人々が欲望してやまない、貨幣とは。その貨幣の謎に挑み続ける男がいる。岩井克人、日本を代表する経済学者。独自の道を切り開いてきた。 岩井「(貨幣は)自己循環論法によってのみ価値が支えられている」 貨幣の価値に実は根拠などなかった。根拠がないからこそ貨幣は巨大な重力を持つ魔物なのだ。 飽くなき貨幣への欲望が世界を覆う今。私たちは見落としてきたのかもしれない。 岩井「まさしく制約がなくなった現代社会が自己崩壊、不純物のない貨幣を持った市場経済は崩壊する危機がある」 なぜ気付かない、貨幣のリアルに、なぜ気付かない。 欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019 後編 第6章 古代の男が見抜いたパラドックス 遡ること2300年以上の昔、貨幣の不思議に既に気付いていた男がいた。彼の名はアリストテレス(BC384~BC322)、古代ギリシャの哲人だ。 岩井「古代ギリシャってのはあまり貨幣のない贈与交換的な社会だと考えられていた。ところが最近の研究は全然変わって、ギリシャってのは物凄くお金を使った社会だった」 古代ギリシャ=世界で最古の貨幣社会? 岩井「最初は小さな共同体、村だった。そこで貨幣はいらない。で、貨幣がいるってのはアテネみたいに都市共同体が大きくなりその中で様々な種類の人間が共存しなくてはならなくなった。医者もいれば農民もいる、それから家を創る人etc様々な人間が共存するためにはアリストテレスは共通な尺度が必要だと考えた。共通の尺度として貨幣が絶対に必要で生まれる。」 貨幣の出現を都市生活の必然だと洞察したアリストテレス。 貨幣は人と人の違いを越えて共同関係を可能にするーアリストテレス『ニコマコス倫理学』 交易されるモノを比較しその差を量として測ることもできるーアリストテレス『ニコマコス倫理学』 バラバラな人々をつなぐ、お金。市民社会は貨幣の存在無くしてありえない、と指摘したのだ。 岩井「古代ギリシャが何故民主制を生んだのかというと、お金以前の社会は人々が共同体の束縛の中に生きている。そこでは敵と内と外がきちんと分かれていて、しかも内の人間はお互いに顔を全員よく知っているわけ。顔の見える社会、全員が全員をよく知っている社会。ところが、貨幣というものが人間を共同体の束縛から逃れさせる。一人一人が貨幣さえ持てば独立した人格を持てる。 マルクスが有名な言葉があるんですけれど『貨幣は主人を持たない』『貨幣は急進的な平等主義者』。つまり貨幣は人間を共同体の規制から外せて1個の貨幣さえ持てば独立して生活を営める。それが結果的に民主主義、一人で一票を持つという民主主義を市民の間だけで持っている」 貨幣が可能にした市民の「自由」。 アリストテレスの洞察はそれだけではなかった。 貨幣による財獲得から生まれる富は際限がない。なぜならばその目的を可能な限り最大化しようと欲するからだ。生きる欲望に果ては無いのだから彼らは満たしうる際限のない財を欲することになるーアリストテレス『政治学』 岩井「貨幣というのは交換の一般的な媒介、手段である。お金さえ持てば世の中のすべてのものが買える可能性を与えてくれる。貨幣は人間に可能性を与えてくれる存在。可能性は限りがないので人間に無限の欲望を引き出すのが最大のポイント。 それを最初に指摘した人がアリストテレスであって、まさにすべてのモノを変えるという可能性を与えてくれることによって無限の欲望を引き出し、無限の蓄積を引き出す。そうすると人々は本来手段だった貨幣が可能性を与えてくれるものとして目的化し目的と手段が逆転すると無限の蓄積を生み出す」 手段だった貨幣が目的になった 貨幣は元々交換のための手段 しかし次第にそれを貯めること自体が目的化するーアリストテレス『政治学』 岩井「無限の蓄積を生み出すとアテネというポリス共同体の秩序を必ず壊してしまう。この洞察というのはある面で人類が生んだ最大の洞察の一つで、無限の欲望に取りつかれた存在は自分が生まれた共同体の規範や秩序を壊す。ある面で人類がお金というものを初めて日常的に使い、貨幣が近代を生み出したがそれが近代にとっての脅威として現れる」 社会に秩序を生み、人々に自由をもたらした貨幣、だがその貨幣への欲望こそが無限の欲望への扉を開き、秩序を破壊する。やめられない、止まらない。自由に味を占めた私たち。そこに貨幣が抱えるパラドックスがある。 