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永遠のソール・ライター展@Bunkamura 色褪せ温かな朧のうつくしさ

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Bunkamuraにて永遠のソール・ライター展を観てきました。

晩年になってその私家所蔵されていたフィルムたちが発見・評価され伝説となった写真家、ソール・ライター。

ソール・ライターの写真には「色褪せた朧」とでもいうか、何でもなさそうな瞬間の煌めきがあって。

旅なんかで私が撮った写真に「そんなに撮ってどうするの?」と言われることが有ります。また「そんなの撮ってどうするの?」とも。その『そんなの』のようなものの煌めきを彼は撮ります。

そんなことを想う私自身、写真を撮る際『具』を意識したり、つい全体を説明的に撮ってしまうことが多くて。けれども本当に撮りたいスナップショットは、ふと、そして不意に訪れる『何でもないけど凄くいい感じの瞬間』なのではないかと。

ソール・ライターはガラスの映り込みや視界を遮る物の陰、或いは結露などと言った通常であれば『汚れ』のように処理される要素を写真作品に上手く生かして。

今まで価値づけされていなかった存在がソール・ライターのフィルムに写ると鮮やかに存在を輝かせます。

無論、初期のファッション誌時代の作品からみるように、キメること、それも彼の美意識をメソッド化してキメルことは十分に可能で。彼のスタイルは十分に『具』になり得る。

けれど、彼の真髄はまるで透き通った素のスープの、日常に鏤められた欠片が、淡泊でありながら十二分に美として存在できることを示した点ではないでしょうか?

では個別の作品への一言コメントを記していきます。

展覧会は白黒写真で始まります。そんな白黒作品の中では車内から男の子がガラスに映り込みを共にフィルムに捕えられている≪無題≫が気に入りました。またコンタクトシートに個人用の小さな写真集であるスニベットというものも良かったです。

そしてなんといっても素晴らしいのがカラー写真。ソール・ライターはカラー写真がアートとして認められるずっと前からフィルムを撮りためていたのでした。

≪薄紅色の傘≫のピンク。汚れとされてしまうであろうものが映る≪窓≫。洗剤に書かれた≪落書きの頭部≫。隠し撮りのような≪野球≫と≪緑のドレス≫。上半分が黒の≪バス停≫。錆びた感じがたまらない≪CANAL≫。2/3は隠れている≪運転手≫。ぶれた≪高架鉄道≫。車の奥の≪L&Lデイリー≫。2人のきさくな関係が覗く≪夜のバス≫。何でもなさそうでこれしかないという構図の≪丸い鏡≫。この光景は単純に面白い≪蝶々を吊るす≫。ガラスに写り込む≪ユニオン・スクエア≫と≪タイムズ・スクエア≫。ただ単に皺が寄っただけなのに存在感のある≪紙≫。パーマの看板の≪無題≫、雪と二人の男女の≪無題≫。こういう瞬間を通り過ぎてしまう処を撮る≪PULL≫と≪パーキング≫。

ファッション誌のカメラマン時代の作品も。1/3の構図が見事な≪無題≫、カチっと決まった≪『ハーパーズ バザー』1959年2月号≫。白板でリズムがある≪『ハーパーズ バザー』のための撮影≫。鏡を使った≪『ハーパーズ バザー』のための撮影≫。

再びのカラー作品。

赤い傘を同じ目線からとらえた≪無題≫。赤い傘が差し色として鮮やかな≪赤い傘≫。雪道に足跡が連なる先にぽっと赤い傘が咲く≪足跡≫の三作は連作としてのキュビズムの様な展示でした。画面の左上の端に主役が存在する≪青いスカート≫。まるで現代美術のような構図・色味のストリートスナップ≪黄色いドット≫。ある日のダイナーを捉えた≪メニュー、パリ≫。多重に映りこむ≪セダン≫。光が眩しい≪MR.≫。Aが欠けている≪ANT≫。上がほとんど黒い≪赤信号≫。青緑の輝きの≪タナガー・ギャラリーの階段≫。結露に滲む≪街の風景≫なんかは小谷くるみ女史の絵画にも通じて。かつての景色が今に存在するような≪チューリップ≫。ニヤっとさせられる見立ての≪モンドリアンの労働者≫。写り込んでいるのと多重な奥の≪ロンドンの地図≫。道にぽいっと置かれた≪靴≫。横長の3連の構図の≪タクシー≫。2/3の分割構図の≪天蓋≫。真っ黒の隙間に街の情景が見える≪板の間≫。道にぐにゃりと写り込む≪街の風景≫。

そして次はセルフ・ポートレート。≪無題≫というのは自分自身が鏡に映り込んでいるものが好きでした。

そしてここから妹・デボラの写真たち。スニベットを始めとして、知的で、そして性格が良さそうな感じが良く伝わりました。

次の部はソール・ライターが画いた絵画。これがかなり良かった。色の使い方が顔が黄色かったり髪が緑だったり超現実的で。紫とオレンジの抽象画≪コンコルド≫やオレンジとエメラルドグリーンなどの波?の≪無題≫など素晴らしかった。

そしてソール・ライターにとって重要なミューズの2人目、恋人ソームズ。女性としてのコケティッシュさ、凶暴さそして綺麗さが伝わりました。彼女が描いた絵も展示してあり、ピエール・ボナールにも似た感覚がありました。

そして最後にアリス、ピーチーズ、バトナム、ジェスといった猫たちの写真がありました。

こうして展覧会を見終わって想うのは、私はどうもNYという街に屈折した想いがあり、現代の基盤でありそのOS基準として最高の街区だと認めながら、だからこそ行く気にはあまりならなかったのですが、ソール・ライターの写真から伝わる温かな朧の雰囲気に”NYって本当に素敵な街なのだろうなぁ”と。その生活の息遣いに素直に想わされたのでした。

cf.



by wavesll | 2020-02-19 00:01 | 展覧会 | Comments(0)
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