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新・北斎展 HOKUSAI UPDATED@森アーツセンターギャラリー

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北斎研究家の故・永田さんによるコレクションを元にした。春朗、宗理、北斎、戴斗、為一、画狂老人卍の全期に渡る展覧会。ラス日に滑り込みみました。

第1章春朗期にも面白い作品が。≪「新板七へんげ 三階伊達の姿見 沢村宗十郎」≫は着せ替え出来るつくり。≪熊に団子を与える金太郎≫はふっくらと逞しい。≪「浅草金龍山観世音境内之図」≫は遠近法的。≪「浮絵一ノ谷合戦坂落之図」≫も上手いし、≪「浮絵忠臣蔵夜討之図」≫や≪「風流子供遊五節句 さつき」≫なんて作品も。

≪「能登守教経勇力」≫や≪「梶原源太景季」≫も良かったし、磯子から江ノ島までのパノラマを描いた≪鎌倉勝景図巻≫には大仏も。≪『前々太平記』≫や≪市村座絵本番付≫、≪『昔々桃太郎発端話説』≫の鳥人も面白かった。

そして第2章宗理期。

≪「すみたかハ」≫の傘の描写。≪「ぎやうとくしほはまよりのぼりとのひかたをのぞむ」≫と≪「よつや十二そう」≫のうねる風景描写。≪成身院童子経曼荼羅≫のカミの描写。首を伸ばす二匹と一匹の≪亀図≫にはほっこりしました。≪合筆 所作事尽≫も美人でした。

≪玉巵弾琴図≫の龍と西王母の対峙。≪美人愛猫図≫は胸元の猫が色っぽい。≪娘図≫はリラックスした現代的なポーズ。≪大原女図≫と≪京伝賛遊女図≫はさっと画いた線が素敵。≪来燕帰雁図≫の燕の胸のふっくらした様子がまたいい。≪見立浅妻舟図≫はジブリ『かぐや姫の物語』のよう。≪福助図≫なんて奇妙な画も。≪寿亀図≫のカメもやはりいい。≪柳下傘持美人図≫の着物のドットがまたいい。

≪『柳の絲』≫にはポニョの波をみて。≪『春の戯うた』≫はハイ。≪『絵本隅田川両岸一覧』≫はイスタンブールの風景みたいだし、≪津和野藩伝来摺物≫は武家の一年の暮らしを彩りきりとったスナップ集。

そして愈々第3章 葛飾北斎期。

≪「新板浮絵富賀岡八幡宮之図」≫と≪「新板浮絵神田明神御茶の水之図」≫は見知った土地が描かれているのが面白くて。≪しん板くミあけとうろふるやしんミセのづ≫は江戸のペーパークラフトで、湯屋の描写に道後温泉を思い出しました。

≪吉原遊郭の景≫の五枚綴りの美女たち。浮世絵の女の顔は萌え絵にも似た定型性があるなぁ。≪鳥羽絵集 門付͡瞽女≫のしこめ。≪鳥羽絵集 見立礼拝≫や≪「風流おどけ百句」つくね芋・むかひ酒・つつはらみ≫も良かった。≪謎かけ戯画集 鍋の中・手習子・江戸子≫なんて謎々な作品も。

≪「風流源氏うたがるた」≫もいいし、≪在原業平≫の太ペンな筆さばき。

≪雨乞小町≫のかっこいい美人図に≪「かな手本忠臣蔵」≫のキャプションでは北斎のお母さんは吉良方の家臣の孫だったという歴史のつながりの驚きを知って。≪富士見西行≫のいい顔。≪狂歌師像集 夷歌守・棚珎厚丸・三條小判志・山寶亭長尉斗・太羅多欄油小売安方・八声明近・柏古枝・一丁亭羽狩≫の太羅多欄油小売安方の帽子が良かった。

≪人形図≫はまるでいきているみたい。≪扇に桜図(校合摺)≫は輝くばかり。≪五美人図≫はツヤがいい。

≪猿図≫は擬人化された神の使いとしてのサルが。≪宝尽くし図≫はめでたい意匠が擬人化のように配置されて。

≪布袋図≫では人をダメにするソファでのほんわかした図が。≪相撲玩具で遊ぶ童子≫も可愛らしい。≪茶筅売り図≫の千成瓢箪のようなプレゼンテーションが良かったし≪鯉亀図≫は自在置物の様。