第7章 経済学の父の過ち? この星の上で絶え間なく続いてきた争い。イデオロギー、社会体制、そして経済。異なる通貨の間で起こる富をめぐるぶつかりあいを回避するすべはないのか? トーマス・セドラチェク「経済学の基本的な考えですが2国間で貿易を行うとしたら、その2国は異なる国である必要があります。もしあなたが私とまったく同じ人間なら交換するものは何もありません。お互い何を言っても『そう思います』と言いあうだけでしょう。2分ほどは気持ちがいいかもしれませんがそんなことは自分の影とだってできますよね。自分の影や鏡と話しているみたいです。 理想的な貿易とは異なる2国間で行うべきものなのです。私の欲しいものをあなたが持っていたりあなたのできないことを私ができたらそれが基本的な経済の重力です。異なる2つのものを引き合わせます。」 差異があるところ 貨幣が行き交う。 セドラチェク「経済の良いところは異なるものを引き合わせる重力があることです。私に言わせると2つの国をつなぐのは愛でなく経済です。60年代のヒッピー的な考えは『戦争するより愛し合おう』でしたよね。フラワーパワーです。理想的ですよね、フラワーパワー。でもあまりにナイーブに過ぎます。EUの土台は愛ではなく貿易です。『戦争するより愛し合おう』ではなく『戦争するより貿易しよう』なのです。EUの元々の目的です。」 だが今 「国民投票の結果イギリスがEUから離脱することが決まりました」 一つの通貨を基にした国家の連合という、壮大な実験は崩壊へと向かうのか。 メイ首相「合意あるEU離脱は手の届くところにあると思っている」 世論は真っ二つ。大きく揺れ動くこの地の混乱をあの経済学の父だったらどう分析しただろうか。 アダム・スミス(1723~1790)、『国富論』(1776年)、それぞれが自らの利益を求めれば見えざる手によって社会全体も富み、栄える。市場の自由に免罪符を与えた彼は貨幣という存在をどのように理解していたのか。 岩井「アダム・スミスはあまり貨幣については深く思考していません。どちらかというと貨幣よりも実物の方を考えて、アダム・スミスにとって貨幣は中立で潤滑油みたいなものという認識しかない」 スミスは貨幣についてこう書いている。 貨幣はモノを買うことの他には何の役にも立たない。貨幣の力を証明しようとするのはバカげている。ーアダム・スミス『国富論』 岩井「私はアダム・スミスは尊敬しているのですが、同時にアダム・スミスを批判するのはアダム・スミスは貨幣に関する思考を止めてしまったので、自由放任主義思想的な理論を打ち立てることが出来たと思っている。」 貨幣が孕む無限の欲望にスミスは気付いていなかったのか。それともただ見ぬふりをしたのか。無限の可能性を欲するが故の未来への投機。より多く、より速く、より遠くへ。会社は利益の数字を、国はGDPの数字を上げることに囚われ続ける。 振り返れば80年代、モノから情報へと商品の付加価値が移った新自由主義の時代に、アダム・スミスの市場万能論が脚光を浴びたのは皮肉な事態だった。 すべてを自由な競争に委ねよ。その潮流を支えることになったのが自由主義者のフリードリヒ・フォン・ハイエク(1899~1992)であったことも歴史の皮肉であったといわざるを得ない。なぜならばスミスもハイエクも市場は人々の自由のためにこそあると考えた。数字のゲームが人々の心をとらえ、翻弄していくことなど、望んではいなかったはずなのだ。 絶え間なく続く欲望。私たちは数字の競争から逃れられない。 皮肉にも社会主義の終焉が事態を加速させる。資本の運動はグローバル化ですべてを飲み込み、貨幣だけが勝利する。そしてその欲望のバブルは2008年世界金融危機のように時に破裂する。 ジョセフ・スティグリッツ(米・経済学者:コロンビア大学教授 2001年ノーベル経済学賞受賞) 「アダム・スミスは間違っていたことがわかった。」 ノーベル賞受賞の経済学の重鎮が大胆な歴史の読み替えを提示する スティグリッツ「21世紀の現在と18世紀では経済の様子は全く違う。あまりにも多くの経済学者が『経済学の父』アダム・スミスに頼りすぎている。自己利益の追求が『見えざる手』に導かれ社会全体の幸福をもたらすという理論、彼がそのことを書いていたのは資本主義が本格的に走り出す前の話だ。」 「見えざる手」=産業革命以前の話? スティグリッツ「アダム・スミスが経済の行く末まで理解していた と思ってはいけない。