天籁, 中国少数民族原生态民歌典藏 中国民歌56枚BOXの多種多様な地平線

中国民歌に関心を持ったのは直接的にはNHKBSPで「青海民歌」というのを聴いたことで。素朴ながら幽玄なその歌声に感動して。
その前段階としてここ数年でマイブームだった俚謡山脈や民謡クルセイダーズ、アラゲホンジ、馬喰町バンド、『阿波の遊行』や『牛深ハイヤ節』など久保田真琴さん関連の諸作、『ニシブチ（北風）』や元ちとせ『故郷・美ら・思い』などの島唄のDisc達に嵌っていたのですが、”日本の伝統・民謡からの新音楽達の「先の一歩」として中国民歌っていいかもしれない”と想って。
ただ中国民歌ってまとまったコンピレーションというか、そういうのがいいのがみつからなくて。以前ヤン・リーピンのシャングリラや藏謎をみて感動してサントラを探したときも、中華サイトの通販で9000円とかでなかなか手が出ず…。
そんな時に公園通りのエル・スール・レコーズでこの中国少数民族の中国民歌55枚BOXが売り出されて！しかも変なオーケストレーションがなくフィールドレコーディング的な内容だって！？これは買うしかあるまい！え？値段が28800円？コロナ禍の自粛下でも経済回したる！と購入したのでした◎
そして届いたBOX!!!でかい！そして大量にCDが入っている！聴き始めると、一枚に一少数民族がほぼ収録されていて、収録時間は20分のものもあったり40分越えのものもあったりマチマチ。
それでも聴くのに2か月くらいかかったかなぁ。その時に選り分けた何十枚を一か月くらい寝かした後に再び聴いて、その時もGood Badつけて、数日前に2周目のリスニングが終わって今に至るのでした。
ではその選抜きのジャケ（1枚1枚に紙ジャケ仕様で）をババンと載せた後、感想レヴューを書いていこうと想います。
本56枚BOXに収められているのは周縁民族も含めて
1. 汉藏语系 Sino-Tibetan / 2. 回族 Hui / 3. 壮族 Zhuang / 4. 布依族 Buyi / 5. 傣族 Dai people / 6. 侗族 Dong / 7. 仫佬族 Mulam / 8. 水族 Aqua / 9. 毛南族 Maonan / 10. 黎族 Li / 11. 仡佬族 Gelao / 12. 藏族 Tibetan / 13. 门巴族 Menba / 14. 珞巴族 Lhoba / 15. 羌族 Qiang / 16. 普米族 Pumi / 17. 彝族 Yi / 18. 傈僳族 Lisu / 19. 纳西族 Naxi / 20. 哈尼族 Hani / 21. 拉祜族 Lahu / 22. 基诺族 Jinuo / 23. 白族 Bai / 24. 景颇族 Jingpo / 25. 独龙族 Dulong / 26. 怒族 Nu / 27. 阿昌族 / 28. 土家族 Tujia / 29. 苗族 Hmong / 30. 瑶族 Yao / 31. 畲族 She / 32. 阿尔泰语系 Altai / 33. 裕固族 Yugu / 34. 维吾尔族 Uighur / 35. 乌孜别克族 Uzbek / 36. 乌孜别克族 Kazakh / 37. 柯尔克孜族 Kirgiz / 38. 塔塔尔族 Tatar / 39. 撒拉族 Salar / 40. 蒙古族 Mongolian / 41. 达斡尔族 Daur / 42. 土族 Tu / 43. 东乡族 Dongxiang / 44. 保安族 Baoan / 45. 满族 Manchu / 46. 锡伯族 Xibe / 47. 赫哲族 Hezhe /　48. 鄂伦春族 Oroqen / 49. 鄂温克族 Ewenki /　50. 南亚语系 South Asian / 51. 佤族 Wa / 52. 布朗族 Blang / 53. 德昂族 Deang / 54. 南岛语系 Austronesian / 55. 台湾少数民族 Taiwan minorities / 56. 印欧语系 Indo-European / 57. 塔吉克族 Tajik / 58. 俄罗斯族 Russian / 59. 其他语系 Other languages / 60. 朝鲜族 Korean / 61. 京族 Jing

これら56枚から感じるのは中国民歌の地平の広さ。京族（ヴェトナム系）のような東南アジアを感じるもの、回族のようにイスラムを感じさせるもの、”これは中央アジアっぽいな”と想ったら乌孜别克（ウズベク）族だったり。モンゴルやロシア、サハにもまたがる地域に住む少数民族の鄂温克（エヴェンキ）族の歌はスケールの大きな自然を感じさせてくれて。そして俄罗斯族のようにロシア系の、アコーディオンぽいのが入ったり西洋さを感じるものがかなり多くあったり。朝鮮族の中国民歌も中国からのグラデーションとしてアリランを聴くのも乙だったり。台湾少数民族のものにはDeep Forestが勝手にサンプリングしたあの曲もフルで入っていて。

锡伯（シベ）族のようにオルタナティブというか、ミュータントというか、北方の民歌はモンゴル風や中には西洋風、はてまたアフリカ的なリズム感もあったり、様々な音が別注化して響いているものや、念仏の源流じゃないかというようなもの。テルミンみたいな二胡のもの。アシッドフォークみたいな幽玄なもの。仡佬族のように訛りと言うか渋みの或る歌唱が良かったり、基本的にはフィーレコ的な中に電子音とか入れたオーバープロデュース気味だけどなかなか良かった藏族なんかもあったり。

藏族もチベットですが、ヤン・リーピンを聴いたときに聴きたかった雲南っぽいのもあって。彝族のチベットフェイクも凄いし、苗族なんかはクリスタルのような鈴の音の先に咳き込みや子供のサンダルの音、おんどりのコケコッコーも入るのが非常に微笑ましいフィールドレコーディングに生活が伝わって、生活のなかに歌があるのだなと。中国民歌には、潤いがあって。この波が広がってあの”中国っぽい節回し”になったりもしたのかなぁなんても想って。

天籁(tiānlài)とは風の音・せせらぎ・鳥の声のような自然界の音のこと。羌族のような天空に抜ける声、山の精のような阿昌族だったり、山の中で囀る小鳥のような唄や、かと思えば佤族のようにアディエマスを彷彿させる歌唱、土族のようなオブスキュアさが素晴らしかったり、靄けぶる桂林を行くような达斡尔族、哈尼族のようにへべれけな鼻歌のような適当に歌っているように聴こえながらも自然に寄り添ってほっこりと微笑まさせられるもの、ストレンジでありながら、どこかアジアの唄の源流はここにあるのではなんて想わされました。爺さん婆さんの唄が最高で。

今夏から初秋にNHKBSPでシルクロードが再放送されていたのですが、そこで写された中央アジアであったりウイグル等の中国西方の景色と、塔吉克（タジク）族のような中央アジアの唄はオーバーラップするとことがあって、視覚と聴覚からこのLong Seasonには中原から拡がる多様な地平を凄く感じることが出来ました。

この56枚BOXは凄いBOXだったなというか、聴ききるのに物凄いヴォリュームですが、それ以上に多様性に富んだ内容が本当に濃くて、またちょくちょく聴いていってみたい気もします。日本民謡・伝統音楽ブームの中で何かさらに新味を探したいリスナーにもお薦めですし、それこそDJやバンドやってる人がインスピレーション得るのにもいい気も。3万弱と高額ですが、今日エルスールのサイトみたら再入荷してたので、いかがでしょうか◎