
ナウシカ歌舞伎 前編を新宿ピカデリーにてみてきました。
これは傑作だ…!ナウシカも可憐で慈愛にあふれた姫だったけど七之助のクシャナが発声からヴィジュアルから佇まいからとんでもなくいい!まさか歌舞伎の世界とこんなに合うとは…!アニメの実写化は映画よりも創造力を観客が見立てで発揮できる舞台のほうがよりフィットしてるのかも…!
初めに一人役者が前口上で出てきてナウシカの世界観を説明して。”おお…
STAR WARS歌舞伎や
初音ミク超歌舞伎の時もこうだったな…!”と想っていると気合の入った腐海のセットから物語が始まって。ETV特集によると腐海にピンクを入れたのは宮崎監督の初期構想からだそう。
恐らく原作当時は核戦争後の世界をイメージしての執筆だろうけれど、福島第一、そしてCOVID19に纏わる「目に見えない穢れが引き起こす差別心」が現実として存在している今、「蟲愛でる姫」という姿勢の凄みが益々引き立ちます。
そしてこの歌舞伎化の最大のポイントは映画版の舞台化ではなく原作7巻全ての舞台化であること。
ワンピース歌舞伎上映の際にそのダイジェスト振りが残念だっただけに、前編後編と上映期間は空きますがたっぷりみせてくれるのは嬉しい。前編の第一幕が映画までの部分、休憩を挟んで第二幕から未映像化の部分でした。
この未映像化の部分こそがナウシカの肝で。ただただ純粋に美しい心なナウシカの物語ではなく、国家による戦争の下、組織を代表するという事、自分の意思を実現するためにはその手を汚さねばならないことがあること。そして宗教・哲学という精神面での戦のレイヤー、無論、「人間こそが穢れでは」という自然環境の視座。重層的な物語が展開されていきます。
『ROMA』にしろ
『牯嶺街少年殺人事件』にしろ
『山猫』にしろ
『サタンタンゴ』にしろ、超長尺の作品はその作品時空の中に歴史と人間の業の交叉を描けますね。
今回演劇化されたことで、ナウシカ以外のキャラクターの良さが本当によくわかって。七之助のクシャナのとんでもないカリスマ性もしかり、二幕から登場するドルク皇弟ミラルパの歌舞伎だからこそのボス感も凄いし、ミトを始めとする風の谷のおじいちゃんたちの可愛らしさ、マニ族の悲哀なんかも本当によくわかったしクロトワの人間味もより具現化されて。ケチャは女性にしか見えないwまたユパが舞台ならではの客いじりをするのも面白かったw舞台化によってより伝達し易く原作が整えられるのは
海辺のカフカにも似た感覚がありました。
ナウシカの歌舞伎化ということで、間違いなく歌舞伎の流儀に則った舞台化なのですが、台詞が聞き取れない事なんか全然なくて、物語がきちんと入ってきます。それでも後編を観る前に原作は読み返しておこうかな。
日本古来の伝統芸能の力を知ったというか、
昨年見た能『敦盛』と『大典』もそうですが、スーパー歌舞伎ではなく古典歌舞伎という制約の中でファンタジックな幽玄へ一気に持っていく音楽的とも言える劇時空の凄さがあるなと思いました。子どもによる王蟲の精とナウシカが交感する場面とか、オリジナル要素も綺麗でした。これは観れて良かったなぁ。あ、テトとトリウマは可愛かったですよw後編が待ち遠しいです。
cf