彼に現代の資本主義の姿などわかったはずもないのだから。 まず言いたいのは『悪事は働くな』『害をばらまくな』ということだ。2008年リーマンショック以前、経済学者たちは莫大な損害をもたらした。 多くの経済学者が…”他の”多くの経済学者がと言っておこうか。自由放任市場が万能だと売りまくっていた。『市場には自己調節機能があるからバブルなんて心配するな、市場を信じよ』ってね。」 市場の自己調節機能=その可能性と現界 スティグリッツ「『自己利益の追求』…経済学者が『インセンティブ』と呼ぶものは現代の市場経済では確かに中心にある考えかもしれない。『自己利益ん追究』時に『強欲』が『見えざる手』によって社会全体の幸福を導くと言うが、『見えざる手』はいつも見えない。そんなものは存在しないからだ。」 自由を生んだはずの貨幣が、無限の欲望をも生み、秩序を破壊する。自由と秩序に引き裂かれる私たち、現代社会にもなお響くジレンマを鋭く指摘したのが、またしてもあの男、J・M・ケインズ(1883~1946)だった。 岩井「ケインズはまさにある面でアリストテレスの再来。」 第8章 「美人投票」が生む偶像 岩井「株式市場の投機がなぜ不安定化を示すのに、プロの投機家が参加する株式市場、金融市場というのは美人投票のようなものである。これは実際にあった美人投票なのですが、1936年に出版された一般理論の中にあるのですが、当時実際イギリスの新聞が行った美人投票で、新聞紙面に60人の女性の顔写真が載っていると。読者に投票させると。」 ケインズは一風変わった美人投票を例に引き、大衆心理の本質を言い当てたのだ。 「最も美人だと思う人に投票してください」 これだけならよくある人気投票と一緒、ここからがケインズの真骨頂だ。 「ただし賞金は最も票を集めた女性に投票した方々に差し上げます」 この時何が起きるのだろう? トーマス・セドラチェク「自分は他の人の投票先を予想しているんだが、他の誰かが予想していて、また別の誰かが…これは一種の『無限ゲーム』で自分の好みを選んではいない。僕は他人の好みを予想しているのだ。ここには多くの…本当に多くの良いが含まれている。 一つ目はズバリ『株式市場』の本質を言い当てていること。私が『投票』する会社は自分が好きな企業ではなくたくさんの人が『好きであろう』会社だ。 次は良くあることだね。『誰の好みでもない女性が優勝する』。そして投票する人は”固定観念”を用いる。最も有利な戦略は女性ではなく審査員たちを見ることだからね。固定観念は未来に渡ってずっとこだましていく。誰の好みでもない女性が選ばれてももう誰も止められない。」 大衆の評価が凡庸なる偶像を祭り上げる。 止まらない 大衆の欲望 岩井「ケインズは貨幣は資本主義経済では必要だけど様々な資本主義の問題点を生み出す、ケインズが画こうとしたのは投機市場は非合理な人間がいるから不安定なのではない、全く逆であって人々が合理的に行動する、しかもそれは他人の狙いを読むという合理性、人々が合理的に行動するから逆に不安定になる。 自由放任思想に対する根源的な批判。合理性が不安定性を生む。」 「人々の心を読む」合理性→市場の不安定性を生む 岩井「今はAIに置き換わって、AIが他のAIと競争して価格が形成され今ものすごく乱高下している。人間の合理性を越えあ合理性を持ったAIたちを使っている。ケインズの美人投票の理論はまさに現代に起こっていること。インターネット上で起こっている人気投票的なものはいっぱいあるが、それにすべて通じることをやっている。美人投票の茶番です。 『いいね』が集まれば人々の評判になっていく、これはある面でもっとも不安定。勝ち馬に乗ったら勝ちですから『いいね』が集まるのは根拠がない。」 第9章 テクノロジーは数字の夢を見るか? ジョセフ・スティグリッツ「市場とはある日誕生したものではなく進化し続けてきたものだ。何千年も前の市場経済はとてもシンプルなものだっただろう。私が思うに大変化は産業革命だった。18世紀から19世紀初頭に啓蒙が起こった。人々のマインドセットを変化させた。科学的方法論によって生産効率を上げ生産方法を変えた。」 産業革命=貨幣への欲望↑ 岩井「科学の技術の進歩と資本主義の関係というのは、蒸気機関が出来たので産業革命が起こって産業資本主義が生まれたと言う。私は因果関係はこの逆だと思っている。 資本主義が、もはや重厚長大の機械制工場を利潤の源泉としない時代、資本主義は常に収入から費用を引いた引き算によって計算される利潤を求める。