≪『復讐奇話 絵本東嫩錦』≫や≪『阿波之鳴門』≫も良かったし≪『新編水滸画伝』初編初帙≫の大蛇、馬琴とタッグを組んだ≪『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』前編≫や中国拳法みたいなポージングの≪『飛騨匠物語』≫、竜女がかっこいい≪『勢田橋竜女本地』≫に、≪瀬川仙女追善集『露の淵』≫も良かった。

北斎期でも開花し始めていますが、ファンタジックな筆致が第4章戴斗期では全開になって。

≪鴛鴦図≫の感情が見えるような筆運び。≪寿老人図≫のなんとも極楽な絵図。≪花魁図(画稿)≫の流し目がいい。≪芋の図≫なんて逸品も。アサヒビールを想起w

そして≪『北斎漫画』≫。あらゆるものを描いたこの絵手本帖の展示では版木もありました。

≪『北斎漫画』四編≫では天狗や竜、≪『北斎漫画』五編≫の葵上などの伝説の人物、≪『北斎漫画』六編≫の銃、≪『北斎漫画』十編≫の仙術、≪『北斎漫画』≫十一編の毘沙門天のでっらかっこよさ!≪『北斎漫画』十二編≫のギャグに≪『北斎漫画』十四編≫にはアザラシも。万物を描いたこのデザインは≪鐔・印籠・根付・目貫≫と工芸にメディアミックスも。

また絵手本では≪『己痴羣夢多字画尽』前編≫や≪『略画早指南』≫、≪『画本早引』前後編≫は子どもでも楽しめそうなデフォルメが。≪『三体画譜』≫や≪『伝神開手北斎画鏡』≫も良かった。

イカ、カレイ、イセエビが画かれた≪『北斎画式』≫もいいし、≪『今様櫛キセル雛形』≫に≪『新形小紋帳』≫のデザインもいい。≪『忠義水滸伝画本』≫のバトルポーズ、≪『和漢絵本魁』≫の土蜘蛛との闘い、北条時政が大蛇と対峙する≪『絵本武蔵鐙』≫、≪『絵本早引 名頭武者部類』≫や≪『絵本和漢書』≫、≪『画本彩色通』≫、円の≪『諸職絵本新鄙形』≫も奇想でした。

第5章 為一期。ここにてさらなる画の展開をみせます。

≪富嶽三十六景≫は太田記念美術館でみていたので≪「富嶽三十六景 隅田川関屋の里」校合摺≫があったのが嬉しかった。

≪「諸国名橋奇覧 山城あらし山吐月橋」≫の穏やかな名景。≪「諸国名橋奇覧 摂州阿治川口天保山」≫の山河一体ぶり。≪「諸国名橋奇覧 かうつけ佐野ふなはしの古づ」≫のくいっと曲がるカーヴ。≪「諸国名橋奇覧 かめゐど天神たいこばし」≫の良さに≪「諸国名橋奇覧 足利行道山 くものかけはし」≫の虚空さ。

≪「諸国瀧廻り 和州吉野義経馬洗滝」≫と≪「諸国瀧廻り 東海道坂ノ下清滝くわんおん」≫のいなたい感じも良かった。

≪「奥州塩竈松嶌之畧図」≫の島々、≪「千絵の海 甲州火振」≫の水描写、≪「千絵の海 絹川はちふせ」≫の波の表情、≪「千絵の海 相州浦賀」≫の磯の表情。

≪「琉球八景 筍崖夕照」≫の宙に浮かぶ嶋、≪「琉球八景 城嶽霊泉」≫の中国風の景、≪「琉球八景 中島蕉園」≫の芭蕉の南国さ。

≪紫陽花に燕≫の紫陽花の乾いた美に≪菊に虻≫の湿度の美。≪雪の松に鶴≫のレインボーさ。

≪「百物語」 笑ひはんにゃ≫のエグい笑み。≪「百物語 お岩さん」≫≪「百物語 さらやしき」≫、≪「百物語 こはだ小平二」≫のデロリと肉が落ちる様。

≪詩哥写真鏡≫のシリーズも良かった。≪詩哥写真鏡 伯楽天≫の天空へ浮かぶ山、≪詩哥写真鏡 清少納言≫の覗く輩たち。≪詩哥写真鏡 春道のつらき≫の山と川の対比。≪「詩哥写真鏡 少年行」≫・≪詩哥写真鏡 木賊刈≫も良かった。

