![]() マルティニークに暮らす黒人の子どもは、フランスの絵本やアニメをみて育ち、白人である主人公に自己を一体化させ、自然と「ニグロ(これは『黒い皮膚・白い仮面』にも出てくる表現として使います)」に対する”未開・暴力的・非文明的”といった差別の視点を内在化させていきます。マルティニーク首都の中流家庭に育ったファノンも自分をフランス人として認識し、成長していったのですが、対ナチスの為にフランスへ軍に参加した際、またフランスに留学した際にファノン自らがフランス人から「ニグロだ」と差別されたことから、西洋社会に根源的にある差別構造に直面し、差別の問題を深く考えるようになります。 この一連の流れの中で非常に刺さったのが、思想の枠組みをポップカルチャーによって植え付けられたという事。西洋人はカルチャーを通して自分の思想、あるいは「西洋こそがスタンダード」という「まなざし」を全世界に布教しているのだなということ。逆の視点でいうとたまに「何故日本のアニメだとキリスト教が悪玉に描かれるものが多いのか」という声を海外のフォーラムでみることがありますが、これなんかも異文化間の浸食合戦のような気がします。 このまなざし、「まなざす方は西洋(的価値観の)人」であり、「有色人種はまなざされる側」というのは、カルチャー全般に存在するように想って。一時期大流行りであった「日本スゴい」企画も、結局”白人に褒められないと凄さが分からないというか、白人の価値観を妄信・絶対化しているのかよ”と想う処でもあるし、また私はワールドミュージックが好きなのですが、世界各地のフィールドレコーディングであったり世界に発信する地場の音楽の盤の制作には白人が関わっていることが有ります。 さらには美意識、ルッキズムにおいても「白人的な見た目が美しいとされる」というのはあったりするんじゃないかなぁと。例えば天平時代の絵師が画いた美人と比べて日本のアニメ絵も異様に目が大きいですし、Production I.Gなんかはそこに意識的にあらがっているのだろうなと想います。これは完全に私の個人的なアティチュードですが、黄色人種として仏像的な美のフォルムの視座を持つのはいいんじゃないか?なんて気も持っていたり。 『黒い肌・白い仮面』の番組に話を戻すと、マルティニークでは「黒人は黒人としての特徴・歴史的根源に至高の価値がある、寧ろ黒人は素晴らしいのだ」のような「ネグリチュード」という思想が生まれ、ファノンもそれに傾倒します。黒人の生命力の迸り、その後のアメリカで言えば「Black is beautiful」運動のようなものですよね。 けれどもファノンはサルトルがネグリチュードについて書いた「白人優位に対するアンチテーゼにすぎず最終目的ではない」という指摘に”「ネグリチュード」は、黒人/白人の二項対立へと人間を閉じ込め、対話の可能性を閉ざしてしまうのではないか”と思い悩みます。 そして思索の末に、ファノンは「人間を閉じ込めるものから人間を解き放つこと」という普遍的な問題に到達します。人種差別は黒人だけの問題ではなく、そこでは「いかにしてわれわれは非人間の状態から抜け出して真の意味での〈人間〉になりうるのか」が問われます。ファノンは「おお、私の身体よ、いつまでも私を、問い続ける人間たらしめよ!」という言葉で『黒い皮膚・白い仮面』を締めくくるのです。 これは人種に於いてどちらが優位に立つということではなく、人種と言う色眼鏡を外して、個々の人間を個々の人間として捉える。「ウイという自由、ノンという自由」をすべての人間に解放する思想。つまり「西洋が人間(であり理知的存在)、非西洋は非人間(であり非理知的存在)」という視座を取り外し、人間である、或いは「人間性」をすべての人々に普遍的に開放する思想。 普遍的、「スタンダード」であることを西洋人は西洋人が自明的に持っている資質だと認識しているように感じます。建築にしても、衣服にしても、音楽にしても「西洋」的な構造は世界に広がりました。一時期「日本辺境論」みたいなのがブームになりましたが、日本人なのに日本を辺境、欧米こそが中心というような世界観を持っている人は多いと想います。(逆に言えば中国の台頭は、このパワーバランスを変える可能性はあります)。 音楽の話で言いうと、英米の音楽って私からすると「なまりが無く」感じるんですよね。フラットというか、逆に日本の音楽になまりを感じたり。その「なまり」こそが面白く、英米音楽に面白みが薄く感じることすら私はあったり。ただ最近日本のミュージシャンが「日本的な要素」をことさら音楽に入れて西洋市場に挑む姿、あるいは「日本的な物」を「エキゾチズム」的観点で愉しむことを「セルフ・エキゾチズム」あるいは「セルフ・オリエンタリズム」と否定的に捉える主張も聴こえます。 ここは本当に私自身の認識にもかかわる根深い問題で。「辺境」とか「エキゾチズム」とかではない、普遍的な視点で「単純にこれ、熱くない?最高にいいじゃん」という「まなざし」を持つと、一段上の世界へ行ける気はします。「エセ西洋、出羽守」的なまなざしを内在化させるのではなく、あくまで自分の中の普遍的な価値観をはぐくむ世界との向き合い方と言うか。 そんなことをこの100分をみながら想って。その意味では西洋を客観的に「まなざす」、西洋を研究・分析することは、その一里塚になるのかもしれないなと想った次第でした。