収入が費用を上回るという引き算に差があればそこにお金は投資すべき。」 差異をつくれ それが商品となる 岩井「なんでもいいから違いをつくるということが資本主義の行動基準。新しい技術を創るという事は費用を下げることで差異性を生む。新しい技術革新をすることが結果的に資本主義の無限の利潤を追求するプロセスの中に組み込まれていく。」 利潤への欲望が新たな技術を生み出す マルクス・ガブリエル(独・哲学者:『新実在論』で注目の哲学界の旗手。著書『なぜ世界は存在しないのか』が話題) 「同じiPhoneを作り続けてもダメだろう?」 新実在論を説く哲学者が読み解く資本主義の本質 ガブリエル「資本主義はどこまでも拡大し続ける性質だからね。 トーマス・セドラチェク「そうだ、生産額をね」 ガブリエル「そうしないといけない。資本主義は『成功』という概念の上に成り立っているシステムだ。『成功』は非常に重要だ。」 「成功」=貨幣の増殖 ガブリエル「ひとたび成功するとさらに未知のものを見つけようとする。ある企業が何かを達成し成功を収めたとしよう。その後も成功者であり続けるためには同じことを続けていたらダメだ。」 絶えず変化を強いられるレース ガブリエル「成功者でいる為には何かを達成するだけでなく、絶えず成功し続け自らを維持する必要がある。これまで見えていなかったものに目を向けるのだ。新たに『存在』をみつけ値段をつける。それが資本主義の特性だ。」 セドラチェク「経済学者として納得できるよ」 差異を見つけ稼ぎを上げろ ガブリエル「資本主義を定義するならば『商品生産に伴う活動全体』となるだろうね。そして今日の資本主義の世界はいわば『商品の生産そのもの』になった。そもそも生産する(produce)とは何か?語源は『前に(pro)持ってくる(duce)』だ。つまり商品の生産とはいわば魅せる為の『ショウ』なのだ。」 利潤を生むショウ 第10章 外部を消費し尽くした先に 今やインターネット空間はバーチャルな夢が行き交う壮大なショウとなった。その演出家は。 Google Apple Facebook Amazon ニューヨーク大学 スコット・ギャロイ(米・起業家/大学院教授:デジタルマーケット分析企業CEO。著書『the four GAFA』で4強を痛烈に批判) 「彼らがあまりに強大になったことは今の経済の深い病を意味する」 巨大なプロットフォーマーたちの富の稼ぎ方を斬る男 ギャロイ「私たちをつなぎとめる4つの営利企業の時価総額は合計するとドイツのGDPをも超えてしまった。」 GAFAの時価総額≒ドイツのGDP 空前絶後の巨大化した企業、歴史上例のないスピードで国家のサイズを越えようとしている。 ギャロイ「ヨーロッパでも日本でもアメリカでももはや人間性は賛美されません。その代わり英雄として賛美されるのはテクノロジーの億万長者たちです。 資本主義社会における重要な要素の1つは利益追求型の会社と言われるものだ。営利と利益、それが彼らの使命だ。彼らは老後の面倒を見てくれないし、私たちがどう感じるかなど関心がない。火星を探検するようなこともしない。利益を増やそうとしているだけだ。」 飽くことなく貨幣を蓄積せよ ギャロイ「技術による独裁が存在しているが巨大になりすぎた醜さもある。我々はすでにそうなってしまった。よく考えてみて欲しい。ビッグテックは中産階級にとって有益か?ビッグテックの売り上げと中産階級の賃金は正反対を示している。ビッグテックの利益が増えれば増えるほど中産階級の賃金は横ばいか減少してしまう。」 加速するテクノロジー企業の巨大化。 世界の人口約74.3億人のうち上位8人の総資産(約4,268億ドル)≒下位36億人の総資産 それは持つものと持たざる者、その差を広げる一方なのか。 貨幣が招いた巨大な富の蓄積 ギャロイ「勝者が独り勝ちするような経済ができ始めている。何百万人もの百万長者と一人の一兆長者私たちが望んでいるのはどっちだ?アメリカ社会は300万人の地主のために3.5億人の奴隷が仕えているようなものだ。それは我々が生きたい社会なのだろうか?」 反映の影に潜む、闇。貨幣が孕む、社会を不安定化する力 国際基督教大学 巨大プロットフォーマーによってグローバル化が進む現代社会、独自の道を歩む経済学者が資本主義が抱える本質的なパラドックスを提示する。 