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田中一村展 ―千葉市美術館収蔵全作品にて≪「アダンの海辺」≫にDiveする

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画業の果てに奄美で孤高で、至高の絵を描いた画家、田中一村。今まで佐川美術館、そして田中一村記念美術館でその作品をみてきましたが、田中一村と言えば一時期一村が住んていた場所にも近い千葉市美術館でのコレクションを外しては語れません。

今回代表作≪「アダンの海辺」≫を含む全収蔵品展が十年ぶりに開かれると聴き、クルマで向かいました。

始まりは南画の天才少年時代から。どれもいいですが、≪葉菖蒲とヨモギ≫の流草の翠と、≪南天とろうばい≫の赤・黄・緑に後に爆発する色彩センスの確かな苗を感じました。

昭和初期の新展開では≪浅き春≫の黄色い花弁、≪桜之図≫の鬱蒼とした植物の蠢き、ポストモダンな≪石図≫のモノクロ、≪松図≫の立体性、≪椿図屏風≫の金色に映える霜降りの椿の紅白、≪鶏頭図≫の花の炸裂、≪南瓜にキリギリス図≫のイエローのツヤ、≪牡丹図≫の立体性、≪彼岸花≫の滲むモノクロに射す彼岸花の赤に心が湧いて。

そして田中一村は千葉へ。姉の嫁いだ川村氏にサポートを受けます。この川村コレクションが2018年に千葉市美術館に寄贈されたことで本展覧会では数多くを観ることが出来ました。

≪糸瓜図扇≫の緑と花、≪露草と蜻蛉≫のトンボの姿、≪つゆ草≫の射し色の青、≪粟≫のバッタの精緻さ、≪翡翠図≫のカワセミの宝石のような輝き、≪千葉寺晩秋≫の金色の夕陽、≪山水図≫の幽玄、≪夕日≫の水辺けぶる夕日、牛飼いの≪春郊≫、≪千葉寺麦秋≫の木の姿、≪千葉寺はさ場≫の墨彩、≪「黄昏野梅」≫の樹々のシルエット、≪軍鶏試作≫の小さきものにも五分の魂な火、≪「桃華仙境」≫の桃色。≪千葉寺風景 荷車と農夫≫の淡い色彩。千葉時代の一村の絵はなんともほんわかとした光陰が沁みました。

≪「春林茆屋 仿謝蕪村」≫・≪「麦秋図」≫・≪牛のいる風景≫・≪さえずり≫の団扇がまた良くて。

≪「清宵」≫のミミズクに下方にかかる三日月がなんとも美しく。

しゅっと立つ≪白梅に軍鶏図≫も良かった。

またこの時期仏画や羅漢画を画いていて。蓮の上に鎮座する≪白衣観音図≫、うねるエナジーが凄い≪あばさけ観音≫、滝の様に怒涛な≪十六羅漢像≫、また個別の十六羅漢像では≪十六羅漢図 (第七尊者 迦理迦 カリカ)≫のマユゲが良かった。

≪竹に蘭図帯/一村絵付け≫の帯も良かったし、≪花草文日傘/一村絵付≫は本当に今でも通じる位洒落ていました。≪帯留(おしどり)≫なんてのも。

また≪「兜」≫や≪お雛様≫みたいに節句を画いた作品も。

こっそりリクエストに応えて画いてやったという≪「巣立ち」≫の親子の小鳥の姿にほろっときたり。

≪写真(千葉寺風景/一村撮影)≫など一村が撮った写真も展示してあって。≪写真(姉)/一村撮影≫では支えてくれたお姉さんの優しそうでしっかりしてそうな笑顔が映っていました。

また一村が絵をかくときに参考にしたという岡本東洋撮著『花鳥写真図鑑』も置いてあって。

さらに写真を基にデッサンした非常に写実的な鉛筆による肖像画、≪女性肖像≫と≪秋元光氏像(写真共)≫も、やっぱり卓越した技術が底にあるのだなと。

そして一村はついに「一村」を名乗り、戦後を生きていきます。

一村を名乗り始めたころに描いた≪白い花≫のヤマボウシの葉に遊ぶトラツグミ、美しく褪せる≪柿図≫、美しい朱の≪「野梅」≫、羽が良い≪写生図(高麗鶯)≫、≪千葉寺春彩≫のライトグリーン、≪雨霽≫の美しい影。そして≪軍鶏図≫の武闘派なレッド&ブラック!≪「杉林暮色」≫の木々の列、≪「春林」≫のエメラルドブルー、≪「浅春」≫の北欧のような色合い。≪晴日≫の青とクリーム色のグラデーション。

一村のデザイン仕事も多岐にわたって。≪流水に楓図≫のデザインな水紋、≪牡丹菊図帯/一村絵付≫≪白梅に菊図帯/一村絵付≫のパステルな美に、≪漢詩書角皿/一村絵付≫の縦スタイルに≪草花文角皿/一村絵付≫の美しいボタニカルさ。また≪北橋茂男著『暁先生と私』/一村による表紙絵≫なんて仕事も。

そして一村は日本各地へ旅へ出ます。≪筑波山≫の影、≪阿蘇草千里≫や≪写真(室戸岬)≫、≪写真(高千穂峡)/一村撮影≫、≪写真(鳴門)/一村撮影≫は個人的な事ですが私自身も行っていた場所なので”あぁ、一村はこんな風にあの地をみていたんだなぁ”と。

≪山桜≫・≪仁戸名蒼天≫の自然の美しさ。消失したとみられる絵を映した≪写真(「岩戸山」か)≫、そしていよいよ南洋諸島を画いたデザイン性の高い≪クロトンとカヤツリグサ≫の色彩!

遂に一村は奄美へ アダンへの道が最後の間では展開されます。

与論で画かれた≪「日暮れて道遠し」≫、トカラで画かれた≪宝島≫。

そして墨が鬱蒼と垂れ下がる植物の存在感を画いた≪漁樵対問(下絵)≫、蝶が止まる≪山路の花≫、南洋の朱な鳥≪アカショウビン≫≪クロトン≫のサイケな色味!

紫の花が印象的な≪奄美の海≫に初夏が画かれた≪奄美風景≫、そして季節は移り≪奄美冬彩≫、≪奄美風景≫の美しい空、南のカラフルな魚が画かれた≪熱帯魚(未完)≫。そして一村直筆の書状などの展示も。

そして、ついにみる≪「アダンの海辺」≫。凄い。濃密な色彩で、少し仄とした海辺のアダンの木が画かれて。よく画像で観るとメインの黄色いアダンに目が集中しますが、実物をみると脇の緑のアダンの存在感も凄い。そして下へ目を移せば丸石の海辺はまるで奄美のホノホシ浜みたいだ。漣の描写がなんとも綺麗で、そして上を見上げると、空の雲の切れ目が輝いている…!このライティングは素晴らしい。本当にこの海辺へ入り込んだような、一気に持ってかれる体験でした。

田中一村は奄美で終の棲家もみることができて。一つこの千葉市美術館全所蔵作品展の≪「アダンの海辺」≫で一つの円環を観た気も。素晴らしい画業にただただ敬意を。

by wavesll | 2021-02-10 00:45 | 展覧会 | Comments(0)
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