Shuta Hiraki 『Voicing In Oblivion』(Band camp)母親が物置に放置していたレコード、長崎音浴博物館所蔵のSP盤やそこに手入れされず置いてある複数のアップライトピアノ、海沿いの道や井戸の近くなどの水辺の土地でカセットレコーダーを用いて録ったフィールドレコーディングを主な素材に物語性のあるコラージュといったイメージで制作されたアルバム。
よろすずさんの創られた音楽は今までも聴いてきたけれど、実作を重ねる度にどんどん鋭意さが増していて、今までのも良かったけれど、もうこれは友人が創ったから好意的に聴くとかそういうレベルでなく、寧ろ友人がこれ創っちゃうなんてと悔しさすら感じるマスターピースだ、これは…凄い…!!!と感嘆しました。
もう出だしの生活音景の一音も最高だわ、そこからノイズと笛のノスタルジーな世界へ入っていく部分から最高だし、水音、走行音、蝉の声などが混じりながらアップライトピアノのアンビエントを抜ける。シームレスに繋がる2ndトラックは扉を開け
音浴博物館(ここ、行きたい!)やお母上所蔵のレコード・コラージュへ繋がっていくのも最高。
エア・ヴェールを抜けていくように音世界は光景を変えていって。3rdトラックでは白い空から光が降り注ぐパティオで弦が爪弾かれ、昏く曇る風に囁かれる聲。ここからは映画体験のような劇的でしかし静かなスリリングさが。ラストトラックは雨に鳴るぼやっとした鐘のような音から、和な笛の悠久さと不穏な通低音。記憶が今になり、今が記憶になっていく。そしてオルガンの聖なる音の救済から琴と謡い、さらには物音の軋みからこの幻美の館を出て虫が鳴る屋外に出ていく。それでも、かの地には音が鳴響しつづけている。意識が景色になり景色が意識になる、特別な刻を与えて呉れる39分2秒でした。