岩井「私のやっている研究は不純物のない貨幣を持った市場経済は常に崩壊する危機がある。」 「純粋性を求めれば世界は崩壊する」 岩井「今のグローバル化した資本主義がアリストテレスが画いた、または古代ギリシャの人たちが直面した日常的にやっていた資本主義とどこが違うかというと、資本主義は普遍化している。 最初は資本主義は点だった。点が貿易で線になり、線が地中海やインド洋に面になり、我々が生きている、今直面している資本主義はグローバル化してもはや外部がなくなってしまった。」 貨幣の増殖、そのスピードは増すばかり 人はより自由になったのだろうか。世界はより豊かになったのだろうか? 岩井「純粋な資本主義になってしまった。そこで何が起こったかというと、資本主義というのは本来自己完結し得ないんだと。従来の資本主義は古代ギリシャでも地中海でもさらにインド洋でも、常に外があって不純物があって、それによって資本主義の持っている色々な問題がチェックされていた。 今は資本主義が純粋化したことによって資本主義の持っている本来的な不安定性、破壊性が全面的に出てきてしまった。」 資本主義が「外部」を失う時ー 岩井「貨幣は無限に蓄積される。貨幣は人間に自由を与える。それは格差を生まれる。成功する人もいれば失敗する人もいる。貨幣が出来た世界は人々を金持ちから貧乏人までランクさせる。違いは格差に必然的になる。自由ですから。成功する失敗する話。 この資本主義の不平等、資本主義が自由と結びつくと自由に必然的に結びつく不平等やまた環境破壊または金融危機とかそれは可能性として制御できなくなってしまう。それに対して民主義の側の国家が弱くなって、法の支配が十分効かなくなって、従来の自由と民主主義のバランスが大きく崩れてしまった。」 貨幣に対する無限の欲望が社会の土台をも破壊しようとしているのか。 ハラリ「通貨のない資本主義を想像してみてください。」 第11章 「差異」果ての光景 イスラエル テルアビブ 壮大な時の流れを捉え、人類の行方を思索する歴史家が貨幣の未来に警鐘を鳴らす ユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエル・歴史学者:文明論的に人類の未来を読み解く。著書『ホモ・デウス』『サピエンス全史』) 「資本主義は合理的で効率的なシステムですが、人々の欲望はそうではありません。欲望は世の中で最も非効率で贅沢なものです。 資本主義のシステムは必ずしも人々の幸福度を増やすわけではありません。なぜなら人間の満足度は所有の量に比例するわけではないからです。これは資本主義の問題ではなく人間性にかかわる問題でしょう。歴史には人間の欲望の絶え間なく続く膨張しか見られないのです。 欲望を満たすとそれで終わりではなくすぐに新しい欲望が生まれます。それが人類の歴史の原動力です。そのおかげで私たちは石器時代と比べて何千倍も大きな力を得たのです。確かに強くなりましたがより満足しているわけではありません。」 ジョセフ・スティグリッツ「『お金が世界を回す』『お金は資本主義の源泉』と人々は言うが私が思うに資本主義がちゃんと機能する理由はお金に興味のない人たちの存在があるからだ。究極の皮肉は…資本主義は人のお金の追求によって支えられているのにそれだけでは前進しないという事だ。 資本主義に必要なのは新しいアイディアを発案して、それを試して、温暖化に対抗したり、社会に貢献しない資本家を追い詰めたり、社会に害を及ぼすような銀行家を是正するために戦う人たちだ」 欲望は資本主義を動かすエンジン。だが、その欲望の対象であるお金は未来の社会でどんな存在になるのだろうか? ハラリ「未来の社会では通貨が消えてしまうかもしれません。今後数十年の間にドルや円やユーロなど獣ら鵜の貨幣の重要性は低くなっていくはずです。通貨よりもデータに基づく売買の比重が高くなっていく可能性があるからです。」 未来の貨幣はデータ? ハラリ「私たちの社会は長い間りんごの代わりに10円を渡すような貨幣経済でした。つまり通貨を介した取引です。政府も通貨で税金を徴収します。しかし今世紀には多くの取引が通貨でなくデータの取引となる可能性があります。対価としてデータを交換し合うような経済になるかもしれません。だからお金ではなくデータを前提とした新しい経済制度を設計しなければなりません。」 通貨が支配してきた長い歴史の大きな転換点。世界を制するのは解読不能な数字なのか。 