/12~)からの展示。まだまだ見どころいっぱいの上野の狂想曲は続きそうです。

by wavesll | 2019-03-07 21:30 | 展覧会 | Comments(0)
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