ここ数日、録りためていたEテレの100分de名著を立て続けに見ていて。
cf さて、河合隼雄はユング心理学を学び実践的な心療治療を行った人物で、西洋人と日本人の心のありようの違いに関心を寄せた人でもありました。 ユング心理学の重要な観点の一つに心を痛めた人を救うには「How」でなく「Why」を掘り下げていくことが必要という考えがあります。物理的・科学的、あるいは病理的な解決法の提案ではなく、「何故、どうして」を突き詰めていくこと。それによって精神の調和を取り戻せるという考え方。 そして心の柔らかいところに「コンプレックス」というものがあって。ユング心理学ではコンプレックスを無意識の中にある複合結節心理というような捉え方をします。何かに苛立ち、引っ掛かりがあるとき、それは意識できるものでなく無意識のコンプレックスによって引き起こされていることがある、と。 そして人は自分のコンプレックスを意識することから自己防衛するために、外部にそれを投影することがあります。つまりいらだってムカつく相手の特徴こそが、自らのコンプレックスであるかもしれない、ということ。そして逆にそのムカつく事象が自分の問題であると認識し引き戻せれば、コンプレックスを解消することができると河合は述べます。 また河合は夢に出てくるイメージは、個人の無意識や普遍的な無意識(集合無意識)が表れることがある、と。特にアニマ(男性の中の女性)やアニムス(女性の中の男性)やグレートマザー(太母)や影(自分の中の受け入れたくない側面)を例示して語ります。 この後、番組は一種の普遍的無意識の反映としてか、昔話・神話から日本人の中空的な精神構造・無の円環構造へ話が進んで行くのですが、このコンプレックスとアニマの話がいやに刺さって。 私自身がムカついている、あるいはとらわれているモノはなんだろう?と考えたときに、「普通」であったり「筋力・仕事力といった分かりやすい男性性」にあって。これは大学時代からこっちどうにもしょうもないものとして自分が社会の辺境で過ごしているというのもあったというか、集団の中での立場に置いてストレートど真ん中にいれなかったというトラウマがあったり、あるいは「面白い」に関してのディスコミュニケーションがあったからだと思って。 そうしたことからの「普通・まとも」への憎悪にも似た感情、あるいは「お前らまるで面白くないじゃないか」といういじけは、同時に「分かりやすく立派な男性像」へのコンプレックスなのではないか。そんな感想を番組をみて得ていて。 そして、私自身は自分を仕事人でなく趣味人であると想っていて、いわゆる「生きがい」という言葉にも一種のコンプレックスの裾野が触れていたのですが、神谷美恵子『生きがいについて』の回では「生きがいブーム」をもたらした本書では「生きがい」は単なる労働というより「生存理由」とでもいうようなより深く広い思想だと知って。 神谷さんはこの本をハンセン病の療養所での職務の中から着想し、生の歓びが尋常でなく損なわれた状態でも、生きがいというものは種を土の中に宿していて、「待つ」ことによって、芽吹くことがあると。たとえ愛する人を失って身を切られるような思いになっても、そんなにも人を愛せたことは輝かしく、悲しみは一つの視点からは豊かであると。 そして生きがいを考え抜くことは、宗教以前の精神的宗教へ辿り着くというか、自然から、そして体験から結晶化した叡智の輝かしさ。何かを愛し、自己中心的な思考から抜け出すことで、生存理由はさらに輝いていくと。苦しみから生まれる喜びについて語られます。 私自身が生きがいを今まで何に感じたか思いを馳せ「世界を理解することかな」と想っていたところに神谷さんがハンセン病の患者さんの詩をひき「理解するでなく味わうことが大事」と言っていて、やっぱり身体的な智は重要だよなと。その意味で例えば麻薬の快楽で「生きがい感」が更新されてしまうのは非常に貧しい行為であろう、などとも考えました。 そして最後に大いに力を与えてくれた書がスピノザの『エチカ』。 最初に語られるスピノザの「汎神論」、すなわち宇宙全体、自然そのものが神であり、全ての事物に神が在るという思想は、非常に共感する思想で(アインシュタインも共感したそうです)。これは話せる人物が現れたぞと。 先の「生きがい」ともリンクするように想えたのは、スピノザは「善悪」というものを「力=活動能力が増大するか、減少するか」と定義していて。喜びを与えて活動能力を増やしてくれるものは善、その逆に悲しみで活動能力を減らすものは悪、と。そして本性にのっとって活動能力を発揮したいという衝動を欲望と言い、欲望に対してフラットな立場であるのも、非常にプラグマティックなように感じて。 人々は個々人で本性が異なり、あるがままに本性からの活動ができていれば自由、そうでなく外部から行動を強制されることを不自由とスピノザは定義し、人は完全に自由になることは出来ないが、自分が何によって動かされているのか、今持っているのはどのような感情なのかを認識することなどで、少しでも自由な度合いを増していくことが大切だと説きます。 そして真理というものは体感するもので、誰かから説得されるものではない、自分がレベルアップして認識を体験するものだと。ここら辺は『生きがいについて』の「待つ」にも通じるなと想いました。番組中では伊集院が「小津安二郎の映画を40を超えて”そうだったのか!”と気付く」という例を出していましたが、私も経験を重ねてゴダールの『気狂いピエロ』が得心がいったので、気持ちが少しわかったり。 自分が自分であるための力、場を意識しながら、活動能力を伸ばしていく喜び、そして時に待つことも大事。これを鬱だったり絶望していない平常時の姿勢、そして苦難にあるときは『生きがいについて』の姿勢を想いだして。そしてより自由であるためには、コンプレックスをも認識しながら、”自分はなぜこのような思いに駆られているのか”を客観する努めをする。そしてそれには身体的な智が重要である。この3人は同じゴールに様々な道筋で辿り着こうとしているのではないか、そんな視聴体験となりました。
by wavesll
| 2019-06-27 21:52
| 私信
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