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『演劇実験室「天井桟敷」ヴィデオ・アンソロジー』@UPLINK Cloud 芸術、日本の怪奇の馨

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寺山修司の劇団、天井桟敷。その演劇のアンソロジー映像集がUPLINK Cloudで公開されています。

これまでVHSでしか観れなかった天井桟敷の映像がみれるようになったのは、UPLINK代表の浅井隆氏自身が舞台監督を務めた作品群だからでしょう。

私自身も昔に渋谷TSUTAYAで『百年の孤独』をみつけたのですが、VHSの為観れなかったことが有り、ミニシアターも苦境に陥っている今、こういう素晴らしい企画が出されたことに応援の意も含めて2980円の60本以上見放題コースに申し込みました。(カードがあれば簡単にすぐみれます)

さて、映像は最初寺山修司が会見をしているところから始まります。青森の訛りが凄味も生んで、語っているだけなのに迫力がある。

そこから舞台の写真が流れて。”あれ?こういう感じ?演劇の作品映像が流れる感じでもないのか…!?”と想っていると市街激『人力飛行機ソロモン』(1971年)のオランダ公演の模様が流れて。その前に寺山が口上で「演劇というのは通常劇場に限定される表現だが、日常の場所に立ち入り、そこで同時多発に待ちゆく人々に働きかける演劇をやる」としていて。

多国籍の役者が、胸をはだけたり、火打石で炎を創ったり、最後は車も燃やして。町の広場で!今はYoutuberなんかがあまりに多くの人間が「Show」をやろうとしたり、人々はSNSにULするためにカジュアルに撮影してうざったく想われたりもしていますが、昔の、そもそも「表現すること」にハードルがあった時代は、その閾を越えれば大きな自由もあったのだなと。ちなみに市街劇って2017年にも三沢で開催されていたりしましたね。

さらに寺山の「演劇」構造自体への革新的試みは続いて。『盲人書簡』(1974年)では、今では不可能な、完全に暗闇に閉ざされた空間の中で演劇が行われる、観客はマッチ3本だけ、或いは線香が渡され、自分が観たいと思うその時にマッチや線香に火を灯して暗闇に働きかけ観ることができる…!これには驚きました。

天井桟敷のおどろおどろしさ。これは東北の霊気にも依ることがあるのかもしれないけれど、小奇麗に脱臭される前の和の妖しい怪奇さ、人間・社会の匂い。それは戦後の闇市の馨りというか、ギリヤーク尼ヶ崎の舞踏のような、ひもじさと無類、聖なるものと汚いものが同時に発せられる魅力。

アンドリュー・ロイド=ウェバーのミュージカルにおいてロックの使われ方は旧さを感じさせるものでしたが、J.A.シーザーの創り出す妖鬼な日本土着のロックは寧ろ今でも新風を感じさせるのは、「古来/中世」を強く打ち出しているからかもしれません。

「冗談だよ、ネタだよ」と逃げずに、弩真面目に芸術表現を打ち出す凄味を特に初期の天井桟敷の白黒写真から感じて。笑いもあるのだろうけど、怖さというかな。それはやっぱり青森の凄味もあるのかもしれないと。

そこへ行くと『レミング』(1979年)なんかはかなりソフトになっているというか、やはり演劇も時代と共にメタモルフォーゼしていくのだなと。『百年の孤独』(1981年)ではさらに明るさを増していて。その上で別の幻想が綯交ぜになっていて。

しかしこうなるとアンソロジーじゃ物足りなくなるというか、演劇全編をがっつりみたくなります。VHS素材はあるはずでしょうから、なんとか観たいなぁ。そういう怖ろしく素晴らしい企画にはどんどん支払ってしまうので、UPLINKさんの今後の展開に期待です。とりあえず60本見放題の他の作品も観ていきます◎

by wavesll | 2020-05-23 01:46 | 映画 | Comments(0)
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