≪「鎌倉江の島大山 新坂往来双六」≫には渋谷や二子、川崎、厚木など見知った土地が描かれていてほんと時空が繋がる気がして。

≪「馬尽 轡町」≫の小人さ≪「馬尽 竹馬」≫や≪羅漢図≫も良かった。

≪六歌仙図≫が半ば立体的にも見えるような北斎の色彩画。これホント北斎が辿り着いた世界だなぁと。

≪工芸職人用下絵集≫と≪未刊絵手本版下絵≫もしみじみと良くて。≪『絵手本訓往来』≫や≪『花吹雪縁柵』≫、≪『出世奴小万之伝』≫、≪『唐詩選画本 五言律』≫と≪『唐詩選画本 七言律』≫も充実してました。

そして頂へ、第6章 画狂老人卍。

≪「唐土名所之絵」≫。なんでこんな地図だけなのにアートになるのか、スゴい!さらには≪「地方測量之図」≫という測量士たちをモチーフとした画も。なんて題材選びだw!≪雪中筍掘りの図≫なんてテーマもw

そしてこの展覧会で最も心動かされたのが≪田植図≫。笠のリズム、ドットの美、そして不思議な、ちょっと怪しさすら感じるオーラが『田植え』という画で展開される。こーれは画狂老人卍だけが辿り着けた世界だったなぁ。

≪向日葵図≫のジョジョ感。≪狐狸図≫の淡彩な僧侶。のんべえな≪鬼図≫もいいし、絶筆の≪富士越龍図≫はあらためていい。竜だと≪『画本葛飾振』(版下絵)≫も良かったし、≪『訂正補刻 絵本漢楚軍談』第二輯≫の女たちに≪『釈迦御一代記図会』≫や≪『画本千字文』≫にコミカルな≪『絵本忠経』≫に≪『絵本孝経』≫も良かった。

また≪鶴屋金助宛北斎書簡≫と≪本間北曜宛北斎書簡≫では北斎の手紙での字もみることができました。

そして最後を飾るのは≪弘法大師修法図≫。病魔の鬼と戦う空海の凄まじい法力バトル。凄かった。

この展覧会の一つのウリは春朗・宗理期の作品をまとまった量みれることでしょう。けれど面白くなってくるのは北斎期以降。しかし二周目にみてみると春朗だって結構上手い。イチローを想うというか、日々鍛練で地力を上げ練達したのだなと。戴斗期の『北斎漫画』は3000を越えるモチーフを描いて。

最も有名な作品である為一期の《富嶽三十六景》は既に他で何度かみていたが今回墨線のみの校合摺も。去年のあべのハルカス北斎展の方がポップでしたがこちらはマニアックに凄い。それにしても最終日とはいえこんなマニアな展覧会入場に1hかかるとは流石北斎。

最終形態画狂老人卍になるとあらゆるものに対する(馬を除く)デッサン力、『雪の中で筍を取る』といったモチーフの選眼力、西洋に學んだか2.5Dにみえる色遣いを会得し最早唯一人の高みへ。《田植図》をあんなにも幽玄に描く画家をほかに知らない。最早もののけの域。努力を一生続けた天才の技。

”伝導率を上げるってほんの少しの向上を日々積み重ねていく道なのかもな”と。ほんの少しの差異が閾値を越えるか越えないかを決める。最初期、美人画や役者絵でカチっとして綺麗だけど無個性とも言える絵を描いていた北斎(春朗)、様々なポーズで描けるデッサン力がついてファンタジックな画も自在に描けるようになる。そして総合力の綜合によって画狂へ。

何というか、この横綱相撲振りは心身の剛健さも予期させる。狂うには剛健でないと。前後期合わせて500点近い大ヴォリュームでの展覧会でした。

by wavesll | 2019-03-28 06:41 | 展覧会 | Comments(0)
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