by wavesll
| 2021-03-05 16:11
| 私信
|
Comments(0)
|
ブログパーツ
カテゴリ
最新の記事
以前の記事
2025年 03月 2025年 02月 2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 タグ
記事ランキング
最新のコメント
最新のトラックバック
link
世界のあいさつ
世界経済のネタ帳 The Global Jukebox everything is gone 第三の波平ブログ LL (枇杷) aktkta 「あき地」 ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd Antenna SHUMAMB_CLTR 海外の反応アンテナ ヤクテナ 阿木 譲 a perfect day 黒夜行 耳の枠はずし Pirate Radio スーパーリスナーズクラブ togetter dezire_photo & art BOX 琥珀色の戯言 はれぞう bohemian rhapsody in blue 極東BLOG 終風日報 道草 金子勝ブログ とうきょう砂漠のアレクサンドリア iGot ドM 冬眠 アッチャー・インディア HITSPAPER まなめはうす RinRin王国 あなたのノイズ、わたしのミュージック。 酔拳の王 だんげの方 Kain@はてな miyearnZZ Labo Nest of innocence 小生にうず 曲名探偵団 AbemaTV UNI(うに) FNMNL Tenderhood. 反言子 ugNews.net JUN THE CULTURE おもトピ Hiro Iro 小太郎ぶろぐ みずほN◇MIZUHO(N) 面白法人カヤック コロコロザイーガ学園 NOT WILD STYLE TATAKIDAI 「ニーツオルグ」保管ページ わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる ゴルゴ31 !DESIGN, iDESIGN ヤマカム 小さい研究所 BLACK徒然草 できそこないβ版 チェコ好きの日記 404 Blog Not Found SHE Ye, Ye Records LOS APSON? EL SUR RECORDS Art into Life Meditations more records 240雑記 Hagex-day.info amass TRiCK FiSH blog さて次の企画は ねたたま 神魔精妖名辞典 朝目新聞 虚構新聞社 荻上チキ Session22 メディア・パブ ポリタス 天漢日乗 暗いニュースリンク 溜池通信 純喫茶アカザル(ほぼ音楽喫茶) とっぴんぱらりのぷう Plogect::Logistica 先見日記 SYNODOS 週刊ソラミミスト nardo 山田ズーニーの「おとなの進路教室。」 RaziChord / Nakayubi / Nine-Hz ゾウィの音響徒然日記 音のソノリティ Musica Terra 日本の古本屋 adabana 林揚羽 俗窓 カフェー こむぎ はてブニュース 東外大言語モジュール Y.D from夢中夢 やくしまるえつことdvd 時計ちっく Font In Use ガチャガチャブログ retrievr Neave Interactive Mediachain Attribution Engine Ostagram ディープネットワークを用いた白黒写真の自動色付け Radio Garden 最終防衛ライン3 ※コメント・トラバ大歓迎。 ※このサイトで使用している記事・画像は営利目的ではありません。リンクなど、問題があればコメント(非公開でもかまいません)を下さい。対応します。このサイトの内容を使用して発生した損害等に関して、直接的間接的あるいは損害の程度によらず、管理人は一切の責任を負いません。 鴎庵はリンクフリーです。はずすのもご自由にどうぞ。 ライフログ
|
ファン申請 |
||