岩井「私たちがGAFAを使うことによって、本来ならば自分で自分の目的を設定できる私たちの内面、本来、私たちの自由がある場所。 それをGAFAがいつの間にかその中に浸透してきている。私たちは自分で自分の目的を決定出来る尊厳を持っているというように想われているその目的それ自身をGAFAによってマニピュレイト(操作)される可能性が出てきている。 これが今現代のインターネットの社会の中における最も怖いことの1つ」 行きつく先はユートピアか、ディストピアか。評価も信用もすべてがデータとなり、数字の世界へ取り込まれていく。深く静かに進行する、情報資本主義。その時、私たちが失うものは…? 岩井「評価経済、いわゆる信用経済が貨幣のない経済を生み出すという主張がある。私は評価経済は最も恐ろしいディストピア(非理想郷)、つまり私たちの行動がすべて評価されると。それはある面でジョージ・オーウェルの世界であって、例えば今 中国経済が向かっている監視経済はジョージ・オーウェル的な世界ですね。」 ジョージ・オーウェル(1903~1950:イギリスの作家『1984年』(1949年)で全体主義的ディストピアの世界を描く) 小説に描かれたのは監視や検閲がはびこる全体主義。近未来の恐怖はいまそこにある危機だ。すべてが一元的に監視され、コントロールされる世界 ビッグブラザーが現実に? 岩井「ブロックチェーンの技術を使って人々の取引、人々の行動すべて記録していく。しかもそれによって人々を評価しようとしている。データによって人々を評価するのは悪夢。つまり評価経済に成ればまず何が起こるかというと人々は評価に対して競争を始める。点数を上げるために。で、他人をスパイして他人が悪いという事を告発するとか、ある面でゼロサムゲームになってしまう。 問題は評価って平均の評価を全員が超すことが出来ないので、評価をすれば必ず半分は平均以下になる。みんなが平均から上がろうとするプロセスは際限のない評価の競争が起こる。」 高度に文明化され、進歩したはずの社会で、待っていたのは人間性すら数字で評価される社会だとしたら 最終章 欲望に拮抗する言葉 岩井「どうやって人間の尊厳を守るか。欲望の資本主義の時代における最大の問題の1つ。貨幣を生んだ資本主義は非常に普遍的な存在でほとんど引き算の問題でしかない。この普遍性に対抗するには普遍的な原理が必要。 同情、共感、連帯、愛情とかに依存しない、普遍的な原理が必要」 岩井は際限のない貨幣への欲望に対抗するため、一人の男の言葉に注目する。 岩井「で、それを最もちゃんと考えてきたのはイマヌエル・カントなんですね。カントは『人間は尊厳を持っている』と言う」 「近代哲学の祖」イマヌエル・カント(1722~1804) 全ての人間は心の迷いと欲望を抱えているものでありこれに関わるものはすべて市場価格を持っている。それに対してある者がある目的をかなえようとする時、相対的な価値でなく内的な価値である”尊厳”を持つ。”尊厳”にすべての価格を超越した高い地位を認める。”尊厳”は価格と比べ見積もることなど絶対に出来ない。ーカント『道徳形而上学原論』 岩井「尊厳っていうのはどういうことかというと他のものに交換できない何か。何かを持っている。でカントは人間じゃない、物は価格を持っている。それは交換できるから。人間だけは他と交換できない。と言うんですね。 貨幣は人間を匿名にする。名無しの存在にする。これが貨幣の最も重要なところ。匿名っていうのは人間が他の人に評価されない領域を持っている。これは重要。それが人間の自由。自分自身の領域を持っていることが人間の自由。 自分で自分の目的を決定できる存在はその中に他人が入り込めない余地がある。そこは人間の尊厳の根源になる」 共同体の呪縛から逃れ、自由を得るために貨幣を獲得したはずの理性的存在。人間。だが、幻想の貨幣愛がすべてを飲み込み、自由の足場である市場を破壊しようとしているとしたら。貨幣への欲望はいつも目的と手段を逆転させる。貨幣の本質を見抜いていたあのアリストテレスはこんな言葉も残している。 偽りの善からは時が経つにつれ、いつか、必ず、本物の悪が現れてくる 欲望が欲望を生む、欲望の資本主義。貨幣の重力から解放されるために貨幣の孕むパラドックスを見つめて。
by wavesll
| 2019-10-09 05:35
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