今回、数奇な運命を生きた松方幸次郎とコレクションの展覧会が開かれるということで、”ほとんど常設展でみてる奴かな、モネの修復の奴と密集展示だけみに行くか”と想っていたのですが、半分以上は初展示or過去1回のみ展示らしく、なかなかみていて発見のある展覧会でした。レギュラー絵画の晴れの舞台としても楽しめました。 常設展の作品群って撮影可能で、レギュラーな作品は既に取り上げているので、今回は初めて見た作品を中心に感想を書いていけたらなと思います。 会場へ入るとフランク・ブラングィン≪松方幸次郎の肖像≫が出迎えてくれます。1hで画かれたというこの絵画はくつろいだ様子を勢いのある線画で画かれて。このタッチで描かれた日本人の肖像って何気に初めて見たかも。 そして地下へ降りるとそこには壁一面に所狭しと飾られた絵画群が。ギュスターヴ・モロー美術館みたいだ。この空間展示もコレクション展だからこその遊びで目当ての一つでした。 その中でもジャック・クルテイヨー(ジョン・クロスターマンの原画による)≪スペイン王妃マリア・アンナ・フォン・デア・プファルツ=ノイブルク≫の透明感や、ボクシングを題材としたローラ・ナイト≪屋内訓練場のジョー・シアーズとW・エイトキン衛兵伍長≫、巨大なタペストリーであるローテヴェイク・ファン・スホール/ピーテル・スピーリングス(カルトン制作)≪神話の一場面≫などは面白かった。 また第一次世界大戦のものでは有翼騎士が画かれたエドモンド・デュラン≪ポーランドの独立(『大戦 英国の努力と理想』より)≫やコラージュアートのようなジェラルド・エドワード・モイラ≪セルビアの復旧(『大戦 英国の努力と理想』より)≫というようなポスター/挿絵作品?やWWIが終わった風景の輝きと人々の悲しみが対照的なリュシアン・シモン≪墓地のブルターニュの女たち≫が良かったです。 また海と船の篇でも時代柄からか、チャールズ・ネイピアー・ヘミー≪水雷艇夜戦の図≫やシャルル・コッテ≪悲嘆、海の犠牲者≫といった作品も。ウジェーヌ=ルイ・ジロー≪裕仁殿下のル・アーヴル港到着≫は日章旗がパステルにはためいていました。またシャルル=フランソワ・ドービニー≪ヴィレールヴィルの海岸、日没≫の黄昏の暗い金色は本当に素晴らしかった。斜めからみるとまた格別で。 次の部はベネディットとロダン。レオンス・ベネディットは松方がロダンを手に入れるために協力してくれた人。 また石膏をテラコッタのように着色した≪≪地獄の門≫のマケット(第三構想)≫やギリシャな柱の上に女性像がある≪円柱の上のスフィンクス≫なんて作品も。≪裸の女≫、≪裸の女たち≫のように鉛筆と水彩で画かれたデザイン画もありました。 ロダン以外の作品だとエミール=アントワーヌ・ブールデル≪瀕死のケンタウロス≫が良かったです。 そしてコレクションはパリ1921-1922へ。 ここら辺の絵をみると油絵の印象が”美味しそうだな”って想ってしまいます。絵の具の魅力と言うか、それは大塚国際美術館では味わえなかったものでした。 エレガントで額も拡張高いシャルル・エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン≪母と子(フェドー夫人と子供たち)≫や赤と青の射し色が闇に映えるギュスターヴ・モロー≪牢獄のサロメ≫・≪ピエタ≫、淡い、まさに靄る光が画かれたクロード・モネ≪ウォータールー橋、ロンドン≫・≪チャーリング・クロス橋、ロンドン≫に、≪舟遊び≫はやっぱり傑作。真っ赤な芍薬が印象的な≪芍薬の花園≫に、今回のモネの中では一番面白かった”風の動き”が画かれた≪エトルタの風景≫。そして≪波立つプールヴィルの海≫も巻き吹く風の動きが描かれていました。 フィンセント・ファン・ゴッホ≪ばら≫は白が印象的で。そしてフィンセント・ファン・ゴッホ≪アルルの寝室≫はフランスに残された今回の目玉。きちんとしよう、気を上げようとしている黄色い家具の室内の、けれども哀しみのブルーが印象的でした。 またパブロ・ピカソ≪青い胴着の女≫なんてのも。 ポール・ゴーガン≪扇のある静物≫は日本趣味もあって。ポール・ゴーガン≪ブルターニュ風景≫ではゴーガンが画く白人の少年を始めてみたかも。 またモーリス・ドニ≪ハリエニシダ≫は四角いドット性がある風景画でなんかデジタル・ノイズ的なものを感じました。このデジタル感は後で展示されていたポール・ゴーガン≪籠の中の花≫にも感じ面白かったです。 ピエール=アルベール・マルケ≪坐る裸婦≫の乳房の垂れ具合のエロさ。キース・ヴァン・ドンゲン≪カジノのホール≫のモノクルの印象。 ポール・セザンヌ≪水差しとスープ入れ≫・≪舟にて≫・≪調理台の上のポットと瓶≫、ポール・シニャック≪漁船≫・≪グロワ≫という鉛筆と水彩の素描もみれて嬉しかった。 ハンセン・コレクションでは妻の顔がトリミングでみえないエドガー・ドガ≪マネとマネ夫人像≫がドラマを感じさせられました。 北方への旅で手に入れた作品群ではエドヴァルト・ムンク≪雪の中の労働者たち≫の力強い筆致が良かった。ムンクだと≪女≫も闇の中の妖力がありました。 またアルノルト・ベックリン≪眠れるニンフとふたりのファウヌス≫はニンフもファウヌスもそれぞれ可愛かった。 第二次世界大戦と松方コレクションの篇では何と言ってもアンリ・マティス≪長椅子に座る女≫。マティスの前には行列が出来ていて、みんな惹きつけられるんだなと。なんというか古代と現代が重なり合った都市空間の魅力がありますよね。 藤田嗣治≪自画像≫もフジタもネコもいい顔だし、ハイム・スーティン≪ページ・ボーイ≫の痛みを感じる位の表現主義の苛烈さにも感銘を受けました。そして常設展エースクラスのピエール・オーギュスト・ルノワール≪アルジェリア風のパリの女たち≫。 またコレクションを逃がすための資金作りに売ったエドゥアール・マネ≪嵐の海≫やフランスとの返還交渉のカウンターパートだったジョルジュ・サルを描いた≪ジョルジュ・サルから矢代幸雄に贈られたピカソによる≪ジョルジュ・サルの肖像≫(パリ国立近代美術館・ポンピドゥーセンター所蔵の素描に基づく)≫なんて展示も。 そして最後にかかげられていたのは今回修復を終えたクロード・モネ≪睡蓮、柳の反映≫。 入り口にはAIが復元したものがあったのですが、そちらはどうもダメだったな…。やっぱり本物の持つアウラには敵わない。壊れた古代の遺跡と言うか、蓮の花の白の華やかさに加え、金地に塗った部分も相まって、なんか日本美術みたいな趣もある作品となっていました。 そしてこのチケットで常設展もみれて。今回常設展の新蔵品にクラーナハ(父)のユディトとかあって凄いですよ。またモダン・ウーマンーフィンランド美術を彩った女性美術家たちという展示もかなり良かった。女性が画く女性には質実さがありますね。 ヴォリュームも良く、楽しめる展示でした。23(月)まで。 ルカス・クラーナハ(父)≪ホロフェルネスの首を持つユディト≫
by wavesll
| 2019-09-22 05:41
| 展覧会
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